君から逃げる事を赦して下さい 番外編

鳴宮鶉子

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7月の終わり。

去年と同じで、晴翔が突然やってきた。

そして、

『凛音、俺、初めて凛音に会った時から、ずっと凛音が好きだった。愛してた。だから結婚して。一緒に東京のマンションで暮らして欲しい』

と、来て早々に、プロポーズされた。

嬉しかった。わたしも、晴翔の事が好きで、ずっとそばに居たかったから。

晴翔から説得され、3日後に、京都のマンションを別荘として残して、東京の晴翔の億ションに引越した。

東京に引っ越してからの生活。
晴翔は日曜日以外は毎日大学院で研究に明け暮れてた。
でも、わたしの両親と晴翔の両親に結婚の許しを貰いに行き、3月1日に籍を入れる事にした。
結婚式と披露宴は、わたしが目立つ事をしたくないから考えてない。

晴翔と恋人同士になり婚約者になったけれど、干支を一周するぐらいの期間を、友として側に居たからか、恋人らしい雰囲気になれない。

晴翔が意識しているのはわかる。
でも、晴翔は音楽とテクノロジーにしか興味が無い人で、女の子と遊んでる所を見た事が無かった。
学生時代、放課後はわたしと居ることが多かったし、たぶん、経験ない。

拓海は遊んでたのは知ってた。
健全な男子だからね…。

晴翔はもしかして、結婚初夜まで清い関係で居ようとしてるのかもしれない。

真面目だから…。


大学院の研究が多忙を極め、日曜日以外は億ションに閉じこもってる日々。

確か、10月の初め頃に朝の情報番組の芸能ニュースで、拓海の電撃婚約会見を見た。
びっくりして寝ている晴翔を叩き起こして呼んで一緒に会見をみた。

恋人同士になって婚約をしても、今までと関係が変わらなくて不安だった。
でも、その日、朝食を食べてる時に、晴翔から言われた。

『凛音、俺たちは婚約だけでなく結婚して、子供を作って、家族になろうか』

拓海がきっかけで、結婚まで急ピッチに進んだ。

現在、11月半ば。
晴翔は籍を入れるまで、清い関係を貫きたいらしく、わたしの方が我慢できなくなってきた。

10月の第3日曜日に、拓海が婚約者のピアニストで大島建設の御令嬢、大島美咲さんを連れてきた。
中学生まではピアノを習っていたわたし。
中2でピアノの先生の資格を取得し、それをきっかけに辞めた。
ピアニストになる事を勧められたけれど、小説が直木賞を受賞した事もあり、小説執筆を優先させた。
でも、最年少で世界のコンクールで優勝した大島美咲さんのピアノに興味があり、3度コンサートに行ってた。

それもあり、大島美咲さんに会うのが楽しみだった。

初めて会った日。
拓海からクールな性格と聞いてた大島美咲さん、もとい、美咲ちゃんは、わたしに、猫のようにじゃれついてくれた。

今まで、女友達といえる相手がいなかったから嬉しかった。
週末に、時々きて、美咲ちゃんと夜ご飯を作るのが楽しかった。
ピアニストだから指を大切にしないといけないから料理はあまりしてなかったようで、とんでもない事をしでかそうとするから盛り付けだけをお願いしたけれど、彼女のセンスの良さに見惚れた。


平日の昼間、美咲ちゃんが時間が空いてる日にLINEをくれて、時々、ランチを食べに行った。

晴翔と拓海と外にご飯を食べに行った事はたぶんない。
家に閉じこもって音楽活動をしていたから、わたしが時間を見て買い出しに行き作ってた。
晴翔と恋人同士になってからも、わたしがついつい作ってしまうから、外食する事は無かった。

時間が無い日にオードブルを買う事もある。
でも、自分が作る料理の方が2人が喜んで、くれるから、なるべく手作りしてた。

それを美咲ちゃんに話すと、料理を教えて欲しいと言われた。
ピアニストの彼女だから指を怪我させたらいけないから、週末に時々一緒にご飯を作るだけにしたけれど、わたしも、たまには自分が作るご飯とは違う美味しいご飯を食べたいと思った。

美咲ちゃんと女子トークをしながら食べたエビとほうれん草のトマトクリームパスタはとても美味しかった。

「凛音、今手がけてる研究が明日の夕方には片付きそうだから、教授に頼んで明後日から1週間休みをとったから、りょこうにでも行こうか?」

大学院から22時過ぎに帰宅した晴翔が、キッチンの食卓テーブルにつき、わたしが作ったかれいの煮付けときんぴらとほうれん草のお浸しと味噌汁のヘルシー夕ご飯を食べながら言った。
温かいお茶を入れ、わたしも晴翔の前に座る。

「急だから、海外旅行は無理だけど、車でどこかに行こうっか。1週間あるから、普段行けないとこに行こう」

大学院の研究が忙しくてやつれてる晴翔。
それと、わたしを抱きしめて眠ろうとしてるから、本能と闘って、なかなか眠れないでいる事をわたしは知ってる。

「どこに行きたい?」

「じゃ、車で日本一周したい」

晴翔と一緒に居られるなら、わたしはここに引きこもる生活でも良かった。

疲れ切ってる晴翔に休んで欲しかった。

でも、あえて無理難題を言ってみた。
晴翔は真剣に考えて、iPhoneで計画をしようとした。
そんな真面目な晴翔がわたしは好き。


前日の土曜日。
いつもより早い16時に帰ってきた晴翔。

本気で日本一周車の旅を考えていて、焦った。
無謀な事はわかっていて、旅行なんて無理して行かなくてもいいじゃんとわたしは思ってたけど、晴翔は行きたいらしい。

仕方ないから、美咲ちゃんに、ひよりを預かって貰えないかLINEを送ってみた。

すぐに《OK》と可愛いクマのスタンプが返って来て、8時半に預けるお願いをした。

車で放浪の旅に行きたい晴翔。
わたしを東京に連れ戻してから、無くても不便無いのに、車を買った。

黒のBMW

だから、車で遠出がしたいんだとおもう。

本気で行くとは思ってなかったから、慌てて、旅行の準備をする。

iPhoneであれこれ検索して、計画をたてようとしてる晴翔は疲れてる顔をしていた。

だから、関東地区にある温泉地巡りを提案してみた。

温泉と言ったら、晴翔はテキパキと計画を立て始めた。こういうプランを立てる問題がこれから中学受験で取り上げられる。

小学生の修学旅行みたいにしおりを作り、せっせと温泉旅館と途中による家族風呂を予約する晴翔。

そこで気づいた。
キスしかした事ないのに、いきなり、一緒に温泉に入るのは恥ずかし過ぎるな…。

わたし、墓穴を掘ったかも。


次の日、ひよりを美咲ちゃんに預けて、温泉地巡りツアーをスタートさせた。

晴翔が旅行行程表というしおりを作ってくれてた。
休憩で入る家族風呂や泊まる旅館についても忘れないように記入していて、大まかな滞在時間まで書いてあった。

最初の温泉地は湯河原。
温泉地の街並みは昔ながらな風情があり落ち着く、車をコインパーキングに入れて、貸切家族風呂がある銭湯へ。
貸切の露天風呂に入ることができた。
休憩の部屋もあり、晴翔に先に入るように言われ、ほっとしたわたし。

休憩の温泉に入るのに2時間も時間を取っていたから何でかなっと思ってた。

晴翔とも、気まずいと思ったのかもしれない。
明るい昼間の露天風呂に一緒に入るなんて無理だ。

わたしが温泉から上がって晴翔に近づくと、晴翔は顔をトマトのように赤くして、入れ替わりに露天風呂に逃げて行った。

1時間15分、休憩にこの部屋が使えるから、ノートパソコンを開いて、湯河原の街並みや温泉についてと、晴翔の観察日記をメモに記録した。

わたしがひたすらノートパソコンに文章を入力していたから、温泉からあがってから、iPhoneで音楽鑑賞をしてた。

ぶらぶらと湯河原の街並みを歩き、お土産屋さんを見つけたら温泉の素を購入する。
温泉の素にアロマが入った物や、高濃度な温泉の素などがたくさんあり、ついつい買ってしまう。
中学生ぐらいからお風呂タイムに入浴剤を入れてゆっくり浸かるのが1番のリラックスタイムになった。
買い物に行くとついつい入浴剤を買ってしまう。
1日1個しか使わないから、在庫だけが増えていく。
美咲ちゃんもお風呂に入浴剤を入れて入るのが1番のリラックスタイムと言ってた。
美咲ちゃんは半身浴をしながら、クラッシックのCDを聴きながら、わたしの小説を読む事が1番の楽しみだと言ってくれた。

湯河原をぐるっと回って、次の目的地、箱根に着いた。
夕方に着いたけど、そのまま離れの専用露天風呂がある部屋に通される。
その前に浴衣を選ばないといけなくて、わたしが着る浴衣を晴翔に選んでもらった。

晴翔はわたしに桜色の服を着せたがる。
白っぽいピンク色の桜の花びらの柄の浴衣を選び離れに向かう。

夕ご飯の前に、離れの専用露天風呂に入る。
晴翔はまたわたしに先に入るように勧め、わたしが浴衣姿で戻ってくると、私服の時以上に狼狽えて、専用露天風呂に逃げて行った。
面白くて、それをまたノートパソコンにメモ入力する。


晴翔も長く側に居過ぎて見慣れてしまったからなんとも思わなくなったけど、知的な端正な顔立ちで、いわゆるイケメン。

浴衣姿で現れ、さっきまでは晴翔の立ち振る舞いをバカにしてたのに、自分が同じように、キュンキュンしてる。

仲居さんに夕食の配膳をお願いしていた時間になり、豪華な和食が机の上に並べられた。
自分が作って並べなくても、お任せで、美味しいご飯が食べられることが嬉しかった。
食事を終えて、内線で仲居さんを呼んで、片付けとお布団の準備をして貰う。

夜の露天風呂も楽しみたくて、晴翔に許可を取ってた。

月と星の明かりで自然の風情を楽しめる作りな露天風呂。
暗くて、温泉の中に入ったら細かい身体の線なんてわからない。

『晴翔、せっかくだから、一緒に入ろう』

晴翔を誘ってみた。



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