さよなら、あいしていたひと

鳴宮鶉子

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もうここまでだ、振り替えずに歩む side 翔

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その日は、突然やってきた。

突然ではなく、必然。

その日が、ただやってきただけ。

1月の終わりに、いつもの日曜日恒例の食事会が、なぜか、両家が集まって行われた。


そうか…、ついに、この日が来たんだ。


結婚する前の6月の終わりから、オフィス側のタワーマンションの最上階で、美香と同棲を開始する事を言い渡された。

結婚式と籍を入れるのは、

11月11日

言い渡された日から、俺は、ばれたら最後の禁忌を犯した。

親父と義母の部屋が1階にあるからと、毎晩、寝ている恵の部屋に忍び込み、恵を抱いた。

恵は声を殺し、俺の好意を、許してくれた。

恵との、この行為にはタイムリミットがある。
それが来るのが嫌で、俺は、恵が生理の日も、恵の身体を見て、恵の手で俺の白い欲望を抜いた。

毎日、ただ、身体を繋いだ。

だが、俺と恵が繰り返す、未来の無い生産性の無い行為に、だんだん、虚しさを感じ始めた。

それは、恵も同じだったように、…思う。

この未来の無い生産性の無い行為は、俺が実家を出る前に終わった。

恵が出て行き、朔弥のマンションへ行った。

俺が美香と同棲する前に、恵との営みを忘れないといけない。

恵の身体に虜になり、奥さんになる、美香を抱けない俺がいた…。

恵が居ない生活に、禁断症状が出て、平日の夜、誰もいない海辺で、俺は、声を上げて泣いた。


オフィスビルの受付には恵がいる。

俺は、恵を見ないよう、恵に気づかれないよう毎日出勤をし、ただ、毎日、がむしゃらに仕事をこなした。

恵が居なくなってからの俺はおかしたかった。

でも、周りはマリッジブルーだと思った。


4月の初め、桜が咲き乱れる時期に、恵は、俺との関係を終わらせた。

恵と初めて会ったのは、4月の初めの、小学校の入学式の前日だった。

恵に出会って一目惚れした日と同じ季節で同じ日に、俺は恵を失った。

3ヶ月、恵を抱かなかった俺。

女の身体で快楽を得る事を覚えていたからか、美香とタワーマンションで暮らすようになり、美香との行為で、白い欲望を放出できるようになった。

あんなに、恵を求め、恵にしか反応しなかったのに。

俺の身体は、恵を諦めた。
そして、俺の心も、恵を諦めた。

それまでに、5ヶ月かかった。


8月のお盆休み前に、朔弥から、LINE通話がきた。
美香がいない時間を狙うためか、午前8時15分にかかってきた。

『美香との生活はどうだ?恵ちゃんの事は諦めきれたか?』

『ああ…』

『なら、良かった。恵には言えない話なんだが、今日、夜に時間取れないか?』

俺より多忙な朔弥が、俺に伝えたい事があると時間を作ってくれた。

なんとか時間を作り、朔弥と待ち合わせをしたバーに向かう。

朔弥は仕事柄、次の日に仕事がある日は酒は飲まない。

話の内容が正常心ではキツイからと、俺に酒を進める。

そして、俺がだいぶ、アルコールで意識を朦朧とした時に、朔弥は言った。


『おまえと恵は、父親が同じ、異母兄妹なんだ。そして、おまえの本当の母親の死は自殺だった。おまえの親父が、政略結婚で結婚しても、恵の母親の事が忘れられなくて不貞行為を続けた。その結果、恵が生まれ、恵の存在を知ったおまえの母親は耐えられなくなり、ヒ素を飲んで死んだ』

まさかの内容に、言葉を失った。

朔弥は、恵の母親の不審な感情に違和感を感じて調べたと言っていた。

恵と俺に、親父と同じ左目の下のほくろがある。

顔のパーツは違うように思えたが、恵が色素が薄いから違うように見えただけで、俺と恵は他人から見たら似ていたらしい…。 


「俺も、仕事柄弁護士をしてるから、色々、複雑な案件はみてきたけど、ここまで悲惨なのは、なかったな。
時系列に並べると、そもそも、政略結婚でお前の親父とお前の実母が結婚したのが間違いだった。お前の実母の方が格下で、自殺に関しては、自母が精神的な病からと深くは調べられずにいた。お前を育てないといけなくて、本当は一緒になる気がなかった恵の母がお前の親父と結婚し、異母兄妹なのに、血の繋がりがないと思い肉体関係を持ってしまった。内容が内容だから、これは恵には伝えたくない。
あっ、お前と美香の政略結婚の件だが、お前の会社の方が格下だ、もし、美香が自殺なんかしたら、お前の会社は100%倒産する。
美香は、お前と恵の関係を疑ってる。だから、結婚時期を早めるよう父親に頼み、結婚前に同棲に持ち込んだ。
これ以上、恵に接触して、美香を刺激するな。
美香は、幼稚園時代からお前しか見てない。大切にしてやれ。
最後に、お前の代で、政略結婚の連鎖を断ち切れ。
以上、恵が待ってるから、俺は帰る。お前も、美香に不審がられたらいけないから、早く帰れよ」


話す内容が内容で、伝えた後に、俺を1人にして、そっとしてくれた、朔弥に感謝した。
さすが凄腕弁護士、朔弥に依頼が殺到している理由がよくわかった。

結婚と同棲の話が出る前の3ヶ月、俺は、美香を全く抱けなかった。

行為をしようとしても、できなかった。
今は、仕事で疲れてなければ、抱けてる。
だから、美香も不安はないだろう。

恵もと異母兄妹だった事もショックだったが、政略結婚で親父と実母と義母の間でそんな事が起きていた事に衝撃を受けた。

俺は、朔弥が調べて伝えてくれてなかったら、異母兄妹の恵と同じ事を繰り返し、会社も倒産させていたかもしれない。

あまりの恐怖に、身体が震えた。

そして、俺の代で、政略結婚の連鎖を断ち切ると心に決めた。

朔弥が、恵を俺の前から連れ去ってくれた事がありがたかった。

そして、恵を、愛して、守ってくれる事が心強く思えた。
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