【完結】新・信長公記 ~ 軍師、呉学人(ごがくじん)は間違えない? ~

月影 流詩亜

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第二部:天下布武と二人の軍師

第13話 内政でも誤先生

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​ 姉川の戦いの後、織田家はしばしの休息期間に入った。

 信長様は、目前に迫る浅井・朝倉との再戦、そして不穏な動きを見せる各地の勢力を見据え、次なる戦の準備を着々と進めている。
​ その間、俺、呉学人は命からがら戦場から解放されていた。
 竹中半兵衛殿の、あの底知れぬ何かを探るような視線から逃れられただけでも、天にも昇る気持ちだった。

​「学人、頼んだぞ! 俺はこういう小難しいことは、どうも苦手でな!」

​ そう言って、利家は一冊の古びた帳面を俺に押し付けた。
 姉川での戦功を認められた利家は、新たに小さな所領を与えられていた。
 槍働きは天下一品でも、田畑の管理や税の計算といった内政仕事は、彼の最も苦手とするところ。   
 そこで、幼馴染である俺に白羽の矢が立ったというわけだ。

​(ようやく、俺にもまともな仕事が……)

​ 俺は心底、安堵していた。
 戦場のように、一瞬の判断が生死を分けることもない。
 天候や地形といった、人の力の及ばぬ要素に左右されることもない。
 ただ、書かれた数字を読み、決められた通りに物を動かす。
 これならば、俺のうっかりが入り込む隙もあるまい。
 今度こそ、誰にも迷惑をかけず、完璧に役目を果たしてみせる。
​ そんな俺に、最初の大きな仕事が舞い込んできた。

 利家が、来る冬の飢饉に備え、日照りに強いという新しい品種の米の種籾たねもみを、京の商人から特別に手に入れたのだ。
 俺の役目は、この貴重な種籾を検分し、村々の長に間違いなく配分することだった。

​「これさえあれば、今年の冬は領民を飢えさせずに済む。学人、くれぐれも頼むぞ!」

「お任せください、利家殿! この呉学人、命に代えましても!」

​ 俺は、いつになく意気込んでいた。
 納屋に運び込まれた種籾の麻袋を前に、俺は帳面と見比べながら、一つ一つ数を確かめていく。

​ その時だった。

 納屋の隅に、よく似たもう一つの麻袋の山があることに気づいた。
 利家に尋ねると、「ああ、そっちは地力の回復のために畑に漉き込む、薬草の種だ」という答えが返ってきた。

​ 俺は「承知いたしました」と頷き、再び作業に戻った。
 だが、その時の俺の頭の中は別のことで一杯だった。

(なぜ、俺の失敗はいつも成功に繋がるのだ?
やはり俺は、何者かによって書かれた物語の登場人物で、ご都合主義という名の力に……)

 などと、いつもの哲学的な悩みに思考が逸れていたのだ。

​ そして、ぼんやりとした頭で、俺はこともあろうに、薬草の種の袋を、貴重な種籾の袋と勘違いしてしまったのである。
​ 俺は、それが領民の命を救う米の種だと信じ込み、満面の笑みで村長たちに手渡して回った。

「さあ、これぞ殿からの有り難き賜り物!大切に育てるのですぞ!」
​ ​
 ​
 数ヶ月後、利家のささやかな城は、領民たちの怒号に包まれていた。

​「殿!話が違うではござらんか!」

「田んぼから、米ではない、見たこともない草ばかり生えてきおったわ!」

​ 報告を受け、俺と利家が田んぼへ駆けつけると、そこには青々とした稲穂の代わりに、紫色の小さな花をつけた、見慣れぬ雑草が一面に茂っていた。

​ その光景を見た瞬間、俺は全てを悟った。
 血の気が、さあっと引いていく。 あの日の、納屋での光景が脳裏に蘇る。
​ 俺は、その場にへなへなと崩れ落ちた。

​「ああ、私はなんというミスを~~~~~っ!」

​ 飢饉ききんに備えた米は、全てパーだ。俺は、この領地の民を、飢え死にさせてしまうかもしれないのだ。
 利家の、殺気だった視線が背中に突き刺さる。
 もはや、手討ちにされても文句は言えなかった。

​ その絶望的な状況に、一筋の光が差したのは、偶然、その地を通りかかった京の薬問屋の商人だった。
 彼は、一面に広がる紫色の花を見て、目を丸くした。
​「こ、これは……!なんと見事な紫根しこんの群生地か!」

「しこん……?」

​ 商人が言うには、この草は「紫根※ 1」と呼ばれる非常に高価な薬草であり、また高貴な紫色の染料の原料として、都の公家や大寺院で珍重されているのだという。

​「もしよろしければ、この畑の紫根、根こそぎ当方で買い取らせてはいただけませぬか!?
 米の数倍、いや、数十倍の値をお付けいたしますぞ!」

​ ……米の、数十倍。

​ 俺と利家、そして領民たちは、あっけにとられて顔を見合わせた。
​ ​
 数日後、利家の城の蔵には、紫根を売って得た、眩いばかりの銭の山が築かれていた。

 飢饉に備えた米は無駄になったが、その銭で他国から良質の米を有り余るほど買い付けることができた。
 おまけに、兵たちのための新しい武具まで新調できたのだ。

​ 俺は、その銭の山の前で、利家に深々と頭を下げていた。

​「利家殿……この度は、私のとんでもない過ちで、大変なご迷惑を……」

​ 利家は、俺の謝罪を遮るように、銭の入った袋を一つ、楽しそうにジャラリと鳴らした。
​ そして、心底、感心したような、それでいて呆れ果てたような顔で、こう言ったのだ。

​「学人よ……」

「は、はい!」

​「お前のうっかりは、戦でも内政でも儲かるなあ!」

​ その言葉に、俺はもはや、返す言葉も見つからなかった。

◇◇

※ 1 紫根(しこん)は、ムラサキ科の多年草であるムラサキ(Lithospermum erythrorhizon)の根を指します。この植物の根は、古くから漢方薬として利用されており、特に抗炎症作用や抗菌作用があるとされています。紫根は、肌のトラブルに対する効果が期待され、化粧品の成分としても使用されることがあります。

また、紫根は赤紫色の天然染料としても知られており、布や糸を染める際に利用されてきました。このように、薬用や染料として多岐にわたる用途があります。

 chat GPT - 40より


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