料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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ステコさんからの贈り物

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 今日は誰かさんのおかげで死にそうになったけど、そんなことはもうどうでもいい。

 焚獣人も樹族も一緒に、焚火を囲んでご飯を食べている姿を見ているだけで、心が癒される。オライオンの住民と樹族の騎士の間に妙な確執がないのは、ヒジリさんが仲を取り持ってくれたおかげか。

「美味いか?」

 焚火に向かって座り、一人黙々と食べる従者らしき少年にそう尋ねた。

 面長で背の高いモヤシのような彼は、急いでローブの袖で口を拭うと、耳を真っ赤にして俺を見た。

「はい! 有名なオビオさんの作った料理が食べられるなんて思っていませんでしたから、夢のようです!」

「でへへ。なんか照れくさいなぁ。その様子じゃ、騎士の間でもバトルコック団は有名なのかい?」

「もちろん! 特に仲間の為に、神聖国モティに乗り込んだ話は有名ですよ! オビオさんは、あの時、たった一人でドラゴンの首をねじ切ったんでしょう? さすがは現人神様の眷属ですね!」

 ぐぬ。鼻高々に自分の名声に酔いしれていたが、やはりまとわりついてくる現人神の眷属という二つ名。

「それに比べ、僕なんか」

 おや? どうした? しょんぼりして。話聞こか?

「随分と自信無さげだな。話を聞くよ?」

 長い伏せまつ毛のせいで、常に悲しげな表情の彼だったが、俺が話を聞くと言った途端に、顔が明るくなった。

「いいんですか? 僕、魔法があまり得意じゃないんだ。力も弱いし、足も遅いから、叔父さんの足手まといになってるんじゃないかなって」

 従者って確か、主の荷物持ちをしたり、身の回りの世話をしたりしているんだよな。実戦的な事はともかく、馬に乗る主の後を走れるだけの脚力と持久力がないとダメだよな。

「叔父さんは、なにか君に対して不満を漏らしたりしているのかい?」

「ううん、叔父さんは優しいから、何も言わないんです」

「じゃあ、あまり気にしなくていいんじゃないかな。君は短命種換算でまだ十代前半くらいだろ? これから伸びるよ」

「伸びるかなぁ?」

「伸びる伸びる! 俺でさえ、最初は異世界のゴブリンに殺されそうになって、ヒィヒィ言ってたんだから」

「えっ!? 爆裂最強コックさんのオビオさんでもそうだったの?」

「うん。しかもその時の年齢は君よりも上で、十七歳、あ、樹族で言ったら三十四歳くらいかな? ゴブリンの射る矢が雨あられのように降ってくる中、頭に大鍋をかざして、死なないように必死だったよ」

「あ! その話なら知っています! 試練の塔の歌で聞いた事がありますから。オビオさんは、ゴブリンシャーマンに手籠めにされそうになったんですよね?」

 なんでそんな事まで知ってんだよ! 吟遊詩人こえぇわ。どこで見てたんだ? 試練の塔の戦いは、かなりの激しいものだったのに。

「はは、そうさ。あの時はやばかった。いろんな意味で」

「でも生き延びてますよね? ピンチに陥ったサーカさんを抱えて、塔の中で孤軍奮闘したって歌になっていますよ」

「まぁ、そうなんだけど、俺の命を救ってくれたのはトマトだよ」

「トマト?!」

「うん、トマト。辛いでしょ? (この星の)トマトって。それをゴブリンの目に投げつけてやったんだ」

「で、その隙に反撃したという事ですか? 凄い! 僕は今、吟遊詩人でも知らない真実を、本人から直接聞いたんだ! 友人に自慢できるぞ! あ! 自慢していいですか?」

「はは、いいよ。とにかく、能力はなにも、力の強さだったり魔法の凄さだったりが全てじゃないってこと。時には機転を利かせて、臨機応変に立ち回ることが大事なんだよ。君は賢そうだし、そういった立ち回りができるようになるんじゃないかな?」

「ほんと?! やったー!」

 従者の少年は飛び跳ねて喜んでいる。まだまだ幼さが抜けてないようだな。

 突然、暗闇から現れたステコさんが、少年の頭に手を置いた。

「あまりはしゃぐなよ。キューピー。そういえば、野営地で君の叔父上が呼んでいたぞ」

「あ、はい! すぐに向かいます!」

 キューピー君を見送ると、ステコさんは長い緑髪を後ろに束ねて、俺の横に座った。

「知り合いなんですか? あの従者と」

「あぁ、彼はコーワゴールド家の長男だ。いつもウォール家の長男とつるんでいる騎士見習いでな。今回は、特別に彼の叔父と参戦してたのだよ」

「ええ! コーワゴールド家っていえば、ワンドリッター家やムダン家に並ぶ名家じゃないですか。じゃあ、今回ヒジリ聖下が助け舟を出していなければ、彼も死んでいたって事ですか?」

「そうだ」

 まじかよ。咄嗟の判断とはいえ、ヒジリさんを見直したわ。グッジョブ! 年端もいかない子供が死ぬなんてことは、地球人にとって耐えがたい話だからな。

「私も君に救われなければ、死んでいた」

 炎を見つめるステコさんの横顔は、どこか優し気で柔らかかった。

「本当に感謝している」

 サーカと同じく皮肉屋のステコさんに、真面目に感謝されると背中がむずがゆい。

「い、いいんですよ。シルビィ隊長に頼まれた任務でしたし」

「それでも、だ。私はどんな逆境でも一人で切り抜けてきたが、今回だけは泣き叫んで助けを乞うたものだよ。それぐらい命の危機だった」

「転移に漏れた騎士の方は気の毒でしたね。獣人兵に、よってたかって……」

「ああ。その様を見ていたから、余計にな。私はまだ死にたくはないのだ」

 それは誰しもがそうだと思うけど。

「死んでしまっては、父の死に顔を見れないだろう? 私はそのためだけに生きていると言ってもいい」

「ステコさんは、なんでお父さんと仲が悪いんですか?」

 前から気になってたんだ。いっそストレートに聞いてみたほうがいいかもしれない。

「……」

 ―――やっぱり不躾な聞き方だったかな? ステコさんの表情が硬くなった。

 それでも俺の質問に答えるべく、大きなため息をついた後、彼は話を始めてくれた。

「私には腹違いの兄がいてな……。兄は妾の子という事で、一族の一員とは見なされていなかった。それでもまぁ、城に住むことを許されていたが。とはいえ、いつも父や他の兄弟に貶され、辱められて可哀そうだったよ。でもトメオ兄さんは、そんな中でもへこたれない強いメンタルの持ち主でな。踏まれても踏まれても、雑草のように立ち上がっては、平気な顔をしていた。三男坊だった私もそんなトメオ兄さんと、大して変わらない境遇で、次兄によく虐げられていた。で、私は、さほど心が強くなかったから、いつも敷地の隅に座って泣いていたのだ。でもそんな私をトメオ兄さんはいつも励ましてくれた。だから私は兄が好きで、いつも一緒に遊んでいたんだ」

「それをソラス卿は気に入らなかったと」

「ああ。父の逆鱗に触れたトメオ兄さんは、若くして城を追い出され、私は一人になった。それからだ。父の嫌がらせが激しくなったのは。事あるごとに、お家のためだと言われて、無理難題を押し付けられるようになった」

「お家のため?」

「ふん。聞こえはいいが、父は体良く私を殺す理由が欲しかったのだ。名門に相応しい武勇がお前には必要だとかなんとか言われてな。やれドラゴンの卵を盗んでこい、やれ地下墓地の最奥に行って、アンデッドの群れを潰せ、敵国であったグランデモニウムの霊山に咲く貴重な花を摘んでこい、など数えればきりがない」

「でもソラス卿の思い通りにはならなかったのですよね?」

「そうだとも。私は生きるために何だってやった。時には人を裏切り、時には好きでもない女を抱いて魅了し支援してもらい、時には泥水をすすって何日も過ごしたり。そうこうしているうちに、数々の経験が私を強くしたのだ」

「じゃあ、もうワンドリッター家を見返しているじゃないですか。ステコさんって樹族の騎士の中じゃ最強だと思いますよ」

「見返す、だと? そんな事で気が済むと思うか? 私はトメオ兄さんと約束したのだ。一族を乗っ取るとな」

 おったまげた。大きく出たなぁ。あの悪知恵の働く悪の一族を出し抜くのは、並大抵の努力じゃ無理だ。

「トメオさんは、生きているんですよね?」

「無論だ。トメにいはしぶといからな。一時は奴隷商人の一味にまで身を落としていたが、今ではちょっとした富豪だ」

 トメ兄、やるじゃん!

「良かった。生きていたんだ」

 ここで会話が途切れた。

 あるよね、おしゃべりしてて、お互い急に黙り込む事って。ステコさんも言いたいことは言えたのだろう。

 何か他に話題がないかなと思っていたら、ステコさんが先に口を開いた。

「……オビオ」

「なんですか?」

「私にとって、自分語りができる相手はそう多くない」

 でしょうね。ステコさんは、どこか人を寄せ付けない雰囲気を持っているし、そう簡単に気を許すタイプでもないもんな。

「先ほども言ったが、今回の件、オビオには本当に感謝しているのだ。お礼と言ってはなんだが、これを受けとってほしい」

 えっ! これって恋愛シミュレーションゲームで言うところの、ステコさんの好感度がMaxなったって事?

 ステコさんは俺の手を包み込んで、あるものを掌に乗せた。

「いいんですか? こんな高そうな指輪」

「いいのだ」

「もしかしてプロポーズとか……?」

「ハッ! 面白い事を言う。それはマナの消費を軽減しながら【火球】が撃てる指輪だ。オビオは樹族や魔人族ほど、マナ量が多くないだろう? きっと戦いで役に立つと思うぞ」

 俺は早速指輪を鑑定してみた。

「わ、凄い! これ、何度使っても壊れない魔法金の指輪じゃないですか! しかもあと五回ほど【火球】を使ったら、隠し効果のマナ回復が顕現する付与まである!」

「えっ、そうなのか?」

 あれ、知らなかったの? 

 ステコさん、手放した事をすげー後悔してる。顔に出てるよ。マナ回復まで付く指輪は、売れば一生左うちわで過ごせるもんな。

「返しましょうか?」

「いや、いい。一度やると決めたのだ。命を救ってくれたお礼としては軽いものだ」

「じゃあ、ありがたく受け取りますね。普段の俺はパーティの中じゃ、あまり火力が高くないほうだから、この指輪、凄く助かりますよ!」

「うむ。喜んでくれて何よりだ。それと、今日の夕飯、美味しかったぞ。オビオと話せて良かった。これからも宜しくな」

「はい!」

 滅多に見られない爽やかな笑顔の余韻を残して、ステコさんは野営地の方へと去っていった。

 人と絆を築くってのは、なんだか気持ちの良い事だな。まさか、ステコさんがここまでデレてくれるとは思わなかったよ。

 それにしても、とんでもなく良いものを貰った!
 
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