ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
15 / 228
第1唱 変転する世界とラピスの日常

弟子入り決定!

しおりを挟む
「すごいですクロヴィスさん! 僕、継母はは上は許してくれそうもないなと思ってました。でも急に弟子入りを許してくれたし、それにそれに、僕は、僕は本当に……」

 興奮のあまりぷるぷる震え出したラピスのおでこに、「落ち着け」と恒例の痛くない手刀が落とされる。それでもラピスの話は止まらない。

「本当に僕、あなたの養子になるのですか?」
「将来的にお前が望むなら、という話だ。嫌なら断れ、お前の自由だ」
「……よくわからないのですけど、僕、全然嫌じゃないのです。だってカーレウムの家には」

 居場所がない。
 ……と言うのをためらったとき、ガタンと馬車が大きく揺れて、ラピスはちょっと舌を噛んだ。

「いひゃい」
「だから落ち着けと言ったんだ。とりあえず養子の話は、あのがめつい女が、のちのちラピんこの価値に気づいたときのための防衛策だからな」
「ほえ? 僕の価値? 防衛策……?」

 二人はすでに、クロヴィスの家に向かう車上の人となっていた。
 ラピスの荷物は母の形見の品と、例の『竜の書』くらい。
 着替え用の衣服は一枚きりしか持っていなかったが、それすらクロヴィスから「そんな雑巾みたいなものを持ち込むな」と却下された。
 ゆえに、せっかく二頭立ての立派な馬車で迎えに来てくれたが、荷台はからっぽだ。運んでいるのは、向かい合って座る二人と、馬車の中で待っていたあの幼竜ばかり。

「キュウ」とラピスの膝上からまん丸の目で見上げてくる竜の子は、傷もずいぶんよくなって元気そうだ。
 クロヴィスは、ラピスのなめし革工房入りを阻止することを優先してくれていたので、幼竜の仲間を探すのは一旦おあずけになっていた。
 けれどご機嫌そうな竜の子を見れば、大切にされていたことがよくわかる。

「防衛策とは、なんですか?」
「……お前の保護者があの女のままだと、お前はいずれ、国中から搾取される」

 窓外よりもずっと遠くを見ているような目で、クロヴィスは呟いた。

「さくしゅ?」

 首をかしげたが、答えは返らない。
 よくわからぬままラピスは、屋敷でのクロヴィスと継母のやり取りを思い返した。


☆ ☆ ☆


 クロヴィスは師弟関係を阻もうとした継母に、どこから入手したものか、なめし革工房の親方と継母が結んだ契約書の写しを見せた。
 途端、継母の顔色が変わった。

「たった十二歳の子供を、こんなところに売りつけた人でなしが『親』とは、よく言えたもんだぜ。それにお前は、その才もないお前の子らを、ドラコニア・アカデミーに入学させようと画策してるだろう?」

 継母は、キッと憎々しげにラピスを睨みつけてきた。
 が、それはラピスが教えた話ではない。
 すべてはほんの数日のあいだに、クロヴィス自身が集めた情報だ。

「う、売りつけたなんて人聞きの悪い! わたしはラピスのためを思って、手に職をつけさせようと」

「まともな親方に弟子入りさせるなら、普通はこちらが大枚はたいて『どうかよろしく』と頭を下げるもんだ。だがお前は逆に結構な額をもらっている。まあ、百歩譲って本当に『大事な子供』のために、大人でも耐え難い過酷な職場に十二の子を弟子入りさせるってんなら、お前の実子も同じ職場に弟子入りさせろよ。それが筋ってもんだろう?」

「なっ! た、他人が口出しすることじゃないでしょう!」

アカデミーあそこは見栄と綺麗ごとの世界だ。『竜の歌を解く才に恵まれた魔法使いは、その栄誉を民のため還元せよ』と、口を酸っぱくして教える。――表向きはな」

 クロヴィスは一度話を切って、皮肉げに笑った。

「そんなわけで、年端もゆかぬ子を危険な工房に売っ払ったなんて噂が広まったら、そんな悪評のある家の子供を入学させねえぞ、あそこは。でかい神殿をひとつ建てるくらいの寄付をすればわからんが」

 継母は顔を青くしたり赤くしたり、しどろもどろながらも食ってかかっていたが。
 結局、クロヴィスの冷笑に一蹴され、

「竜識を学ぶ師弟契約および保護権の譲渡を承諾する」

 という正式な契約を結ぶに至ったのだった。
 二人が応接室で向き合ってから、一刻足らずのこと。
 クロヴィスのあまりの手際の良さに、ラピスはひたすら口をあけて見つめるばかりだった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

処理中です...