ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第9唱 クロヴィスとコンラート

優しきもの 2

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「ちゃんと説明しろ。リーゼロッテが身ごもったというのは、確かなのか」
「この期に及んでしらばっくれる気か! お前が女をとっかえひっかえして遊び呆けていることを、わたしが気づいていないと思ったら大間違いだぞ!」

 怒鳴りつけるも鼻で嗤われ、父はますます怒り狂った。
 暴れるのを抑えつけるのも煩わしくなったのか、兄は長椅子に向かって父を投げつけると、「野猿みたいにキーキー騒ぐな」と椅子の脚を思い切り蹴り上げた。

「どっちが獣だ。わめいてないでちゃんと説明しろ」

 兄の迫力に父がたじろぐ隙に、母が叫ぶ。

「ほ、本当にあなたじゃないの!? 違うならはっきり言ってちょうだい! リーゼロッテにいくら尋ねても、泣くばかりで相手の名を言わないそうなのよっ」

 名を言わないのに、先方の親は相手が兄であると決めつけて父を責め、兄を罵り、すぐにも婚姻するよう迫ったらしい。これほどの辱めを受けたのにリーゼロッテが庇う相手は、兄しかいないだろうと。
 父もさぞ動転したこととは思うが、額面通り受け取って兄を殴りつけたなら、短慮にもほどがある。

「嫁入り前のうら若き貴族令嬢が妊娠したなんて、ひどい醜聞ですからね。向こうの親からしてみれば、相手が兄上であってほしいのでしょう」

 コンラートが口を出すと、皆がぎょっとしたように顔を向けてきた。
 どうやら、修羅場の中で自分の存在は忘れられていたらしい。

「兄上の嫁に納まれば、いっとき騒がれようと将来は安泰です。優秀な聴き手は、国が金を積んででも欲しい人材ですし、なにがあろうと出世は確実。実力さえあれば政治家のように醜聞で失脚することもありません。リーゼロッテも伯爵の奥方として名誉を取り戻せるでしょう」

「……コンラート?」
「何を言っているのだ、お前は」

 困惑も露わな母と父の声が重なったが、それを機に父が元気を取り戻した。

「リーゼロッテの子の父が、どこぞの馬の骨だと言うのなら、我がオルデンブルク家で面倒をみてやる必要などない! いや、そんな傷物のふしだらな娘を嫁にするなど末代までの恥!」
「そうですわ。わたくしたちまで醜聞に巻き込まれますもの。恥ずかしくて、とても社交界に顔を出せません!」

 兄を罵っていた口で、今度は少女を罵倒し始めた。幼い頃から可愛がり、彼女こそ後継者の嫁にふさわしいと褒め称えていた少女を。

 だが、これぞ現実だ。
 優しく愛らしい、花のような少女。少年たちの憧れの的だったリーゼロッテは、この先、傷物の娘として好奇の目に晒され、辱めを受けることになる。 
 たとえ王家に生まれようとこの国の上流社会では、醜聞にまみれた者は嘲笑され、徹底的に見下されるのだ。

 そんな彼女を、救える者がいるとしたら。
 それは、兄しかいない。

 誉れあるオルデンブルク伯爵家の後継者にして、誰もが認める聴き手。
 優秀な聴き手は、国王からすら一目置かれると聞く。
 貴重な竜の歌を解けば、それは国益。その手柄の前に、どんな醜聞も脇に置かれるだろう。おまけに兄は、見る者を陶然とさせるほど美しい。
 経緯はどうあれ兄の奥方になれれば、リーゼロッテの屈辱は最小になり。
 むしろ女性たちの嫉妬と羨望を一身に浴びる、社交界の花となれるはず。

 胡乱げにコンラートに向けられていた兄の瞳が、やがて、不気味な虫でも見つけたように見ひらかれた。

「お前……まさか」

 ただごとでない気配に気づいた父と母も、話を途切らせ息子たちを見る。
 コンラートはにっこりと笑みを浮かべた。

「簡単なことです。兄上が正式にこの家を継ぎ、予定通りリーゼロッテを娶る。それでリーゼロッテの恥を雪ぐことができます」

「――恥じるべきは彼女でなく、孕ませておいて名乗り出もしない男だろう」

 怒気に満ちた紅玉と裏腹に、声音は冷え切っている。
 コンラートは改めて、兄の嫁となる人は果報者だと感じ入った。

「優しい兄上。あなたの決断ひとつで、僕らの愛しい幼なじみを救えるのですよ?」
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