君から逃げる事を赦して下さい

鳴宮鶉子

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試写会舞台挨拶の次の日。
10時からテレビ局で取材撮影を受ける。
月曜日の朝の芸能ニュースで流すとかで、5分の枠でアナウンサーと会談する事になってる。
淡いブルーのブラウスに黒の膝丈スカートに白いミュール。
髪の毛はスタジオでスタイリストさんがセットして下さるから、お化粧だけしっかり施した。

8時半に実家の玄関を出ると、そこには、痩せて憔悴した晴翔がいた。
わたしが知ってる晴翔は、いつも眩しいぐらい明るくてハキハキしてた。
それなのに、目の前にいる晴翔は、ダークなオーラを放っていて、怖かった。

「凛音、話したい事がある」

逃げたら何されるかわからない。
でも、テレビ局での撮影がある。

「10時からサクラテレビで撮影があるの。だから、その後でいい?逃げないから」

晴翔の目を見ながら伝えた。
晴翔は信じられないと言った感じに私を見てる。
何も言わずに、大学卒業後に居なくなったから仕方がないか…。

「13時には終わるから、その後に、ランチに行こう。サクラテレビの近くに、晴翔がメジャーレビューする前に歌わせて貰ってたバーあるよね。そこでランチ食べてから、closeの時間に場所借りて話そう?」

「わかった。サクラテレビまでは一緒に行く」

そういうと晴翔は私の左手をとり、歩き出した。
疲れ切った表情はしていても、さっきみたいにダークな感じはなく、ほっとする。


タクシーを拾い、サクラテレビに向かった。
サクラテレビの前でわたしは降り、晴翔はそのまま、バーへ向かった。

逃げると思われ、iPhoneをとられた。
それで安心できるならいい。
中身もジプシーと角川書房と実家の電話番号しか入ってない。
見られて困るアドレスとかは無い。

《俺とアイツが入れ替わった》のストーリーができた秘話的な事を聞かれ、私と晴翔と拓海が中学生からの同級生という話は有名な話だから、晴翔と拓海に勉強を見てもらってT大をなんとか合格できた事を話した。
主題歌と挿入歌を歌ってるのがその2人だから、話す内容的にベストだと思う。

撮影を終え、タクシーで晴翔が待つバーへ向かった。

バーの扉に貸切の札が付いてた。
聞かれたら拙い内容だから、晴翔がマスターにお願いして貸切にさせて貰ったんだと思う。
案の定、カウンターには晴翔しか居なくて、マスターもバックルームに下がってた。

晴翔のところまで行き、隣に座った。
晴翔は真昼間なのにブランデーを飲んでた。
「凛音、いま、どこにいるんだ?で、何をして暮らしてるんだ?」

ブランデーが入ったグラスを見ながら、晴翔が静かに言った。
気持ちを抑えて、私を尋問しようとしてる。

「京都。京都新聞からの依頼で通訳や翻訳の仕事をしつつ、基本的に家で小説の原稿を描いてる」

隠さず話そうと思い、伝えた。

「なんで、京都で?東京でもできる仕事だろ」

手を握り締め、私の事を見つめて、怖い表情をして言った。

「ちょっと、東京からと晴翔達と離れてみたかったの。私はたんなる小説家だけど、晴翔と拓海は違うでしょ。今はアーティストをしてるけど、大学院を卒業したら拓海は実家を継ぐ準備に入って、晴翔もIT関連の会社を起業するって言ってたよね。私はそんな力ない。だから、一緒にいると差を感じて、自分が惨めに思えたから、離れようと思った」


「凛音だって、中2で直木賞をとって、それから出す小説全てが大ヒットしてる。ここ3年は作品がジプシーに使われてる。それで自信が持てない?なんで?」

晴翔には理解できないと思う、わたしの焦り。
わたしの描く小説は学園モノのファンタジーか恋愛モノが多い。

大学生だった頃なら良かった。
これから、大人の世界、オフィスラブや恋愛でももっと深いものを表現しないといけない。

経験した事がない事を表現する事は難しく、小説執筆ができない自分がいる。

私は会社勤めどころか、今まで恋愛さえした事がない。

女の子の友達も、たぶん、いない。
学校内で一緒にいた女の子達は晴翔と拓海目的でわたしといただけ。

私は晴翔と拓海とはクリエーター繋がりだから付き合う事は無いと彼女は思ってたから、僻んで嫌がらせをされたりはしなかった。

でも、放課後とか休憩時間は、晴翔と拓海の側にいる事が多く、私は女の子の友達との関わる経験も浅いと知る。

私が中学生から大学卒業するまでの時間は、晴翔と一緒にいる事、それだけしかない。

恋をするにしても、晴翔を基準に考えるから、理想が高くなり過ぎたのか、ときめける男性に出会えない。

中学生だった頃は晴翔に淡い恋心を抱いてた時期もあった。
でも、友達として側にいる中で、この関係が続く事を優先し、前に進めなくて、晴翔への恋心は封印した。


私は、晴翔と一緒にいる事で、人生経験が浅く狭くなると思ったから、離れたいと思ったのかもしれない。

晴翔や拓海みたいに、クリエーターとして楽しく活動できてない自分がいたから。

それを、晴翔に伝えようと思った。
けれど、きっと理解して貰えない。

私が晴翔から離れた事を、晴翔はかなり怒ってる。
大学院生として、CGグラッフィック等の映像の権威の教授の下で研究をしてるからもあるかもしれないけど、晴翔はかなり疲れきって、精神面も病んでる気がした。

晴翔にかける言葉に悩む。
マスターが出てきて、ランチを準備してくれた。
私は真昼間だし、夕方の便で京都に戻るつもりでいるからお酒はお断りし、ノンアルコールのカクテルを作って貰った。

「東京に戻って来い」

晴翔に何も言えないでいるわたしに、彼が言った。

「もう少しだけ、京都に居させて。京都を舞台に小説を描きたいの」

京都に行ってから、小説執筆は滞ってる。
描きはじめても、描き続ける事ができずにいて作品にならない。

「じゃ、住んでいるところを教えて。会いに行かせて。凛音がいるのが当たり前の生活だったから、いない今の生活に耐えられない。教えないなら、京都に帰さない」

完全に目が座ってお酒が回ってる晴翔。
手帳に挟んでる大きめの付箋に、新しい住所を書いてわたした。

ランチを頂いた後、実家に荷物を取りに、東京駅まで晴翔に見送られ、京都に帰った。

ひよりの鳴き声に気づいた晴翔が、プラケースに入ってるひよりを見た。
ひよりは晴翔に近づき、さえずっていた。

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