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第10唱 王都へ行こう
今すべきこと
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混乱した様子で、何がどうなっているのかと詰め寄ってくるディードとヘンリックに、あれやこれやと説明しつつ、ラピスは少し離れたところにいるクロヴィスたちに目を向けた。
師はコンラートと、竜酔いをものともしないジークと、そしてクロヴィスに尻を蹴られて竜酔いを醒ましたギュンターと四人で、先ほどから暗い顔で話し込んでいる。
(ジークさんとギュンターさん、まだ怒ってるのかな……)
二人はラピスとクロヴィスを安堵と歓喜をもって迎えたものの、コンラートを見るなり、剣を抜きかけた。
クロヴィスが「子供らの前で何をするつもりだ!」と怒鳴りつけたので、我に返った様子で詫びを口にし、ことなきを得たのだが……
二人が怒るのも当然だろう。
コンラートは王都に災害をもたらした張本人であり、今なお自分たちの家族を危地に追い込んでいるのだから。
「今すぐ王都にかけた呪法を解呪しろ」と二人は迫ったが、「それはできない」とコンラートは答えた。
「相手は竜王だ。千年の昔から呪術師たちが脈々と溜め込んできた生者と死者の怨念に、長年の呪法研究を結集させて、ようやく私の代に竜王を穢れに病ませるに至った。つまり私ひとりでどうこうできる相手ではない。もしもどうこうできたとしても、呪術師にできるのは呪うことだけ。呪詛対象が小者なら呪殺の上書きをして片付けることもできるが、竜王は呪殺できるレベルじゃない。千年単位で病ませるのがやっとだ」
無表情に、淡々と。
それがまた王太子たちの殺気を誘い、ラピスは怖くて髪が逆立ちそうな思いだった。
が、その直後にディードらが駆け寄ってきてくれたのを機に、師はコンラートとジークらをラピスから離して、四人だけで話し合いを始めたのだった。
竜王への呪詛については、ゴルト街へ来るまでにクロヴィスがあれこれ訊き出していたから、ラピスもジークたちが今聞いているであろう事情は承知している。
コンラートも「今さら隠す必要はない」と素直に答えていた。
彼は大祭司長という地位を最大限に活用し、過去の呪術師たちが成しえなかった竜王への呪詛を成功させた。
大図書館の呪法について書かれた禁書を読むこともできたし、竜を呪うため最も有効とされる『人間の怨念』にまみれた呪具を、各地に集めに行くこともできた。
具体的に言うと――過去の呪術師たちは、凄惨な戦場跡や殺戮現場などに呪具を隠すということを繰り返してきた。そうした場では強烈な怨念が宿りやすいからだ。
呪具は増幅器となり、怨念が怨念を呼ぶ。陰惨な念が寄り集まって巨大な怨念の塊となっても、なお強い負の念を引き込み育て続ける。
強烈過ぎて並みの呪術師では扱えなくなり放置されたそれらの呪具を、コンラートは「祈りと鎮魂のため」と称して各地を巡りながら、何十年もかけて収集し利用した――ということらしい。
さらには大神殿にやってくる信者たちからまで、祈りの裏に隠された不満や怒り、恨みや妬みなどの負の感情を、呪具に吸収させていたというから驚く。
「強力な怨念が宿った各地の呪具を安全に回収する際に役立ってくれたのが、兄上が見つけてきた古竜の骨ですよ。あれの底知れぬ残存魔力が、呪具の怨念を完璧に吸収してくれたのです」
コンラートがそう言ったとき、ラピスは師が怒り出すかと思った。
けれど何も言わず――いや、何か言いかけたけれど口を閉ざし、腕の中のラピスをぎゅっと抱きしめてきた。
そのとき、ラピスにはわかった。
おそらくクロヴィスは、確かめたかったのだ。
ラピスの母を呪詛したのも、コンラートなのかと。
ラピスの前でその話をするのは酷だと思ったのだろう。けれどラピスにとっては、別の意味で悲しい。
もしも母を害した呪詛に、クロヴィスが持ち込んだ古竜の骨が使われていたのだとしたら……。
きっと師が今最も気に病んでいるのは、そのことだ。
(お師匠様が責任を感じる必要はないのです、絶対!)
そう言いたかったのに、タイミングがつかめず。
そしてコンラートを責める気にもなれなかった。
いや、さすがに言いたいことは山ほどあるのだけれど。
(でも。怒るのはあと回しでいいことなんだ)
今すべきことは、ほかにたくさんあるから。
亡き母も、きっとそう言う。
『救いを。救いを、待っている』
前回、この場所から見た雪白の古竜は、悲しそうにそう歌っていた。
「……すべきことがいっぱいあっても、ひとつずつ片付ければちゃんと終わります」
「へ? 何、いきなり」
唐突なラピスの呟きに、ヘンリックが眉根を寄せる。
ディードも丸くなった目で、「それ、前にも言ってたね。『お師匠様の教え』って」と瞬きした。
「うん。何もかもいっぺんには解決できないから、今すべきことを、ひとつずつね」
「それがつまり、王都へ行くっていうこと?」
ラピスは「うん!」と大きくうなずいた。
「そして竜王様を助けるってことだよ!」
ディードと顔を見合わせたヘンリックが、「よくわからないけど」と困ったように言った。
「それ、『ひとつずつ』か?」
師はコンラートと、竜酔いをものともしないジークと、そしてクロヴィスに尻を蹴られて竜酔いを醒ましたギュンターと四人で、先ほどから暗い顔で話し込んでいる。
(ジークさんとギュンターさん、まだ怒ってるのかな……)
二人はラピスとクロヴィスを安堵と歓喜をもって迎えたものの、コンラートを見るなり、剣を抜きかけた。
クロヴィスが「子供らの前で何をするつもりだ!」と怒鳴りつけたので、我に返った様子で詫びを口にし、ことなきを得たのだが……
二人が怒るのも当然だろう。
コンラートは王都に災害をもたらした張本人であり、今なお自分たちの家族を危地に追い込んでいるのだから。
「今すぐ王都にかけた呪法を解呪しろ」と二人は迫ったが、「それはできない」とコンラートは答えた。
「相手は竜王だ。千年の昔から呪術師たちが脈々と溜め込んできた生者と死者の怨念に、長年の呪法研究を結集させて、ようやく私の代に竜王を穢れに病ませるに至った。つまり私ひとりでどうこうできる相手ではない。もしもどうこうできたとしても、呪術師にできるのは呪うことだけ。呪詛対象が小者なら呪殺の上書きをして片付けることもできるが、竜王は呪殺できるレベルじゃない。千年単位で病ませるのがやっとだ」
無表情に、淡々と。
それがまた王太子たちの殺気を誘い、ラピスは怖くて髪が逆立ちそうな思いだった。
が、その直後にディードらが駆け寄ってきてくれたのを機に、師はコンラートとジークらをラピスから離して、四人だけで話し合いを始めたのだった。
竜王への呪詛については、ゴルト街へ来るまでにクロヴィスがあれこれ訊き出していたから、ラピスもジークたちが今聞いているであろう事情は承知している。
コンラートも「今さら隠す必要はない」と素直に答えていた。
彼は大祭司長という地位を最大限に活用し、過去の呪術師たちが成しえなかった竜王への呪詛を成功させた。
大図書館の呪法について書かれた禁書を読むこともできたし、竜を呪うため最も有効とされる『人間の怨念』にまみれた呪具を、各地に集めに行くこともできた。
具体的に言うと――過去の呪術師たちは、凄惨な戦場跡や殺戮現場などに呪具を隠すということを繰り返してきた。そうした場では強烈な怨念が宿りやすいからだ。
呪具は増幅器となり、怨念が怨念を呼ぶ。陰惨な念が寄り集まって巨大な怨念の塊となっても、なお強い負の念を引き込み育て続ける。
強烈過ぎて並みの呪術師では扱えなくなり放置されたそれらの呪具を、コンラートは「祈りと鎮魂のため」と称して各地を巡りながら、何十年もかけて収集し利用した――ということらしい。
さらには大神殿にやってくる信者たちからまで、祈りの裏に隠された不満や怒り、恨みや妬みなどの負の感情を、呪具に吸収させていたというから驚く。
「強力な怨念が宿った各地の呪具を安全に回収する際に役立ってくれたのが、兄上が見つけてきた古竜の骨ですよ。あれの底知れぬ残存魔力が、呪具の怨念を完璧に吸収してくれたのです」
コンラートがそう言ったとき、ラピスは師が怒り出すかと思った。
けれど何も言わず――いや、何か言いかけたけれど口を閉ざし、腕の中のラピスをぎゅっと抱きしめてきた。
そのとき、ラピスにはわかった。
おそらくクロヴィスは、確かめたかったのだ。
ラピスの母を呪詛したのも、コンラートなのかと。
ラピスの前でその話をするのは酷だと思ったのだろう。けれどラピスにとっては、別の意味で悲しい。
もしも母を害した呪詛に、クロヴィスが持ち込んだ古竜の骨が使われていたのだとしたら……。
きっと師が今最も気に病んでいるのは、そのことだ。
(お師匠様が責任を感じる必要はないのです、絶対!)
そう言いたかったのに、タイミングがつかめず。
そしてコンラートを責める気にもなれなかった。
いや、さすがに言いたいことは山ほどあるのだけれど。
(でも。怒るのはあと回しでいいことなんだ)
今すべきことは、ほかにたくさんあるから。
亡き母も、きっとそう言う。
『救いを。救いを、待っている』
前回、この場所から見た雪白の古竜は、悲しそうにそう歌っていた。
「……すべきことがいっぱいあっても、ひとつずつ片付ければちゃんと終わります」
「へ? 何、いきなり」
唐突なラピスの呟きに、ヘンリックが眉根を寄せる。
ディードも丸くなった目で、「それ、前にも言ってたね。『お師匠様の教え』って」と瞬きした。
「うん。何もかもいっぺんには解決できないから、今すべきことを、ひとつずつね」
「それがつまり、王都へ行くっていうこと?」
ラピスは「うん!」と大きくうなずいた。
「そして竜王様を助けるってことだよ!」
ディードと顔を見合わせたヘンリックが、「よくわからないけど」と困ったように言った。
「それ、『ひとつずつ』か?」
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