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終唱 新たな旅へ
師弟の進路 1
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優しい木漏れ日の射す森でのピクニックは、本当に楽しかった。
ラピスはクロヴィスから木登りのコツを教わったり――なぜそんなに上手なのか尋ねると、「しょっちゅう脱走してたから」という不思議な答えが返ってきたが――野原で転げ回って草まみれになったり、リスと小鳥の追いかけっこを観察したりした。
見晴らしの良い野原で薬草の香りが移った敷布を広げ、ぴったりくっついて座ってから、ゆっくりと優しい笑顔を見上げるのも久しぶり。
二人で作ったサンドイッチは、レタスに玉子、ハムチーズとポテトサラダ、自家製林檎ジャムにクリームチーズ。どれも感動的に美味しかった。
心身共にくつろぐ癒され時間をたっぷり堪能し、肩車のサービス付きで、竜の歌を歌いながら家路につく。
「僕が大きくなったら、お師匠様を肩車してあげますね!」
「腰痛めるぞ」
クロヴィスがくすくす笑う。
師は以前よりずっと、よく笑うようになった。ラピスはそれがとても嬉しい。大好きな人には、たくさん笑っていてほしい。
そうして家に戻ってからも、薪の補充をしたり次の買い物のリストを作ったりといった雑用をこなし、そのあいだもクロヴィスは上機嫌だったのだけれど。
「ただいま帰りました」
ジークが姿を見せた途端、思いっきり顔をしかめた。
ラピスが「お帰りなさーい!」と大喜びで抱きついたのとは実に対照的。
微笑むジークに頭を撫でられているラピスを引き剥がしながら、紅玉の瞳がギロリと睨みをきかせた。
「王都の第三騎士団の団長が、どうしてド田舎のうちに『ただいま』なんだよ! 方向音痴か」
「俺はまだ、お二人の護衛を解かれていませんから。お二人のいるところが、俺の戻るところです」
しれっと答えたジークに、クロヴィスがぐぬぬと唸る。
そう。集歌の巡礼が終わったあとも、国王はジークの護衛任務を解かなかった。
ジークは元通り第三騎士団団長としての任務に戻ってはいるので、旅の頃のようにラピスに付きっきりというわけではない。けれど“ある理由”により、未だ師弟の護衛役を兼任している。
それを口実に折につけグレゴワール家を訪れるようになった彼は、今ではすっかりクロヴィスの毒舌にも慣れたようで、「お土産です」と葡萄酒入りの壜を卓にのせた。
「陛下所有の蔵で熟成させていた葡萄酒だそうです。美しい赤にちなんで、『大魔法使いの瞳』という名で王都の名産品にしたいとの仰せでした」
「馬鹿なの?」
伸ばしていた手を引っ込めて、心底うんざりした顔でジークを睨むクロヴィスは、まるで子供みたいだ。ラピスは声を上げて笑った。
「素敵なアイディアだと思います! 僕も苺とか赤スグリとかの綺麗な赤を見るたびに、『お師匠様の瞳みたい』と思いますもん」
「その通り」
真顔でうなずくジークの後頭部に、「うちの弟子と結託すんじゃねえ!」とクロヴィスが手刀を下ろした。
ジークは叱られた犬のような表情で、「陛下は本当にお喜びなのです」と頭をさする。
「グレゴワール様がアカデミーの学院長に就任されたことを祝いたいのでしょう」
「う~」
クロヴィスは不服そうに呻くも、それこそが“ある理由”だった。
彼は今やドラコニア・アカデミーの学院長なのだ。
そのため国王は、「我が国の至宝なのだから」と、第三騎士団団長を特別護衛役として留任した。
当初クロヴィスは「護衛など不要」と抗議していたが、王太子の「ラピスには必要になるかもしれませんよ」という進言が効いた。
なぜそこでラピスの名が出るかと言えば、ラピスもアカデミーに入学することが決まったからである。
しかし王都もアカデミーも毛嫌いしてきたクロヴィスが、なぜ学院長の任を引き受けたのか。
そこには拠ない理由があった。
ラピスはクロヴィスから木登りのコツを教わったり――なぜそんなに上手なのか尋ねると、「しょっちゅう脱走してたから」という不思議な答えが返ってきたが――野原で転げ回って草まみれになったり、リスと小鳥の追いかけっこを観察したりした。
見晴らしの良い野原で薬草の香りが移った敷布を広げ、ぴったりくっついて座ってから、ゆっくりと優しい笑顔を見上げるのも久しぶり。
二人で作ったサンドイッチは、レタスに玉子、ハムチーズとポテトサラダ、自家製林檎ジャムにクリームチーズ。どれも感動的に美味しかった。
心身共にくつろぐ癒され時間をたっぷり堪能し、肩車のサービス付きで、竜の歌を歌いながら家路につく。
「僕が大きくなったら、お師匠様を肩車してあげますね!」
「腰痛めるぞ」
クロヴィスがくすくす笑う。
師は以前よりずっと、よく笑うようになった。ラピスはそれがとても嬉しい。大好きな人には、たくさん笑っていてほしい。
そうして家に戻ってからも、薪の補充をしたり次の買い物のリストを作ったりといった雑用をこなし、そのあいだもクロヴィスは上機嫌だったのだけれど。
「ただいま帰りました」
ジークが姿を見せた途端、思いっきり顔をしかめた。
ラピスが「お帰りなさーい!」と大喜びで抱きついたのとは実に対照的。
微笑むジークに頭を撫でられているラピスを引き剥がしながら、紅玉の瞳がギロリと睨みをきかせた。
「王都の第三騎士団の団長が、どうしてド田舎のうちに『ただいま』なんだよ! 方向音痴か」
「俺はまだ、お二人の護衛を解かれていませんから。お二人のいるところが、俺の戻るところです」
しれっと答えたジークに、クロヴィスがぐぬぬと唸る。
そう。集歌の巡礼が終わったあとも、国王はジークの護衛任務を解かなかった。
ジークは元通り第三騎士団団長としての任務に戻ってはいるので、旅の頃のようにラピスに付きっきりというわけではない。けれど“ある理由”により、未だ師弟の護衛役を兼任している。
それを口実に折につけグレゴワール家を訪れるようになった彼は、今ではすっかりクロヴィスの毒舌にも慣れたようで、「お土産です」と葡萄酒入りの壜を卓にのせた。
「陛下所有の蔵で熟成させていた葡萄酒だそうです。美しい赤にちなんで、『大魔法使いの瞳』という名で王都の名産品にしたいとの仰せでした」
「馬鹿なの?」
伸ばしていた手を引っ込めて、心底うんざりした顔でジークを睨むクロヴィスは、まるで子供みたいだ。ラピスは声を上げて笑った。
「素敵なアイディアだと思います! 僕も苺とか赤スグリとかの綺麗な赤を見るたびに、『お師匠様の瞳みたい』と思いますもん」
「その通り」
真顔でうなずくジークの後頭部に、「うちの弟子と結託すんじゃねえ!」とクロヴィスが手刀を下ろした。
ジークは叱られた犬のような表情で、「陛下は本当にお喜びなのです」と頭をさする。
「グレゴワール様がアカデミーの学院長に就任されたことを祝いたいのでしょう」
「う~」
クロヴィスは不服そうに呻くも、それこそが“ある理由”だった。
彼は今やドラコニア・アカデミーの学院長なのだ。
そのため国王は、「我が国の至宝なのだから」と、第三騎士団団長を特別護衛役として留任した。
当初クロヴィスは「護衛など不要」と抗議していたが、王太子の「ラピスには必要になるかもしれませんよ」という進言が効いた。
なぜそこでラピスの名が出るかと言えば、ラピスもアカデミーに入学することが決まったからである。
しかし王都もアカデミーも毛嫌いしてきたクロヴィスが、なぜ学院長の任を引き受けたのか。
そこには拠ない理由があった。
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