48 / 228
第2唱 可愛い弟子には旅をさせよ
ディード vs. ドロシア
しおりを挟む
「ドロシア・アリスンさん……?」
突然の申し出に、ラピスは目をぱちくりさせた。
するとドロシアと名乗った少女は頬を染め目を潤ませて、「うぎゃっ、瞬きまでもきゃわわ……!」などと謎の言葉を発し、食い入るように見つめてくる。
「天使に名前を呼ばれたわ~……じゃなかった、失礼しました。わたしたちはアカデミーの学生五人のグループなんです。大人数のほうが安全でしょう? 護衛も多いし。けど美少年が皆無状態なのが難点で、このまま長旅するなんてうんざり~……じゃなかった、えーと。よければラピスくんと騎士団長様たちも、ご一緒しませんか?」
説明されたことで、ラピスはますます混乱した。
よくわからないが、とにかく「安全のため一緒に行動しましょう」という提案らしい。
ドロシアはアカデミーの制服を着ていない。だが彼女が指さしたほうの卓に集まっている集団の中には、それとわかる格好の者もいる。彼らの席までこの会話は聞こえていないだろうが、興味津々という表情でこちらを窺っていた。
とりあえずアカデミーの学生であることは間違いなさそうだ。
しかしあまりに唐突すぎる申し出のため、声を発するのが遅れたところで、ディードがラピスの前に立ち塞がった。
「失礼、ドロスン・アリシアさん」
「……ドロシア・アリスンよ」
ドロシアのこめかみに青筋が浮き上がったが、笑顔はそのまま。
ディードは「失礼」と頭を斜めに軽く傾けたものの、訂正せぬまま話を続ける。
「申しわけないのですが、そういう申し出を急にされても困ります。我々はあなたたちの身元を確認できていないので」
「学生証はあるわよ? それにわたし、アカデミーであなたと会ってるし話しましたよね?」
ひくつく笑顔で言い返したドロシアが、頭突きしそうな勢いでディードに顔を寄せ「この顔、おぼえてません?」と迫ると、あちらこちらの卓から冷やかしの口笛が上がった。二人がキスするとでも思ったのだろうか。
しかしディードは外野の声など耳に入らぬ様子で、「アカデミーで?」と遠慮なくドロシアの顔を覗き返した。すると今度はドロシアのほうがたじろいで、あとずさる。
じっと見つめて確認したのち、ディードは首を横に振った。
「記憶にありません」
「ないのっ!?」
かなりショックを受けたようで、とうとう笑顔の消えたドロシアが、ラピスは可哀想になってきた。
一緒に行動してもいいのではと執り成そうとして、またもディードに先を越される。
「あなたたちは護衛のほかに、荷運び人や使用人も連れていますね?」
「連れてますけど、何か? 言っておきますけど、当然身元の確かな者ばかりですよ!」
「しかしそれを確認したのは、我々ではないので」
「うわ~……」
ドロシアは、怒ったり、がっくり肩を落としたり、忙しい。
ラピスはハラハラしながらジークを見たが、彼は黙って食堂内に鋭い視線を走らせるばかりで、話に参加する気はないらしい。
ジークもディードも、とても責任感の強い人柄だ。たとえクロヴィスから念入りにラピスのことを頼まれていなくとも、護衛対象に近づく人物に細心の注意を払うのは当然、職務の内だろう。
ラピスはほかの魔法使いたちが自分のあとについて来てもかまわないし、それは二人とも了承してくれていたけれど、勝手についてくるのと一緒に行動するのとでは、護衛の仕方も変わってくるのかもしれない。
ディードが厳しめな対応をしているのも、たぶんそういう理由。
かといって、このまま断ってはドロシアに悪い気がして、(どうしよう)とオロオロしていたとき。
「……んん?」
ラピスは何かに、違和感をおぼえた。
何に反応したのかは、わからない。だがうなじがチリチリして、妙な胸騒ぎがする。
「……どうした、ラピス」
ラピスの小さな異変に気づいたらしく、ジークがこちらを見つめていた。
その声にディードとドロシアも振り返る。
ラピスはなんとも答えようがなく、違和感の正体を探ろうと、頬に手を当てたり胸を押さえてみたりしたが、唐突に襲ってきたそれは、急速に霧散してしまった。
「ぐあいでも悪いの?」
ドロシアが心配そうに訊いてきた。
そういうわけではなかったと思う。現実的な躰の不調とは違うと思う。
でもなんだか……落ち着かない感じには、なった。霧散してくれて、かなりホッとした。
けれどどう説明すればいいのかわからず、なんでもないとラピスは答えた。
「ごめんなさい、ちょっとボーッとしちゃった。心配してくれてありがとう、ドロシアさん」
にっこり笑って礼を言うと、ドロシアが「はうっ」といきなりよろめいたので、ラピスはビクッと躰を揺らした。
ドロシアのほうこそ、ぐあいが悪いのではなかろうか。
突然の申し出に、ラピスは目をぱちくりさせた。
するとドロシアと名乗った少女は頬を染め目を潤ませて、「うぎゃっ、瞬きまでもきゃわわ……!」などと謎の言葉を発し、食い入るように見つめてくる。
「天使に名前を呼ばれたわ~……じゃなかった、失礼しました。わたしたちはアカデミーの学生五人のグループなんです。大人数のほうが安全でしょう? 護衛も多いし。けど美少年が皆無状態なのが難点で、このまま長旅するなんてうんざり~……じゃなかった、えーと。よければラピスくんと騎士団長様たちも、ご一緒しませんか?」
説明されたことで、ラピスはますます混乱した。
よくわからないが、とにかく「安全のため一緒に行動しましょう」という提案らしい。
ドロシアはアカデミーの制服を着ていない。だが彼女が指さしたほうの卓に集まっている集団の中には、それとわかる格好の者もいる。彼らの席までこの会話は聞こえていないだろうが、興味津々という表情でこちらを窺っていた。
とりあえずアカデミーの学生であることは間違いなさそうだ。
しかしあまりに唐突すぎる申し出のため、声を発するのが遅れたところで、ディードがラピスの前に立ち塞がった。
「失礼、ドロスン・アリシアさん」
「……ドロシア・アリスンよ」
ドロシアのこめかみに青筋が浮き上がったが、笑顔はそのまま。
ディードは「失礼」と頭を斜めに軽く傾けたものの、訂正せぬまま話を続ける。
「申しわけないのですが、そういう申し出を急にされても困ります。我々はあなたたちの身元を確認できていないので」
「学生証はあるわよ? それにわたし、アカデミーであなたと会ってるし話しましたよね?」
ひくつく笑顔で言い返したドロシアが、頭突きしそうな勢いでディードに顔を寄せ「この顔、おぼえてません?」と迫ると、あちらこちらの卓から冷やかしの口笛が上がった。二人がキスするとでも思ったのだろうか。
しかしディードは外野の声など耳に入らぬ様子で、「アカデミーで?」と遠慮なくドロシアの顔を覗き返した。すると今度はドロシアのほうがたじろいで、あとずさる。
じっと見つめて確認したのち、ディードは首を横に振った。
「記憶にありません」
「ないのっ!?」
かなりショックを受けたようで、とうとう笑顔の消えたドロシアが、ラピスは可哀想になってきた。
一緒に行動してもいいのではと執り成そうとして、またもディードに先を越される。
「あなたたちは護衛のほかに、荷運び人や使用人も連れていますね?」
「連れてますけど、何か? 言っておきますけど、当然身元の確かな者ばかりですよ!」
「しかしそれを確認したのは、我々ではないので」
「うわ~……」
ドロシアは、怒ったり、がっくり肩を落としたり、忙しい。
ラピスはハラハラしながらジークを見たが、彼は黙って食堂内に鋭い視線を走らせるばかりで、話に参加する気はないらしい。
ジークもディードも、とても責任感の強い人柄だ。たとえクロヴィスから念入りにラピスのことを頼まれていなくとも、護衛対象に近づく人物に細心の注意を払うのは当然、職務の内だろう。
ラピスはほかの魔法使いたちが自分のあとについて来てもかまわないし、それは二人とも了承してくれていたけれど、勝手についてくるのと一緒に行動するのとでは、護衛の仕方も変わってくるのかもしれない。
ディードが厳しめな対応をしているのも、たぶんそういう理由。
かといって、このまま断ってはドロシアに悪い気がして、(どうしよう)とオロオロしていたとき。
「……んん?」
ラピスは何かに、違和感をおぼえた。
何に反応したのかは、わからない。だがうなじがチリチリして、妙な胸騒ぎがする。
「……どうした、ラピス」
ラピスの小さな異変に気づいたらしく、ジークがこちらを見つめていた。
その声にディードとドロシアも振り返る。
ラピスはなんとも答えようがなく、違和感の正体を探ろうと、頬に手を当てたり胸を押さえてみたりしたが、唐突に襲ってきたそれは、急速に霧散してしまった。
「ぐあいでも悪いの?」
ドロシアが心配そうに訊いてきた。
そういうわけではなかったと思う。現実的な躰の不調とは違うと思う。
でもなんだか……落ち着かない感じには、なった。霧散してくれて、かなりホッとした。
けれどどう説明すればいいのかわからず、なんでもないとラピスは答えた。
「ごめんなさい、ちょっとボーッとしちゃった。心配してくれてありがとう、ドロシアさん」
にっこり笑って礼を言うと、ドロシアが「はうっ」といきなりよろめいたので、ラピスはビクッと躰を揺らした。
ドロシアのほうこそ、ぐあいが悪いのではなかろうか。
289
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる