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第16話 異世界展、バズる
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異世界ランド展、二日目。
昨夜は、都内のホテルに宿泊していた。
アビス商会が手配してくれた、なかなかいいホテルだ。
俺とフラーラさんは別々の部屋だったが、カオスやマネーゼン、他のスタッフたちも同じホテルにいた。
朝、ホテルのレストランで朝食を取る。
和食バイキング。
焼き魚、味噌汁、ご飯、納豆、漬物。様々な料理が並んでいる。
「おはようございます」
フラーラさんが、席に座る。
「おはようございます」
俺は、フラーラさんの顔を見て、少し気になった。
目が、少し赤い気がする。
泣いていた……?
でも、聞けない。
「よく眠れましたか?」
「え? ああ、ちょっと寝不足で……」
フラーラさんが、笑顔を作る。
でも、その笑顔が少し無理をしているように見える。
朝食を食べながら、今日の打ち合わせをする。
カオスが資料を広げる。
「昨日は大成功だった。今日も同じように頼む」
「はい」
フラーラさんが、和食を一口食べて、目を輝かせる。
「美味しい……」
「どうですか?」
「ええ。この焼き魚、この味噌汁……全部美味しいわ」
フラーラさんが、感動したように言う。
「魔界にも、こういう料理が欲しいわ。地球の料理は、本当に素晴らしい」
フラーラさんが、幸せそうに食べる。
その姿を見て、俺は少しホッとする。
さっきの赤い目が気になったけど、今は元気そうだ。
午前十時、異世界ランド展が始まる。
今日は、俺も魔王の格好に扮装している。
黒いローブ、金の装飾、重厚なマント。魔王城で着ている衣装と同じだ。
「どう? 似合ってる?」
フラーラさんに聞く。
「ええ、とても」
フラーラさんが微笑む。
「本物の魔王みたいよ。いえ、本物だけど」
「ありがとうございます」
俺たちは、ブースに立つ。
魔王とエルフ。
来場者たちが、目を輝かせて近づいてくる。
「うわ、魔王だ!」
「エルフも綺麗! 耳、本物?」
「写真撮っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
俺とフラーラさんは、来場者と一緒に写真を撮る。
何度も、何度も。
「魔王様、かっこいいです!」
「ありがとうございます」
「エルフさん、美しい!」
「ありがとう」
そして、ある来場者が言った。
「あの、魔王様とエルフの方、お二人並んで写真撮ってもらえますか?」
「え……二人で?」
「はい! お二人、すごくお似合いなので!」
俺とフラーラさんの目が合う。
フラーラさんが、少し照れたような顔をする。
でも、優しく微笑む。
「いいわよ」
俺たちは、並んで立つ。
来場者が、カメラとスマホを構える。
実は、周りにも多くの人が集まっていて、みんながカメラを向けている。
「もう少し近くで!」
「手、繋いでもらえますか?」
来場者のリクエストに、俺とフラーラさんは顔を見合わせる。
フラーラさんが、小さく頷く。
そして、俺の手を握った。
温かい手。少し震えている。
俺は、握り返す。
その瞬間、俺たちは見つめ合った。
フラーラさんのエメラルドグリーンの瞳。
その奥に、優しさと、少しの寂しさと、そして……愛情が見える。
俺も、フラーラさんを見つめる。
言葉はいらない。
この瞬間、二人の気持ちが通じ合った気がした。
カシャ、カシャ、カシャ!
シャッター音が連続で響く。
スマホのカメラ、一眼レフ、動画撮影。
その瞬間が、様々な角度から、様々な形で記録された。
魔王とエルフが、手を繋いで見つめ合う。
デパートの催事場という日常的な場所なのに、まるで本当に異世界から来たかのような、不思議な雰囲気。
「ありがとうございました!」
来場者たちが、満足そうに去っていく。
俺たちは、少しの間、手を繋いだまま立っていた。
その写真と動画は、瞬く間にSNSで拡散された。
Twitter、Instagram、TikTok。
「きたー、異世界の禁断の恋」
「後ろが展示場でなかったら、マジ異世界やん」
「異世界ってマジあるんじゃね」
「似合いの二人すぎて呪うこともできん」
「この二人、絶対付き合ってるでしょ」
「魔王とエルフの恋、尊い」
「見つめ合う瞬間がやばすぎる」
「これ演技じゃないよね? ガチ恋じゃん」
コメントが殺到する。
リツイート、いいね、シェア。どんどん広がっていく。
そして、その動画を見たクリエイターたちが動き出した。
AI技術を使って、その瞬間を様々な角度から再現したショート動画が作られる。
魔王とエルフが手を繋ぐシーンを、映画のようなカメラワークで編集したもの。
BGMをつけて、ロマンティックな雰囲気を強調したもの。
さらに、フィギュアメーカーが興味を示した。
「この二人のフィギュア、絶対売れる」
企画が進み始める。
海外でも話題になった。
「This is real love(これは本物の愛だ)」
「The way they look at each other...(見つめ合う二人の目が…)」
「Japan's fantasy event is amazing(日本のファンタジーイベントすごい)」
「I want to go to Isekai Land(異世界ランドに行きたい)」
英語、中国語、韓国語、スペイン語。
様々な言語で、世界中に拡散されていく。
異世界ランドの公式Twitterのフォロワーも、一日で十万人増加。
世界的な注目を集め始めた。
俺たちは、それを知らずに接客を続けていた。
午後、ブースは大盛況だった。
商品も、ほとんど売り切れ。
ドワーフ製のスマホケースも、ダンジョン産の装飾具も、全て完売。
「すごい……」
マネーゼンが、満足そうに電卓を叩く。
「今日の売上、昨日の倍だ。しかも、オンラインショップへのアクセスも急増している」
「それは良かったです」
カオスも嬉しそうだ。
「SNSでバズったらしい。君たち二人の写真がな」
「え?」
カオスがスマホを見せる。
そこには、俺とフラーラさんが手を繋いで見つめ合っている写真。
すでに百万いいねを超えている。
「こ、これ……」
俺とフラーラさんは、顔を見合わせる。
フラーラさんが、少し頬を赤らめる。
「まあ、良い宣伝になった」
マネーゼンが言う。
「この勢いなら、目標売上は確実に達成できる」
俺とフラーラさんも、ホッとする。
「お疲れ様、フラーラさん」
「お疲れ様、佐伯」
二人で、微笑み合う。
夕方、異世界ランド展二日目が終了した。
片付けを終えて、俺とフラーラさんはホテルのロビーで休憩する。
「今日も、楽しかったわね」
「はい」
「あなたと一緒に仕事ができて……嬉しかった」
フラーラさんが、優しく微笑む。
「こうやって、地球で過ごす時間。とても大切よ」
「俺もです」
俺は、正直に答える。
「フラーラさんと一緒にいると、楽しいです」
「……ありがとう」
フラーラさんが、少し寂しそうな顔をする。
「でも……」
「でも?」
「私たちには……未来がないの」
その言葉に、俺の胸が締め付けられる。
「フラーラさん……」
「あなたは人間。私はエルフ。寿命が違いすぎる」
フラーラさんが、俯く。
「あなたが年老いても……私はまだ若いまま」
「……」
「そして、私はあなたを見送る。また、大切な人を失うのよ」
フラーラさんの声が、震える。
「それが……辛いの」
俺は、フラーラさんの気持ちがわかる。
四百年以上生きてきた彼女。
多くの人を見送ってきた彼女。
その孤独を、俺は想像することしかできない。
でも。
「フラーラさん」
俺は、フラーラさんの手を握る。
「え……」
「先のことより、今を大事にしたいです」
俺は、真剣な顔で言う。
「確かに、俺の寿命は短いです。フラーラさんより、ずっと短い」
「……」
「でも、だからこそ。今、この瞬間を大切にしたい」
俺は、フラーラさんの手を強く握る。
「フラーラさんと一緒にいる時間。その全てが、俺にとって大切なんです」
「佐伯……」
「だから、未来のことは未来になって決めたらいい。今は、一緒にいよう」
フラーラさんが、涙ぐむ。
「あなた……優しいのね」
「いえ、ただ……」
俺は、照れくさくなる。
「フラーラさんと一緒にいたいだけです」
フラーラさんが、涙を流す。
でも、その涙は悲しい涙じゃない。
嬉しい涙だ。
「ありがとう……」
フラーラさんが、小さく呟く。
「あなたに出会えて……本当に良かった」
俺たちは、手を握り合ったまま、しばらくそこにいた。
ホテルのロビーで、二人きりで。
周りには人がいるけど、二人だけの世界。
その時間が、とても大切だった。
その夜、部屋に戻った後。
俺は、窓の外を見ていた。
東京の夜景。無数の光が、街を照らしている。
フラーラさんのこと。
彼女の涙。
長い時を生きる彼女の孤独。
そして、俺の気持ち。
「俺、本当にフラーラさんのことが好きなんだな」
自分に言い聞かせる。
でも、それは問題を複雑にする。
俺は、魔王の代役だ。
イグニスが見つかったら、俺は魔王城を去る。
フラーラさんとも、きっと離れることになる。
でも、もし俺が魔王になったら……。
ずっと、フラーラさんと一緒にいられる。
「……ダメだ、そんなこと考えちゃ」
俺は首を振る。
魔王になるのは、イグニスだ。
俺じゃない。
でも……。
心のどこかで、思ってしまう。
このまま、フラーラさんと一緒にいたい、と。
一方、フラーラも自分の部屋で考えていた。
今日の出来事。
佐伯の言葉。
「先のことより、今を大事にしたい」
その言葉が、胸に響く。
そうね。
今を、大切にしよう。
佐伯と一緒にいる時間を、大切にしよう。
たとえ、その先に別れが待っていても。
フラーラは、窓の外を見る。
東京の夜景。美しい光。
「佐伯……」
小さく呟く。
あなたのことが、好き。
でも、それを伝えるべきかどうか。
わからない。
それに、あと数日で戴冠式。
もしイグニスが見つからなければ、佐伯は魔王になる。
そうすれば、ずっと一緒にいられる。
でも、それは佐伯の人生を縛ることになる。
地球での生活を奪うことになる。
私の望みのために、彼を犠牲にすることになる。
「私は……どうすればいいの」
フラーラは、深いため息をついた。
スマホを見ると、今日の写真が表示されている。
手を繋いで、見つめ合う二人。
その写真を見て、また涙が溢れる。
この写真の二人は、とても幸せそうだ。
でも、現実は……。
戴冠式まで、あと十二日。
それまでに、答えが出るだろうか。
昨夜は、都内のホテルに宿泊していた。
アビス商会が手配してくれた、なかなかいいホテルだ。
俺とフラーラさんは別々の部屋だったが、カオスやマネーゼン、他のスタッフたちも同じホテルにいた。
朝、ホテルのレストランで朝食を取る。
和食バイキング。
焼き魚、味噌汁、ご飯、納豆、漬物。様々な料理が並んでいる。
「おはようございます」
フラーラさんが、席に座る。
「おはようございます」
俺は、フラーラさんの顔を見て、少し気になった。
目が、少し赤い気がする。
泣いていた……?
でも、聞けない。
「よく眠れましたか?」
「え? ああ、ちょっと寝不足で……」
フラーラさんが、笑顔を作る。
でも、その笑顔が少し無理をしているように見える。
朝食を食べながら、今日の打ち合わせをする。
カオスが資料を広げる。
「昨日は大成功だった。今日も同じように頼む」
「はい」
フラーラさんが、和食を一口食べて、目を輝かせる。
「美味しい……」
「どうですか?」
「ええ。この焼き魚、この味噌汁……全部美味しいわ」
フラーラさんが、感動したように言う。
「魔界にも、こういう料理が欲しいわ。地球の料理は、本当に素晴らしい」
フラーラさんが、幸せそうに食べる。
その姿を見て、俺は少しホッとする。
さっきの赤い目が気になったけど、今は元気そうだ。
午前十時、異世界ランド展が始まる。
今日は、俺も魔王の格好に扮装している。
黒いローブ、金の装飾、重厚なマント。魔王城で着ている衣装と同じだ。
「どう? 似合ってる?」
フラーラさんに聞く。
「ええ、とても」
フラーラさんが微笑む。
「本物の魔王みたいよ。いえ、本物だけど」
「ありがとうございます」
俺たちは、ブースに立つ。
魔王とエルフ。
来場者たちが、目を輝かせて近づいてくる。
「うわ、魔王だ!」
「エルフも綺麗! 耳、本物?」
「写真撮っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
俺とフラーラさんは、来場者と一緒に写真を撮る。
何度も、何度も。
「魔王様、かっこいいです!」
「ありがとうございます」
「エルフさん、美しい!」
「ありがとう」
そして、ある来場者が言った。
「あの、魔王様とエルフの方、お二人並んで写真撮ってもらえますか?」
「え……二人で?」
「はい! お二人、すごくお似合いなので!」
俺とフラーラさんの目が合う。
フラーラさんが、少し照れたような顔をする。
でも、優しく微笑む。
「いいわよ」
俺たちは、並んで立つ。
来場者が、カメラとスマホを構える。
実は、周りにも多くの人が集まっていて、みんながカメラを向けている。
「もう少し近くで!」
「手、繋いでもらえますか?」
来場者のリクエストに、俺とフラーラさんは顔を見合わせる。
フラーラさんが、小さく頷く。
そして、俺の手を握った。
温かい手。少し震えている。
俺は、握り返す。
その瞬間、俺たちは見つめ合った。
フラーラさんのエメラルドグリーンの瞳。
その奥に、優しさと、少しの寂しさと、そして……愛情が見える。
俺も、フラーラさんを見つめる。
言葉はいらない。
この瞬間、二人の気持ちが通じ合った気がした。
カシャ、カシャ、カシャ!
シャッター音が連続で響く。
スマホのカメラ、一眼レフ、動画撮影。
その瞬間が、様々な角度から、様々な形で記録された。
魔王とエルフが、手を繋いで見つめ合う。
デパートの催事場という日常的な場所なのに、まるで本当に異世界から来たかのような、不思議な雰囲気。
「ありがとうございました!」
来場者たちが、満足そうに去っていく。
俺たちは、少しの間、手を繋いだまま立っていた。
その写真と動画は、瞬く間にSNSで拡散された。
Twitter、Instagram、TikTok。
「きたー、異世界の禁断の恋」
「後ろが展示場でなかったら、マジ異世界やん」
「異世界ってマジあるんじゃね」
「似合いの二人すぎて呪うこともできん」
「この二人、絶対付き合ってるでしょ」
「魔王とエルフの恋、尊い」
「見つめ合う瞬間がやばすぎる」
「これ演技じゃないよね? ガチ恋じゃん」
コメントが殺到する。
リツイート、いいね、シェア。どんどん広がっていく。
そして、その動画を見たクリエイターたちが動き出した。
AI技術を使って、その瞬間を様々な角度から再現したショート動画が作られる。
魔王とエルフが手を繋ぐシーンを、映画のようなカメラワークで編集したもの。
BGMをつけて、ロマンティックな雰囲気を強調したもの。
さらに、フィギュアメーカーが興味を示した。
「この二人のフィギュア、絶対売れる」
企画が進み始める。
海外でも話題になった。
「This is real love(これは本物の愛だ)」
「The way they look at each other...(見つめ合う二人の目が…)」
「Japan's fantasy event is amazing(日本のファンタジーイベントすごい)」
「I want to go to Isekai Land(異世界ランドに行きたい)」
英語、中国語、韓国語、スペイン語。
様々な言語で、世界中に拡散されていく。
異世界ランドの公式Twitterのフォロワーも、一日で十万人増加。
世界的な注目を集め始めた。
俺たちは、それを知らずに接客を続けていた。
午後、ブースは大盛況だった。
商品も、ほとんど売り切れ。
ドワーフ製のスマホケースも、ダンジョン産の装飾具も、全て完売。
「すごい……」
マネーゼンが、満足そうに電卓を叩く。
「今日の売上、昨日の倍だ。しかも、オンラインショップへのアクセスも急増している」
「それは良かったです」
カオスも嬉しそうだ。
「SNSでバズったらしい。君たち二人の写真がな」
「え?」
カオスがスマホを見せる。
そこには、俺とフラーラさんが手を繋いで見つめ合っている写真。
すでに百万いいねを超えている。
「こ、これ……」
俺とフラーラさんは、顔を見合わせる。
フラーラさんが、少し頬を赤らめる。
「まあ、良い宣伝になった」
マネーゼンが言う。
「この勢いなら、目標売上は確実に達成できる」
俺とフラーラさんも、ホッとする。
「お疲れ様、フラーラさん」
「お疲れ様、佐伯」
二人で、微笑み合う。
夕方、異世界ランド展二日目が終了した。
片付けを終えて、俺とフラーラさんはホテルのロビーで休憩する。
「今日も、楽しかったわね」
「はい」
「あなたと一緒に仕事ができて……嬉しかった」
フラーラさんが、優しく微笑む。
「こうやって、地球で過ごす時間。とても大切よ」
「俺もです」
俺は、正直に答える。
「フラーラさんと一緒にいると、楽しいです」
「……ありがとう」
フラーラさんが、少し寂しそうな顔をする。
「でも……」
「でも?」
「私たちには……未来がないの」
その言葉に、俺の胸が締め付けられる。
「フラーラさん……」
「あなたは人間。私はエルフ。寿命が違いすぎる」
フラーラさんが、俯く。
「あなたが年老いても……私はまだ若いまま」
「……」
「そして、私はあなたを見送る。また、大切な人を失うのよ」
フラーラさんの声が、震える。
「それが……辛いの」
俺は、フラーラさんの気持ちがわかる。
四百年以上生きてきた彼女。
多くの人を見送ってきた彼女。
その孤独を、俺は想像することしかできない。
でも。
「フラーラさん」
俺は、フラーラさんの手を握る。
「え……」
「先のことより、今を大事にしたいです」
俺は、真剣な顔で言う。
「確かに、俺の寿命は短いです。フラーラさんより、ずっと短い」
「……」
「でも、だからこそ。今、この瞬間を大切にしたい」
俺は、フラーラさんの手を強く握る。
「フラーラさんと一緒にいる時間。その全てが、俺にとって大切なんです」
「佐伯……」
「だから、未来のことは未来になって決めたらいい。今は、一緒にいよう」
フラーラさんが、涙ぐむ。
「あなた……優しいのね」
「いえ、ただ……」
俺は、照れくさくなる。
「フラーラさんと一緒にいたいだけです」
フラーラさんが、涙を流す。
でも、その涙は悲しい涙じゃない。
嬉しい涙だ。
「ありがとう……」
フラーラさんが、小さく呟く。
「あなたに出会えて……本当に良かった」
俺たちは、手を握り合ったまま、しばらくそこにいた。
ホテルのロビーで、二人きりで。
周りには人がいるけど、二人だけの世界。
その時間が、とても大切だった。
その夜、部屋に戻った後。
俺は、窓の外を見ていた。
東京の夜景。無数の光が、街を照らしている。
フラーラさんのこと。
彼女の涙。
長い時を生きる彼女の孤独。
そして、俺の気持ち。
「俺、本当にフラーラさんのことが好きなんだな」
自分に言い聞かせる。
でも、それは問題を複雑にする。
俺は、魔王の代役だ。
イグニスが見つかったら、俺は魔王城を去る。
フラーラさんとも、きっと離れることになる。
でも、もし俺が魔王になったら……。
ずっと、フラーラさんと一緒にいられる。
「……ダメだ、そんなこと考えちゃ」
俺は首を振る。
魔王になるのは、イグニスだ。
俺じゃない。
でも……。
心のどこかで、思ってしまう。
このまま、フラーラさんと一緒にいたい、と。
一方、フラーラも自分の部屋で考えていた。
今日の出来事。
佐伯の言葉。
「先のことより、今を大事にしたい」
その言葉が、胸に響く。
そうね。
今を、大切にしよう。
佐伯と一緒にいる時間を、大切にしよう。
たとえ、その先に別れが待っていても。
フラーラは、窓の外を見る。
東京の夜景。美しい光。
「佐伯……」
小さく呟く。
あなたのことが、好き。
でも、それを伝えるべきかどうか。
わからない。
それに、あと数日で戴冠式。
もしイグニスが見つからなければ、佐伯は魔王になる。
そうすれば、ずっと一緒にいられる。
でも、それは佐伯の人生を縛ることになる。
地球での生活を奪うことになる。
私の望みのために、彼を犠牲にすることになる。
「私は……どうすればいいの」
フラーラは、深いため息をついた。
スマホを見ると、今日の写真が表示されている。
手を繋いで、見つめ合う二人。
その写真を見て、また涙が溢れる。
この写真の二人は、とても幸せそうだ。
でも、現実は……。
戴冠式まで、あと十二日。
それまでに、答えが出るだろうか。
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