異世界ランドへようこそ

来栖とむ

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第15話 地球でのデート

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 魔王城での三週間目。
 戴冠式まで、あと二週間。
 イグニスの捜索は続いているが、まだ見つかっていない。
 時間が、刻一刻と迫っている。
 ある朝、カオスから呼び出しを受けた。
「佐伯くん、今日から地球に出張だ」
「出張?」
「ああ。都内のデパートで、異世界ランド展が始まる」

 マネーゼンも説明する。
「五日間の限定イベントだ。魔界の工芸品、魔法道具、食材を販売する」
「目標売上は?」
「五千万円だ」
 カオスが真剣な顔で言う。
「これが達成できなければ、魔王城の財政は厳しい」
「わかりました」
「そこで、佐伯くんにも同行してもらいたい。地球のことに詳しいし、何より経営のセンスがある」
 カオスが続ける。
「それと、フラーラも一緒だ」
「フラーラさんも?」
「ああ。彼女は異世界ランドでも人気がある。良い宣伝になるだろう」

 翌日、俺とフラーラさんは地球に向かった。
 ポータルを抜けて、奥多摩異世界ランドの裏口へ。
 そこから、アビス商会が手配した車で都内のデパートへ。
「異世界ランド以外だと、久しぶりの地球ね」
 フラーラさんが、車窓から街を眺める。
 エルフの衣装のまま、長いマントで耳を隠している。
「楽しみだわ。でも、少し緊張もするわね」
「大丈夫ですよ。フラーラさんなら、絶対うまくいきます」
「ありがとう」
 フラーラさんが微笑む。

 都内の大手デパート、七階の催事場。
 そこに、「異世界ランド展」の特設ブースが設置されていた。
 グンナル製のスマホケース、魔界の鉱石を使ったアクセサリー、ダンジョン産のアンティーク装飾具。
 様々な商品が並んでいる。
 そして、ブースの奥には、弓の実演コーナー。
 フラーラさんが、そこで演技をする。
「いらっしゃいませ」
 マントを脱いだフラーラさんのエルフ姿に、来場者たちが釘付けになる。
「うわ、本物のエルフみたい!」
「綺麗……耳、本物?」
「コスプレ? いや、これ本物じゃない?」

 来場者たちが、次々と写真を撮る。
 フラーラさんは、優雅に微笑んで応じる。
「写真、どうぞ。でも、その前に……」
 フラーラさんが弓を構える。
「私の技を、ご覧ください」
 シュッ
 矢が放たれ、十メートル先の的に命中。
 ど真ん中。
「すごい!」
「本格的!」
 来場者たちが拍手する。
 そして、商品も飛ぶように売れる。

「このスマホケース、可愛い! しかも丈夫そう!」
「ドワーフ製って書いてある。本格的ね」
 グンナル製のスマホケースは、革製で丈夫。デザインも凝っている。
 一つ三千円から五千円。高めだが、品質が良いので大人気だ。
「この装飾具、素敵!」
 ダンジョン産の装飾具も注目を集める。
 一点もの、アンティーク感満載のデザイン。
 一万円から三万円。高額だが、すぐに完売する。
「すごい……」
 俺は、その様子を見て驚く。
 魔界の商品が、地球でこんなに人気になるなんて。

 マネーゼンが、電卓を叩きながら満足そうに頷く。
「午前だけで、既に三百万円の売上だ」
「すごいですね」
「ああ。この調子なら、目標達成も夢じゃない」
 午後、テレビ局の取材が来た。
「異世界ランド展、大盛況ですね!」
 リポーターが、フラーラさんにマイクを向ける。
「ええ、ありがとうございます」
 フラーラさんが、カメラに向かって微笑む。
「こちらの商品、どれもユニークですが、特におすすめは?」

「そうですね……こちらのスマホケースは、ドワーフの職人が一つ一つ手作りしています」
 フラーラさんが、商品を手に取って説明する。
「丈夫で、長く使えます。革の質感も、使うほどに味が出ますよ」
「なるほど!」
「それと、こちらの装飾具は、ダンジョン探索で発見されたアンティーク品です。世界に一つだけのデザインなんです」
 フラーラさんの説明が、わかりやすく、魅力的だ。
 リポーターも感心している。
「素晴らしいですね! ありがとうございました!」

 取材が終わり、俺はフラーラさんに声をかける。
「フラーラさん、完璧でしたね」
「そう?」
 フラーラさんが微笑む。
「ええ。説明もわかりやすかったし、カメラ映りも最高でした」
「ありがとう。長く生きてると、こういうのも慣れるわ」
 フラーラさんが冗談っぽく言う。
 でも、本当にすごいと思った。
 四百年生きているだけあって、経験値が違う。

 夕方、初日のイベントが終わる。
 俺とフラーラさんは、ホテルにチェックインした。
 アビス商会が用意してくれた、都内のビジネスホテル。
 部屋は別々だが、同じフロアだ。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様。初日、大成功ね」
 フラーラさんが嬉しそうに言う。
「はい。明日からも頑張りましょう」
「ええ」
 フラーラさんが、少し考えてから言う。
「あの、佐伯。今から少し、街を案内してもらえる?」
「街を?」

「ええ。せっかく地球に来たんだから、少し歩いてみたいの」
 フラーラさんが、恥ずかしそうに言う。
「仕事も終わったし、明日の準備もできてるし」
「いいですよ。じゃあ、着替えましょうか」
「ええ」
 三十分後、ホテルのロビーで待ち合わせ。
 フラーラさんが、私服で現れた。
 ジーンズにシンプルな白いシャツ。髪を下ろして、帽子で耳を隠している。
「どう? 地球の服、似合ってる?」
「はい、すごく似合ってます」

 俺は、少しドキッとする。
 エルフの衣装も綺麗だけど、地球の服もいい。
 普通の女性みたいで、新鮮だ。
「じゃあ、行きましょう」
 俺たちは、渋谷の街を歩いた。
 スクランブル交差点、商店街、カフェ。
 フラーラさんが、目を輝かせて街を見る。
「すごい……人がたくさんね」
「はい。休日の夜ですからね」
「地球の街、活気があるわ。魔界とは違う、独特のエネルギーを感じる」

 フラーラさんが楽しそうに歩く。
 その姿を見て、俺は思った。
 これ、デートみたいだな。
 いや、デートだ。
 二人きりで、街を歩いて。
 そう思うと、少し緊張する。
「佐伯」
「はい?」
「これが、地球の……デート?」
 フラーラさんが、少し恥ずかしそうに聞く。
「え、まあ……そうですね」
「そう……」
 フラーラさんが、少し頬を赤らめる。
 可愛い。

 カフェに入る。
 フラーラさんが、メニューを見て目を輝かせる。
「この、パフェって何?」
「ああ、アイスとか果物とか、いろいろ乗ってるデザートです」
「美味しそう! これ、頼んでいい?」
「はい、どうぞ」
 俺たちは、パフェを二つ注文する。
 それから、フラーラさんが恥ずかしそうに言う。
「あの……一つのジュースを、二本のストローで飲むのが、地球のデートらしいんだけど……」
「え? 誰に聞いたんですか?」
「カオスが教えてくれたの」

 俺は、思わず吹き出しそうになる。
 カオス、何を教えてるんだ。昭和のデートか。
 でも、フラーラさんが真剣な顔をしているので、笑うわけにはいかない。
「わかりました。じゃあ、ジュースは一つにしますね」
「ありがとう」
 フラーラさんが嬉しそうに微笑む。
 ジュースが来て、二人で飲む。
 二本のストローで、一つのジュース。
 恥ずかしい。
 でも、フラーラさんが楽しそうだから、いいか。

 それから、パフェが来る。
 フラーラさんが、一口食べて目を輝かせる。
「美味しい!」
「良かったです」
「この、冷たくて甘いの……何て言うの?」
「アイスクリームです」
「アイスクリーム……素敵ね。魔界にも持って帰りたいわ」
 フラーラさんが、夢中でパフェを食べる。
 その姿が、可愛い。
 楽しそうなフラーラさんを見て、俺も嬉しくなる。

 カフェを出て、また街を歩く。
 フラーラさんが、ショーウィンドウを眺めている。
「ちょっと見てくるわね」
「はい、どうぞ」
 俺は、少し離れた場所で待つ。
 でも、ふと気づくと……フラーラさんがいない。
「え?」
 慌てて探す。
 人混みの中、フラーラさんの姿が見えない。
「フラーラさん!」
 俺は、走って探す。
 そして、路地裏で見つけた。

 フラーラさんが、怪しい男性に声をかけられている。
「ねえ、お姉さん。芸能界に興味ない?」
「え……あの……」
 フラーラさんが、困った顔をしている。
「俺、芸能事務所のスカウトなんだけど。お姉さん、すごく綺麗だから」
「いえ、結構です……」
「まあまあ、話だけでも……」
 男性が、しつこく食い下がる。
 フラーラさんが、どう対応していいかわからず困っている。

 俺は、駆け寄る。
「フラーラさん!」
「あ、佐伯……」
 俺は、男性の前に立つ。
「すみません。彼女、興味ないって言ってますよね。もう結構です」
「え、あんた誰?」
「彼女の連れです」
 俺は、フラーラさんの手を取る。
「失礼します」
 男性を睨みつけて、その場を離れる。
 男性は、舌打ちして去っていく。

 人混みから離れた場所で、俺たちは立ち止まる。
「大丈夫でしたか?」
「ええ……ありがとう」
 フラーラさんが、ホッとした顔をする。
「ごめんなさい。人混みで迷子になって……」
「いえ、俺が目を離したのが悪かったです」
「でも……」
 フラーラさんが微笑む。
「あなたが助けてくれて、嬉しかった」
「え……」
「頼もしかったわ。あなたの手、温かくて……」

 フラーラさんが、少し頬を赤らめる。
 俺も、照れくさくなる。
 そういえば、まだ手を繋いだままだ。
「あ、すみません……」
 俺が手を離そうとすると、フラーラさんが握り返す。
「このまま、いい?」
「え……」
「迷子にならないように」
 フラーラさんが、少し照れながら言う。
「はい……」
 俺は、頷く。
 二人で、手を繋いだまま、街を歩く。

 人混みの中、手を繋いで歩く。
 フラーラさんの手が、温かい。
 心臓が、高鳴る。
 これは、本当にデートだ。
 ただの同僚じゃない。
 特別な関係になりつつある。
「佐伯」
「はい?」
「今日、とても楽しかったわ」
「俺も、です」
「ありがとう」
 フラーラさんが微笑む。
 その笑顔が、いつもより柔らかい。

 ホテルに戻る。
 エレベーターで、同じフロアへ。
 フラーラさんの部屋の前で、立ち止まる。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
 フラーラさんが、少し名残惜しそうに言う。
「明日も、よろしくね」
「はい」
 俺も、自分の部屋に入る。
 ベッドに倒れ込む。
 心臓が、まだ高鳴っている。

 今日のデート。
 パフェを食べたこと。
 ジュースを二人で飲んだこと。
 手を繋いだこと。
 全部、忘れられない思い出だ。
 でも……。
 俺は、天井を見上げる。
 戴冠式まで、あと五日。
 イグニスが見つかれば、俺は地球に帰る。
 フラーラさんとも、離れることになる。
 それが、正しいことなんだ。
 でも……。
「……離れたくない」
 俺は、正直に認めた。

 隣の部屋では、フラーラさんも一人、考えていた。
 今日の地球でのデート。
 パフェを食べたこと。
 ジュースを二人で飲んだこと。
 そして、佐伯が助けてくれたこと。
 手を繋いだこと。
「佐伯……」
 フラーラが、小さく呟く。
 あの時の、彼の姿。
 しっかりと自分を守ってくれた、頼もしい姿。
 手の温もり。
 心臓が、高鳴る。

「ダメよ……私は……」
 自分に言い聞かせる。
 人間は短命。
 佐伯も、いずれ年老いて、死ぬ。
 私は、それを見送ることになる。
 だから、恋をしてはいけない。
 もう、あの辛さは味わいたくない。
「でも……」
 フラーラが、枕に顔を埋める。
 もう、遅い。
 恋をしてしまった。
 また、誰かを失う苦しみを味わうことになる。
 それでも……。

「それでも、今は……一緒にいたい」
 フラーラが、涙を流す。
 残り五日。
 もしイグニスが見つかれば、佐伯は地球に帰る。
 もし見つからなければ、佐伯は魔王になる。
 どちらにしても、彼との関係は変わる。
 だから、せめて今だけは。
 この残された時間だけは。
 彼と一緒にいたい。
 そう思いながら、フラーラは眠りについた。
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