料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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不味いクッキー

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 鼻歌を歌いながら、客間のタンスを探るメリィに俺は声を掛けた。

「多分、そんなところにカクイ司祭の罪を示す証拠なんて、無いと思うぞ」

 俺の忠告に、サーカやトウスさん、ピーターまでもが頷く。

「え~。そうなのかな~?」

 彼女は困り顔で振り返ってまたタンスに向き、お尻を突き出して、別の引き出しを探っている。

 ピーターがムチムチのお尻を見て、ガタッ! とうるさく立ったが、俺は興奮する少年の肩を押さえて、強引に座らせた。

「そこにも無いって。というか、客間に大事な証拠を置くわけないだろ?」

「あ、そおっか~。そうだよね~」

 メリィは部屋の捜索を諦めて、ムクやサーカの座るソファの横に座った。そして美味しそうに、そば粉のクッキーを頬張っている。

 クッキーと紅茶は、さっきウィングが運んできた物で、彼が部屋から出てすぐに鑑定をしたので問題はない。が、俺は一口食べて、クッキーに興味がなくなった。

 理由は簡単。ボソボソしてて不味いからだ。圧倒的に砂糖とバターが足りていない。紅茶がなければ、口の水分を全部持っていかれただろう。

 それでもメリィは、粗食に慣れている修道女。なんだって美味しいと言って食べる。彼女の貧乏舌が羨ましい。

「なぁ、司祭は俺たちを歓迎するって言ってたけど、バトルコック団が満足できる料理なんて、本当に出せるのかなぁ?」

 ピーターがクッキーを一口齧って、俺と同じく紅茶受けの皿に置いた。

「まずっ! やっぱオビオのクッキーは最高だよな。バターもたっぷり入っているし、香ばしくてサクサクしてるし、程よく甘いし」

 嬉しいこと言ってくれるねぇ。俺は賄賂を渡す小者のように「褒めてくれて、ありがとな、これな? な?」と言って、俺が作ったクッキーをピーターに握らせた。

 ピーターが「やった!」と言って嬉しそうにバタークッキーを齧っているのを見て、ムクが怒りだす。

「お兄ちゃん! ピーターにだけ、クッキーをあげるのズルい!」

 最近は、ムクも自己主張が強くなってきたな。それもそうだろう。彼女は目が見えるようになってきたからだ。後天的な記憶喪失と、栄養失調による失明。

 記憶喪失はどうにもならないが、栄養失調による失明は、食事でなんとかなった。タンパク質を多く摂らせ、目が良くなる野草やベリーで、ムクの目はどんどんと回復していったのだ。

 最初、彼女を鑑定した時は、先天的な疾患による失明だという情報があったのに、いつの間にか後天的になっていた。まるで彼女の中に、二つの魂が入っているかのような、情報の書き換えが起きたのだ。

 以前、メリィにその話をした事があったが、「ムクちゃんの目が良くなったのは、神の御業なりぃ~」と言われて、正直どうでもよくなった。よく考えれば、ここは魔法の世界。矛盾なんて、魔法や奇跡やマナ、或いは神様の都合で、どうとでもなるだろう。

 俺は亜空間ポケットからクッキーを出すと、そば粉クッキーの上に数枚置いた。勿論、複数の手が伸びてきて、クッキーはあっという間に無くなる。

 田舎貴族の娘とはいえ、上品にクッキーを食べるサーカに俺は尋ねた。

「【魔法探知】で、怪しいものは見つけたか?」

「思った以上に、マジックアイテムが少ないな。見た通り質素な生活をしているようだ。マジックアイテムも、奇跡の助けになる物ばかりだな」

「樹族国の司祭なんて、魔法の指輪を沢山はめて、豪華なローブを着てるのにな」

「現人神様の出現で、幾分か質素にはなったがな。宗教庁もヒジリ様を支持しているし。貧乏王の名を持つ神様以上の贅沢はできまい」

「光側が闇の神様を崇拝するのも、変な話だけどな」

「はぁ。脳の中に虚空なる空間を作りだしコック殿。以前にも、この話をしただろう? 我らは何千年と神に見捨てられていたのだ。なので神が健在してる事が何より大切。原始時代の頃は、ドラゴンを神として崇めていたのだぞ。それに比べたら闇の神なんて、まだマシだ」
 
「でももし、現人神がヒジリ猊下じゃなかったら、光側種族と闇側種族で戦争になっていたかもしれないじゃん。それでも、光側は闇側の神を崇めるのか?」

「これも前に言ったが・・・、脳みそが白子の我がリーダー。どの神を崇めるかは、個々人の自由なのだ。信仰心だけは、何者だろうが自由にできない。例えウィングが脅されて、表面上、樹族の神を崇めたところで、真なる心の内では、ヒジリ様を崇める事ができる。そういう事だ。戦争になって国同士が争う事と、信仰心は別なのだ」

「ふーん」

 こういう話は、メリィかウィングとした方が良いのだろうけど、メリィは「え~っと」「むむぅ~」「なんだっけ~?」という言葉しか出てこない。信仰心はパーティの中でもダントツに高いのだけど、それを表現する知性が足りないのだ。

 逆にウィングに神の話を振ると、ノームのごとく早口になって夢中になるので、話を切り上げにくくなる。

「今夜の料理が気になるなぁ。俺、ちょっと厨房を覗いてくるよ。手伝えそうだったら、手伝ってくる。皆は引き続き、警戒しつつ待機しててくれ」

「一人で大丈夫か? オビオ。ピーター連れて行け。影に潜ませておけば安心だぞ」

「いや、いいよ。心配してくれて、ありがとうトウスさん。一応、戦士の指輪も付けとくしさ、やばくなったら大声あげる。ピーターはメリィを手伝ってくれないか?」

「証拠探しか? まぁいいけどさ」

「じゃあ、頼んだぜ」

 この屋敷が俺達にとって、危険なのは解っているけど・・・。

 厨房にどんな食材があるのだろうか? ちょっとワクワクしてきた。
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