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第3唱 歌い手
ディード vs. ヘンリック
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「じゃあギュンターさんは、ジークさんと同じ第三騎士団の副団長さんなのですね」
「そっ。改めて自己紹介するね。ユストゥス・ギュンターです。団長の次くらいには強いよ。よろしくな、ラピスくん」
「はい、よろしくお願いします!」
夕餉の席は騎士が五人に見習いひとり、謎のヘンリックひとりにラピんこひとりと、一気に賑やかになった。
突然現れた、飄々とした印象の騎士ギュンターが、実はジークの右腕と(本人曰く)聞かされ、ラピスはちょっと驚いた。
肩まで伸びた波打つ薄茶色の髪を無造作に結わえたギュンターは、騎士の制服を着ていなければ、役者や吟遊詩人で通りそうな華やかさがある。
精悍で、いかにも剣士という風情のジークとは対照的だ。
「副団長まで持ち場を離れて、なぜここにいるのでしょう」
ディードの声は刺々しい。
ギュンターが「段取りはちゃんとつけてきたさ」と苦笑した。
「すぐにヘンリックの護衛に就ける者がいなかったから、急遽手続きのため呼ばれて」
「つまりヘンリックの我が儘のせいで、騎士団の仕事に支障が出ているわけですね?」
「なっ! 誰の我が儘だって!?」
食事の手を止めたヘンリックが熱り立つ。
ディードはそれにはかまわず、話の流れについていけずボーッとみんなを見ていたラピスに顔を向けた。
「つまりね、ラピス。俺とヘンリックは、同じ騎士見習いなんだ。で、ジーク団長直属として行動する権利を賭けて、剣で勝負した。結果、俺が勝ったから、グレゴワール様を探すお供ができたし、ラピスに見つけてもらうこともできたんだよ。――なのになんで今さら、敗者がここにいるのかなぁ?」
ディードが薄笑いを浮かべると、ヘンリックは簡単に挑発に乗った。
「ぼくは今、見習いとしてではなく、聴き手としてここにいるんだ! 副団長が護衛についてくれたのも、だからこそさ!」
「――はあ?」
ディードの目が据わる。今度はヘンリックがフフンと笑った。
「お前と違って、ぼくは竜の歌が解けるからね! 竜の書だって持ってる!」
「あれか? 竜を見つけて大騒ぎしてたら『危ない』と竜から注意されて、なのにそのまま竜に見惚れてたものだから木に激突して、『忠告は聞いたほうがいい』ってまた注意されたやつ。注意された歌だけ記録されてる竜の書」
「と、解いたことには違いないだろう!」
笑いをこらえる騎士たちを横目に、ヘンリックが顔を真っ赤にした。
彼も聴き手なのだと知ったラピスは、俄然わくわくしてきた。
「その竜はどんな竜だったの? 飛竜さん? 地竜さん?」
「えっ。あ、ひ、飛竜に決まってるだろ。地竜なんてそう簡単に……」
「ラピスは地竜にも会ってるし歌も解いてるからな」
ディードが割って入ってきて、ヘンリックが「嘘つけ!」と声を荒らげた。が、ラピスはそこには頓着せず。
「飛竜さんだったんだね! 何色だったの? 獣型? 蛇型? どのくらいの大きさだった? どんなふうに歌ってた? きみが木にぶつかりそうって見えてたのかな、危ないって予知したのかな? ね、すごいよねぇ、竜って!」
「い、色なんてテンパってておぼえてな……って、もう、うるさい!」
「そんな簡単にテンパるような奴が、古竜の歌を解けるのかねぇ」
またもディードにおちょくられて、ヘンリックは勢いよく立ち上がった。
「よし、勝負だ!」
「望むところだ。お前が負けたら、今度こそ潔く諦めろよ」
「ぼ、ぼくは……!」
ラピスはにこにこしながら二人を見上げた。
「仲良しさんだねぇ」
「どこ見てその感想!?」
もはや泣きそうな声を上げたのは、またしてもヘンリックのみで、ディードは爆笑するギュンターたちをにらんでいる。
ラピスは「あれ?」と小首をかしげた。あることに気がついたのだ。
「そうすると、これからはギュンターさんやヘンリックくんも一緒に、八人で巡礼の旅をするということですか?」
それなら嬉しいなと思ったのだが、参加を申請した三人の騎士たちの登録は、受理されなかったという。
彼らが申請する寸前にギュンターの護衛派遣が決まったので、ギュンターの代わりに騎士団の仕事をしなければいけなくなったのだ。
「ラピスくんと行きたかった……」
しょんぼりする騎士たちに、ラピスまで寂しくなった。ディードも「『段取り』ってそういうことですか」と憐れみの目を向けていたが、一転、ヘンリックに厳しい視線を送る。
「で? お前とギュンターさんが、俺たちと同行するってこと?」
「ついでだからな!」
「なんのついでだよ」
冷ややかなディードの隣であったかいスープをいただきながら、(お友達がいるっていいなぁ)とほっこりしていたラピスは、また名案を思いついた。
「今夜は三人一緒の寝台で寝たら楽しそう!」
「いや、ラピスと二人で!」
「ぼくひとりで!」
今度はディードも、ヘンリックと一緒に異を唱えたのだった。
「そっ。改めて自己紹介するね。ユストゥス・ギュンターです。団長の次くらいには強いよ。よろしくな、ラピスくん」
「はい、よろしくお願いします!」
夕餉の席は騎士が五人に見習いひとり、謎のヘンリックひとりにラピんこひとりと、一気に賑やかになった。
突然現れた、飄々とした印象の騎士ギュンターが、実はジークの右腕と(本人曰く)聞かされ、ラピスはちょっと驚いた。
肩まで伸びた波打つ薄茶色の髪を無造作に結わえたギュンターは、騎士の制服を着ていなければ、役者や吟遊詩人で通りそうな華やかさがある。
精悍で、いかにも剣士という風情のジークとは対照的だ。
「副団長まで持ち場を離れて、なぜここにいるのでしょう」
ディードの声は刺々しい。
ギュンターが「段取りはちゃんとつけてきたさ」と苦笑した。
「すぐにヘンリックの護衛に就ける者がいなかったから、急遽手続きのため呼ばれて」
「つまりヘンリックの我が儘のせいで、騎士団の仕事に支障が出ているわけですね?」
「なっ! 誰の我が儘だって!?」
食事の手を止めたヘンリックが熱り立つ。
ディードはそれにはかまわず、話の流れについていけずボーッとみんなを見ていたラピスに顔を向けた。
「つまりね、ラピス。俺とヘンリックは、同じ騎士見習いなんだ。で、ジーク団長直属として行動する権利を賭けて、剣で勝負した。結果、俺が勝ったから、グレゴワール様を探すお供ができたし、ラピスに見つけてもらうこともできたんだよ。――なのになんで今さら、敗者がここにいるのかなぁ?」
ディードが薄笑いを浮かべると、ヘンリックは簡単に挑発に乗った。
「ぼくは今、見習いとしてではなく、聴き手としてここにいるんだ! 副団長が護衛についてくれたのも、だからこそさ!」
「――はあ?」
ディードの目が据わる。今度はヘンリックがフフンと笑った。
「お前と違って、ぼくは竜の歌が解けるからね! 竜の書だって持ってる!」
「あれか? 竜を見つけて大騒ぎしてたら『危ない』と竜から注意されて、なのにそのまま竜に見惚れてたものだから木に激突して、『忠告は聞いたほうがいい』ってまた注意されたやつ。注意された歌だけ記録されてる竜の書」
「と、解いたことには違いないだろう!」
笑いをこらえる騎士たちを横目に、ヘンリックが顔を真っ赤にした。
彼も聴き手なのだと知ったラピスは、俄然わくわくしてきた。
「その竜はどんな竜だったの? 飛竜さん? 地竜さん?」
「えっ。あ、ひ、飛竜に決まってるだろ。地竜なんてそう簡単に……」
「ラピスは地竜にも会ってるし歌も解いてるからな」
ディードが割って入ってきて、ヘンリックが「嘘つけ!」と声を荒らげた。が、ラピスはそこには頓着せず。
「飛竜さんだったんだね! 何色だったの? 獣型? 蛇型? どのくらいの大きさだった? どんなふうに歌ってた? きみが木にぶつかりそうって見えてたのかな、危ないって予知したのかな? ね、すごいよねぇ、竜って!」
「い、色なんてテンパってておぼえてな……って、もう、うるさい!」
「そんな簡単にテンパるような奴が、古竜の歌を解けるのかねぇ」
またもディードにおちょくられて、ヘンリックは勢いよく立ち上がった。
「よし、勝負だ!」
「望むところだ。お前が負けたら、今度こそ潔く諦めろよ」
「ぼ、ぼくは……!」
ラピスはにこにこしながら二人を見上げた。
「仲良しさんだねぇ」
「どこ見てその感想!?」
もはや泣きそうな声を上げたのは、またしてもヘンリックのみで、ディードは爆笑するギュンターたちをにらんでいる。
ラピスは「あれ?」と小首をかしげた。あることに気がついたのだ。
「そうすると、これからはギュンターさんやヘンリックくんも一緒に、八人で巡礼の旅をするということですか?」
それなら嬉しいなと思ったのだが、参加を申請した三人の騎士たちの登録は、受理されなかったという。
彼らが申請する寸前にギュンターの護衛派遣が決まったので、ギュンターの代わりに騎士団の仕事をしなければいけなくなったのだ。
「ラピスくんと行きたかった……」
しょんぼりする騎士たちに、ラピスまで寂しくなった。ディードも「『段取り』ってそういうことですか」と憐れみの目を向けていたが、一転、ヘンリックに厳しい視線を送る。
「で? お前とギュンターさんが、俺たちと同行するってこと?」
「ついでだからな!」
「なんのついでだよ」
冷ややかなディードの隣であったかいスープをいただきながら、(お友達がいるっていいなぁ)とほっこりしていたラピスは、また名案を思いついた。
「今夜は三人一緒の寝台で寝たら楽しそう!」
「いや、ラピスと二人で!」
「ぼくひとりで!」
今度はディードも、ヘンリックと一緒に異を唱えたのだった。
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