料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
42 / 331

カルト教団と修道騎士 6

しおりを挟む
 自分の人を見る目のなさとミスで沢山の人を殺させてしまった後悔が押し寄せてくる。

(あの野郎を信じて、時間稼ぎにメリィさんと恥ずかしい演技をした結果がこれかよ・・・)

 息が荒くなって気分が落ち込む。

 しかし、落ち込んで何もしないでいると次はトウスさんが殺される番かもしれない。俺は奴の長い黒髪の下の顔を見た。

 奴は笑っている。余裕があるんだ。これだけの騎士を目の前にしても少しも焦っていない。

(こいつは全員を殺せる自信があるから笑っているんだ・・・。俺はとんでもねぇ修羅を手助けしたのかも・・・。なんとかしないと・・・)

 トウスさんの剣の柄が徐々に上に押しやられている。リーチや力ではトウスさんの方が上かもしれないが、鍔迫り合いをした時点で常に腰を落としているキリマルが有利になる。俺にもなんでそうなるのかはわからないが、至近距離ではどういうわけか下から押し上げる力に弱い。

 なぜそう言えるかというと、俺は剣道をしている奴に付き合わされた事があるので経験済みだからだ。

 俺はそいつよりも背が高かった。リーチにも余裕があるし、素人でも面ぐらいは取れると思っていた。

 が、結局そいつに一気に詰め寄られて懐に入られると、柄を握る手を呆気なく上に押し上げられて胴を取られたのだ。

(トウスさんはそれでも力があるから、そう簡単には押し上げられていない。しかもブロードソードを片手持ちして対抗している。相手は両手刀)

 トウスさんの左手がキリマルのブレストプレートから出ている肩を掴む。ネコ科の鋭い爪が食い込んでいくとキリマルの顔から狂った笑顔が消えた。

「チッ!いてぇな」

「だろう?他にも自前の武器はあるんだぜ?俺は素手でも並みの戦士には負けねぇ自信がある」

 牙を見せて威嚇する獅子人は凄くかっこよく見えた。

 が、トウスさんは爪に集中し過ぎたせいか剣に籠める力を緩めていたので、ブロードソードを弾き飛ばされてしまった。少し離れた場所で段平は音を立てて床に落ちた。

「無残一閃!」

 得物を失ってバランスを崩すトウスさんに対し、キリマルは横なぎの構えを見せた。

 終わりだ・・・。トウスさんも死なせてしまうのか、俺のせいで。クソクソクソ!彼の子供たちになんて言えばいいんだ。

 そもそも俺は生きて彼の子供たちに出会えるかどうかはわからないけど・・・。

「あぁぁーーっと!キリマルの一薙ぎをトウスが避けたぁーーー!」

 突然、部屋の入り口で声がした。

「なんだぁ?あの糞チビは。なぜ俺様の名前を知ってやがんだ」

 少しだけキリマルの目が集会所の入り口を見た。

 こんな時に実況する馬鹿がいる・・・。しかもトウスさんはまだキリマルの攻撃を回避していないし、できそうもない。

「誰だよ!こんな時に!」

 ヤンスさんだった・・・。小さなゴブリンは興奮してビン底眼鏡を片手で激しく揺さぶっている。

 キリマルのが放つ逃げ場のない凪払いが、今まさにトウスさんの首を刎ねようとしたその時!

 回避不能かと思われていた必殺の一撃を、トウスさんはブリッジをして綺麗に躱した。

「嘘だろ・・・」

 一番驚いているのはトウスさん本人で、自身でもなぜキリマルの攻撃が避けられたのかわからないという顔をしていた。

「いいぞーー!トウスはそのまま転がって刀の攻撃範囲から出るぅーー!」

 いや出てないから。まだトウスさんは危険な状況にいるから。

 しかし、またもやトウスさんはヤンスさんの実況通り動いてキリマルの攻撃範囲から出た。

「どういう事だ・・・」

「聞いた事がある・・・」

 隣でサーカが真面目な顔で言った。

「知っているのか?テリーマン」

「誰が、テリーマンだ。もう一度その小さな脳みそに私の名前を刻んでおこうか?私の名はサーカ・カズンというのだ。よく覚えて置け」

 知っとるわ!あほ!お前が前振りするから言いたくなったんだろ。

「で、何を聞いたって?」

「吟遊詩人についてだ。奴らは基本的に戦場に出てこないから私も詳しい事は知らないのだが、戦いの場において吟遊詩人は歌や音楽で味方を奮い立たせたり、回避力を高めたりとサポートに特化した役割を持っているらしい」

「でも、ヤンスさんは実況しかしてないけど・・・」

「ヤンスの手元を見ろ」

 よくよくヤンスさんの手元を見るとマイクのような物を持っている。

「恐らくあれは魔法の拡声器か何かなのだろう。実況されるとなるべくそのように動くよう魔法がかかっているのではないかな?実況も歌のように聞こえなくもない」

 実況が歌・・・。流石にそれは無理があるけど・・・。でもすげぇな、ヤンスさん!

 勝てるんじゃね?これ、一発逆転もあるよ!

 なんか元気が出てきた。博識な旅人なだけだと思っていたヤンスさんに、まさかこんな力があるなんて・・・。

 実況するたびに横持ちをしたマイクで円を描く動きは何か意味があるのだろうか?ビビーンと突き刺さった時の矢羽のように小刻みに揺らすドヤ顔と合わさって微妙に腹が立つ・・・。

 でも起死回生のチャンスをくれた吟遊詩人に俺は感謝した。ありがとう!

「トウスは転がった先で落とした剣を拾うぅーッ!」

 トウスさんはヤンスさんの言う通りに動いてブロードソードを拾って構えた。

 少し間が空くと騎士達が空かさず様々な魔法をキリマルに撃ち込むが、どんな魔法も妖刀で切り捨ててしまう。

「【眠れ】や【捕縛】の魔法まで切ってる・・・。どういう仕組みなんだよ・・・」

 キンキンと剣と刀が火花を散らす中、キリマルの表情に苛立ちが見えてきた。

「あのゴブリン、うぜぇな・・・。あいつが実況すると俺までそう動いてしまう」

 やべぇ!キリマルのヘイトがヤンスさんに向き始めてる!

 俺は咄嗟に入り口まで走った。間違いなくキリマルはヤンスさんを狙うはずだ!

「ヒャハハ!残念!ハズレ!」

 まるで俺の心を読んだかのようにキリマルは笑うと、近くで恐怖に蹲っていた村人の背中を斬った。

「てめぇ!」

 トウスさんが吠えて剣を薙ぎ払う。

 しかしキリマルは笑いながら回避して後ろに飛びのいた。

 無駄に広い集会所は遮るものが少ない。元々素早い剣士タイプに見えるキリマルは足場の良いこの場所では有利に思えた。

 斬り殺された村人を見て胸がズキリと痛んだ。自分の心の声が自分を傷をつける。

(まただ、また俺のせいで人が死んだんだ)

 こんな激しい戦いの中でも、おっとりしたメリィさんは服を着て鎧を身につけようとしていた。彼女の近くにはサーカがいるが、キリマルは狙ったりしないのだろうか?

 俺は急に不安になる。ここにいる誰もがあの狂人剣士の餌食になり得るのだ・・・。

 ―――ピーター以外は。

 あいつは何かの陰に隠れて見えなくなっているから平気だ。

 出来ればピーターが不意打ちでもしてくれれば、トウスさんも有利になるのだろうけど・・・。無理だろうな・・・。あの邪悪で臆病なるピーター君はきっと今頃震えているに違いない。

「俺がなんとかしないと・・・。俺のせいなんだ・・・・。俺が・・・」

「思い上がるなよ、オビオ」

「その生意気なクソガキみたいな声は・・・ピーターか。んだよ!」

 キョロキョロとしてピーターを探すが勿論見つかるわけもなく。

「あのキリマルに刀を持たせたのは俺なんだ!だから俺が何とかしないとだめだろ!」

「だから思い上がるなって言ってんの。料理人の癖にさ」

 スゥ―ッと集会所の入り口近くにある棚の陰からピーターは現れていつものように邪悪な顔で睨んでくる。怖くないけどね。

「お前にはお前の戦い方があるだろって話してんだよ。俺とオビオはパーティの中でも戦闘には不向きだ。俺は潜んでようやくトウスさんの通常攻撃レベルの力が発揮できる。なのでまだ役に立とうと思えば立てる」

「じゃあそうしろよ」

「やだよ、俺みたいなのは敵に見つかって反撃されたら即死だろ。だからさ、俺とオビオでなんかやるんだよ。勿論全ての攻撃はオビオが受けるんだ。何とかしたいんだろ?オビオは」

 確かに・・・。二人でやれば上手くいくかもしれない。というか、このパーティー各個人がばらばらに動いて纏まりがないんだよな・・・。

 そういえば、キリマルはよく大口を開けて笑う。そうだ・・・!

「よし、良い手を考えた。ちょっと耳を貸せよ、ピーター」

 俺の作戦を地走り族の少し尖った耳を通して伝えた。

「ゴニョゴニョ。で、ゴニョ。な?だからゴニョニョ」

「・・・」

 なんだよ、その目はよ!俺の作戦が上手くいくわけないって顔してんじゃねぇよ!上瞼と下瞼を残して目を細めんな!

「いいからやるぞ!」

 俺はピーターにある物を手渡すとキリマルとトウスさんが戦う場所まで走って行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや
ファンタジー
その勇者は、休日のみ地球のバス停から異世界に旅立つ 幼い頃に家族で異世界“ハーモラル”を巡っていた日向凛斗がこちらの世界に帰還して10年が過ぎていた。 しかし最近、ハーモラルの魔獣が頻繁に現実世界に姿を現し始める異変が起こった。 高校生となった凛斗は夜な夜な魔獣討伐の為に街を駆け巡っていたがある日、原因はハーモラルにあると言う祖父から一枚のチケットを渡される。 「バス!?」 なんとハーモラルに向かう手段は何故かバスしかないらしい。 おまけにハーモラルに滞在できるのは地球時間で金曜日の夜から日曜日の夜の48時間ピッタリで時間になるとどこからかバスがお迎えに来てしまう。 おまけに祖父はせめて高校は卒業しろと言うので休日だけハーモラルで旅をしつつ、平日は普通の高校生として過ごすことになった凛斗の運命はいかに? 第二章 シンヘルキ編 センタレアから出発したリントとスノウは旅に必須の荷車とそれを引く魔獣を取り扱っているシンヘルキへと向かう。 しかし地球に戻ってくるとなんと魔王が異世界から地球に襲来したり、たどり着いたシンヘルキでは子を持つ親が攫われているようだったり…? 第三章 ナフィコ編 シンヘルキの親攫い事件を解決し、リント達は新たな仲間と荷車とそれを引く魔獣を手にして新たなギルド【昇る太陽】を立ち上げた。 アレタの要望で学院都市とも呼ばれる国のナフィコへ向かうが滞在中に雷獄の雨が発生してしまう。 それを発生させたのはこの国の学生だそうで…? ※カクヨム、小説家になろうにも同時掲載しております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...