料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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魔法習得の仕方

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 キャンプで夕飯を終えて、俺は丸焼きに使うヒートポールという道具を地面に立てていた。

 俺の身長ぐらいあるこのポールは、肉を刺せばヒートフィールドが発生して、内と外からじんわりと焼いてくれる便利な道具だ。

「何をしている? オビオ。闇魔女イグナ殿から貰った魔法書を読むのではなかったか?」

 サーカが咎めるように俺を睨んでいる。それはどういう意味で睨んでんだ? 闇魔女と関わったからか?

 あ、でもそれだったら、イグナちゃんの事をイグナ殿って呼ばないか・・・。単純に寝る前に魔法を覚えると言った俺が、別の事をしているから咎めているのだな。

 それにしてもサーカは堀が深いので、睨むと長めのぱっつん前髪に、眉や瞼が隠れてしまうので可愛くない。

「ああ、これは大きな肉の丸焼きに使うポールなんだけど、地面に軽く刺すと、しっかり自立するように出来てんだ。で、亜空間・・・、無限鞄に防水タープが入っているのを見つけたから、ポールに引っかけて屋根代わりにしようと思ってさ」

 ポールは地面に刺すと自動的に熱が発生するので、持ってる機器をまとめて操作できるホログラムモニターを出して、予め熱発生スイッチをオフにしておいた。

「よし完成。これでエアベッドの上で、ゆっくり魔法書が読める。これまでは夜露で濡れて、明け方が寒かったけどもう平気だ」

「ほう、でかした」

 サーカは早速、鎧を脱ぎ始めた。

「なに当たり前のように、ベッドに入ろうとしてんだよ」

「は? 貴族である私が地べたに寝るなど、ありえんだろう」

「だからって、なんでお前が俺のベッドで寝るんだよ。魔法かなんかで寝床を出せばいいだろ」

「そんな便利な魔法があるか!」

「【軽量化】って魔法があるだろ。あれを丸太にかけりゃ羽のように軽くなって、浮くって魔法具店の本で読んだぞ。その上でス〇ーピーみたいにして寝てろ」

「はぁ。だからお前は、私に馬鹿オビオと呼ばれるのだ。軽量化の魔法は確かに一時、丸太とその上に乗る自分を浮かすことはできるが、少し時が立てば、落ちて地面につく。その度に起きて、軽量化の魔法をかけて丸太を浮かせるのか? それに私は【軽量化】の魔法は習得していないし、する気もない」

 下着姿で自分のバックパックを探り、ネグリジェを取り出して着ると、サーカは素早くエアベッドに潜り込んだ。

「うう、寒い。早くベッドに入れウスノロオビオ! お前は私の湯たんぽなのだからな!」

 何様だ、こいつ! と思いつつも俺は少しにやけながらベッドに入った。
 
 体重でベッドが沈むので、どうしてもサーカが俺に寄り添う形になる。はぁぁ。サーカからいい匂いがする。ラベンダーの匂いっぽい。香水無しでこの香りを放っているなら、樹族の女子って凄いな。臭さとは無縁じゃんか。

 今日もサーカが暖を取ろうと、俺に脚を絡めてくるので、足先がまだ新品のビッグマグナムに当たってしまうのが難点だ。暴発したら、一生サーカに罵られるぞ・・・。

 ふぅ・・・。また試練の夜の開始だ。

「はぁ~。暖かい。オビオは本当に優秀な湯たんぽだな。だが夏場は離れていろ。暑苦しくて敵わん」

 俺は、お前の奴隷じゃないっつーの! 夏になったら、いやって程近寄ってやるからな!

 いやいや、冷静になれ、俺。やる事があるだろ。

「魔法の灯りをくれ。サーカ。魔法書が読みたい」

 魔法の書ありがてぇ。これを読んでる間は、劣情と戦わずに済む。

 サーカは【灯り】を唱えた。いや唱えてはいない。光源を出して浮かせた。コモンマジックなどの簡単な魔法は、サーカのような優秀なスペルキャスターにとって詠唱は無用。

「ありがと。どれどれ」

「ふん、お前に習得できるものか。それに、オビオ如きに大昔の有名なメイジの書いた魔法書など勿体ない」

 カチーン!

「へ、へー。俺にこの【再生】という水魔法が覚えられないと? じゃあ習得できたらどうする?」

「ハッ! コモンマジックの習得をすっとばして、いきなり属性魔法を習得できたら、何でも言う事を一つ聞いてやる。どうせ途中で投げ出して、昼寝の枕にでもしてしまうのだろう」

 俺は、勉強を始めるぞと意気込んだ三分後に昼寝をするのび太君ですかぁー!

「言ったな! じゃあ約束したからな! 何でも言う事を一つ聞いてもらうぞ! 忘れるなよ」

 そんなに魔法習得って難しいのか? サーカは魔法を簡単に覚えられる能力の持ち主だからいいなぁ。

「えーと、魔法とは己がイメージを具現化させる・・・。ZZZZ」

「おい!」

 ふぁっ! 俺、寝てた?

「ほらみたことか! オビオには魔法など無理なのだ。大体、魔法書を読んで、数秒で寝る奴があるか!」

 げぇー! 俺、まさにリアルのび太君じゃん!

「次寝たら、お前が嫌がりそうな事するからな。さっさと魔法書を読め」

 くそ、魔法に関しては自分の方が上だからって・・・。いや、魔法も戦いも俺よりも上か。でも偉そうにしやがって。

「これを読んでいる君が、初心者で無い場合、第三章から読むことを推奨する。だってさ。じゃあ三章に飛びますか・・・。って、ふぁぁあ!」

 サーカが俺の乳首を舐めた。サーカは嫌がらせのつもりでやったのだろうが、俺はその不意打ちに、変な声を出してしまった。遠くからピーターの舌打ちが聞こえてくる。

「なにすんだよ! 変態!」

「変態はお前の専売特許だろ。いきなりマナ玉の章を、すっ飛ばす奴があるか!」

「マナ玉ってなんだ?」

「はぁ・・・、馬鹿オビオ馬鹿」

 あ! バカで俺の名前をサンドイッチしやがった! くそう!

「すべての魔法の基本というか、素体みたいなものだ。まずは無意識にマナ玉を具現化できるようにならんと、何も始まらんぞ!」

「ああ、マナ玉ね。知ってる知ってる」

 俺がふざけて知ったかぶりをすると、サーカは俺の胸を噛んだ。

「いでで」

「知ったかぶりをするな! 見ていろ、こうだ!」

 毛布から手を出すと、サーカは仄かに白く光る玉を、手のひらの上に浮かせた。

 え? なにそれ、皆の気を集めて元気玉に育てるの?

「この玉に魔法のイメージを投影するのだ。【火球】なら玉が火を纏う様子を、お前の魔法書の【再生】であれば傷ついた玉が、再生して大きくなるイメージだ」

 さっきから喋る度に、足先が俺のアソコに当たってるから、別の何かが大きくなりそうなんですが。

「慣れれば、マナ玉を出す必要もなくなる。メイジの中には、詠唱を省いて魔法をイメージするだけで発現させる達人もいるぞ。才能のない者は魔法を使い切ると、寝る前に瞑想をして記憶を探り、詠唱の仕方を思い出さないといけない場合もある。この調子だと、お前は後者なんじゃないのか?」

 挑発するんじゃねぇぞ、サーカめ! というか股間から足をどけろ! マナ玉をイメージするのが困難になるだろ! あと胸が当たってんだよ!

「ホッホッホ。貴方、一々生意気なんですよぉ! マナ玉? それぐらい、私にも出せますから。キエェェイ!」

 俺はなるべく煩悩を払いのけ、フリー〇様がデスボールを出すようなイメージで、指先に力を込めた。

 ―――ポン!

 おお! 出た! 出たわぁ!! 俺すげぇ! 一発でマナ玉を出したぁあ!

 しかしサーカは一緒に喜んでくれない。なんなら睨み付けてくる。んだよ! 俺を褒めて伸ばしてくれよ!

「おい、オビオ・・・。なんでマナ玉がそんな形をしているのだ・・・」

「な、何? 形がなんだって?」

 俺はマナ玉を回転させて観察した。・・・。乳首がある。

「ははは、おっぱいだね・・・」

「お前というものはぁぁ! 崇高なる魔法をなんだと思っている! ふざけるのもいい加減にしろ!」

「ふひゃけてねぇ! ぎゃあああ!」

 サーカが頬っぺたを引っ張りつつも、その手から雷を放出している。【電撃の手】を発動させているのだ。ひでぇ!

「俺だって年頃の男子なんだぞ! お、お前みたいに可愛い女の子が、下着姿でひっついてきたら、マナ玉にもエッチなイメージが反映されて当然だろ・・・」

 何とかサーカの手から逃れた俺は、とんでもない言葉を口走ってしまった・・・。あぁ、これでサーカに毎日馬鹿にされる・・・。オーガのくせに、樹族に欲情するとは身の程知らずだとか、周りにペラペラ言いふらされるんだろうな・・・。

「ふえぇ・・・」

 え?? あれ? なんでサーカが幼児化してるんだ?!

 今の【電撃の手】が最後だったの? 俺が買い物に行ってる間に何に魔法を使ったんだ? マナ玉を出すのも魔法点を一点消費するのか?

 今【灯り】と【電撃の手】を使ったので、昼間に12回相当の魔法を使った事になる。

「私、可愛いの? オビオ」

 うぇ? もう俺の事をママと思ってないのか? オビオって呼んだ! 幼児化サーカの丸い目が潤んでいるのが、魔法の光のお陰でよく見える。くっそ! やべぇやべぇ。キスしたい。

「え?う ん、可愛い・・・」

 感情制御チップよ、そろそろ仕事をしてくれ。

「ほんと? でも私は目つきも悪いし、口も悪いよぉ?」

「で、でも可愛い」

「どこが?」

「ピンク色の髪とか、魔法を使い切るとポンコツになるところとか、可愛い(あとお尻の形がめっちゃ良い)」

「可愛いって言ってくれたのオビオが初めてだよ! 嬉しい! もっと言って!」

「可愛い。サーカ可愛い。ムーチョ可愛い。どちゃくそ可愛い」

 サーカは、幼い子がするようなやり方で肩を竦めてクスクスと笑っている。

「じゃあおっぱいのマナ玉の事は、皆に内緒にしといてあげるね! ウフフ!」

「あ、ありがと・・・」

 俺がエヘヘと照れてると、一定のリズムを刻むメトロノームのようなピーターの舌打ちと、ほら貝のようなトウスさんのいびきが聞こえてきた。そのお陰で、俺は理性を保てたような気がする。

 そして今なら直接、訊けるかもしれない。

「あ、あのさ。サーカはムダン侯爵の後ろ盾ができたんだしさ、もうジブリット家に認めてもらわなくてもいいよな? となると家に帰っちゃうのか?」

「うん、帰るよぉ?」

 やっぱそうだよな・・・。はぁ・・・。旅のパートナーと、こんなに早く別れる事になるなんて・・・。

「でもオビオの任務が残ってるし、帰るのはまだまだ先だよ」

「先ってどれくらい?」

「にじゅうねんくらい先! その頃には私も偉くなっていると思うから、偉くなった自分を見せつけて、おじいちゃんとおばあちゃんに、威張り倒してやるんだぁ! キュフフ!」

 キュフフ! じゃねぇよ! とんでもねぇクソ孫だなぁ、おい!

 俺は幼児サーカ相手ににっこりと笑っているが、彼女の性格の悪さに、心の中にある顔がスーッと真顔になっていった。

 ・・・でもサーカ可愛い。
 
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