料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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アッチ ホッチ チッチ 2

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 教会の奥にある医務室のような場所に、ホッチさんの旦那であるアッチさんが両足に添え木をされてベッドに横になっていた。

「あなた、ほら、彼が話してたオーガの少年オビオよ!」

 ジェントル髭を生やした子供にしか見えないオールバックのアッチさんは、少し不自然に顔がむくんでいる。なんでだろう?怪我の影響にしてはおかしいな・・・。手足の震えもある。

「や、やややぁ!妻がお世話になったようで!初めまして、アッチです!」

 俺は手を上げてそれに応える。

「こちらこそ、色々とチッチさんには助けて頂いて・・・。ところで脚の骨折って聞いたのですが、どうしてむくみやら震えやらがあるのですか?」

「ここっこれは、怪我に付随する一時的な症状でそのうちなくなると、スペンクさんがいいいい、言ってましたが・・・」

 そうなのかなぁ?なーんか怪しいぞ。

「ちょっと失礼」

 俺は識別の指輪の力でアッチさんの肩を触る。

 アッチさんの現在の状態は・・・と。えぇ!水銀中毒!なんで?

「水銀の毒でやられてますよ!アッチさん!」

 しかし水銀と言ったところでアッチさんにもホッチさんにも伝わらなかった。

「毒?じゃあ毒消し草でも飲ませればいいのかしら?」

「いや、そんなものじゃ消えませんよ。これは高頻度でずっと水銀を摂取してないと出ない症状です。何か心当たりは?」

 くそ、俺は医者でも科学者でもない。偉そうに言ってはいるが詳しい事は解らないのだ。治療法も・・・。

「心当たりは特に・・・」

 俺にはあった。サイドテーブルにあった油紙に包まれた薬を手に取る。

 辰砂の粉!

「これですよ!薬の中に辰砂の粉が入っています。何でこんなものを・・・」

 俺の慌てぶりに緊急性があると思ったのか、視線が合ったメリィが頷くと運命の神に祈り始めた。

 が・・・。

「私の患者を横取りするつもりか!修道騎士め!」

「まぁ!スペンクさん!」

 部屋に入って来た細面の年寄樹族が突然メリィさんの肩当てを杖で突いて祈りを邪魔した。なるほど、この人が錬金術師のスペンクさんか。

「いたぁーい」

 突かれたのは肩当てだし、そこまで痛くはないはず。でも一応注意しとくか。

「おい!暴力は止めろ!」

 俺はズイとメリィさんの前に立って丸眼鏡の男を睨む。男も気が強いのか負けていない。

「すっこんでおれ、オーガ!それにしても神学庁は今頃修道女を寄越したのか?だが、そんな通達はきておらんぞ!」

「俺たちは神学庁とは関係ないよ。ところでスペンクさん。なんで彼に水銀・・・辰砂の粉なんて飲ませたのですか?」

 俺が油紙を広げて赤い粉を見せると、スペンクという錬金術師は眼鏡を中指で押し上げて鼻の据わりのいい場所に戻した。

「辰砂の粉?賢者の石の粉の事か?」

 賢者の石ってなんだっけ?

「いや、賢者の石が何かは知りませんが、これは毒ですよ・・・」

「馬鹿を言え!昔から骨折や怪我の回復薬として使われておるわい!毒なわけなかろう!オーガの癖に知ったかぶりをするでないぞ!貴様は何者だ!」

 俺はウォール家の紋章を見せた。

「ミチ・オビオだ」

 大抵の奴はこれを見せるとたじろぐが、スペンクはフンと鼻を鳴らしただけだった。

「ウォール家か。ワシはブラッド家と関わりがある。いいか、ウォール家はブラッド家に大恩がある一族。今でも頭が上がらんはずじゃぞ。お前がウォール家の奴隷かなにかは知らんが、お前よりブラッド家の下男じゃったワシの方が上じゃ!」

 なんだよ、その「俺の父ちゃん社長だぞ!」「俺の父ちゃんなんて会長だぞ!」的なやつは・・・・。

「そんな事より、賢者の石の粉をアッチさんに飲まさないでください!」

「うるさい!神学庁がいつまで経っても司祭を寄越さんから、村人に頼まれて残り短い人生をこの村に捧げておるワシが毒殺者だと!不名誉にも程があるわぃ!」

 この頑固爺にどうやってわからせればいいのか・・・。

「スペンクさんは鑑定魔法を習得していますか?」

「勿論じゃ。錬金術師の基本じゃ。それがどうした」

「では俺のこの指輪を鑑定してください」

「それがなんじゃというのだ!【知識の欲】!」

 樹族の老人の光る手が俺の指輪を鑑定している。

「こ、これは!上位鑑定の指輪!血の契約装備か!」

「はい」

 じいさんの目が一瞬キラリと光った気がする。

「ほう・・・。じゃが識別した知識はお前さんだけのものじゃないかね。どうやって賢者の石が毒であると証明できる?」

「だからこれは賢者の石じゃなくて辰砂だって・・・」

「うるさーい!証明できなければお前の妄想でしかない!だったらお前さんが本物をもってこればええじゃろ!」

「わかんねぇ爺さんだな!あんたが直に賢者の石を鑑定してみろよ!毒だって解るからさ!」

「毒ではない!」

「毒だ!」

 後ろでメリィさんが俺のマントを引っ張った。

「オビオ、ここは一旦引き下がりましょう」

 アッチさんもホッチさんもチッチも俺と爺さんの怒鳴り合いにオロオロしている。

「くそ、このままじゃアッチさんは死んでしまう・・・。一旦引くけどな、また来るぞ!ジジイ!」

「ああ、次くるときは本物の賢者の石を持ってこい!まぁワシの賢者の石が本物だけどな」

 あー腹が立つ。こんな時にサーカは何してんだ。こういうジジイを黙らせるのがお前の役目だろ。

 俺はプンスカプンと怒りながら教会の外に出た。

「あの爺さん、もしかしたらボケてんじゃないのか?」

「あり得るぅ・・・」

 相づちを打ってくれたメリィの横でホッチさんとチッチが心配そうな顔で俺を見ている。

「お父さん、死んじゃうの?」

 ぐぅ!チッチが泣きそうになってる。死ぬとか迂闊に言うんじゃなかった・・・。

「死なないよ!お兄ちゃんがなんとかするからな!泣かないで、チッチ」

 俺はチッチの頭を撫でた。癖毛のクリクリした毛が手のひらをくすぐる。

「うん・・・オビオ、お願いね」

 何とかすると言ったものの一体どうすりゃ・・・。

「おい!教会に行くなら一声かけてくれや。子供たちと遊んでいたら、お前がいなくてびっくりしたぞ」

 しまった。トウスさんやサーカには教会に行くって言ってなかった。

 まぁでもこの村に来た目的がお見舞いなのだから、村の医療機関である教会にトウスさんは来たわけで結果オーライ。

「水銀の毒って奇跡の祈りで治るのか?」

 メリィに訊くと直ぐに返事が返ってきた。

「うん、治るよぉ」

「便利だな・・・。でも今のままじゃメリィが祈ろうとすると、あのジジイは邪魔しに来るだろうな」

「ただでさえ錬金術師と僧侶は仲が悪いでやんすからねぇ」

 いつの間にかヤンスさんも来ていた。

「どうしたものかなぁ・・・。爺さんをサーカの魔法で眠らせている間に祈る?」

 メリィにそう言うと彼女は長い銀髪を左右に振った。首を振った後、なぜダメなのか、そのわけを言うのかと思ったら彼女はそれ以上何も言わずにボーっとこっちを見ている。この人、説明や言葉が足りねぇんだよな・・・。

「そんな事したらしょっ引かれるぞ、オビオ。理由もなく人に魔法をかけるのはご法度だ」

 サーカがピーターとやって来た。結局、皆教会前に集合してしまった。

「お前、しょっちゅうピーターや俺に電撃を浴びせてるじゃん・・・」

「そうされるだけの理由がお前らにはあるからだ」

 ピーターはともかく俺への魔法は理不尽なだろ。朝起きたら顔が近かったってだけの理由で【衝撃の塊】をぶつけてきたりさぁ・・・。体重150キロの俺が、ベッドからスポーンと吹き飛ぶ威力だぞ、あれ。あぶねぇだろ。

「村人の信用が厚いスペンクさんに魔法はちょっと・・・」

 ホッチさんは上半身を少し横に傾けて指でペケを作っている。・・・一々仕草が可愛いな、地走り族は。ホンワカしてきた・・・。

「となると賢者の石を持ってくるしかないのだが・・・。どこにあるの?」

 知恵袋のヤンスさんに訊いたが、ピーターがしゃしゃり出てくる。

「僕知ってるよ!」

 ピーターがハイハイと手を上げる。

「では、ピーター君」

「賢者の石はアルケディアの地下墓地にあるよ!マナ溜まりと沢山の死体があるところに発生するんだ!」

「そうなの?」

 俺はヤンスさんにそう訊ねるとプライドを傷つけられたピーターがふくれっ面した。

「ピーターの言う通りでやんす。死体や骨に赤い結晶が付いていたらそれが賢者の石でやんす」

「あの爺さん、ボケてそうだしな。どこからか拾ってきた辰砂を賢者の石だと思い込んでいるんだろ。【知識の欲】で石を鑑定しようとすらしなかった」

「ボケてるとはいえー、あのお爺さんも良かれと思ってやっているんじゃないかなぁ。賢者の石なんて高い薬、そうそう使ったりしないしぃ。怪我人を早く治したいが為に赤字覚悟でやっているのでわぁ」

 もー、メリィは優しいなぁ。でも教会に挨拶に行かなきゃって言った時は割と厳しい顔してたぞ。この村の癒し手が錬金術師だって知ってたんだな。

「またアルケディアに戻るのか?」

 サーカが歩くのはうんざりだという顔をした。歩いてもたったの一時間でしょうが!

「とにかく戻るぞ。早くしないと・・・」

 その先を言いかけて黙る。またチッチが泣きそうな顔をしているからだ。

「安心しろって!絶対に賢者の石を持って帰るからさ!そしたらあの爺さんも納得してメリィに解毒の祈りをさせてくれるだろうから!」

「うん・・・。修道騎士様・・・。これチッチの貯めたお小遣い。先に寄付しておくね!」

 銅貨10枚。千円ほどの価値だ。幼いチッチがこれだけ貯めるのは大変だったろう。俺なら貰えねぇな・・・。

 でもメリィはしっかりと両手で銅貨一枚を受け取った。そしてにっこりと微笑む。

「は~い!確かに~!絶対アッチさんを癒してみせま~す!」

 相変わらず緊張感がない。フランちゃんより緊張感がない。

 俺は思わずドリフターズのようにずっこけたが、皆に「なにやってんだこいつ」という顔をされた・・・。
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