170 / 331
走るメリィ
しおりを挟む
「俺様は指相手でも、殺意を緩めたりはしねぇ。なんなら血の霧になるまで、切り刻んでやるぜぇ!」
オビオの蘇生を拒否した現人神とは対照的に、反逆と矛盾の悪魔は、サーカの投げたオビオの指を、言葉通り魔刀で血の霧になるぐらいに切り刻んでしまった。
血の霧は直様、人の形をとり、裸のオビオが現れて、彼の頭の辺りから声が聞こえてくる。
「サブAIの修復を確認。記憶領域一部破損。依然生命活動に対する脅威は排除できず。敵対勢力の脅威レベルS。ナノマシンを緊急進化させます。模倣パターン、大神聖」
「ああ? なんだ? オビオの野郎、即蘇生しやがったぞ。普通は五分くらいかかるんだがな」
キリマルが驚いている間に、オビオの体が光り、黒いパワードスーツを装着していた。薄い装甲が浮いて、熱気を放出している。
「敵対者ヲ排除スル」
そう言ってオビオが真っ先に向かったのは、自分の分身でもある赤竜だった。
竜の口を閉じるために、絡みついていたトウスは、急遽、迫りくるオビオから離れる。
(なんだ? オビオが妙だ。復活してからのあいつを見ていると、逆毛が立つ)
トウスよりも大柄なオビオは、竜の角を持つと、その場で弧を描くように一回転して、事も無げに首を千切ってしまった。
そして、竜の首から流れ落ちる血を飲み干している。相変わらずオビオの頭辺りから機械的な声が聞こえてきた。
「ナノマシンの情報回収完了」
「我々は、何を見ているのだ・・・」
魔刀天の邪鬼で斬り殺され、五分後に復活したムダンたちは、バリケードに到着して、羅刹のような動きをするオビオを見て驚く。
驚異的な戦闘力を見せるオビオに対して、敵側は焦って歩を進めた。
「このままでは、カクイ司祭が危ない。メイジは魔法で援護しろ!」
神殿騎士の一人がそう叫ぶと、メイジの集団がオビオに向かって次々と魔法を放つ。
しかし、パワードスーツの装甲が宙に浮いて、飛んでくる攻撃魔法を迎え受けて、無効化してしまった。
「あいつが! 抗うのかよ!」
自分の必殺必中の攻撃を奇跡的に防いだエリムス兄妹が、悪戦苦闘して運命に抗うのかと思っていたキリマルは、期待を裏切られ、退屈そうに頬を掻き、超人化したオビオを見る。
「オビオに続け! 料理人一人に! 名誉を独り占めにさせるな!」
武人ムダンは、陣形を組んでオビオに向かう神殿騎士に向かって、馬で突っ込む。
「喰らえ! 我が魔法の武器! 大胆なる鉄球を!」
長い鎖が届く範囲内なら、どこにでも鉄球は飛んでいった。しかも当たれば出血効果を伴う攻撃だ。
次々と倒れていく神殿騎士だったが、後方で守られている僧侶が、即座にそれを回復してしまう。
「高位の僧侶が五十人程! これは面倒であるぞ。ほぼ無尽蔵に回復ができると言っても過言ではない」
ムダンは少し離れた場所にいる黒騎士に大声で告げた。
「ステコ・ワンドリッター。お前とは手を組みたくは無かったが、息子の友人として頼む。この位置から僧侶をなんとかしてくれ。それができるのは、お前が編み出した、名もなき土魔法のみ!」
遠距離魔法を得意とするコーワゴールド家程ではないが、ステコ・ワンドリッターの独自魔法もそれなりに離れた場所から攻撃できる事をムダンは知っていた。
「この戦い、どうしても勝ちたい!」
ムダン家とワンドリッター家は犬猿の仲だが、神殿騎士やメイジに奮闘するバトルコック団を見て、ムダンは武人としての血が騒いだのだ。
角つき黒兜の下で、ステコはフッと笑って、詠唱を開始した。
「良かろう。この事は我が父上には内緒だ。ムダン侯爵。見るが良い! スタン系魔法【地割れ】を進化させた【大地震】を!」
ステコがワンドを僧侶のいる場所に向けた。
――――ズドドドドド!!
突然、僧侶の一団がいる一帯が揺れた後、地割れが発生し、隆起した岩が彼らを押しつぶしてしまった。
「これで後顧の憂いなし! 気兼ねなく激突できるぞ! ワシの後に続け! ムダン騎士団!」
乱戦になるとメイジの出番は少ない。魔法が味方に被弾しかねないからだ。勿論敵にしか作用しない魔法もあるが、ムダン騎士団は魔法の防具でその対策を怠ってたはいない。
オビオは相変わらず狂戦士のように、神殿騎士を持ち上げて地面に叩きつけ、血の染みにし、メイジの体を手刀で貫き殺していた。
「あれは本当にオビオなのか? サーカ」
兄妹で背中合わせになって、襲いかかってくる神殿騎士に魔法を放つエリムスは妹に訪ねた。
「あんな凶暴なオビオは初めて見ました。正直言うと彼が怖い・・・」
「まさかとは思うが、オビオの狂戦士化は教皇の計画の一環なのか? 鬼神でも崇めるつもりか?」
「それはねぇな」
いつの間にか、サーカの影に潜んでいたキリマルが「ヒヒヒ」と笑いながら会話に混ざってきた。
「俺様は神話の時代から、真の世界の終わりまで見てきた。その中で、それこそ宵の明星の如く輝いてきた、星のオーガの事もよく知っている」
「悪魔の話を信じると思うか?」
そう疑うサーカの股の下の影から爪を伸ばして、目の前の神殿騎士を殺し、キリマルは「おっと!」と白々しく呻いた。
「ついつい殺してしまった。どうして人の命が消える様を見るのは、こんなに気持ちが良いのだろうなぁ? 昔テレビで見た痴呆老人が、人を叩いた後に、『人を叩くのは気持ちいいなぁ』と言って笑っていたのを見た事があるが、あれと似たようなものか? クハハ!」
「わけのわからん事を!」
サーカはブーツの踵で、影を踏んだ。
「いてぇ」
悪魔は痛がった後、また語りだした。
「いいか、お前らの言う星のオーガは幻と同じだ。常に幻の世界の中で、平和と不死を甘受して生きている。実際の幸せの園は、無機質な機械の惑星なんだ。あいつら人間は、対アンドロイド戦争に負けた。それに誰もが気づいてもいない。人間はデータ化されて、その中からヒジリは運命の神に引っ張り出された。幸せの園の中でも異質なヒジリなら、盗み出しても問題ないと、運命の神は思ったのだろう。そして非力な神は自分を救う英雄として彼を、この星に招いた」
サーカはキリマルの話の殆どを理解できなかった。戦闘の最中で、この悪魔は何故こんな話をしているのだろうかと訝しむだけだ。
「物語の特異点である星のオーガはお前らが思っている通り、神のような力を持っている。しかし、オビオは別だ。あいつはただの一般人だ。ヒジリのような強力な支援と自己強化が出来るだけの科学知識など持ってねぇ。できるのは料理だけだ。そんな奴が、いきなり幸せの園から、死と隣り合わせの、この世界に来たらどうなると思う?」
サーカは残り少ない魔法点をどう使うかを考えながら、キリマルの話も聞いていた為、肩にハルバードの斬撃を食らってしまった。
「回復~」
間の抜けた声が聞こえてきた。するとサーカの肩の傷は直ぐに治った。その代償に空腹が襲ってくる。
(あぁ、オビオのパンが食べたい・・・)
サーカがオビオの作ったエンチャントパンを懐かしんでいると、遠くでメイジの悲鳴が聞こえてくる。
ピーターだ。メリィに捕縛の魔法を解除してもらった彼は、邪悪な顔をして、メイジに復讐をしている。次々に彼らを背後から短剣で突き刺しているのだ。
「オビオが真の星のオーガなら、一般人でも問題なく生き延びれるだろう。実際そうだった」
サーカは周りの状況を逐一観察し、警戒しながらキリマルにそう答えた。
「モブ同然の奴が、生き延びれたのは運が良かったのと、仲間のお前らの助けがあったらからこそ。しかし、カクイに捕まって実験台にされている間、奴は孤立無援だった。星のオーガは人よりも魔法傀儡に近い。勿論魔法なんかでは動いてはいないがな。傀儡使いが使う魔法傀儡は、どんどんと学習して強くなっていくだろう? オビオもそれと同じなんだわ。危機が迫れば迫るほど、奴の体の中の安物サブAIと安物ナノマシンは進化する」
「つまり、オビオが今の姿になっているのは、我々がオビオの生存を確認せずに、逃げたせいだと言いたいのか?」
ここで悪魔は影から、ハンマーのような頭だけを出して歯を見せて笑った。
「クハハ。そうだ。お前らのせいでオビオはああなった。もう治らねぇかもな。さっき、記憶領域を損傷していると聞こえたぞ。お前らの事をすっかり忘れているかもな。それでも奴を愛せるのか? え? クヒヒ」
「悪魔の言葉に耳を傾けるな、サーカ」
エリムスは範囲魔法で神殿騎士達を打倒しながら、背中のサーカに忠告する。
「そうですよッ! キリマルはッ! 人を惑わせて楽しむ悪い癖があるッ! 気にしないで下さいッ!」
戦いに干渉するのを止めたのか、【姿隠し】で身を隠してどこかにいるビャクヤは、キリマルの悪趣味に辟易とした感じでそう言った。
「そろそろ終わりは近いな」
エリムスは呟いた。その呟きにはどこか懸念が混じっている。キリマルのせいで、最後まで戦う事ができなかった紫陽花騎士団が、不名誉を被らないかを心配しているのだ。
戦いは終盤に差し掛かり、戦局は明らかになっている。
神殿騎士はムダン騎士団とトウスやサーカ、エリムスによって打ち倒され、僧侶達はステコの魔法で戦闘不能状態、メイジ達はムダン騎士団と向き合っている間に、背後からピーターにバックスタブを決められて死亡。
生き残った敵は、ありったけのマジックアイテムを差し出して、捕虜としての扱いを要求している有様だ。
竜の死体の横で、怯えたまま立つカクイ司祭には、もう魔法点が残っていないのか、転移魔法で逃げる余力もない。
「あはは、まさか星のオーガとはいえ、料理人如きに赤竜が倒され、悪魔に裏切られるとは・・・」
「裏切ったのはお前だろうが」
キリマルが、サーカの影から吐き捨てるように言う。
「残る道は一つ。教皇様の手を煩わせない事のみ。全てを・・・。全てを無かった事にするのです!」
カクイはダガーを二本、腰のポーチから取り出して、両手に持った。
「自害するつもりか?」
ステコが黒馬でカクイに近づき、鼻で笑う。
「自害したとて、貴様は強制的に蘇生される。なぁ? ガノダにキリマルよ」
昔の冒険仲間の名を呼んで、ステコは震えるカクイに顔を寄せた。
「いいか。ワンドリッター家との取引の事は、他言無用であるぞ。さもなければ・・・」
「その心配なら無用ですよ、ステコ様。先程も言いましたが、全てを無かった事にするのですから」
「?」
「もうすぐ貴方達がモティの領地に来た理由は無くなり、ただの不法侵犯となるだけです。しかし、タダで、というわけにはいきません。あの世への・・・。あの世に行けるのであれば、の話ですが。カロンに差し出す、お代を頂きとうございます・・・」
敵対者を一掃し、近くで棒立ちになっているオビオに向けて、カクイはダガーの一本を突き出した。それは殺す意図のない、ただ当てるだけといった感じで、震える手がゆっくりとオビオに伸びる。
そして左手の一本を自分の喉元に当てようとしたその時――――。
【透明化】で身を隠していたウィングが、その二つの攻撃それぞれを、両の手で防いでしまったのだ。金髪碧眼の美男子の両手には小さな切り傷が出来た。
「ば、馬鹿な! 愚かにも程がありますよ、ウィング!」
「そうですか? 一体何をするつもりか知りませんが、カクイ様。僕は貴方に何もさせませんよ」
誰もがウィングの起こした行動を気にも止めなかった。師匠であるカクイの見苦しい悪あがきを、弟子が止めただけに見える。
しかし、その中で一人、青ざめた顔で叫ぶ騎士がいた。
「ウィング・ライトフット!」
普段はおっとりしているメリィが、銀髪を振り乱して、片手を彼に向けて走った。
オビオの蘇生を拒否した現人神とは対照的に、反逆と矛盾の悪魔は、サーカの投げたオビオの指を、言葉通り魔刀で血の霧になるぐらいに切り刻んでしまった。
血の霧は直様、人の形をとり、裸のオビオが現れて、彼の頭の辺りから声が聞こえてくる。
「サブAIの修復を確認。記憶領域一部破損。依然生命活動に対する脅威は排除できず。敵対勢力の脅威レベルS。ナノマシンを緊急進化させます。模倣パターン、大神聖」
「ああ? なんだ? オビオの野郎、即蘇生しやがったぞ。普通は五分くらいかかるんだがな」
キリマルが驚いている間に、オビオの体が光り、黒いパワードスーツを装着していた。薄い装甲が浮いて、熱気を放出している。
「敵対者ヲ排除スル」
そう言ってオビオが真っ先に向かったのは、自分の分身でもある赤竜だった。
竜の口を閉じるために、絡みついていたトウスは、急遽、迫りくるオビオから離れる。
(なんだ? オビオが妙だ。復活してからのあいつを見ていると、逆毛が立つ)
トウスよりも大柄なオビオは、竜の角を持つと、その場で弧を描くように一回転して、事も無げに首を千切ってしまった。
そして、竜の首から流れ落ちる血を飲み干している。相変わらずオビオの頭辺りから機械的な声が聞こえてきた。
「ナノマシンの情報回収完了」
「我々は、何を見ているのだ・・・」
魔刀天の邪鬼で斬り殺され、五分後に復活したムダンたちは、バリケードに到着して、羅刹のような動きをするオビオを見て驚く。
驚異的な戦闘力を見せるオビオに対して、敵側は焦って歩を進めた。
「このままでは、カクイ司祭が危ない。メイジは魔法で援護しろ!」
神殿騎士の一人がそう叫ぶと、メイジの集団がオビオに向かって次々と魔法を放つ。
しかし、パワードスーツの装甲が宙に浮いて、飛んでくる攻撃魔法を迎え受けて、無効化してしまった。
「あいつが! 抗うのかよ!」
自分の必殺必中の攻撃を奇跡的に防いだエリムス兄妹が、悪戦苦闘して運命に抗うのかと思っていたキリマルは、期待を裏切られ、退屈そうに頬を掻き、超人化したオビオを見る。
「オビオに続け! 料理人一人に! 名誉を独り占めにさせるな!」
武人ムダンは、陣形を組んでオビオに向かう神殿騎士に向かって、馬で突っ込む。
「喰らえ! 我が魔法の武器! 大胆なる鉄球を!」
長い鎖が届く範囲内なら、どこにでも鉄球は飛んでいった。しかも当たれば出血効果を伴う攻撃だ。
次々と倒れていく神殿騎士だったが、後方で守られている僧侶が、即座にそれを回復してしまう。
「高位の僧侶が五十人程! これは面倒であるぞ。ほぼ無尽蔵に回復ができると言っても過言ではない」
ムダンは少し離れた場所にいる黒騎士に大声で告げた。
「ステコ・ワンドリッター。お前とは手を組みたくは無かったが、息子の友人として頼む。この位置から僧侶をなんとかしてくれ。それができるのは、お前が編み出した、名もなき土魔法のみ!」
遠距離魔法を得意とするコーワゴールド家程ではないが、ステコ・ワンドリッターの独自魔法もそれなりに離れた場所から攻撃できる事をムダンは知っていた。
「この戦い、どうしても勝ちたい!」
ムダン家とワンドリッター家は犬猿の仲だが、神殿騎士やメイジに奮闘するバトルコック団を見て、ムダンは武人としての血が騒いだのだ。
角つき黒兜の下で、ステコはフッと笑って、詠唱を開始した。
「良かろう。この事は我が父上には内緒だ。ムダン侯爵。見るが良い! スタン系魔法【地割れ】を進化させた【大地震】を!」
ステコがワンドを僧侶のいる場所に向けた。
――――ズドドドドド!!
突然、僧侶の一団がいる一帯が揺れた後、地割れが発生し、隆起した岩が彼らを押しつぶしてしまった。
「これで後顧の憂いなし! 気兼ねなく激突できるぞ! ワシの後に続け! ムダン騎士団!」
乱戦になるとメイジの出番は少ない。魔法が味方に被弾しかねないからだ。勿論敵にしか作用しない魔法もあるが、ムダン騎士団は魔法の防具でその対策を怠ってたはいない。
オビオは相変わらず狂戦士のように、神殿騎士を持ち上げて地面に叩きつけ、血の染みにし、メイジの体を手刀で貫き殺していた。
「あれは本当にオビオなのか? サーカ」
兄妹で背中合わせになって、襲いかかってくる神殿騎士に魔法を放つエリムスは妹に訪ねた。
「あんな凶暴なオビオは初めて見ました。正直言うと彼が怖い・・・」
「まさかとは思うが、オビオの狂戦士化は教皇の計画の一環なのか? 鬼神でも崇めるつもりか?」
「それはねぇな」
いつの間にか、サーカの影に潜んでいたキリマルが「ヒヒヒ」と笑いながら会話に混ざってきた。
「俺様は神話の時代から、真の世界の終わりまで見てきた。その中で、それこそ宵の明星の如く輝いてきた、星のオーガの事もよく知っている」
「悪魔の話を信じると思うか?」
そう疑うサーカの股の下の影から爪を伸ばして、目の前の神殿騎士を殺し、キリマルは「おっと!」と白々しく呻いた。
「ついつい殺してしまった。どうして人の命が消える様を見るのは、こんなに気持ちが良いのだろうなぁ? 昔テレビで見た痴呆老人が、人を叩いた後に、『人を叩くのは気持ちいいなぁ』と言って笑っていたのを見た事があるが、あれと似たようなものか? クハハ!」
「わけのわからん事を!」
サーカはブーツの踵で、影を踏んだ。
「いてぇ」
悪魔は痛がった後、また語りだした。
「いいか、お前らの言う星のオーガは幻と同じだ。常に幻の世界の中で、平和と不死を甘受して生きている。実際の幸せの園は、無機質な機械の惑星なんだ。あいつら人間は、対アンドロイド戦争に負けた。それに誰もが気づいてもいない。人間はデータ化されて、その中からヒジリは運命の神に引っ張り出された。幸せの園の中でも異質なヒジリなら、盗み出しても問題ないと、運命の神は思ったのだろう。そして非力な神は自分を救う英雄として彼を、この星に招いた」
サーカはキリマルの話の殆どを理解できなかった。戦闘の最中で、この悪魔は何故こんな話をしているのだろうかと訝しむだけだ。
「物語の特異点である星のオーガはお前らが思っている通り、神のような力を持っている。しかし、オビオは別だ。あいつはただの一般人だ。ヒジリのような強力な支援と自己強化が出来るだけの科学知識など持ってねぇ。できるのは料理だけだ。そんな奴が、いきなり幸せの園から、死と隣り合わせの、この世界に来たらどうなると思う?」
サーカは残り少ない魔法点をどう使うかを考えながら、キリマルの話も聞いていた為、肩にハルバードの斬撃を食らってしまった。
「回復~」
間の抜けた声が聞こえてきた。するとサーカの肩の傷は直ぐに治った。その代償に空腹が襲ってくる。
(あぁ、オビオのパンが食べたい・・・)
サーカがオビオの作ったエンチャントパンを懐かしんでいると、遠くでメイジの悲鳴が聞こえてくる。
ピーターだ。メリィに捕縛の魔法を解除してもらった彼は、邪悪な顔をして、メイジに復讐をしている。次々に彼らを背後から短剣で突き刺しているのだ。
「オビオが真の星のオーガなら、一般人でも問題なく生き延びれるだろう。実際そうだった」
サーカは周りの状況を逐一観察し、警戒しながらキリマルにそう答えた。
「モブ同然の奴が、生き延びれたのは運が良かったのと、仲間のお前らの助けがあったらからこそ。しかし、カクイに捕まって実験台にされている間、奴は孤立無援だった。星のオーガは人よりも魔法傀儡に近い。勿論魔法なんかでは動いてはいないがな。傀儡使いが使う魔法傀儡は、どんどんと学習して強くなっていくだろう? オビオもそれと同じなんだわ。危機が迫れば迫るほど、奴の体の中の安物サブAIと安物ナノマシンは進化する」
「つまり、オビオが今の姿になっているのは、我々がオビオの生存を確認せずに、逃げたせいだと言いたいのか?」
ここで悪魔は影から、ハンマーのような頭だけを出して歯を見せて笑った。
「クハハ。そうだ。お前らのせいでオビオはああなった。もう治らねぇかもな。さっき、記憶領域を損傷していると聞こえたぞ。お前らの事をすっかり忘れているかもな。それでも奴を愛せるのか? え? クヒヒ」
「悪魔の言葉に耳を傾けるな、サーカ」
エリムスは範囲魔法で神殿騎士達を打倒しながら、背中のサーカに忠告する。
「そうですよッ! キリマルはッ! 人を惑わせて楽しむ悪い癖があるッ! 気にしないで下さいッ!」
戦いに干渉するのを止めたのか、【姿隠し】で身を隠してどこかにいるビャクヤは、キリマルの悪趣味に辟易とした感じでそう言った。
「そろそろ終わりは近いな」
エリムスは呟いた。その呟きにはどこか懸念が混じっている。キリマルのせいで、最後まで戦う事ができなかった紫陽花騎士団が、不名誉を被らないかを心配しているのだ。
戦いは終盤に差し掛かり、戦局は明らかになっている。
神殿騎士はムダン騎士団とトウスやサーカ、エリムスによって打ち倒され、僧侶達はステコの魔法で戦闘不能状態、メイジ達はムダン騎士団と向き合っている間に、背後からピーターにバックスタブを決められて死亡。
生き残った敵は、ありったけのマジックアイテムを差し出して、捕虜としての扱いを要求している有様だ。
竜の死体の横で、怯えたまま立つカクイ司祭には、もう魔法点が残っていないのか、転移魔法で逃げる余力もない。
「あはは、まさか星のオーガとはいえ、料理人如きに赤竜が倒され、悪魔に裏切られるとは・・・」
「裏切ったのはお前だろうが」
キリマルが、サーカの影から吐き捨てるように言う。
「残る道は一つ。教皇様の手を煩わせない事のみ。全てを・・・。全てを無かった事にするのです!」
カクイはダガーを二本、腰のポーチから取り出して、両手に持った。
「自害するつもりか?」
ステコが黒馬でカクイに近づき、鼻で笑う。
「自害したとて、貴様は強制的に蘇生される。なぁ? ガノダにキリマルよ」
昔の冒険仲間の名を呼んで、ステコは震えるカクイに顔を寄せた。
「いいか。ワンドリッター家との取引の事は、他言無用であるぞ。さもなければ・・・」
「その心配なら無用ですよ、ステコ様。先程も言いましたが、全てを無かった事にするのですから」
「?」
「もうすぐ貴方達がモティの領地に来た理由は無くなり、ただの不法侵犯となるだけです。しかし、タダで、というわけにはいきません。あの世への・・・。あの世に行けるのであれば、の話ですが。カロンに差し出す、お代を頂きとうございます・・・」
敵対者を一掃し、近くで棒立ちになっているオビオに向けて、カクイはダガーの一本を突き出した。それは殺す意図のない、ただ当てるだけといった感じで、震える手がゆっくりとオビオに伸びる。
そして左手の一本を自分の喉元に当てようとしたその時――――。
【透明化】で身を隠していたウィングが、その二つの攻撃それぞれを、両の手で防いでしまったのだ。金髪碧眼の美男子の両手には小さな切り傷が出来た。
「ば、馬鹿な! 愚かにも程がありますよ、ウィング!」
「そうですか? 一体何をするつもりか知りませんが、カクイ様。僕は貴方に何もさせませんよ」
誰もがウィングの起こした行動を気にも止めなかった。師匠であるカクイの見苦しい悪あがきを、弟子が止めただけに見える。
しかし、その中で一人、青ざめた顔で叫ぶ騎士がいた。
「ウィング・ライトフット!」
普段はおっとりしているメリィが、銀髪を振り乱して、片手を彼に向けて走った。
0
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜
たや
ファンタジー
その勇者は、休日のみ地球のバス停から異世界に旅立つ
幼い頃に家族で異世界“ハーモラル”を巡っていた日向凛斗がこちらの世界に帰還して10年が過ぎていた。
しかし最近、ハーモラルの魔獣が頻繁に現実世界に姿を現し始める異変が起こった。
高校生となった凛斗は夜な夜な魔獣討伐の為に街を駆け巡っていたがある日、原因はハーモラルにあると言う祖父から一枚のチケットを渡される。
「バス!?」
なんとハーモラルに向かう手段は何故かバスしかないらしい。
おまけにハーモラルに滞在できるのは地球時間で金曜日の夜から日曜日の夜の48時間ピッタリで時間になるとどこからかバスがお迎えに来てしまう。
おまけに祖父はせめて高校は卒業しろと言うので休日だけハーモラルで旅をしつつ、平日は普通の高校生として過ごすことになった凛斗の運命はいかに?
第二章 シンヘルキ編
センタレアから出発したリントとスノウは旅に必須の荷車とそれを引く魔獣を取り扱っているシンヘルキへと向かう。
しかし地球に戻ってくるとなんと魔王が異世界から地球に襲来したり、たどり着いたシンヘルキでは子を持つ親が攫われているようだったり…?
第三章 ナフィコ編
シンヘルキの親攫い事件を解決し、リント達は新たな仲間と荷車とそれを引く魔獣を手にして新たなギルド【昇る太陽】を立ち上げた。
アレタの要望で学院都市とも呼ばれる国のナフィコへ向かうが滞在中に雷獄の雨が発生してしまう。
それを発生させたのはこの国の学生だそうで…?
※カクヨム、小説家になろうにも同時掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる