料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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真名

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 正直言うと、ケットシーは敵として力不足だった。レイピアでの堅実な攻撃ばかりで、それ以外は特に何もない。猫人もどきの使う、戦技乱れ突きは、サーカの中型盾でも防ぎきれる。

 マナの穴、中層において、猫人もどきは弱い部類の悪魔だ。フラックはダンジョンの地下九階くらいに出てきそうだけど・・・。

 そのフラックがケットシーの後ろから、鎌の柄尻で叩く素振りを見せた。

「サーカ! フラックの攻撃はどんな小さなものでも回避しろ!」

 魔剣を鎌の柄尻に命中させ、サーカへの攻撃を遮ったトウスさんが警告した。

「なんで?」

 フラックは魔剣をそのまま弾き、返す手で後ろにいる俺を柄で突こうとするので、避けて尋ねた。

「その小男は、攻撃力こそねぇが、様々の状態異常を引き起こす。一番厄介なのが、石化だ。石化しちまったら、もうどうにもならねぇ!」

 悪魔二人から飛び退いたサーカの顔に焦りの色を見る。

 無理もない。――――石化は死より重い。

 基本、治らないと思ったほうがいい。勿論治せる高僧もいるが、治療費はべらぼうに高いし、治らない石化もある。その例がバジリスクの石化だ。
 
 以前、地球で見たヒジリの報告書によると、かのトカゲの視線は、石化というよりも特殊能力によって、相手の身体に真菌を増殖・侵食させ硬質化させる。これが治せない類の石化だ。

 勿論、その攻撃は四十一世紀の地球人には効かない。ナノマシンが即座に真菌を排除するからだ。

 とはいえ、フラックの石化はどういう経緯の石化かわからないし、魔法経由の石化なら、かなりの確率で阻止できる自信はあるが、それでも用心に越したことはない。なにせ、俺はヒジリと違って魔法が効く。

 そもそも蘇生の祈りを習得したメリィですら、石化回復はできないので怖い。アフターフォーローがないのだから怯えるのは仕方なし。

「よし、一丁触ってみるか。加速!!」

 俺は右手の人差指にはまっている上位鑑定の指輪に期待を込めて、加速アクセラレーターを発動させた。

 大穴では加速も使うなとヒジリに言われているが、少しくらいなら問題ないだろう。

 身体を白く発光させて素早く動き、フラックを触る。

 触ると同時に情報が流れ込んできたが、毒と麻痺毒を受けた。触っても駄目なのかよ! 勿論、即座にナノマシンが毒を分解するけどさ・・・。

「種族悪魔 名前 ジョージ・フラック。実力値20。意外と低いぞ。(いや普通の冒険者相手だと十分に高いけども)攻撃の付随効果が毒五割、麻痺毒3割、石化一厘。つまり石化は1%って事か・・・。決して低くない確率だ」

 俺の口から出た情報を聞いて、仲間が一斉にフラックから飛び退く。勿論、ピーターは最初から陰に潜んでいる。

「毒も麻痺もゴメンだ。オビオなら何とかなるだろ。フラックは任せた。俺たちはケットシーをやる」

「えっ・・・。おい! ・・・おい!」

 二度「おい!」と言ってしまう程、メチャクチャな丸投げだ。言い忘れたが、5%の確率で即死攻撃をしてくる。

 俺だって死ぬ時は死ぬんだぞ!

 ビビリながら小さなフラックと対峙すると、なぜか奴は石畳に膝をついてうなだれていた。

「どったの? フラッ君」

「変なあだ名を付けないで頂きたい・・・。その・・・。貴方は・・・」

「貴方は・・・?」

「私の真名を言ってしまった!」

「じょうじ?」

 どっかのゴキブリ火星人を思い出す。

「ジョージ・・・。我が名はジョージ・フラック」

 そうか! 主無しの悪魔は真名を知られると逆らえなくなるんだった! 確かキリマルから聞いたことがあるぞ。あいつは、主無しの時にビャクヤに名前を尋ねられてうっかり答えたから、主従関係ができてしまったと言っていた!

「上位鑑定の指輪すげぇ・・・。この力があれば、この穴に生息する悪魔の全てを従える事が可能だぞ!」

 皆にそう言おうと横を向くと、パーティーメンバーに囲まれたケットシーがタコ殴りにされていた。
 
 肉のカーテン、或いはパーフェクトデフェンダーの構えを取るケットシーの顔は既にボコボコだ。その構え、意味あるの?

「ちょ、やめたれよ! イジメ、禁止ーーーっ!」

 俺が戦闘終了の合図を出すと、ケットシーが暴力の囲いの中から這い出てきた。

「ぐへ・・・」

 猫人もどきは、フラックの横辺りまで這いずってきたが、そこで意識を失う。

「完敗です・・・。さぁ、主殿。なんなりとお申し付けを」

 ジョージは涙メイクに相応しい顔をして、しょぼくれながら俺に服従した。

 正直、こんな悪魔を下僕にしたくねぇ・・・。不気味過ぎるだろ。

「いや、悪魔の下僕なんか要ら・・・」

 そう言いかけて、サーカに尻をペチリと叩かれた。

「バカを言うな。これから敵は強くなる一方なんだぞ。捨て駒は多いに越したことはない」

 ひでぇ・・・。貴族のお嬢様は冷徹だ。

「少なくとも情報ぐらいは得るべきだ」

 お、確かに一理ある。上位鑑定の指輪では見れない階下の情報を得られるチャンス。

「では、デーモンオビオ閣下に従うが良い。一応供物を聞いておこうか。ドヘヘヘ!」

「時々、オビオはわけのわからんキャラになりきるよな・・・」

 物陰から浮き出てきたピーターが、怪訝な顔で見てくるので、顔が火照てる。

「い、いいだろ。たまには! 星の国の悪魔の物真似してんだよ! 10万歳以上生きてんだぞ!」

「星の国は神の国だぞ。悪魔なんているわけないだろ。星のオーガの眷属は嘘つきだなぁ」

 あ、俺、やっぱ眷属扱いなのね・・・。ヒジリが強すぎて最早神みたいだからな。俺みたいなSランク冒険者程度だと、星の国出身でも眷属扱いなんだ・・・。まぁどうでもいいや。

「供物は、食べ物です。閣下」

 フラックは舌を出して、涎を零した。

 おほ、閣下と呼ばれるのも悪くない。それに食べ物なら得意分野だ。

「随分と安い供物だな」

「えぇ。そう思われるのも仕方がない話。魔界や地獄の食べ物は味がしませんがゆえ」
 
 あー、リンゴが灰だか、砂の味がする的な?

「キリマルは戦いと殺戮が供物だったから、全然いいよ」

 あの邪悪な悪魔に比べたら、フラックがなんとも可愛く見えてきた。

「キ、キリマル?! キリマルだって?!」

 ジョージの驚きはともかく、気絶していたケットシーまでが飛び起きたのにはびっくりした。

「反逆の悪魔のキリマル?」

 ケットシーの真ん丸な目がちょっと滑稽に見える。

「そう。矛盾と反逆の悪魔」

「知り合いなのですか?」

 フラックは少し後ずさりした。

「そうだけど、なに?」

「あの人修羅・・・、悪魔仲間の間で、世界壊しって呼ばれてんだけど。そんな大悪魔と知り合いなのか?」

 ケットシーは畏怖の念を抱いた目で俺を見ている。

「うん。つい最近も、この世界を破壊されそうになったな。止めるの大変だったよ」

「えぇ?! びゃー! 凄い!」

 卵割り機で割った卵で作った卵焼きを食べた時のマスオさんかっ! ケットシー!

 ジョージが額に汗の玉を浮かせて、苦笑いしている。

「彼は、その昔、いきなり魔界にやってきて最強の魔神を瞬殺したんですよ。それで唖然とする悪魔たちに、なんて言ったと思います?」

「さぁ? どうせ、矛盾した内容を言ったんだろ」

「正解! 『お前らは自分達のことを悪の権化などと思うなよ? 所詮、お前らのようなクソカスはなぁ! 悪の思念が、四次元に投影されて出来た存在なだけのことなんだわ! 悪魔という存在そのものが! 幻想なんだよ! だから調子に乗るなよ? あ?』と。・・・ちょっと何を言っているのか、理解できませんでした」

 枠の外から多次元世界を眺める悪魔らしい発言だな。悪魔のくせに、仲間の悪魔を全否定しやがった。矛盾している。
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