料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
318 / 331

もう一人のオビオ

しおりを挟む
「タンサル様が、オビオになった!」

 獣人兵たちのどよめきが大きくなる。

「見たか! 俺の術を! これが同化の術だ!」

 などと言ってみたが、そもそも同化したタンサル将軍が完全に俺になったかどうかはわからない。もし、精神が将軍のままだったら厄介な事になる。

 俺は動かなくなった将軍(俺)の手にはめる戦士の指輪を見ながら、話しかけてみた。

「指輪を返してくれるかな? 将軍」

「あい」

 うわぁ。なんだろう。まだ脳の神経が繋がりきってないのか、凄く間抜けっぽい返事が返ってきた。

 とはいえ、素直に指輪を返してくれるところを見ると、敵ではないのだろう。

 俺は指輪を受け取ると、左手にはめ、急いで中華鍋の盾を拾いにいく。

 動いた俺を見たアーチャーたちが一斉に弓を構えたが、タンサル将軍(俺)がキリッとした顔でそれを制止した。

「抵抗は無意味だ。将軍は俺が同化した」

 お、書き換えが済んだか。喋り方がまともだ。

「将軍様はどうなったんだ?」

 陰から現れたボロボロの鼠人スカウトが、主を心配して、もう一人の俺に尋ねる。このやられ方は火傷だな。サーカの魔法に巻き込まれたんだろう。

「同化された以上、戻ってはこない。死んだも同然だ」

「くっ!」

 生き残った兵の間に動揺が走る。

 あれだけ戦闘で優位に立っていたタンサル将軍が、よくわからない事で俺になってしまったのだから、気持ちは分かる。

「もうこれ以上の犠牲は必要ないんだ。皆、投降してくれないか?」

 俺の言葉に、顔を見合わせる兵士たち。そんな兵士にもう一人の俺は冷淡な声で命令する。

「投降しなければ、同化する。抵抗はするな」

 な、なんか、俺っぽくないなぁ。

 フルチンの俺を見続けるのは忍びないので、とりあえず亜空間ポケットから適当な服を出して着させた。というか、ナノマシンは服も再現しろよ。

「わかった。投降する。捕虜として正式な扱いを要求する」

 兵士たちは一斉に装備を投げ捨てた。

 よし! タンサル軍を制圧したぞ! 予定外の戦闘だったけど、ビャッコさんやヒジリさんに良い顔ができる。

「おーい、オビオー!」

 戦場が静かになったせいか、皆がやって来た。

「って、えぇぇぇ!! オビオお兄ちゃんが二人いるー!」

 ムクが驚きつつも、地走り族特有の素早さで駆け寄ってくる。

「これも同化するのか? 本体様」

 なんて恐ろしい事をいうの、オビオ! というか性格が全然、俺じゃない! 仲間の事も覚えてないし、大丈夫かなぁ?

「駄目! あれはバトルコック団と言って、俺の仲間なの! 同化しちゃダメ!」

「わかった、本体様」

 ピーターが怪訝そうに俺を見て、もう一人の俺の周りをウロウロしている。

「何で二人になったんだ?」

「話は後だ。ここの兵士は全員投降した。拘束してオライオンに連れて行っていくぞ」

「で、どっちが本物なんだい?」

 ウィングが鼻息荒く聞いてくる。なんか良からぬ事を考えているな。

「一応俺が本物。あっちのマント姿の方が偽」

 まぁ、あっちもある意味、本物なんだけどな。

「じゃあ、本物はサーカでいいよ」

 なにがいいんだよ! どういう事だよ!

「うむ、当然だろう。オビオは私のものだからな。二番目のウィングには偽で十分だ」

 勝手に取り決めやがった。あっちの俺はちょっと危険な気がするなぁ。

「あっちの俺は、いつ俺に戻るかわからないんだぞ。変に感情移入すると後々、悲しい事になると思うんだけど」

「その時は、その時さ」

 ウィングは樹族なのに、結構楽観主義者だなぁ。



 捕虜を引き連れて街に戻ると、ヒジリさんがオライオンに来ていた。

 因みに俺とヒジリさんは呼び捨ての仲だけど、公の場で呼び捨てにすると、樹族国の神学庁や聖職者のウィングやパンさんに睨まれるので、それを忘れないようにするために、心の中でも付けにすることにした。

「やぁ、オビオ。監視ナノマシンで君の雄姿を見ていたよ。いぎゃあああとか、うぎゃああとか、情けない声を上げていたな」

「あっ! しっ! その事は言わないでくださいよ! 聖下!」

 俺は自分の唇に人差し指を当て、必死になる。無様に悲鳴を上げていた事をサーカには知られたくないからだ。

「ヒジリ様は、事の一部始終を見てらっしゃたのですか?」

 パンさんの質問に、ヒジリさんは頷く。

「あぁ。ビャッコの宮殿にて見ていたよ。実に面白かった」

「では、彼が二人になった事も?」

「勿論、知っている。興味深い出来事だったな。あれはオビオにしかできない芸当。簡単に言うと、あのもう一人のオビオは、元タンサル将軍なのだ」

「えっ?!」

 聖下が連れてきた一部のビャッコ軍に、捕虜を引き渡しながらも、皆驚いて俺を見る。

「本当か? オビオ」

 サーカは俺と元将軍を交互に見ながら困惑する。

「うん。だからあっちが偽者なんだ」

「どういう理屈で、タンサル将軍がオビオになったというのだ?」

「俺が体に飼っている虫がいるだろ?」

「あぁ、ナノマシンってやつか」

「そう、それが将軍を侵食したんだ」

 それを聞いたサーカが後ろに退ずさりした。

「虫は私を侵食したりしないだろうな?」

「しないよ。というか、今回の件はまぐれみたいなものだし。再現性は低いんじゃないかな?」

 再現性、という言葉を聞いて、ヒジリさんが話に加わってきた。

「恐らくだが、条件は三つ。相手が敵対者である事。オビオが命の危機に瀕している事。敵がオビオの体の一部を体に密着させている事。この条件が重ならなければ、同化は起きない。安心したまえ、サーカ・カズン」

 そう言うと、捕虜の扱いについての指示をビャッコ軍に出すために、ヒジリさんは離れていった。

「ほっ、良かった。え? 命の危機だったのか? やるな、タンサル将軍。それにしても、オビオは日に日に怪物化していくな」

「ひでえ言い様だな。将軍にも言われたぞ、バケモノだって」

「仕方がないだろう。殺しても死なないし、敵を同化させるしで」

 チェッ! なんだよ。バケモノは否定してくれてもいいだろ。

「そんな、俺は嫌いか?」

「ば、馬鹿! すすす、……好き」

「まぁまぁ、ごちそうさま!」

 ウメボシが俺とサーカの間に割って入ってきた。

「そんな事より、いいんですか? オビオ様。ウィング様が女性化して、もう一人のオビオ様とお宿に入っていきましたが」

 いやらしい笑みを浮かべるウメボシは、そう言い終えると、主のもとへと去っていった。

「なにぃ?! あいつ! もしや!」

 驚く俺を見て、サーカは「カカカ」と笑って茶化し始めた。

「ウィングはしたいのかもな」

「どういうこと? お兄ちゃん?」

「ムクは知らなくていいの~」

「ずるーい、教えてー!」

 肩まで這い上がってきたムクに、おでこをペチペチと叩かれながら考える。

 あー、どうしようか。止めに行くべきか。いや、もう一人の俺の事だ。そっちの知識は無いだろう。

「うん、いいや。ほっとこう」

 結局、俺は二人を放置することにした。どうせ何もできやしないさ。

 夜も遅いし、捕虜や街の皆の料理を優先するか。あー、忙しい忙しい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや
ファンタジー
その勇者は、休日のみ地球のバス停から異世界に旅立つ 幼い頃に家族で異世界“ハーモラル”を巡っていた日向凛斗がこちらの世界に帰還して10年が過ぎていた。 しかし最近、ハーモラルの魔獣が頻繁に現実世界に姿を現し始める異変が起こった。 高校生となった凛斗は夜な夜な魔獣討伐の為に街を駆け巡っていたがある日、原因はハーモラルにあると言う祖父から一枚のチケットを渡される。 「バス!?」 なんとハーモラルに向かう手段は何故かバスしかないらしい。 おまけにハーモラルに滞在できるのは地球時間で金曜日の夜から日曜日の夜の48時間ピッタリで時間になるとどこからかバスがお迎えに来てしまう。 おまけに祖父はせめて高校は卒業しろと言うので休日だけハーモラルで旅をしつつ、平日は普通の高校生として過ごすことになった凛斗の運命はいかに? 第二章 シンヘルキ編 センタレアから出発したリントとスノウは旅に必須の荷車とそれを引く魔獣を取り扱っているシンヘルキへと向かう。 しかし地球に戻ってくるとなんと魔王が異世界から地球に襲来したり、たどり着いたシンヘルキでは子を持つ親が攫われているようだったり…? 第三章 ナフィコ編 シンヘルキの親攫い事件を解決し、リント達は新たな仲間と荷車とそれを引く魔獣を手にして新たなギルド【昇る太陽】を立ち上げた。 アレタの要望で学院都市とも呼ばれる国のナフィコへ向かうが滞在中に雷獄の雨が発生してしまう。 それを発生させたのはこの国の学生だそうで…? ※カクヨム、小説家になろうにも同時掲載しております

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...