ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
218 / 228
第12唱 竜とラピスの歌

創世の竜の歌 1

しおりを挟む
 世界が変わった。
 夜から昼へ。
 七色の星降る空間から、鮮やかな青空の下へ。

「わっ」

 あまりの眩しさに、ラピスはぎゅっと目を閉じた。
 まぶたの裏でチカチカと明滅を感じながらおそるおそる目を開けて、かざした手をそっとずらすと。
 眼下に広がる光景に、今度は思いきり目を瞠った。
 並んで見渡す面々からも、驚きの声が上がる。

「これは……」

 呟いたきり、クロヴィスが絶句した。
 ラピスも視線は前方に向けたまま、手探りで師の大きな手をぎゅっとつかんだ。 
 誰もがしばし呆然と、その光景――果てなく広がる世界を、見つめていた。

 ラピスはこんなにも大きく、どこまでも広がる空を、見たことがない。
 悠々と流れる真っ白な雲は、巨大な羊の群れのよう。

 一行が立ちつくしているのは、緑の丘の上だった。
 背後には巨大な森が迫っている。
 木々の一本一本が、ラピスがこれまで見たどんな古木より幹太く、丈高い。地を這う根元だけでもジークの身長と同じ高さがあって、のけぞって見上げても、天辺はまるで見えない。

 賑やかに鳴き交わす鳥たちも、見たこともない鮮やかな色合いや、ものすごく長い尾羽や、金色のレースみたいな冠羽かんうなどを持つ、個性豊かで目新しい姿ばかり。
 
 丘から見渡す景色には樹頭に雲をまとった森が広がり、山脈がどこまでも連なる。
 右手の森の切れ間には、天から雪崩れ落ちているような大滝。瀑布に架かる虹まで大きい。

 野生的な緑の匂いと水の香りを運ぶ風。何もかもを輝かせる陽射し。咲き誇る花々の艶やかさと、絡み合う芳香。あちらこちらで響く動物たちの声。

 そして―― 
 それらのどこを見ても、竜がいた。

 ゆったりと翼を広げて大空を往く飛竜たち。
 木々の合間に見え隠れするのは地竜たち。
 蛇行して流れる大河から、ぽっかりと顔を出しているのはきっと水竜。

 背後の森には、かつてのミロちゃんのような幼竜もたくさん見える。
 大木の根元によじのぼろうとしているのは蛇型の子竜。
 わんぱくそうな獣型の子竜は、低い枝から落下しては、また不器用に飛び上がっている。心配そうな仲間の幼竜たちが、その背で小さな翼をしならせた。

 色も姿もさまざまな竜たちがのびのびと過ごす、この光景はまるで――
 ラピスはようやく言葉を取り戻して、熱く潤む目でクロヴィスを見上げた。

「ここはまるで『竜の楽園』ですね、お師匠様……!」
「そうだな。本当にそうだ。ほらラピんこ、古竜たちがこっちを見てる」
「えっ。どこですか?」

 ディードとヘンリックもハッと我に返ったようで、クロヴィスが指差すほうへ「「どこどこ!?」」と顔を向けた。一拍遅れて視線を追ったジークとギュンターの頬も紅潮している。
 白く長い指が、ぐるりと円を描いた。

「すべてに。どこを見ても古竜がいる」

 ラピスは大きく目を見ひらく。
 
「……ほんとだ……! 本当ですね、お師匠様! ここにも、あっちにも! おーい、おーい!」

 思わずブンブン手を振る横で、ディードたちはまだ「「どこどこ?」」と目を凝らしている。ラピスは「ほら」と指差した。
 まずは自分たちの足もとを。

「んんん?」

 眉根を寄せたディードに応えるように、草むらの下が若草色の光を放った。驚いたヘンリックが「おわっ!」と跳び上がる。
 草むら越しに浮かび上がったのは、若草色の鱗と、巨大な黄色い眼。
 黒い瞳孔が愉快そうに太さを変えて、優しく鱗を明滅させた。

「うわーっ! うわーっ! びっくりした、なんで足の下に!? ぼくたち古竜を踏んづけちゃってるじゃん!」

 大騒ぎするヘンリックとは対照的に、驚きすぎて声も出ないディードは口をパクパクさせている。
 ラピスは「大丈夫」と笑った。

「姿を見せてくれただけだよ」
「からかわれたんだ、そうやって目玉を真ん丸にして驚くから」

 にやりと笑うクロヴィスの言葉に、どんぐりまなこでぱちくりする乳兄弟を見て、ギュンターが「ほんとだ」と吹き出した。
 ラピスは「ほら見て!」と次を促す。

 湧き立つ雲に、巨大な森に、大河の流れに。
 この原始の世界のすべてに。
 先刻まで不思議な結界の中で逢っていた創世の竜たちが融合し、優しくこちらを見つめている。

「もしかすると此処こそが、『竜王の城』なのかもしれないな」
「わあ、そうですねお師匠様! そうです、きっとそうですよっ!」

 ラピスは興奮して何度もうなずいた。
 レプシウス山脈のどこかに在ると伝わる竜王の城。
 此処がレプシウスに実在するのか、レプシウスとつないだ結界で結んだ別の世界なのか、それはラピスにはわからないけれど。
 それでいいと思う。
 こんなにも圧倒的な命の輝きに満ちた世界が、竜たちが幸せに過ごせる場所が、この世のどこかにちゃんと在る。その場所は竜たちだけが知っていればいい。
 
 そんなことを考えながら胸を熱くしていると。
 創世の竜たちを含むすべての竜が、老いも若きも一斉に歌い出した。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

【完結】無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります!

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...