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第7唱 純粋な心
捨て切れぬ過去 2
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「おい、まだか。いったい何をしにきたんだね。古竜の骨がどうかしたのか」
扉のそばで待っているゾンネが、こわごわ様子を窺ってきた。
クロヴィスの目的は気になるものの、関わり合いたくはないと見える。
クロヴィスはちらりと、揺れる頬肉に目をやった。
「おい、この骨について知っているか」
「当たり前だろう。かつてきみが持ち込んだ古竜の骨だ」
「いつから失くなっていたんだ?」
「なんだって? 何が失くなったって?」
ほかの呪具は別として、この古竜の骨を封印したのはクロヴィスだ。
『解呪しなければ見えないし触れない』という魔法も自己流。
そのことを誰に教えるかは、大祭司長と王で決めるよう、当時クラインミフェル大祭司長と話し合った。
そして現在のアードラー大祭司長は、副祭司長にも魔法の内容を教えていないらしい。
(当然だな。持ち出す気なら、事実を教えるはずがない)
アードラーが持ち出したと考えれば、すべて辻褄が合う。
国王ならば、見えないはずの古竜の骨が見えていること自体には気づくだろうが、大祭司長がなんらかの理由をつけて「解呪しておきました」と言えばやり過ごせる。
クロヴィスは王都を嫌って寄りつかなかったから、偽物を見る機会自体がなかった。
よって簡単に持ち出せた。念入りに盗難防止をしたつもりが、逆手に取られた。
――そのせいで、ラピスを危険に晒した。
「……これを呪法に用いる方法を、知っているか」
「なんだと!? ままままさか、それが目的でここに来たのか!?」
「バーカ。んなわけあるか。まあ、どっちにせよ、お前らにゃ無理だな」
「当たり前だろう! きみがどれだけ我らを見下しているか知らんが、これでも聖職者であるぞ!」
「人一倍、欲と執着が強いくせに、聖職者ヅラなんぞするから見下してるんだ」
「なっ」
ここにパウマンがいたらまたうるさく抗議されたろうが、一祭司の彼に入室の資格は無いので、少し離れて廊下で待機している。
ゾンネのように俗欲にまみれた男は、手にした富と権力をみすみす失うような真似はしない。呪詛を企てる理由もない。
ラピスの巡礼を妨害しようとしたのも、クロヴィスを出し抜きアカデミー派の者に手柄を立てさせたいという、浅はかな考えからだろう。
(だが、愚かなのは俺も同じ)
今クロヴィスは、心底、痛感している。
自分は己が思うほど賢い男ではなかったと。
よくも堂々と、「呪われるとすれば、ラピスより自分だ」などと思い込めたものだ。
「なあ。アードラーというのは――か?」
「もちろん、その方だ」
この場に来るまで、わかっていなかった。
(――いや、目を背けていたのか)
いくつもある呪具の中で、自分が持ち込んだ古竜の骨が持ち出されたとは、クロヴィスは思っていなかった。もっと簡単に持ち出せる呪具はほかにあるから。
これほど念入りに封印が施された呪具は古竜の骨だけであり、持ち出せるのは三人しかいない以上、簡単に容疑者が特定される。
なのに大祭司長はあえて、クロヴィスが封印したものを持ち出し、呪法に使った。
その意図に気づいたとき、クロヴィスの中で、ようやくすべてのことがつながった。
おそらく古竜の骨は、何年も前に持ち出されていたのだということも。
すべて、つながっていた。
ずっと過去から。
だから、ラピスが狙われた。
もっと早くに気づいていれば。
目を背け続けず、怒りに囚われず、向き合っていれば。
地位も名も捨てたという大祭司長に、少しでも興味を向けていれば。
そうしたら、すぐにわかったのに。
「コンラート……」
かつて彼から向けられた激情が、眼帯の下の目を疼かせる。
考えただけで凍りつきそうな心に、可愛らしい笑い声が響いてきた。寒々と冷えていく心を引き留め陽だまりへ導く、愛らしい笑顔と共に。
(ラピんこに会いたい)
あの純粋な心に。無邪気な笑顔に。
今、心から会いたかった。
扉のそばで待っているゾンネが、こわごわ様子を窺ってきた。
クロヴィスの目的は気になるものの、関わり合いたくはないと見える。
クロヴィスはちらりと、揺れる頬肉に目をやった。
「おい、この骨について知っているか」
「当たり前だろう。かつてきみが持ち込んだ古竜の骨だ」
「いつから失くなっていたんだ?」
「なんだって? 何が失くなったって?」
ほかの呪具は別として、この古竜の骨を封印したのはクロヴィスだ。
『解呪しなければ見えないし触れない』という魔法も自己流。
そのことを誰に教えるかは、大祭司長と王で決めるよう、当時クラインミフェル大祭司長と話し合った。
そして現在のアードラー大祭司長は、副祭司長にも魔法の内容を教えていないらしい。
(当然だな。持ち出す気なら、事実を教えるはずがない)
アードラーが持ち出したと考えれば、すべて辻褄が合う。
国王ならば、見えないはずの古竜の骨が見えていること自体には気づくだろうが、大祭司長がなんらかの理由をつけて「解呪しておきました」と言えばやり過ごせる。
クロヴィスは王都を嫌って寄りつかなかったから、偽物を見る機会自体がなかった。
よって簡単に持ち出せた。念入りに盗難防止をしたつもりが、逆手に取られた。
――そのせいで、ラピスを危険に晒した。
「……これを呪法に用いる方法を、知っているか」
「なんだと!? ままままさか、それが目的でここに来たのか!?」
「バーカ。んなわけあるか。まあ、どっちにせよ、お前らにゃ無理だな」
「当たり前だろう! きみがどれだけ我らを見下しているか知らんが、これでも聖職者であるぞ!」
「人一倍、欲と執着が強いくせに、聖職者ヅラなんぞするから見下してるんだ」
「なっ」
ここにパウマンがいたらまたうるさく抗議されたろうが、一祭司の彼に入室の資格は無いので、少し離れて廊下で待機している。
ゾンネのように俗欲にまみれた男は、手にした富と権力をみすみす失うような真似はしない。呪詛を企てる理由もない。
ラピスの巡礼を妨害しようとしたのも、クロヴィスを出し抜きアカデミー派の者に手柄を立てさせたいという、浅はかな考えからだろう。
(だが、愚かなのは俺も同じ)
今クロヴィスは、心底、痛感している。
自分は己が思うほど賢い男ではなかったと。
よくも堂々と、「呪われるとすれば、ラピスより自分だ」などと思い込めたものだ。
「なあ。アードラーというのは――か?」
「もちろん、その方だ」
この場に来るまで、わかっていなかった。
(――いや、目を背けていたのか)
いくつもある呪具の中で、自分が持ち込んだ古竜の骨が持ち出されたとは、クロヴィスは思っていなかった。もっと簡単に持ち出せる呪具はほかにあるから。
これほど念入りに封印が施された呪具は古竜の骨だけであり、持ち出せるのは三人しかいない以上、簡単に容疑者が特定される。
なのに大祭司長はあえて、クロヴィスが封印したものを持ち出し、呪法に使った。
その意図に気づいたとき、クロヴィスの中で、ようやくすべてのことがつながった。
おそらく古竜の骨は、何年も前に持ち出されていたのだということも。
すべて、つながっていた。
ずっと過去から。
だから、ラピスが狙われた。
もっと早くに気づいていれば。
目を背け続けず、怒りに囚われず、向き合っていれば。
地位も名も捨てたという大祭司長に、少しでも興味を向けていれば。
そうしたら、すぐにわかったのに。
「コンラート……」
かつて彼から向けられた激情が、眼帯の下の目を疼かせる。
考えただけで凍りつきそうな心に、可愛らしい笑い声が響いてきた。寒々と冷えていく心を引き留め陽だまりへ導く、愛らしい笑顔と共に。
(ラピんこに会いたい)
あの純粋な心に。無邪気な笑顔に。
今、心から会いたかった。
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