料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

文字の大きさ
228 / 331

闇堕ちの騎士

しおりを挟む
 不規則に並ぶ鋭い歯を噛みしめるセブンの前で、俺は装置を容赦なく拳骨で叩き潰した。

「これでミッション完了だ!」

 縦長の瞳の奥から、屋上手前の階段にいる宇宙野を見て、そう喜ぶと竜人が喚く。

「ちくしょぉぉぉぉ!!」

 フフフ。残念だったな。お前らにとって、今回の計画でイレギュラーな存在である俺らは、相当憎いだろう。憎くて結構。これで地球は安泰だ。なにせ、お前らの敵は俺たちだけじゃねぇ。自衛隊もいれば、プレアデス星人だっている。

 一つの綻びで、全てが瓦解するなんてのはよくある事。日本を起点として、世界は宇宙同盟だか銀河連合だかに傾くと俺は信じている。

 ドラコニアンに操られていた中国も、正気を取り戻すだろう。

 そう思って安堵していると、セブンは咄嗟に亜空間からレーザー銃を出して、むき出しのラケルの頭を狙った。

「お前がぼんやりしていある間に、シールドの周波数を変えた。きっちり落とし前をつけてもらうぜ。ラケル。軍法会議? クソ喰らえだ。戦死扱いにしてやる」

「だめぇ!」

 引き金を引こうとしたその時――――、どこからともなく、カラスの群れが現れてセブンに纏わり付く。

「くそ! なんだ? こいつらは!」

 なんだこいつらは、だってか? そのカラスは、魔物使いのムクが操っているんですよ、セブンさん。ホッホッホ。

 ――――ザン!

 と音がして、いきなりセブンの両腕が切り落とされた。

「ぎゃあああ!! ば、馬鹿な! 俺のフォースシールドは物理攻撃無効のはず・・・」

 離れた場所から斬撃を飛ばしたトウスに向かって、セブンは驚愕する。

「初見殺しのトリックなんてのはよぉ、S級冒険者の俺らに、そう何度も通用しねぇんだわ」

 よく見ると、トウスさんの魔剣が光り輝いていた。【光の剣】の魔法が付与されているのだ。

「なるほど、いい連携だ。詠唱魔法ではセブンの攻撃に間に合わないから、サーカの無詠唱魔法【光の剣】をトウスさんの剣に付与して、魔法の斬撃を飛ばしたってわけか。よく打ち合わせもなしにできたな」

 俺が関心していると、トウスさんは魔剣必中を背中に浮かせて、「ガハハ!」と笑った。

「一年以上一緒にいて、この粋に達しなかったら、流石にパーティを解散したほうがいいレベルだぜ」

「そっか、そりゃそうだよな」

 両腕を失ったセブンは、慌てて空に向かって叫ぶ。

「転送だ! レプタリアン共と俺を船に戻せ!」

 早くしないと、失血死するもんな。そりゃ焦るわ。

「ラケルさん!」

 俺は光の粒子になりかけのラケルさんに、声をかけた。

「俺、絶対にまた会いに行くから! それまで希望を捨てないで!」

「はい!」

 モデルのような体型のラケルさんは、ニコリと笑って消えていった。

「大丈夫かなぁ、ラケルさん・・・」

 そう呟くと、サーカが赤竜となった俺のゴツゴツした顔を撫でる。

「処刑されるまでに、時間はある。それまでにきっと霧が彼女らを包むだろう」

「だよな。でも待てよ。ラケルさんはなんで、森で初めて合った時に俺たちの事、気づかなかったんだ?」

「気づいていたのではないか? ただ、言わなかっただけだ。妙に友好的だったのは、そのせいだろう」

 そうか。賢いラケルさんだからこそ、気づいていたんだ。余計な事を言えば、俺たちの行動に影響を与えるかもしれない。俺たちがこれから、何が起こるかを知っていれば、そこに隙きが生まれて、怪我をするだろうしさ。未来は変わらなくても、その過程で多少の誤差は生まれる。それをラケルさんは考慮していたんだ。やっぱ優しい人、いやカッパだな。

「ふふふ」

 おっと、笑っている場合じゃなかった。今は優先事項がある。

「これで、約束は果たしたぞ、コズミック・ペン!」

「うむ」

 なにが、「うむ」だ。女子高生の姿で、その返事は違和感しかねぇ。

「それで?」

 宇宙野は、後ろ手を組んで屋上に出てきて、俺からの要求を待っている。

「これに、名前を書いてほしいんだ」

 俺はビルに張り付いたまま、ぶっといドラゴンの手を亜空間ポケットに突っ込んで、コスモチタニウムの結晶を取り出し、宇宙野に見せた。

「これは・・・。そうか、お前らはコズミック・ノートのしおりを手に入れていたのだな」

 悔恨の表情を浮かべ、宇宙野は魔本の栞を暫く見つめていた。時々、「私が浅はかだった、すまない」等と呟きながら・・・。

「して、何名の名前を書く? 上限は三人までだが・・・」

 それを聞いて俺の心に衝撃が走らないわけない。

「なん・・・だと・・・?!」

 書く名前は四人。それに対して栞には三人しか書けないだってーー?

 それを聞いたメリィの顔が見る間に曇る。

「絶対にお姉ちゃんの名前は、書いてもらうよぉ?」

 メリィはブーツを鳴らしながら、俺やサーカに近づいてくる。

 見間違いだろうか? かの修道騎士は黒いオーラを纏っているように見えるんだが。

 メリィはほっとくと、どんどん妄想を膨らませて悪い方に考える。なんとかして、彼女を宥めなければ。

「勿論だ。書くに決まっているだろ」

「ふうん。じゃあ、誰を犠牲にするのぉ? ウィング? それとも竜騎士の夫婦のどちらか?」

「わぁぁ!! ドラゴンだぁーー!! すげぇ!!」

 話の途中に割り込んでくる、ドラゴンの俺を見て無邪気にはしゃぐ一般人が、この時ばかりはうっとおしかった。スマホのカメラで俺を撮っている。

「それは・・・」

 どうする、俺? ウィングを諦めるのは絶対に嫌だ。俺を守って存在を消されたんだぞ! 命の恩人だ。かといって、マター家の血を絶やすと、キリマルに世界を壊される。

 俺が悩んでいると、ピーターが鼻くそを穿りながら、提案した。

「神様に一人分多く書けるように、要求してみれば?」

「何言ってんだ? 神様ってヒジリの事か?」

 俺がそう言うと、ムクが一人の地球人のお尻を押して来た。

「この人が神様だよ!」

「は?」

 目が細くて、サラリとしたミドルヘアー。色白の肌で、華奢な、この一般人がか?

 俺は頭が混乱して、宇宙野に目を向けた。

「お前は、外にいて私の話を聞いてなかったのだな、そういえば。彼の名は」

 ペンが紹介しようとすると、男は勝手に名乗った。

佐藤正義さとうまさよしデスっ!」

 うん? どこかで見た中二病的な動き。ビャクヤの知り合いか? 顔も見覚えがあるような無いような。

「なんで、彼が神様なの?」

 俺の問いに、まぁそう思うわな、といった顔で宇宙野は答える。

「彼はこの全宇宙を作り、観察し、そして、それらに飽きてしまった神の、最後の好奇心。云わば写身。マナを自在に操る事ができる」

 まじかよ!

「じゃあ! 書ける名前を一人分増やすなんて造作もない事だよな?」

 と、期待混じりの俺の視線と言葉を跳ね除け、「はぁ」と溜め息を付いてコズミック・ペンは首を振った。

「写身だと言っただろう? そこまで大きな力はない。マナを自在に操るといっても、精々魔法の触媒となったり、マナをかき集めたりするだけだ。このマナの少ない地球で、栞に名前を書くのに、彼の力が必要なのは言うまでもない。しかし、それ以上のことを望むのは無理だと知れ。ここが魔法の星ならば、話は変わっていたが、な」

「神様なのに、役に立たねぇな、おい!」

 俺の言葉に、正義は憤慨して、地面を踏み鳴らす。

「役立たずとはなんですか! 失礼な! 宇宙野先生の話が本当なら、拙者がいないとドラゴン氏が望むことは、何一つ叶わないって事なんですけどもぉ? もっとご機嫌伺いしてくださいよぉ~? え~?」

 くそ、足元見やがって! 急に態度がデカくなりやがったぞ! 頭から噛み砕いてやろうか!

「うるせぇ! 階段とエレベーターが壊れた今、ビルから出られないんだぞ。俺らがいないと、自衛隊が来るまで、ここで過ごす事になる。 それでもいいのか、あ~? 来るのは果たして、何時間、いや、下手すりゃ何日後か?」

「うそ~ん! ごめんごめん、ドラゴン氏ぃ~! 何でもやる、何でもやりますからぁ~!」

「どの道、三人かぁ~~~」

 サーカの後ろで、チャキっと音がして、不気味に間延びしたメリィの声が聞こえてきた。

「何やってんだ、メリィ!!」

 修道騎士は、サーカの首に輝きの小剣を突きつけているので、思わず俺はそう叫んだ。

 ――――バチィン!!

 小剣が弾き飛ばされた。いや、剣が自ら弾き飛んだというべきか。属性が極端に変わった者が、その属性と相反する武器を持った時に起こる現象だ。つまり、メリィは輝きの小剣と相性が悪くなった。

 しかし、メリィは咄嗟に魔法を詠唱し、空になった手を闇色に染めている。

「これは闇魔法、【死の手】!!」

 サーカがその手を見て、目を丸くし、背後の修道騎士に訊く。

「なぜだ、メリィ! なぜ闇魔法を覚えている!!」

 しかし、メリィはそれに答えない。

「オビオが誰にでも優しいのは知っているし、犠牲者を出したくないのも、よくわかっている。でもぉ、私は保証が欲しいの。姉のメリアの名が、絶対に栞に書かれるような保証が!」

「だから、書くって言ってんだろうが! サーカに手を出すな!」

「じゃあ、誰を犠牲にするのか、今すぐにでも教えてくれるかしらぁ?」

 メリィの銀髪と銀色の目が段々と黒色に染まりだす。

「闇堕ち・・・・!!」

 多分、多分だが・・・。今、メリィは・・・、完全な暗黒騎士となった。人間に戻って彼女に触れば、解る事なんだが、人間にどうやったら戻れるのかわからねぇ。

「そんなに、俺が信用できなかったのか・・・」

 途端に俺は悔しくなって涙が溢れ出た。この一年、一緒に旅して、育んできた絆はなんだったのか。そりゃ後半はギスギスしてたけどもよぉ。

「気に病むな。オビオを信用できなかったというよりは、彼女は目的の為に必死なのだ。だから泣く必要はない」

 サーカが俺の顔を撫でて慰めてくれている。こういう時の恋人の慰めはよく効く。

「早く! 犠牲者の名前を言いなさい!! 決められないようなら、私が決めましょうかぁ? 優しきリーダー殿?」

 皮肉なんて滅多に言わなかったメリィが、今は別人のようだ。

「早く決めてくれるか? 我々もさっさと平穏な日常に戻りたいのだ」

 コズミック・ペンまで急かしてきやがる!

 くそ! どうしたら、どうしたらいいんだぁぁ!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜

たや
ファンタジー
その勇者は、休日のみ地球のバス停から異世界に旅立つ 幼い頃に家族で異世界“ハーモラル”を巡っていた日向凛斗がこちらの世界に帰還して10年が過ぎていた。 しかし最近、ハーモラルの魔獣が頻繁に現実世界に姿を現し始める異変が起こった。 高校生となった凛斗は夜な夜な魔獣討伐の為に街を駆け巡っていたがある日、原因はハーモラルにあると言う祖父から一枚のチケットを渡される。 「バス!?」 なんとハーモラルに向かう手段は何故かバスしかないらしい。 おまけにハーモラルに滞在できるのは地球時間で金曜日の夜から日曜日の夜の48時間ピッタリで時間になるとどこからかバスがお迎えに来てしまう。 おまけに祖父はせめて高校は卒業しろと言うので休日だけハーモラルで旅をしつつ、平日は普通の高校生として過ごすことになった凛斗の運命はいかに? 第二章 シンヘルキ編 センタレアから出発したリントとスノウは旅に必須の荷車とそれを引く魔獣を取り扱っているシンヘルキへと向かう。 しかし地球に戻ってくるとなんと魔王が異世界から地球に襲来したり、たどり着いたシンヘルキでは子を持つ親が攫われているようだったり…? 第三章 ナフィコ編 シンヘルキの親攫い事件を解決し、リント達は新たな仲間と荷車とそれを引く魔獣を手にして新たなギルド【昇る太陽】を立ち上げた。 アレタの要望で学院都市とも呼ばれる国のナフィコへ向かうが滞在中に雷獄の雨が発生してしまう。 それを発生させたのはこの国の学生だそうで…? ※カクヨム、小説家になろうにも同時掲載しております

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

処理中です...