ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第6唱 竜王の呪い

母が頼んでくれたとき

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 ラピス初めての魔法による『大技』は、望んだ通りに顕現することができた。
 ……しかし張り切って魔法を使いすぎたようだ。

 すべての消火を見届けると、ラピスは半日以上、夢も見ない眠りに落ちた。 
 魔法の使い方をわかってきたとはいえ、まだまだ不慣れ。魔力放出の加減ができていなかったのだろうと、のちに反省点として雑記帳に記すことになった。

 しかし一番の反省点は、またしてもジークたちを心配させたことだろう。
 そこは本当に申しわけないと猛省したけれど、とはいえ今回、ラピスも経験してみてわかったことがある。
 現在いま時点での魔法行使の限度というのは、実践を積まねばたぶんわからない。実際、いきなり眠りこけてしまうまで、ラピスは躰の不調も疲労も一切感じなかった。
 もちろんクロヴィスならばラピスの限度などひと目で見抜くだろうが、ラピス自身はまだ、魔法を使っている最中に限界を感じないし、わからない。それだけ未熟だからだろう。
 反省点は多々あれど、具体的な改善点が見つかったのは良かった。
 ラピスを病人扱いするディードにも、

「剣のお稽古だってきっと、限界まで頑張ったあとは糸が切れたみたいに眠って、起きたらまた頑張るのでしょ? 魔法も似たようなものだよ、きっと!」

 そう言うと、渋々とはいえ納得してくれたようだ。もう体調はすこぶる良いのに、寝台から出してもらえないのは逆にしんどいので助かった。



 そんなわけで今ラピスは、騎士団詰所にいる。
 ラピスが初めてここを訪れたときに通された広間に、ロックス町支援の対策本部が置かれ、ジークやギュンターが指揮を執っている。
 ラピスにできることは今のところないのだが、用心深い護衛役ジークから「目の届くところにいてほしい」と言われたので、部屋の隅でディードやヘンリックとボードゲームなどをしていた。
 しかし三人とも、次々もたらされる情報に気を取られ、盤上はおざなりだ。 
 
 ラピスが眠っているあいだに、疫病の件はゴルト街に周知されていた。
 ロックス町のため、ゴルト街の人々は支援物資を集めてくれている。手筈は着々と整っているようだ。
 が、問題はやはり、相変わらず続いているという『ロックス町の周囲だけが猛吹雪』という謎の天候だ。

 現地から貴重な伝書を飛ばしてくれた騎士プレヒト。彼の報告通りなら、町に入ることはできても、出られないという危惧がある。
 となると物資の受け渡しも難しいし、感染率も非常に高いというから、不用意に支援に入ることもできない。

「プレヒトが鳩を飛ばせたのだから、我々も根気強く吹雪がやむその瞬間を待っては?」
「だがその鳥一羽飛ばすのがやっとの短い時間を、どう使う? 物資を運んでも迂闊に町には入れないし、向こうから取りに出てくることもできないのでは……。町に閉じ込められることを前提とした防疫手段がなくては、支援もままならない」

 そうしたやり取りが何度も繰り返されており、手詰まり状態だ。
 ゴルト街の医師たちも腰が重い。現地の状況がわからぬ上に封鎖された町から出られない可能性が高いと聞けば、怖気おじけづくのも無理はなかった。

「聞いたか? 街では『これは竜王の呪いだ』って、言われ始めてるよ」

 ヘンリックの言葉に、ディードが顔をしかめた。「バカバカしい」と乱暴に駒を動かす。「変な噂を仕入れてくるなよ」と睨まれたヘンリックも、眦を吊り上げた。

「はいはい、悪かったね! とりあえず、ディードは王都に帰れ!」
「お前こそ、そもそもなんでここにいる? なんで普通に巡礼に参加してるんだよ」

 例によって乳兄弟喧嘩が始まった。
 駒を一手動かすたび、言葉の応酬も展開される。

「ぼくは聴き手だからね! お前と違って!」
「俺はラピスの護衛役だ!」
「見習いのくせに!」
「自分もだろ!」

 もはや駒を直接ぶつけ合っている。
 その遠慮のなさに、「本当に仲良しさんだよねぇ」とラピスがお茶を飲みながら笑うと、「「よくない!」」と声を合わせて返してきた。
 仲良しさんたちはともかく、大人たちも、停滞した状況に疲れているように見える。だがロックス町の人々はもっと心細くて、身体的にも切羽詰まっているだろう。

(ひとつずつ片付ける)

 師の教えと端整な顔を思い浮かべながら、今自分にできることはなんだろうと、ラピスは考えた。
 
(情報を集める魔法。……なんて習っていないし、イメージできないからダメだ。吹雪が止む魔法? うーん。火や水を出すのとはわけが違うし……お天気を操るなんてそんな、古竜さんみたいなことは……)

 ゴルト街に引き返すときに見た、不吉な黒雲のような古竜。
 街にも大きな被害をもたらした、雷の連撃。

 ――竜王の呪い? 

 そんな、まさか。竜王はこの世界を創った存在なのに――

「う~。そうじゃなくて! それは置いといて!」

 ブンブン頭を振ると、驚いたディードとヘンリックが、そろってビクンと肩を揺らしてラピスを見た。

「ラ、ラピス?」
「どうしたの?」
「ん~とぉ……」

 ふと、この街で出会った古竜のことも頭に浮かんだ。
 ラピスを呪法から救い、母の子守歌を思い出させてくれた星空色の古竜。
 あの古竜のおかげで、竜言語の子守歌を思い出せた。歌い手だったという母の歌を。

『母様がそのように竜に頼んでおいてあげましょう』

 そう言っていた母のおかげで、クロヴィスと出会えたと信じている。
 きっとラピスのことを竜に『頼んで』くれたときも、竜言語の歌で――

「ふああっ! そうだぁ!」
 
 声を上げると、またも乳兄弟は仲良く跳び上がった。

「なっ、なに!?」
「どうしたのさラピス!」」
「えへへ~。僕も歌い手だったぁ」

 にこにこすると、「「へ?」」とどこまでも仲良く重ねた声が返って来た。
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