ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第2唱 可愛い弟子には旅をさせよ

ラピスならできる

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 巡礼の参加登録日まで、あまり間はなく。
 慌ただしい旅支度の合間を縫って、クロヴィスが魔法を教えてくれた。

 魔法は、身の内に『竜氣りゅうき』が宿ることで使えるようになる。
 竜の歌をたくさん聴き、たくさん解くほど、竜氣はたまるという。

「炎の氣を持つ竜の歌をたくさん解けば、炎の魔法を使えるようになる。水、風、雷。さまざまな氣を持つ竜がいるが、どの竜がなんの氣を持っているかは宿ってみるまでわからない」

 言いながら、クロヴィスが器に手をかざすと、底にほんの少し残っていただけの水が盛り上がってきて、みるみる泉のように溢れ出た。 
 驚いて大騒ぎするラピスに、「お前も魔法が使えるはずだ」と言い切る。

「できると思ったことがないから、できなかったんだ。なんだってそうだ。頭で受け入れたことが行動になり、結果を生む。ラピスはできる。そう信じろ」

 そうして、あれこれの魔法を試してみた結果。
 なんとラピスは、火と水を出せることが判明した。

「おおぉぉぉ……!」

 自分の意志で、ちっちゃな炎や、ちょっぴりの水を生み出すことができた、その衝撃と喜びたるや。
 まだまだクロヴィスの魔法の足元にも及ばないけれど、ラピスは興奮しまくりで、しばらく意味不明の声しか出なかった。

「……びっくりです……びっくりですーっ! こんなことができるなんて、考えたこともありませんでした!」
「そうだろうな」

 クロヴィスも嬉しそうなので、ラピスも倍嬉しい。
 教え上手な師は改めて、ラピスの手に『竜の書』をのせた。
 真っ白い頁ばかりだった本も、今では素晴らしい歌がたくさん記録されている。

「忘れるな。『そんなことできるはずない』なんて言葉には、耳を貸すな。誰にもお前の可能性の邪魔をさせるな、そんな権利を持たせるな。お前を否定する奴より、お前を信じる俺の言葉を信じろ。ラピス。お前ならできるから。いろんなことができるから」


☆ ☆ ☆


 ノイシュタッド王国王都・ユールシュテーク 。
 その日、竜識学大図書館の学術研究棟大ホールには、朝から大勢の人の列が途切れることがなかった。
 アカデミーに所属する全魔法使いに令達された『集歌令』――その参加者と護衛たちの、登録日だからである。

 正確には、事前申請で登録された参加者及び護衛者の、本人確認の日だ。
 参加者の殆どがアカデミー所属の魔法使いなので、確認はすぐに済む。行列はできても捌けるのも早い。

 一番に手柄を立てようと、登録を終えるやいなや出発する者がいる一方で。
 大ホールの入り口近くに陣取り来場者を品定めする集団も、そこかしこに見受けられる。その面子は、多くがアカデミー付属学院の生徒たちだった。

 学院では、魔法使いとしての才能を認められた者が、主に優秀な聴き手となるべく教育・訓練を受ける。 
 基本的に入学に年齢制限はない。だが、十代半ばから二十代後半までに魔法を使えぬ者には、その才はないと言われているゆえに、自然とその年代の者たちが多くなった。

 聴き手は人々から尊敬される。
 創造主であり守護者でもある竜たちの言語を解し、竜たちの知識と情報を伝えてくれるからだ。 
 さらにドラコニア・アカデミーの上層部が、国政においても大臣相当の権限を与えられているため、『アカデミー卒業が出世コース』とも言われている。

 自然、アカデミーの生徒たちは優越意識を持ちやすい。
 なんの成果も出さぬうちから、他者と自分を比較し、優劣をつけることに時間を費やすようになっていく。

 そんな彼らの多くは『集歌令』も『集歌の巡礼』も初めてだ。
 優越意識をさらに満たすべく名声を望むと同時に、出発前から、自分より下位にいてくれるであろう者を探していた。なんの結果も残せなかったとき、「あいつよりはマシだ」と思えるための相手を。

 ラピスの義理の姉兄であるディアナ・カーレウムとイーライ・カーレウムも、その例に違わず。
 この二人がアカデミーの生徒としてここにいる時点で、『魔法使いの才能を認められた者が入学できる』という前提の崩壊は明らかなのだが……
 そもそもアカデミー上層部の面々からして、聴き手の能力で選ばれているわけではない。むしろ聴き手は少ない。が、魔法の才はなくとも権力闘争に勝ち残る才能はある。
 そういう人間たちが運営するのだから、学院の質に歪みが生じるのは必然だった。 

 なんにせよ、ディアナとイーライは幸せだ。
 能力もないのにアカデミーに在籍している事実を、恥と捉える感覚はないから。
 だから彼らは前日から、との再会を待ちかまえていた。

「なあ、ディアナ。本当に来るのか? ラピスの奴」
「来るわよ。グレゴワールの弟子が参加するって、先生たちが騒いでたもん!」
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