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第10唱 王都へ行こう
じわじわドーン!
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嬉しく楽しいこと続きで足取り軽く祈祷の間に戻ったラピスは、気合いを入れて星竜の像に向かい、両手を組んで跪き祈りを再開した。
「お師匠様の魔法のザバーッ! が、素晴らしく上手く行きますように。早く水不足が解消されますように」
そう一心に祈っていると。
ふと、水の匂いを感じた。
「ありっ?」
閉じていた目をひらき、きょろきょろ辺りを見回す。
特に変わったことはない。
先刻と同じように出入口から見守ってくれているゾンネや騎士たちも、「どうかしたかい」と声をかけてきたが、横に首を振るよりなかった。
(でも、確かにお水の匂いがする。吸い込むと躰の中がすーっとする、晴れた日の澄んだ川のそばにいるみたいな)
そこでラピスはハッと気づいた。
(これだ! お師匠様が言ってた『地下水の目ざめ』って、このことだ!)
それを感じたら、地下水が井戸の水源に戻るよう導いてほしい。そう指示を受けている。
「なるほど~、これが『よいしょーっ!』なんだぁ! すごいすごい、お師匠様すごい! 成功したんだあ!」
ひとりでわーいわーいと飛び跳ね始めたので、「なんだどうした!」とゾンネたちが驚いているが、ラピスはもはや魔法のことしか考えられない。
「じゃあ次は、『じわじわドーン!』だね! えっと……」
地下水が具体的にどう井戸とつながっているのか、ラピスにはわからない。
だから師の話を聴いたとき、最初に頭に想い浮かんだイメージのまま、聖魔法を心に描いた。
地竜は長く生きると、水竜にもなれるという。
けれど水竜に進化した地竜を見たことはないから、地竜が地下をすいすい泳ぐイメージにした。
地竜が望むまま、地中に川が通るみたいに水路ができて。それが地下水脈となり、さらに井戸へと駆けのぼっていく。
蛇型の竜が地を泳ぐほどに、地下水は清められ、豊かになり。
澄んだ水の匂いのする美しい竜が、楽しそうに井戸へ飛び出すと――
どのくらい、そうして集中していただろう。
気づけば廊下のほうが騒がしくなっていて、ディードとヘンリックが祈祷の間に飛び込んでくるところだった。
「ラピス! ラピス!」
「邪魔してごめんね、でも早く来てっ!」
「ほええ?」
あまりに魔法を描くことに集中していたので、ゆさゆさ揺さぶられてようやく思考が現実世界に戻った。
それでもまだ少しボーッとしていたのだが、両側から引っ張られて廊下へ出て行くと、騎士たちも興奮した様子で「ラピスくん、さあ早く外へ!」と促してくる。
駆け足で案内されたのは東の出口。
そちらへ近づくほどに、どんどん人の声で賑やかになっていく。
だが大神殿はとにかく広いので、ラピスたちより先に様子見に出てきていたゾンネやパウマンたちが途中で息切れして立ち止まっており、そんな彼らを追い越して、ようやく中庭の回廊を抜けようとするあいだにも、行き交う祭司たちから次々笑顔で祝福の声をかけられた。
そうして辿り着いたところは、大神殿の中で唯一、弱々しいながらも水が涸れずにいたという井戸。
避難してきた民たちに水を支給できたのも、この井戸があったからこそだと聞いている。しかしいつ干上がるかも知れぬという話だったのに……
今、その井戸からは、噴水のように天高く水が噴き出していた。
周りで大勢の老若男女が歓声を上げ、落ちてくる飛沫を全身で受けとめて大はしゃぎしている。
と、ラピスに気づいた人々が、「おお、天使様!」と跪いて手を組んだ。
「見てください天使様、水です! 井戸から水がこんなに!」
「僕は天使様じゃなくてラピスですよ~」
「魔法ですよね!? 陛下が御布令を出されていた『大がかりな魔法』が、成功したんですよね!?」
ラピスは目を大きく見ひらいて、ディードとヘンリックを見た。
二人も頬を紅潮させて、うんうんとうなずいている。
「お水、戻ってきた……?」
聖魔法が成功したのか。
未だ無意識に聖魔法を描いたままぼんやりしていた頭が、ここでようやくはっきりと覚醒した。
目をいっぱいにひらいて見つめる先、陽を弾いて煌めきながら噴き上がっていた水が、いきなり空中でぐるぐるとうねり、姿を変える。
それはまさに、ついさっきまで想い描いていた、蛇型の竜の姿だった。
「おお、見ろ! 竜だ! 噴水が竜になった!」
興奮の声が上がる中、水の竜は、じいっとラピスを見下ろして。
次の瞬間、滝のように雪崩れ落ちた。
土砂降りみたいに降り注いだその水は、大神殿も大広場もずぶ濡れにして、灼熱の大気を清々しく冷やしていく。
大歓声の中、水飛沫の向こうに見えていた虹が消えた頃。
井戸には、なみなみと満ちる水が戻っていた。
喜びに沸く人々の誰からともなく、「大魔法使い様とお弟子様、ばんざーい!」と歓呼の声が響き渡ったが。
それは同時に、王都のすべての井戸がある場所で起こっていたのだということは、しばらくあとに知る話。
「お師匠様の魔法のザバーッ! が、素晴らしく上手く行きますように。早く水不足が解消されますように」
そう一心に祈っていると。
ふと、水の匂いを感じた。
「ありっ?」
閉じていた目をひらき、きょろきょろ辺りを見回す。
特に変わったことはない。
先刻と同じように出入口から見守ってくれているゾンネや騎士たちも、「どうかしたかい」と声をかけてきたが、横に首を振るよりなかった。
(でも、確かにお水の匂いがする。吸い込むと躰の中がすーっとする、晴れた日の澄んだ川のそばにいるみたいな)
そこでラピスはハッと気づいた。
(これだ! お師匠様が言ってた『地下水の目ざめ』って、このことだ!)
それを感じたら、地下水が井戸の水源に戻るよう導いてほしい。そう指示を受けている。
「なるほど~、これが『よいしょーっ!』なんだぁ! すごいすごい、お師匠様すごい! 成功したんだあ!」
ひとりでわーいわーいと飛び跳ね始めたので、「なんだどうした!」とゾンネたちが驚いているが、ラピスはもはや魔法のことしか考えられない。
「じゃあ次は、『じわじわドーン!』だね! えっと……」
地下水が具体的にどう井戸とつながっているのか、ラピスにはわからない。
だから師の話を聴いたとき、最初に頭に想い浮かんだイメージのまま、聖魔法を心に描いた。
地竜は長く生きると、水竜にもなれるという。
けれど水竜に進化した地竜を見たことはないから、地竜が地下をすいすい泳ぐイメージにした。
地竜が望むまま、地中に川が通るみたいに水路ができて。それが地下水脈となり、さらに井戸へと駆けのぼっていく。
蛇型の竜が地を泳ぐほどに、地下水は清められ、豊かになり。
澄んだ水の匂いのする美しい竜が、楽しそうに井戸へ飛び出すと――
どのくらい、そうして集中していただろう。
気づけば廊下のほうが騒がしくなっていて、ディードとヘンリックが祈祷の間に飛び込んでくるところだった。
「ラピス! ラピス!」
「邪魔してごめんね、でも早く来てっ!」
「ほええ?」
あまりに魔法を描くことに集中していたので、ゆさゆさ揺さぶられてようやく思考が現実世界に戻った。
それでもまだ少しボーッとしていたのだが、両側から引っ張られて廊下へ出て行くと、騎士たちも興奮した様子で「ラピスくん、さあ早く外へ!」と促してくる。
駆け足で案内されたのは東の出口。
そちらへ近づくほどに、どんどん人の声で賑やかになっていく。
だが大神殿はとにかく広いので、ラピスたちより先に様子見に出てきていたゾンネやパウマンたちが途中で息切れして立ち止まっており、そんな彼らを追い越して、ようやく中庭の回廊を抜けようとするあいだにも、行き交う祭司たちから次々笑顔で祝福の声をかけられた。
そうして辿り着いたところは、大神殿の中で唯一、弱々しいながらも水が涸れずにいたという井戸。
避難してきた民たちに水を支給できたのも、この井戸があったからこそだと聞いている。しかしいつ干上がるかも知れぬという話だったのに……
今、その井戸からは、噴水のように天高く水が噴き出していた。
周りで大勢の老若男女が歓声を上げ、落ちてくる飛沫を全身で受けとめて大はしゃぎしている。
と、ラピスに気づいた人々が、「おお、天使様!」と跪いて手を組んだ。
「見てください天使様、水です! 井戸から水がこんなに!」
「僕は天使様じゃなくてラピスですよ~」
「魔法ですよね!? 陛下が御布令を出されていた『大がかりな魔法』が、成功したんですよね!?」
ラピスは目を大きく見ひらいて、ディードとヘンリックを見た。
二人も頬を紅潮させて、うんうんとうなずいている。
「お水、戻ってきた……?」
聖魔法が成功したのか。
未だ無意識に聖魔法を描いたままぼんやりしていた頭が、ここでようやくはっきりと覚醒した。
目をいっぱいにひらいて見つめる先、陽を弾いて煌めきながら噴き上がっていた水が、いきなり空中でぐるぐるとうねり、姿を変える。
それはまさに、ついさっきまで想い描いていた、蛇型の竜の姿だった。
「おお、見ろ! 竜だ! 噴水が竜になった!」
興奮の声が上がる中、水の竜は、じいっとラピスを見下ろして。
次の瞬間、滝のように雪崩れ落ちた。
土砂降りみたいに降り注いだその水は、大神殿も大広場もずぶ濡れにして、灼熱の大気を清々しく冷やしていく。
大歓声の中、水飛沫の向こうに見えていた虹が消えた頃。
井戸には、なみなみと満ちる水が戻っていた。
喜びに沸く人々の誰からともなく、「大魔法使い様とお弟子様、ばんざーい!」と歓呼の声が響き渡ったが。
それは同時に、王都のすべての井戸がある場所で起こっていたのだということは、しばらくあとに知る話。
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