料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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カースヤル・レプトイド

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 昼食は何にしようかな。

 そうだ、揚げ物がいい。パンと揚げ物とスープとサラダ。

 スープは何にすべきか。この貧しい常夏の国で比較的簡単に手に入るのは、とうもろこし。冒険者ギルドの地下にたくさん積んであったな。まぁ、デュプリケーターで出来上がった料理を増やすから、そんなには要らないんだけど、ムクにお使い頼むか。

「ムク、ギルドに行って、とうもろこしを五本ほど、買ってきてくれ」

「わかったー」

 ムクは俺からお金を受け取ると、すぐ近くの冒険者ギルドに行って、とうもろこしを買ってきてくれた。

 早速受け取ると、とうもろこしの芯に沿わせるよう実をそぎ落としていく。

 そしたらバターを入れた鍋に五本分のとうもろこしの粒を入れて、玉ねぎのスライスと一緒に炒める。ある程度火が通ったらチキンブイヨンを入れて、そのまま十五分程蒸し煮する。

 火を止めて、ミキサーに牛乳ととうもろこしの煮たものを入れ、攪拌したら、後は塩コショウで味付け。

 で、木のお椀にスープを入れたら完成!

「できた!」

「いい匂い~」

 ムクが鼻孔を大きくして、コーンスープの香りをかいでいる。

「だろ? パンに付けて食べても美味しいんだぜ」

「早く食べたい~!」

「まあまあ、まだ揚げ物ができてないから待ちなさい」

「うぐ~」

 お腹を押さえて食欲と戦うムクを見て、フフっと笑い、俺はすぐ目の前にある魚屋に目をやった。昨日から店を再開した魚屋の棚には、少ないながらも魚が並んでいた。それでも今朝の獲れたてのものなので、新鮮なのは間違いない。

「やぁ、オビオさん。いらっしゃい! オビオさんの料理のお陰で、漁に出る元気が出てきましたよ! ありがとうございます! 今日の魚は根魚ばかりですけど、良かったら見てってください」

 ゴールデンレトリバーによく似た犬人の店主は、人懐っこい顔で尻尾をブンブン振っていて可愛い。

 どれどれ、何があるかな? メバル、アイナメ、カサゴ。ん? 大きなマゴチがあるな。

「じゃあ、そこのマゴチをもらおうかな」

「へい。オビオさんにはお世話になりっぱなしですから、タダでいいですぜぇ」

「おっと、そうはいかないよ。せっかく店を再開したのに、儲けがないのはいけない。こんな大きくて立派なマゴチはそうそう手に入らないだろうから、千銅貨二枚で買わせてもらうよ」

「で、でも! その値段だと相場の二倍ですよ!」

「いいのいいの。皆お腹いっぱいになったら、今度は経済を回していかないとね。働く人にはちゃんとした報酬を」

 そう言って、俺は店主の手に千銅貨二枚を握らせた。

「オビオさん……」

 泣きそうになる店主の髪毛をワシャワシャ撫でて落ち着かせ、マゴチを受け取ると、冒険者ギルド前に設置した簡易調理場に戻った。

 早速マゴチを捌いて、一口大の切り身にし、塩を振って下味を付けておく。

「この間に、油を温めてと」

 鍋の油を温めて、バットに片栗粉を入れて用意していると、轟音を立てて空を飛ぶ鉄傀儡が過ぎ去っていく。

「うん? 空を飛んでいるって事は帝国製か? 普通の鉄傀儡の二倍のでかさだ。珍しい機体なのかな?」

 いったん通り過ぎた鉄傀儡だったが、なぜか戻ってきて、俺たちの前で着地した。

「なんだ?」

「あれはサカモト博士が作った鉄傀儡ではなさそうですね」

 いつのまにか、背後にいたウメボシが俺にそう言った。

「じゃあ、樹族製なのか? でも樹族の鉄傀儡は空を飛ばないだろ?」

「おそらくは……」

 ウメボシがどこの鉄傀儡かをいう前に、謎の鉄傀儡が喋った。

「やぁ~。諸君。おや? そこにいるのは地球人だな? ドローン型のアンドロイドまでいるじゃないか」

 やけに口調が軽いな。見境なく人を舐めているというか。

 それに、俺を地球人と見抜き、ウメボシをイービルアイと呼ばなかった。

 こいつは星属性の者だ。地球に乗り込むタイプのロボットなんて博物館にしかない。となると……。

「あんたは、ドラコニアンの関係者だな?」

「そうだが?」

「どうして地球政府の呼びかけに応じないんだ?」

「それは、末端の軍人である俺の知るところじゃあない。ところで、料理を作ってるみたいだな。俺にもごちそうしてくれないか?」

 鉄傀儡のコックピットが開いて、パイロットスーツを着たレプタリアンが飛び降りてきた。

「いいけど、厄介ごとを起こすなよ」

「じゃあ、その変な色のスープをもらおうか」

「変な色? コーンスープの事か? いいぞ」

 敵とはいえ、俺の料理を欲しがるなら与えねばなるまい。美味しいと言ってもらえれば嬉しいし。

「どーれ」

 レプタリアンはコーンスープを一口すすると、即座に「まずい」と言って吐き出した。

 味の好みは人それぞれだけど、ちょっと無礼が過ぎやしませんか?

「貴様!」

 俺の代わりに激昂した者が一人。

 冒険者ギルドの門衛のサイ人だ。俺のファンでもある彼女は、肩をいからせて、レプタリアンに歩み寄っていく。

「オビオさんの料理が不味いわけないだろうが! リザードマンめ!」

「リザードマンだと?」

 鉄傀儡のパイロットは特に感情を昂らせる事もなく、飄々とした態度で腰の銃を抜いて、門衛に向かってぶっ放した。

 俺は門衛が死ぬことはないと確信していた。なぜなら、ウメボシがいるからだ。

 案の定、彼女のフォースシールドはレプタリアンの光線銃のビームから門衛を守った。

 いや、守ったはずだった……。

「うぎぃ!」

 なんと門衛の肩に銃創があるじゃないか! 肩を押さえて痛みに耐えている。

 俺は素早く彼女のもとへ行き、回復パンを食べさせて回復具合を見る。幸い、弾は貫通していたので、体内に残る事なく回復してくれた。

「フォースシールドを貫通したですって!?」

 困惑するウメボシの声を聞いて、俺は振り返る。彼女がこんな初歩的なミスをするだろうか?

「嘘です! 私のフォースシールドは完璧なはず!」

「シャッシャッシャ!」

 パイロットは笑う。なんちゅうか、とにかく耳障りで嫌な笑い方だ。

「完璧、ねえ。確かにビーム対策は完璧だった。が、同時に発射された斥力穿孔弾にまでは、考えが至らなかったようだな」

「そんな弾丸、初めて聞きました。どういう仕組みですか?」

 ウメボシは好奇心で聞くが、敵であるレプタリアンは教えてくれるはずもなく。

「言うかよ、馬鹿が。あと、俺の事をリザードマンと呼ぶな。遥か昔に袂を分かった奴らと俺らでは、知能も武力も雲泥の差なんだよ」

 そんなに混同されるのが嫌なら、最初からそう言って名乗れ。

「おい! 厄介ごとを起こすなって言っただろ?」

「何を呑気な事を言ってんだ? 今は戦時中だろ。敵に寝返った市民をどう処罰しようが、司令官である俺の自由さな」

「そんな自由があってたまるか!」

 思わず拳が出る。

 人の生き死にを自由に決められる奴なんて、この世に存在しちゃダメなんだ!

 当然、レプタリアンは俺に銃を向けた。

「地球人ごときが!」

 ―――パン!

 西部劇にでも出てきそうな古風な見た目のその銃は、どうやら俺の額を打ち抜いたようだ。

 なぜそう思うかというと、一瞬視界が真っ暗になったからだ。脳や心臓が破壊されれば、不死身の俺でもそうなる。

 だが、がやってくる前に、俺の体内のナノマシンが、破損部分を瞬時に再生したんだ。

 ガクンと崩れそうになった膝を持ち直して、俺は勢いのまま、レプタリアンを殴った。

「ギギッ!」

 細身のパイロットは大きく吹き飛んで、建物の壁に叩きつけられた。

「く、くそ。確かに頭を狙ったはずだぞ! それとも地球人の再生力が並外れてやがるのか?」

 どうだ! お前の高慢ちきな鼻をへし折ってやったぜ! まぁ、トカゲ男の鼻に鼻柱なんて無いんだけども。

「俺が特別なんだよ! 参ったか! トカゲ野郎!」

 もう一発殴ってやろうかと思ったが、ウメボシに止められた。

「いけません、オビオ様! それ以上やるとマスター同様、マザーから行動制限を受けてしまいます!」

 そうか! この場にヒジリさんがいないのは、そういう事か。

「ハッ! なんだかわからねぇが、お前らは俺たちに手出しができないようだな。それはいい事を聞いたぜ!だったら、反撃! といきたいところだがよ、俺にも仕事があってねぇ。まぁ、しばらくそこで待ってな。そのうちビャッコの首を見せびらかしに来てやっからよぉ」

 なにぃ? ビャッコさんを殺させるものか!

「先に俺と戦えよ!」

「嫌だね~。俺はな、お前らを直接殺すよりも、生かして悔しがらせる事にしたんだ。今後もどこかでお前の知り合いを殺すたびに、俺は笑って気持ちよくなるだろうさ」

 こいつ、性格が最悪だな。

 レプタリアンは銃をオライオン市民に向けつつも、後ずさりして、鉄傀儡のところまで行った。

 すると鉄傀儡は、レプタリアンが乗りやすいよう、自動で跪く。

「さてと」

 奴は無駄のない動きでコクピットに乗り、ハッチを閉めた。

「じゃあな、オビオ。お前の名前は覚えておくぜ。ついでに俺の名前を教えてやらぁな。俺はドラコニアンのフォースアーマー第一部隊隊員、カースヤル・レプトイドだ。以後お見知りおきを! シャーッシャッシャ!」

 つるっとした機体の背後にある輪っかから、粒子を噴射して、カースヤルの鉄傀儡は空高く舞い上がり、西へと消えていった。
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