料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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そびえ立つ筍

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 間近で轟々と音を立てて燃える火球は、掛け声と共に大きくなっていく。

「1、2、3・・・」

 ヒドラ星人の唱える数字はパワーレベル加算数だ。確かサーカは、十位階までの魔法を唱えられるようになっていたはず。

 一位階、十回唱えられるとしたら、パワーレベルは百加算される。しかしマスタークラスじゃない限り、高位魔法の詠唱回数は多くない。全部合わせても、精々七十ぐらいだろう。

 七十・・・。

 つまり大火球(ダメージ十から百)×七十で、最大7千の生命値が削られるってわけだ。

 俺は目の前で死の宣告をされているような気分になり、膝が震えた。自分で勝負を挑んでおいてなんだが、流石に七千ダメージが出たら死ぬ。まぁでも、実際のところ、数値通りのダメージが出ることはない。

「だ、大丈夫だ。レジストすれば何とかなる。耐えろよ! 俺!」

 顔をバシバシ叩いて、気合を入れる。
 
 果たして俺は物語の主人公のような奇跡を起こせるか? そして見事にサーカの遺体を取り戻せるだろうか?

「駄目だ! 弱気になるな。 弱気になればそれだけレジスト率が下がる」

 俺の強みはなんだ? タフさだ! ダメージを受けている間でも、ナノマシンが生命値を回復をしてくれる。

 父ちゃんと母ちゃんが、丈夫な子になれと願った結果が、今の俺!

 それに、こんな狭い中での【大火球】だ。俺が受け止め来れなかったら、仲間にもダメージがいく。

「67」

 運命の神様、俺に力を!

「68」

 仲間を守る力を!

「69。終了」

「エッチな数字で止まりやがった!」

「なんの話だ? 喰らえ! 【大火球】」

 俺、生き延びたらサーカと69するんだ・・・。って、何言ってんの? ピーターみたいな事言ってる。

 本来、広い場所で使うこの魔法は頭上から降ってくるものだが、牢屋の中ではそうもいかない。

 真正面からぶつかってきた大火球を、俺は両手を広げて受け止める。

「うぉぉぉぉぉ!!」

 ン? あれ? 熱くない。寧ろ、無感覚だ。

「うわぁぁ! オビオ!」

 ウィングが目をむいて驚いている。なんだ?

「ひぃぃぃ!」

 リュウグが体の向きを変えて背中を見せた。

 なんだ? どうしたどうした?

 ん? 焦げ臭いな。というより焦げてる。体より少し前に出した手が、黒檀の棒みたいになってるな。あ、これ駄目なやつだ・・・。

「オビオォォォ!」

 トウスさんが泣いてる。サーカの時は泣かなかったのに。

 あれ? やっぱり死んじゃうの? 俺。

 最期の言葉は何にしようか? 辞世の句ぐらい考えさせてくれよな。

 よし、なんか言うぞ。

「あれ! 目が見えない!」

 おい! 最期の言葉がそれかよ! 確かに目は見えなくなったけど! うむ、真っ暗だ。




「はぁ・・・。君がここに来るとは思わなかったでヤンス」

「うわぁ! まだ火球がある!」

 俺は闇の中の見知ったゴブリンよりも、大きな火球を見てそう叫んだ。いや、これは俺が、受け止めた大火球ではないな。宇宙の海原に浮かぶ太陽のようだ・・・。

「ん? なんでヤンスさんがいるの?」

「それはこっちのセリフでヤンスよ!」

 ヤンスさんが指を鳴らすと、闇にスクリーンが現れた。

「これを見るでヤンス」

 スクリーンに映し出された光景は、さっきまでいた俺のいた地下牢のようだが、床から変な物が生えている。

「なに? この炭化した筍みたいなの」

「オビオでヤンスよ!」

「おーれーー?!」

 嘘だろ・・・。これ、黒いところ剥いたら、ホカホカの筍の身が出てくるやつじゃん。

「えっと・・・。つまり、俺は死んだって事?」

「そうでヤーンス」

「じゃあ、皆も死ぬって事じゃん!」

「いや、そうはならなかったでヤンス。どういうわけか、オビオから鱗粉みたいな物が散って、魔法ダメージを吸収したでヤンス」

「くぅぅ! 俺が死んだ後に、ナノマシンが働いてくれたのか! 可愛い奴らめ! 素敵! できれば生きている時に機能してくれれば良かったのに!」

 普段は意識しないナノマシンを、脳内で擬人化して褒め称えた。

「なんでオビオは、あんな賭けに出たでヤンスか?」

「だって、あの状況だと、俺しか戦えないじゃん。まともに戦っても、ヒドラ星人には防御シールドがあるから、攻撃は通じないしさ」

「その “ぼうぎょし~るど” とやらは、サーカの体には無いでヤンス。賭けるなら、気合を込めた一撃のほうが良かったでヤンスね」

「まじ? まじ山まじ夫?」

「まじ山まじ夫でヤンス」

「くっそおおおお!! あれ? ・・・ヤンスさんも死んだの? こっから帰る手段とかない?」

「残念ながら。オビオはそういった星の下に生まれてないでヤンスから・・・」

 このゴブリン、本当にヤンスさんかな? なんか時々運命的な事を言う。

「じゃあ、俺は完?」

「完」




 背骨の半ばを頂点にして、そびえ立つオビオの死体を見て、白蛇は勝利の味に酔い、喜びというを噛み締めていた。

「さっきは、リュウグ君に負けたが、今回は勝った! 勝利するという事は! これ程にまで胸躍るものなのか!」

 多くの仲間が死に、単体となった白蛇の心に芽生えた新たなる感情。喜び。

「フン!」

 サーカの視界から見る、屈服した者たちの顔は実にみすぼらしい。

「オビオ・・・」

 リュウグは放心して、オビオの焦げた死体を見る。

 上半身の殆どが炭だ。内臓も焼け焦げて、下腹部にはポッカリと穴が空いている。細くて筋肉が適度についた体と甘い顔はどこを探しても無い。

「ハハハ! ハハッ!」

 笑いながらもツカツカと歩いて、白蛇は身動きができないトウスの腹を蹴った。

「――――!」

 獣人は呻かない。鼻の横に皺を寄せて牙を見せている。

「威嚇か? 身動きもできないのに、どうやって反撃をするんだ? ハーッ! 無駄無駄無駄! あぁ、最高だ! これが嗜虐心というものか! 仲間と意識を共有していた時は感情が均されて気が付かなかったが、実に気分が良い」

 白蛇は気が済むまでトウスを蹴る。

 そして視線はメリィに向いた。

「奇跡というものは、実に素晴らしいな。メリィ君には何度か煮え湯を飲まされた。オビオ君が受けた猛毒を、祈りで和らげた時は正直驚いた! なので君を仲間にすれば死を遠ざけ、今後は安泰だろう」

 白蛇はしゃがんで、メリィの顔を覗き込む。

 修道騎士の顔は険しい。

「どうしたね? 私を睨んだところで、オビオ君は生き返ってこないぞ? さぁ、笑いたまえ。君は新たな苗床となるんだ」

「・・・」

「どこに卵を産み付けて欲しい? 耳の中か? 口の中? それとも・・・。あぁ! アソコがいいか!」

 白蛇はゆっくりと口を開いて、喉奥から自身を出す。そして、メリィの下半身へと頭を動かした。

「いやだ」

 身動きできず、恐怖で引きつるメリィの瞳に映った蛇の喉元は、わかりやすいぐらいに卵型に膨らんでいた。
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