料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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走るメリィ

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「俺様は指相手でも、殺意を緩めたりはしねぇ。なんなら血の霧になるまで、切り刻んでやるぜぇ!」

 オビオの蘇生を拒否した現人神とは対照的に、反逆と矛盾の悪魔は、サーカの投げたオビオの指を、言葉通り魔刀で血の霧になるぐらいに切り刻んでしまった。

 血の霧は直様、人の形をとり、裸のオビオが現れて、彼の頭の辺りから声が聞こえてくる。

「サブAIの修復を確認。記憶領域一部破損。依然生命活動に対する脅威は排除できず。敵対勢力の脅威レベルS。ナノマシンを緊急進化させます。模倣パターン、大神聖おおがひじり

「ああ? なんだ? オビオの野郎、即蘇生しやがったぞ。普通は五分くらいかかるんだがな」

 キリマルが驚いている間に、オビオの体が光り、黒いパワードスーツを装着していた。薄い装甲が浮いて、熱気を放出している。

「敵対者ヲ排除スル」

 そう言ってオビオが真っ先に向かったのは、自分の分身でもある赤竜だった。

 竜の口を閉じるために、絡みついていたトウスは、急遽、迫りくるオビオから離れる。

(なんだ? オビオが妙だ。復活してからのあいつを見ていると、逆毛が立つ)

 トウスよりも大柄なオビオは、竜の角を持つと、その場で弧を描くように一回転して、事も無げに首を千切ってしまった。

 そして、竜の首から流れ落ちる血を飲み干している。相変わらずオビオの頭辺りから機械的な声が聞こえてきた。

「ナノマシンの情報回収完了」

「我々は、何を見ているのだ・・・」

 魔刀天の邪鬼で斬り殺され、五分後に復活したムダンたちは、バリケードに到着して、羅刹のような動きをするオビオを見て驚く。

 驚異的な戦闘力を見せるオビオに対して、敵側は焦って歩を進めた。

「このままでは、カクイ司祭が危ない。メイジは魔法で援護しろ!」

 神殿騎士の一人がそう叫ぶと、メイジの集団がオビオに向かって次々と魔法を放つ。

 しかし、パワードスーツの装甲が宙に浮いて、飛んでくる攻撃魔法を迎え受けて、無効化してしまった。

「あいつが! 抗うのかよ!」

 自分の必殺必中の攻撃を奇跡的に防いだエリムス兄妹が、悪戦苦闘して運命に抗うのかと思っていたキリマルは、期待を裏切られ、退屈そうに頬を掻き、超人化したオビオを見る。

「オビオに続け! 料理人一人に! 名誉を独り占めにさせるな!」

 武人ムダンは、陣形を組んでオビオに向かう神殿騎士に向かって、馬で突っ込む。

「喰らえ! 我が魔法の武器! 大胆なる鉄球を!」

 長い鎖が届く範囲内なら、どこにでも鉄球は飛んでいった。しかも当たれば出血効果を伴う攻撃だ。

 次々と倒れていく神殿騎士だったが、後方で守られている僧侶が、即座にそれを回復してしまう。

「高位の僧侶が五十人程! これは面倒であるぞ。ほぼ無尽蔵に回復ができると言っても過言ではない」

 ムダンは少し離れた場所にいる黒騎士に大声で告げた。

「ステコ・ワンドリッター。お前とは手を組みたくは無かったが、息子の友人として頼む。この位置から僧侶をなんとかしてくれ。それができるのは、お前が編み出した、名もなき土魔法のみ!」

 遠距離魔法を得意とするコーワゴールド家程ではないが、ステコ・ワンドリッターの独自魔法もそれなりに離れた場所から攻撃できる事をムダンは知っていた。

「この戦い、どうしても勝ちたい!」

 ムダン家とワンドリッター家は犬猿の仲だが、神殿騎士やメイジに奮闘するバトルコック団を見て、ムダンは武人としての血が騒いだのだ。

 角つき黒兜の下で、ステコはフッと笑って、詠唱を開始した。

「良かろう。この事は我が父上には内緒だ。ムダン侯爵。見るが良い! スタン系魔法【地割れ】を進化させた【大地震】を!」

 ステコがワンドを僧侶のいる場所に向けた。

 ――――ズドドドドド!!

 突然、僧侶の一団がいる一帯が揺れた後、地割れが発生し、隆起した岩が彼らを押しつぶしてしまった。

「これで後顧の憂いなし! 気兼ねなく激突できるぞ! ワシの後に続け! ムダン騎士団!」

 乱戦になるとメイジの出番は少ない。魔法が味方に被弾しかねないからだ。勿論敵にしか作用しない魔法もあるが、ムダン騎士団は魔法の防具でその対策を怠ってたはいない。

 オビオは相変わらず狂戦士のように、神殿騎士を持ち上げて地面に叩きつけ、血の染みにし、メイジの体を手刀で貫き殺していた。

「あれは本当にオビオなのか? サーカ」

 兄妹で背中合わせになって、襲いかかってくる神殿騎士に魔法を放つエリムスは妹に訪ねた。

「あんな凶暴なオビオは初めて見ました。正直言うと彼が怖い・・・」

「まさかとは思うが、オビオの狂戦士化は教皇の計画の一環なのか? 鬼神でも崇めるつもりか?」

「それはねぇな」

 いつの間にか、サーカの影に潜んでいたキリマルが「ヒヒヒ」と笑いながら会話に混ざってきた。

「俺様は神話の時代から、真の世界の終わりまで見てきた。その中で、それこそ宵の明星の如く輝いてきた、星のオーガの事もよく知っている」

「悪魔の話を信じると思うか?」

 そう疑うサーカの股の下の影から爪を伸ばして、目の前の神殿騎士を殺し、キリマルは「おっと!」と白々しく呻いた。

「ついつい殺してしまった。どうして人の命が消える様を見るのは、こんなに気持ちが良いのだろうなぁ? 昔テレビで見た痴呆老人が、人を叩いた後に、『人を叩くのは気持ちいいなぁ』と言って笑っていたのを見た事があるが、あれと似たようなものか? クハハ!」

「わけのわからん事を!」

 サーカはブーツの踵で、影を踏んだ。

「いてぇ」

 悪魔は痛がった後、また語りだした。

「いいか、お前らの言う星のオーガは幻と同じだ。常に幻の世界の中で、平和と不死を甘受して生きている。実際の幸せの園は、無機質な機械の惑星なんだ。あいつら人間は、対アンドロイド戦争に負けた。それに誰もが気づいてもいない。人間はデータ化されて、その中からヒジリは運命の神に引っ張り出された。幸せの園の中でも異質なヒジリなら、盗み出しても問題ないと、運命の神は思ったのだろう。そして非力な神は自分を救う英雄として彼を、この星に招いた」

 サーカはキリマルの話の殆どを理解できなかった。戦闘の最中で、この悪魔は何故こんな話をしているのだろうかと訝しむだけだ。

「物語の特異点である星のオーガはお前らが思っている通り、神のような力を持っている。しかし、オビオは別だ。あいつはただの一般人だ。ヒジリのような強力な支援と自己強化が出来るだけの科学知識など持ってねぇ。できるのは料理だけだ。そんな奴が、いきなり幸せの園から、死と隣り合わせの、この世界に来たらどうなると思う?」

 サーカは残り少ない魔法点をどう使うかを考えながら、キリマルの話も聞いていた為、肩にハルバードの斬撃を食らってしまった。

「回復~」

 間の抜けた声が聞こえてきた。するとサーカの肩の傷は直ぐに治った。その代償に空腹が襲ってくる。

(あぁ、オビオのパンが食べたい・・・)

 サーカがオビオの作ったエンチャントパンを懐かしんでいると、遠くでメイジの悲鳴が聞こえてくる。

 ピーターだ。メリィに捕縛の魔法を解除してもらった彼は、邪悪な顔をして、メイジに復讐をしている。次々に彼らを背後から短剣で突き刺しているのだ。

「オビオが真の星のオーガなら、一般人でも問題なく生き延びれるだろう。実際そうだった」

 サーカは周りの状況を逐一観察し、警戒しながらキリマルにそう答えた。

「モブ同然の奴が、生き延びれたのは運が良かったのと、仲間のお前らの助けがあったらからこそ。しかし、カクイに捕まって実験台にされている間、奴は孤立無援だった。星のオーガは人よりも魔法傀儡に近い。勿論魔法なんかでは動いてはいないがな。傀儡使いが使う魔法傀儡は、どんどんと学習して強くなっていくだろう? オビオもそれと同じなんだわ。危機が迫れば迫るほど、奴の体の中の安物サブAIと安物ナノマシンは進化する」

「つまり、オビオが今の姿になっているのは、我々がオビオの生存を確認せずに、逃げたせいだと言いたいのか?」

 ここで悪魔は影から、ハンマーのような頭だけを出して歯を見せて笑った。

「クハハ。そうだ。お前らのせいでオビオはああなった。もう治らねぇかもな。さっき、記憶領域を損傷していると聞こえたぞ。お前らの事をすっかり忘れているかもな。それでも奴を愛せるのか? え? クヒヒ」

「悪魔の言葉に耳を傾けるな、サーカ」

 エリムスは範囲魔法で神殿騎士達を打倒しながら、背中のサーカに忠告する。

「そうですよッ! キリマルはッ! 人を惑わせて楽しむ悪い癖があるッ! 気にしないで下さいッ!」

 戦いに干渉するのを止めたのか、【姿隠し】で身を隠してどこかにいるビャクヤは、キリマルの悪趣味に辟易とした感じでそう言った。

「そろそろ終わりは近いな」

 エリムスは呟いた。その呟きにはどこか懸念が混じっている。キリマルのせいで、最後まで戦う事ができなかった紫陽花騎士団が、不名誉を被らないかを心配しているのだ。

 戦いは終盤に差し掛かり、戦局は明らかになっている。

 神殿騎士はムダン騎士団とトウスやサーカ、エリムスによって打ち倒され、僧侶達はステコの魔法で戦闘不能状態、メイジ達はムダン騎士団と向き合っている間に、背後からピーターにバックスタブを決められて死亡。

 生き残った敵は、ありったけのマジックアイテムを差し出して、捕虜としての扱いを要求している有様だ。

 竜の死体の横で、怯えたまま立つカクイ司祭には、もう魔法点が残っていないのか、転移魔法で逃げる余力もない。

「あはは、まさか星のオーガとはいえ、料理人如きに赤竜が倒され、悪魔に裏切られるとは・・・」

「裏切ったのはお前だろうが」

 キリマルが、サーカの影から吐き捨てるように言う。

「残る道は一つ。教皇様の手を煩わせない事のみ。全てを・・・。全てを無かった事にするのです!」

 カクイはダガーを二本、腰のポーチから取り出して、両手に持った。

「自害するつもりか?」

 ステコが黒馬でカクイに近づき、鼻で笑う。

「自害したとて、貴様は強制的に蘇生される。なぁ? ガノダにキリマルよ」

 昔の冒険仲間の名を呼んで、ステコは震えるカクイに顔を寄せた。

「いいか。ワンドリッター家との取引の事は、他言無用であるぞ。さもなければ・・・」

「その心配なら無用ですよ、ステコ様。先程も言いましたが、全てを無かった事にするのですから」

「?」

「もうすぐ貴方達がモティの領地に来た理由は無くなり、ただの不法侵犯となるだけです。しかし、タダで、というわけにはいきません。あの世への・・・。あの世に行けるのであれば、の話ですが。カロンに差し出す、お代を頂きとうございます・・・」

 敵対者を一掃し、近くで棒立ちになっているオビオに向けて、カクイはダガーの一本を突き出した。それは殺す意図のない、ただ当てるだけといった感じで、震える手がゆっくりとオビオに伸びる。

 そして左手の一本を自分の喉元に当てようとしたその時――――。

 【透明化】で身を隠していたウィングが、その二つの攻撃それぞれを、両の手で防いでしまったのだ。金髪碧眼の美男子の両手には小さな切り傷が出来た。

「ば、馬鹿な! 愚かにも程がありますよ、ウィング!」

「そうですか? 一体何をするつもりか知りませんが、カクイ様。僕は貴方に何もさせませんよ」

 誰もがウィングの起こした行動を気にも止めなかった。師匠であるカクイの見苦しい悪あがきを、弟子が止めただけに見える。

 しかし、その中で一人、青ざめた顔で叫ぶ騎士がいた。

「ウィング・ライトフット!」

 普段はおっとりしているメリィが、銀髪を振り乱して、片手を彼に向けて走った。
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