料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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フラックを羨ましがる悪魔(ピーター視点)

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 ――――ザン!

 意気揚々と螺旋階段を一歩一歩踏みしめて降りていく俺たちデビルピーター団に、向かう所敵なしだ。フヒヒ。

 何せ俺の後ろには配下の悪魔が十匹もいる。デーモンロード、アークデーモン、グレーターデーモン、アークデビル、その他諸々。冒険者を苦しめてきた名だたる悪魔がずらり。

 その無敵悪魔軍団リーダーこと、ピーター魔王様に物申すバカが一人。

「おい、ピーター。そんなに強力な悪魔を従えて大丈夫か? お前が悪魔軍団を作りたいって言うから、遭遇した悪魔の名前を教えてやったけどさ、地上に出たらそいつらの供物が毎日必要になるんだぞ?」

 煩いな、バカオーガのオビオ。そん時は、そん時でぇい!

「オビオがいれば、問題ないだろ。いつもどおり料理を作ってくれればいいじゃん」

 黒い癖毛の隙間から頭皮をボリボリと掻いて、愚鈍そうなタレ目が俺を見て答える。

「まぁ、お前がそう言うなら構わないけどさ。悪魔の食費は払って貰うからな? 分前は、これまで通り同じだぞ? 大丈夫か? やり繰り出来るのか?」

 そう、悪魔は尽く供物に食べ物を要求してきた。

 キリマルのように、強者に抗う精神や、殺戮を欲するわけでもなく――――。

「出来らぁな!」

「今、なんていった? ピーター」

 後ろ手を組んで前を歩き出そうとしていたオビオが、斜め上にあげた顔の左半分を俺に向けて鋭い眼光を放った。

「よせ、ピーター!」

 後ろにいた白獅子が俺の細い肩を掴んだ。

 痛いんだよ! もっと加減して掴め! それから獣人如きが、しゃしゃり出てくるんな! 俺が出来るつったら出来るんだよ!

「いつもの報酬で、悪魔の食費を払ってやらぁ!」

 その言葉を聞いたオビオが、頭を上に向けて嘲笑う。

「こりゃ、面白い小僧だぜ!」

 小僧じゃない! もう大人だ! ・・・子供のフリをしているけどな! ってかお前、今まで俺のことを、小僧って呼んだことないだろ! なんだそのキャラは! どうせまた星の国の何かだろ!

「おいおい、オビオ。ピーターの言うこと真に受けるんじゃねぇぞ? こいつはギャンブルに熱中して借金作るような、おバカだ。頭に血が上ると破滅に向かうタイプなんだよ。無視しとけ」

 オビオを諭すふりして、なに気に俺の悪口とか酷いよ! トウスさん!

「そうはいかないね、トウスさん。神の国には『吐いたツバ、飲まんとけよ』という格言がある。一度出した言葉は取り消せないんだよ!」

「まぁまぁ、オビオ・・・」

 喉を鳴らして、癖毛オーガの気分を鎮めようとするトウスさんの手を、オビオは振り払って喚く。

「甘やかしちゃ駄目だ! ピーターには! これまでと同じ報酬で! この格の高い悪魔たちを満足させる食費を! 捻出してもらう!」

 ふん! 問題ないね! ・・・ん? なに? これまでと同じ報酬で・・・・、だと?!

「えぇ! これまでと同じ報酬で、悪魔の食費を賄えだってぇーーーー!!」

 む、無茶だ。そんなの絶対ムリだよ!

「お前、さっき出来るつったろ! 何、漫画のスーパーくいしん坊みたいな展開かましてくれてんだよ!」

 スーパーくいしん坊ってなんだよ!

「まぁ、もうすぐ大穴の底に到着するし、それまでにどうするか考えておけよ!」

 ど、どうしよう。

 俺は振り返って悪魔たちを見た。太っちょから、背の高いの、ガタイの良いのまでいる。こいつらが一体どれだけ食べるのかわからない。

「因みにどんな料理を食いたい?」

 俺は近くにいる太っちょのグレーターデビルに尋ねた。

「おで・・・、オチン・・・オチンチ・・・。じゃねぇや、オティムポ牛の腿肉が食べてぇ!」

 ぎゃひーーー!! その肉の部位は、金貨5枚くらい取られるぞ!

「お前は?」

 鉄扇で顔を仰ぐアークデーモンに聞いてみた。

「そうですねぇ、私も噂のオティムポ牛の霜降りステーキですかねぇ」

 くぅ、それでもゴデのレストランで銀貨一枚はするよ。

 ゴデの街で、ゴブリンが経営するイシーのレストランは多分、世界で一番オティムポ牛の料理が安い店だ。それでも銀貨一枚は高い!

 その後、色んな悪魔の間をチョロチョロと動いて、食べたいものを聞いたが、殆どの悪魔がレア肉を欲しがっていた。マナが充満しているこの大穴において、供物は多分必要ない。マナのお陰で悪魔は、この世界で存在を維持できるからだ。だけども地上に上がるとそうはいかないぞ・・・。

「オビオォ・・・」

 俺は絶望した顔でオビオを見たが、奴はサーカとイチャイチャしていた。何を話しているんだ?

「オビオ~。アイスクリーム食べたい~」

 ファ? なんつー甘えた声でせがんでんだ。 皮肉屋サーカの面影は何処?

 オビオがナンベルの魔法具店でいつの間にか買った、魔法のエプロンの端を軽く引っ張るその姿は、ただの乙女だーよ、サーカ・カズン。

 今、前衛を務めているトウスさんやメリィに申し訳ないと思わないのか? 二人共先を歩いて、敵を警戒してくれているんだぞ! その後ろでイチャつきやがって! 斜に構えていた頃のツンツンサーカさんが懐かしいねぇ?

「休憩まで我慢できないのか?」

 そうだぞ、休憩まで我慢しろ、欲しがりの雌豚がぁ!

「で~き~な~い~。魔法がもう尽きる~」

 ウソつけ! お前百回ぐらい魔法を唱えられるだろ! 下手なメイジより魔法使用回数が多いくせに! いや、寧ろいっそ魔法が尽きて幼児化しちまえ! まぁ、今も幼児化しているようなもんだがな!

「も~、仕方がないな~。ちょっとだけだぞ?」

 オビオは無限鞄に手を突っ込んで、指先にアイスクリームを付けてサーカの口元に差し出した。

「やった!」

 サーカは喜んでオビオの指先のアイスクリームを舐め取った。もうそれ、おフェラだから。疑似おフェラ。

「おや? 主殿? 欲情していますね?」

 インキュバスが近づいてきた。美青年の半裸の悪魔だ。半裸っていうかほぼ全裸。身につけているのはペニスケースだけ。

「うるさい! サキュバスならともかく、男のお前が俺の性欲を嗅ぎつけてくんなよぉ!」

「おお、怖い怖い」

 怖い怖いと言いながら、ペニスケースをほっぺに押し付けてくるんじゃねぇぞ! くそが!

 ふいにグレーターデビルが、太った身体を揺らしてオビオに近づいていく。なんだ?

「オビオ様。今、何をぐわせたんだ? 女に何かぐわせた」

 赤い肌の醜い悪魔に嫌な顔一つせず、オビオは嬉しそうに質問に答えた。

「ああ、これか。これはアイスクリームって言うんだ。冷たくて甘くて円やかで美味しいぞ」

「うぐぅ。欲しい。おでの無能な主様は何もくでない。オビオ様の下僕であるフラックが羨ましい」

 そう、オビオの契約した悪魔はフラックのみ。ケットシーは何処かに去った。

 フラックは一戦闘が終わるたびに、オビオからクッキー等を貰って食べている。道化の小男は、オビオから食べ物を貰うたびに、半眼で自慢気にそれを食べているのだ。勿論、仲間の悪魔に見せつけるようにしてさ。

「そっか、それは気の毒だな。でもまだ移動中だし、ちょっとだけだぞ?」

 オビオは誰にでも優しい。なのでサーカの時と同じく、指先にクリームを付けてグレーターデビルに差し出した。なので、恋人につまみ食いをさせてもらったという特別感を失ったサーカがむくれているよ。キヒヒ。

「いだだきまぁ~す」

 巻糞に太い脚を生やしたような悪魔は、段腹にある大きな口を開いてオビオの腕ごと食べた。

「って、ぅお~い!! 指先のアイスクリームだけ食べろよ! なんで俺の腕まで食うんだよっ! 人間はデリケートなんだから、もっと気をつけろ!」

「ご、ごめんなさいぃ!」

 悪魔は急いでオビオの腕を吐いたが、既に消化されており、骨と上位鑑定の指輪と戦士の指輪がカランと地面に転がっただけだった。ざまぁ、オビオ!

「も~。次やったらゲンコツだからな!」

 その時点でオビオの右腕は生えていた。何なら右腕の拳を振り上げている。ってかお前、再生能力が向上していないか? 前はもっと時間かかってただろ! 化け物か!

「アイスクリームの味はどうだった?」

 オビオは指輪を拾い上げて、指にはめながら悪魔に感想を聞く。

「甘くて血の味がしておいじかった!」

「血の味は俺の腕の味だ! よく腕の中にいる無数のナノマシンに攻撃されなかったな。悪魔恐るべし・・・」

 いや、腕を食われて冷静でいられるお前のほうが俺は恐ろしいよ、オビオ。

 元々蕩けたような形をしているグレーターデビルは、蕩けた顔をして呆けていた。

「はぁ、美味しいかった。久々に味のするものをぐった」

「マジ? くそ羨ましいんだけど」

「どんな歯応え?」

「例えるなら何味?」

 お前らは噂話を聞きつけた魔法学院の女生徒か! グレーターデビルに群がって感想を聞くんじゃねぇ! 悪魔ども!

 そんな悪魔たちをよそに、フラックがオビオに何か進言している。

「主様、そろそろ穴の底に着きますよ」

「やっとか。なんか気をつけることある?」

「はい。底にはダイアモンドゴーレムがいます。近づくものは何だって攻撃してきますので気をつけて下さい。魔法も効きませんし、物理攻撃もあまり効果的ではありません」

「まじ? 困ったなぁ・・・。あ、でももしかしたら! サーカのビーム魔法が効くかも! あれなら属性が魔法っぽくないし! それにしてもあんな魔法をよく思いついたな、サーカ」

 解決策を思いついたらしいオビオの言葉に、サーカは鼻を高くして威張ってる。

「あの魔法は、オビオの話をヒントにしてみたんだ」

「えっ? 俺、何か言ったっけ?」

「記憶にないのか? この世のあらゆるものは小さな粒でできていると、焚き火の前で話していた事があるだろう?」

「ああ。言った言った。粒がぶつかると大きなエネルギーを生むとも。まぁ俺も科学者じゃないから、大まかな事しか言えなかったけど」

「だから、敵を狙い定め易いように、方向性を決める力場を作り、その中で、粒同士をぶつかり合わせるイメージで魔法を撃ってみたのだ」

「すげぇ! それだけのヒントで、ヒジリ・・・猊下もびっくりの魔法を生み出したんだ? サーカ天才!」

 チンプンカンプンだが、サーカは鼻を更に高くしている。

「いける! 今回は苦労しなさそうだ。最後の手段としてキリマルに借りた金剛切りも、出番は無さそうだなぁ。接近するリスクが無くなったのはありがたい!」

 おいおい、馬鹿か。オビオ。そんな魔法を使ってダイアモンドゴーレムが、溶けたり燃えたりしたらどうすんだよ! 敵は宝の山みたいなもんじゃないか!

「おい! 悪魔ども! サーカが魔法を撃つまでに結構時間がかかる。その間にゴーレムを砕け!」

「え、ええ~・・・」

 露骨に嫌そうな顔しやがって! 何だお前ら! 主の言うことが聞けないのかよ!

「いいか、ダイアモンドを手に入れれば、お前らは地上に出て、美味しいものを腹いっぱい食べられるんだからな!」

「まじ?」

 主に向かってタメ口を聞くな! グレーターデーモン!

「マジティンコ・マジコフっ!」

「は?」

「いや、・・・マジチェンコ・マジスキー」

「え? なにそれ。どういう意味?」

 くそがぁぁ! ぶっ殺してやろうか! この青い悪魔!

「まじ中のまじって事!」

「ああ、そういう事ね。しょうもない事言うなよ、面白味なきピーター」

 だからなんでタメ口なんだよ! ってか、悪魔の視線は全部オビオに向いているじゃねぇか。

 こ、こいつら、まさか! オビオの為に命張る気だな? オビオからのご褒美を期待してやがるっ!
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