貴方と2度目の結婚

鳴宮鶉子

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甥っ子の誕生と過労

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「可愛いっ!!」

4月6日の早朝に、甥っ子が誕生した。
3kg満たない小さな身体。あどけない姿に胸キュンしてしまう。

「朔弥そっくりだな」

一緒に駆けつけた創志さんが、まじまじと甥っ子の顔を見て言う。
彫りの深く、切れ長の大きな瞳、整った顔立ちに、将来が心配になる。

「……俺に似て何が悪い!!」

陣痛が始まってからずっと舞花さんに寄り添ってる朔弥兄。
息子の将生くんのオムツを換えたりと、甲斐甲斐しくお世話をしてた。

「将生くん、可愛かったな」

15分ぐらい滞在し、病院をでた。
社長の朔弥兄が不在で、創志さんが代わりを務めてるから仕事は山積みで休む暇もない。
舞花さんのご両親に子供が産まれた事は連絡してなく、産後1ヶ月は大変だと社長なのに朔弥兄は育休をとった。

そのしわ寄せで経営関係の商談の対応も任され、建築設計の仕事が進まない。

瀬戸工コーポレーションは100世帯程度の小規模マンションよりも、300世帯を超える団地型の大規模マンションのプロジェクト開発・建設が多く、超高層タワービルの建築が得意で、自社開発物件の他に、住宮不動産、寺野不動産、ニ井不動産レジデンシャル、三星地所レジデンスなど同業デベロッパーから、委託されて開発を行っていて、その依頼が立て続けにあり、商談で時間が取られて、建築設計図書の作成は私が肩代わりした。

「朔弥兄、美術館の外装デザイン、実現させるの無理。耐震基準満たせない!!」

着工期間に1年はかかる。だから、来年の10月オープンに間に合わせるには設計図や建築材料の発注などに取りかからないといけなくて、構造設計士と頭を悩ます。

『ざっとだが構造計算して可能だと判断した。神崎に相談しろ!!』

無責任過ぎる朔弥兄にイラッとする。
創志さんに相談したいけれど、住宮不動産の新ブランドのタワーマンションの開発に関する商談が大詰めだから、手を煩わせたくなかった。

構造設計士の藤永さんから途中まで仕上げた設計図面のデータを渡され、CAD図面を見ながら頭を抱える。

フランスに1ヶ月出張してる事にしてる朔弥兄を会社に引きずって連れてきて、やらせたかった。

「まだ残ってたんだ。深夜時間帯まで1人でさ残るなって言ってるだろ!!」

創志さんに背後から声をかけられ、驚く。
仕事に集中していたから時間を気にしてなかった。腕時計を見ると深夜2時を回ってた。

「朔弥のデザインは奇抜すぎて耐震基準満たすのは難しいよな。明日、俺がやるから、帰ろう。送ってく」

下にタクシーを待たせていると言われ、パソコンの電源を落とし、机の上はそのままで専務室をでて、一人暮らししてるマンションに送られた。

年末年始休暇を明けて以降、なにかと多忙で創志さんに抱かれてない事に気づく。


飯田橋・九段下・四谷・神楽坂・駒場・青葉台・・碑文谷・八雲・柿の木坂・深沢・五反田など、古くから住宅街としての歴史がある街に、高級分譲マンションが次々と建設されてる。
いわゆる億ション物件で、5層セキュリティーに、エントランスへ向かう壁や床には御影石、ラウンジは大理石、内廊下から部屋への共用部分は大理石とタイルカーペットと、上質な素材をふんだんに使用したりと、依頼主の同業デベロッパーと綿密に打ち合わせをし設計を行わないといけなくて、ヒアリングでかなり時間が取られた。

ルーツインホテルグループの修繕リフォーム案件を他の社員に任せ、何かあればリモート撮影で現場を確認して指示を出す事にし、なんとか仕事をこなしてる。

過密労働で、プライベートな時間が全く取れない状態で、補佐をしてるから側にいるけど、仕事に関する事以外話してなかった。

多忙期だから仕方がないとわかっていても、全く構われなくて、寂しく思う。
専務室で2人きりの時も、お互い黙々と仕事をらしてる。
少しだけでいいから、抱きしめて、キスをして欲しいと、創志さんを見つめるも、黙々と外装デザインの設計図面を作成したりしてた。

*****

「咲愛ちゃん、神崎くんに相手して貰えなくて寂しいんだ」

日曜日の午後、朔弥兄のマンションにお邪魔し、舞花さんに仕事が忙しい事を愚痴ってたら、そう言われた。
美術館の建築デザインを一部変更したから、それを朔弥兄に確認して貰うために来たのに、ついつい舞花さんと話し込んでしまった。

「忙しい時期なのに、この人が育児休暇を取ったから、迷惑かけてごめんね。出社するように言ってるんだけどね」

将生くんを抱っこしあやしながら、パソコンを開いて朔弥兄は設計図面を確認してる。
構造基準を満たすために柱を増やしたのと、外壁のコンクリートの材料を一変更した。
創志さんが構造計算までして設計図面を完成させてくれた。

「朔弥兄、私も創志さんも過労死寸前なんだけど!!2週間休んだんだから、そろそろ出てきてよ」

「神崎ならあれぐらい余裕で熟せるだろっ。お前がアメリカに行ってる時は、今の倍以上やってだぞ!!」

「それで、過労で倒れて入院したんでしょ!!」

朔弥兄は創志さんをかなりこき使ってきたらしい。仕事はなんとか回せてるけど、過密スケジュール過ぎて睡眠時間が取れてないようで、最近、顔色が悪い。

「過労で倒れて入院したら、創志さんの受けてる仕事、全部、朔弥兄にさせるからね!!」

寺野不動産の社長に誘われ、創志さんはゴルフ接待に出かけてる。
4月の終わりだけど日差しが強く、気温も高い。
創志さんが、熱中症を起こして倒れないか心配でら堪らなかった。

「咲愛ちゃん、白鳥インテリアコーポレーションの営業がいいよってきてるみたいだけど、無視していいからね」

舞花さんは、白鳥インテリアコーポレーションの商品を営業するために、大学で建築学を学び、インテリアプランナーとして大島建設に入社した。
経営している会社を守り大きくするために、ゼネコンに就職し、白鳥インテリアコーポレーションの商品を優先的に使うよう働きかけてた。

質があまり良くなくかなりムラがある。
それなのに価格が他のメーカーより高い。
指摘されてもコストの関係で改善しなくて、挙句にはサンプルだけまともなのを見せてくるから、大島建設での仕事が舞花さんはとても辛かったと話してくれた。

「舞花さんのお兄さんが週1で営業にきて、サンプルを置いていってるよ」

政略結婚がダメになったからと祖父が激怒して舞花ちゃんを一族からの追放を言い渡したらしく、朔弥兄は私情で白鳥インテリアコーポレーションの商品を今後一切使わないと決めた。

舞花ちゃんの政略結婚をぶち壊したのが瀬戸工コーポレーションの社長と知り、縁故で営業をしてきた白鳥インテリアコーポレーションに対して、虫唾が走ると朔弥兄は門前払いをしてる。

「高級分譲マンションに関しては、内装仕様は同業デベロッパーが決めるから私は絡んでない。そう伝えてるんだけど、諦めずにきてるね」

舞花さんが大島建設を退職した際に、一部の人に朔弥兄の子を妊娠して結婚退職した事が知られてしまい、それが白鳥インテリアコーポレーションの営業の耳に入ってしまった。

住宅機器メーカーのTATAと政略結婚で結びつきを強化しようとしたのに、それを台無しにしたから、専務をしてるお兄さんもかなり腹を立ててたらしい。

一族から追放してから8ヶ月後、舞花さんのお兄さんがアポ無しで朔弥兄と舞花さんに会わせて欲しいとやってきた。

舞花さんの身体を気づかう言葉はかけ、実家に時々帰ってこいと追放の取り消しを伝えるも、後半は白鳥インテリアコーポレーションのカタログを取り出し営業され、朔弥兄がぶちキレた。

朔弥兄も妹の私に対して、非常な事をしたと思う。
元夫と再婚させようと、元夫のサポート役にあて、離婚してる事を隠し、夫婦として仕事をさせた。

その事に関しては、今は感謝してる。

朔弥兄から美術館の建築設計図面が入ったUSBメモリーを受け取り、オフィスに向かう。
建築図面の作成を少しでも進めたくて、週末も出勤して仕事をしてた。

専務室でひたすらCADで図面を描いていたら、iPhoneが鳴った。
創志さんからで、いつもはLINEビデオ通話でかけてくるのにキャリアの通話だから戸惑いつつでる。

『神崎創志さんの奥様でしょうか。私、寺野不動産の社長秘書をしております松原と申します。申し訳ございません。御主人様が熱中症で倒れてしまい、今、秩父カントリークラブ側にある皆野総合病院で治療を受けてます。命には別状はありません。脱水症状と貧血で倒れられたようでして、3時間ほど点滴をしたら退院できると医師は仰いました』

懸念していた事が起きてしまった。
接待で食事を取るだけで、それ以外は水分もまともにとってなかった気がする。
倒れても当然で、社用車を飛ばして病院へ向かった。

付き添って下さってた松原さんにお礼を伝えて、病院の外まで見送り、創志さんが眠ってる病室に入り、ベッドの横にある丸椅子へ座る。

ずっと睡眠が足りてなかったから熟睡してた。
看護師さんが気を使ってくれて、目覚めるまで寝かせたままでいさせてくれたから、病室から出て朔弥兄に文句の電話をかけた。

明日と明後日のスケジュールを確認し、2日間休みを取り、創志さんの代打をするよう朔弥兄を脅して電話を切った。
ゴルフ場で倒れて病院に救急搬送されたんだから、仕事が立て込んでいても休養を取らないと過労死してしまう。

病室に戻ると、創志さんは目覚めた。

「創志さん、体調はどう?」

「……頭がズキズキするが問題ない」

ベッドから起き上がるもふらつく創志さんに肩を貸す。
熱中症を起こして倒れてしまったから、しばらくは頭痛と立ちくらみがある。
医者から3日間自宅安静するよう言われた。

「寺野社長に迷惑をかけてしまったな」

支払いを終えて、病院から出て、駐車場に停めてる車の助手席に創志さんを座らせた。
車を走らせると創志さんはすぐに目を閉じ、眠りについた。

寺野社長に迎えにきて貰って、ゴルフ場まで移動していてよかった。
疲労困憊で寝不足な中、高速道路を走ってたら、事故を起こしていたかもしれない。

「朔弥兄に電話をかけて2日間、私も創志さんも休みにしたから。朔弥兄に仕事は押し付けた。ゆっくり休んで。会社に車を置いたら戻ってくる。もう少し寝てて。夜ご飯の材料も買ってくる」

自宅マンションにつき、創志さんを寝室に連れていき、ベッドに横にならせた。

「……咲愛、2日間、側にいてくれるの?」

「……創志さんが仕事をしないよう見張っておかないといけないからね。大人しく、寝てて。戻ってきて、ご飯ができたら起こすから!!」


マンションから出てからすぐに会社へ車を置きには行かずに、アパートにあるものを取りにいった。

マンションの地下にある食品スーパーで、創志さんが昔、美味しいと言ってくれたハンバーグとマカロニサラダの材料を購入し、戻る。

そして、6年前に私が買い揃えた調理器具で料理を開始した。

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