料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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突然のヒーロー

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「もうすぐ、夜が来る。それまでに済まそう」

「夜が来る」

 ヒドラ星人達は各々に日没後の薄闇の空を見る。

「宇宙のように暗い夜が来る」

 夜が来るからなんなのだと、捕縛の魔法で動けなくなったセロ・ブラッドは思った。

「ふん。夜の闇が、お前たちを食い破ってくれるなら、ワシは何でもするぞ!」

「どの爪でもいい。セロ・ブラッドの爪を剥がせ」

 ヒドラ星人は敢えて拷問を、洗脳したダーレにやらせる。これがセロの心にダメージを与えると確信しているからだ。

 犬人の戦士からナイフを受け取ると、女戦士は躊躇なく、主の人差し指の爪の間にナイフをこじ入れた。

「ぎゃあああ!!」

 ピンと音がして爪が剥がれる。

「心、折れたか?」

 ヒドラ星人の問いに、指先から血を流すセロは虚勢で返す。

「ハァハァ。この程度で折れるか! ダーレを返せ!」

 じっとセロを見つめる蛇たちは、瞳すら動かさない。

「まだのようだ」

 ――――ピンッ!

「うがああ!!」

 ――――ピンッ!

「いぎぃぃぃ!」

 魚の鱗を剥がすかのように、セロの爪は容易に剥がれていった。

「あぁ、ダーレ! 目を覚ましておくれ! ワシじゃ! セロじゃ!」

 ――――ピンッ!

 目に光のないダーレは、無慈悲にセロ・ブラッドの爪を剥がしていく。

「わかったぁ! もういい! ワシの負けじゃ! 心折れた! 従う! 止めてくれ!」

 ヒドラ星人達は顔を見合わせる。

「折れたのか?」

「わからない。彼は我々ではないから。誰か【読心】の魔法を使える者は?」

「この場にはいない。他の場所で戦っている我々が、その魔法を知っている」

「呼ぶか?」

「いいや、夜が近い。予定通り、腕を斬って心を完全に折ろう。こいつを操れば、この領土を占領し易いはずだ」

「そうするか」

「そうしよう」

「ダーレ、セロの腕を斬れ」

 ダーレが腰のメイスを取り出すと、近くのメイジがそのメイスに【光の剣】の魔法を付与する。

 目の前で光る魔法剣を見せられて、セロはついに心底観念した。もうあの頃のダーレは戻ってこないのだろうと。彼女は完全に洗脳されてしまったのだ。このまま蛇たちは侵攻していき、いずれはリュウグを打ち負かすだろう。そうなれば、何もかも忘れて蛇の下僕。

「ダーレ・・・。ダーレや。ワシが記憶を失う前に・・・。あの頃のように呼んでおくれ。“おとうちゃん”と」

 セロは幼き日のダーレを、瞼の裏に思い浮かべる。魔法より体を動かす事が得意な彼女を、毎日館へ招いて戦士として育てきた、あの頃を。

 ある日、セロはふざけて自分のことを、“お父ちゃんと”呼ぶようにダーレに言ってみた。するとどうだろうか、生まれた時から父親がいない彼女は、ニカっと笑って呼んでくれたのだ。自分のことを、お父ちゃんと。

「早く斬れ」

 ヒドラ星人の命令に従って、ダーレがセロの腕を斬ろうと、振り下ろしたその手が止まる。

「うっ・・・。うっ! おとう・・・ちゃん」

「どうした。命令を遂行せよ」

 蛇の冷たい声を聞いたダーレは体がビクリと震えた。そしてもう一度、振り下ろしの構えを取る。

「うぅ。嫌だ・・・。お父ちゃん・・・。こんな事をしたくない。誰か・・・。助けて! 私は愛しているお父ちゃんを傷つけたくないぃぃ!」

 奥歯が折れるのではないかと思うほど、歯ぎしりをして抵抗するダーレだったが、体は勝手に動く。

「嫌だァァ! おとうちゃぁぁん!」

 ――――ブン!

 魔法剣を振り下ろす音と同時に、どこからか鼻を啜る音がした。

「グスッ! させるか! 行け! ブーメラン鉄鍋!」

 ブンブンと音がして、ドワーフ製の魔法鉄鍋が飛ぶ。

 ――――キン!

 剣を振り下ろすタイミングがばっちりと合い、ダーレの魔法剣が鉄鍋に弾かれて、彼女は尻もちをつく。

「お前ら! クソ蛇! コラァ! 何をどう生きたら! そんな無慈悲になれるんだよッ!」

「あれはオビオ!」

「おお! オビオ!」

 ヒドラ星人たちがざわめく。

 蛇たちの視線の先に、何故かオビオだけが一人、ポツンと立って憤慨していた。
 
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