料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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辺境伯の本性

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「どうしたら、ブラッド辺境伯の気に入る結果になるの?」

 自分の考え以外に道筋を作らせない彼に対し、これ以上言い争いをするのは無意味だと悟ったリュウグは、あっさりと白旗をあげた。

「ノームの交渉力もこの程度か。もう少しこの状況を楽しみたかったのじゃがね」

「外交官でもなんでもない一般人に、何言うてるねん!」

 なんだろうか、この老人は、とリュウグは思う。

 何かがおかいしい。今の質問からしても、個を見て全体を評価するのは愚か者のすることだ。

「そ、そうだったな。お前たちの価値観に合わせるのは・・・。おっと!」

 リュウグは自身の知識を総動員して、この怪しいブラッド辺境伯の情報を探る。

(名前は何やったかな。思い出せへん。樹族国最強の領主で、人柄は・・・。わからん! ガジェットの知識ばっかり詰め込むんやなかった。ほとんど何もわからんのと同じやんか。私のアホ!)

 この領主が残虐だったり、変わり者だったりする噂は聞いた事がない。あまりに我が強いようであれば、王族と事を構えて大騒ぎになっているだろう。

 しかし実際はそうなっていない。

 つまり反逆者のような性質はもっていないのだ。変わり者の噂といえば、現人神の話ばかりで、ブラッド辺境伯のものはない。

「さて、君はこちらの条件を飲む、と受け取っていいのかね?」

 短い時間の間、あれこれ考えるリュウグの思考をかき乱すようにして、辺境伯のしわがれた声が入り込んでくる。

「そうや言うたやん。どうやったら疑いが晴れるのか、はよ教えて!」

「キヒヒヒ・・・。おっと!」

 何かしらの喜びで徐々に壊れていくように見える辺境伯だったが、ここにきて表情を変えた。変えたと言うよりは顔が強張ったというべきか。

「暗殺者というのはな、大概一人だ。基本的に誰の仕業かわからないように行動するものだがね、時には集団でやって来て堂々と殺しにかかるのだ。これを見たまえ!」

 豹変したブラッドはリュウグの髪を掴んで、喉元の傷を見せた。

(痛っ! なんやこの人! 行動がどんどん不安定になっていく! 真面目な顔をしたかと思ったら、今度は乱暴になった!)

 何をしですかわからない辺境伯を見て、恐怖がリュウグの体を支配し始める。

(下手に逆らわんほうがいいんやろか?)

「こここ、これはな、パーティでやって来た暗殺者の付けた傷なんだ。わかるか? 戦士の後ろに隠れたスカウトの一撃は、もう少しでワシの頸動脈を掻き切るところだった!」

「だから何よ!」

「つまり! お前のパーティにいた盗賊は! 今もこちらを狙っているやもしれんのだ!」

「ピーターは屁垂れやから、領主の首を狙ったりなんかせんわ!」

「わかったもんじゃない!」

 髪を掴む手が一層きつくなった。

「痛い!」

「キュル!」

 娘に対する乱暴を止めさせようと、リュウグの父親が動こうとしたが、呆気なく私兵の一人に取り押さえられる。

「お前の両親だって怪しいのだぞ!」

「なんでよ! 怪しくない!」

 リュウグは辺境伯の手から逃げて、取り父親のもとに走る。

「ほう? そう言い切れるかね? オビオ君を殺そうとした事実は、消そうとしても消せるもんじゃない。ワシは君や両親の記憶の中に、四角い顔の司祭を見たぞ」

 私兵の一人が、リュウグも取り押さえようとしたが、ブラッド辺境伯は手を上げ、それを止める合図を送った。

 自分に多少の発言権はあると感じたリュウグは、もう少し欲張りになって、父親を取り押さえる私兵の手を叩き、解かせる。

 辺境伯はそれを見ても、特に私兵に指示は出さなかった。

「カク司祭の話? それやったらうちらも被害者や! オビオだってウィング・ライトフット助司祭の手紙なんか信じてないよ。そんな事より早く条件言って!」

 話を進めようとすると、この男はすぐに横道に逸れる。歳のせいで集中力が続かないのか、或いは生来の魔力が高過ぎて、狂気に魅入られてしまったのか。とにかく何かがおかしい。

「そうだった、そうだった。バトルコック団の疑いを晴らす条件を言おう」

 ブラッド辺境伯は、地下牢が映る魔法水晶をテーブルの上に置いた。

「まず、オビオ君はご覧の通り無事だ」

「地下牢! どこの?」

「それは言えんと言ったじゃろう。この屋敷の地下牢か、或いはどこぞの監獄か」

 現人神やオビオと同じく、モティの暗殺者に狙われるブラッド辺境伯は、前述の二人と違って、とても用心深い。

 現人神はその名の通り、神のような力を発揮するので、暗殺者など気にもとめていない。

 オビオはあまり自己を過大評価しない性格なので、自分ごときに、そうそう暗殺者など派遣されないと思っているのだ。だから隙だらけだ。

(オビオを狙った暗殺者は、トウスさんが毎回こっそりと撃退してた。トウスさんはなんも言わへんけど、私は知ってたで)

 じゃあこの目の前の小さな老人はどうなのだろうか。

 対エリート種の暗殺者やパーティを頻繁に送られるのだ。長年対峙したせいで、神聖国モティにもあらかた辺境伯の情報が行き渡っている可能性は高い。

(そりゃ、ここまで狂気じみた性格にもなるわ)

「――――というわけじゃ」

 自分の考えに耽っている間に、話は進んでいた。

 リュウグは無礼だと知りつつ、慌てて聞き直した。

「ごめんなさい。もう一回、説明してください」

「ああ、何度だって説明してあげよう。簡単な話じゃからな。手っ取り早く言うと、暗殺者を撃退している我が私兵と、オビオ君たちで戦ってもらう、という話じゃ」

 急な展開にリュウグは思わず「へ?」と言ってしまった。最初は拷問はしないと言っていた辺境伯が、今度は戦えと言って手を擦っている。

「なんでそんな話になるん? 拷問はせんって言うたやん!」

「だから言ったじゃろ。あくまでそれは人と人との間での話。今のオビオ君はチェスのなんじゃから、シュラス王陛下の御触れは関係ないんじゃよ」

「???」

 リュウグは何がどうなって、オビオがチェスの駒になったのか解らず、ただ魔法水晶の中の仲間を見つめるのだった。
 
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