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吟遊詩人のナニー・シットン
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ドラゴンからいつもの姿に戻った俺は、トイレの中で服と装備を装着する。
そして扉を開けて外に出て、亜空間ポケットにトイレをしまうと、仲間を探す。
が、既にパーティメンバーはどこかに消えていた。多分村の中を散歩しているか、宿屋に向かったんだろう。
「じゃあ、俺も散歩するか」
俺はカズン村にある唯一の大通りを歩く。
「どういう理屈で竜から、元の姿に戻ったのですか?」
ナニー・シットンという変わった名前の吟遊詩人は、まだ俺についてくる。
なぜ俺なのかというと、他のメンバーは、こういう類の者のあしらい方を知っているからだ。脅すなり、適当な事を言うなり、金を渡して追い払ったり等、相手にしないのが普通だそうだ。
詩人の付き纏いはS級ランク冒険者になった途端、増えるそうなのだが、俺は暇があると宿屋に籠もって料理を作っていたので知らなかった。
「なぜかって? デトックスってやつかなぁ? えーと、科学者じゃないから、詳しくは言えないけど、俺は排便を月に一回するだけで良いんだよ。その際に体に不都合な毒を完全に排出するからじゃないかな? 竜の体は負担が大きいしね。ナノマシン――――、体に飼っている虫は、竜の体を危険だと判断したんだろうさ」
竜の体のままだと、間違いなく星の霞に悩まされる事になるだろう。最悪死ぬかもしれない。
「科学者? 科学者ってなんですか? 新しい職業ですか? あ、まさか! 神の国の職業?!」
「まぁ、機工士とか錬金術師に近いかな? わかんねぇ」
適当に答えながら、屋台を見回ったが、これといって目新しい物はなかった。
「そういえばサーカ・カズン様は? 屋敷にお帰りで?」
「そうだと思うよ? この地に思い入れはないとは言っていたけど、母親の顔ぐらいは見に行くだろうさ。なんでそんな事を訊くんだ?」
「だって、サーカ様はオビオ様の恋人でしょう?」
は? 何でそんなプライベートな事知ってんだよ。
「誰に聞いた?」
「ピーター様です。それはそうと、恋人同士なら、いつも一緒にいるものでしょう? あぁ! そうだ! これを聞いておかないと! オーガとの結婚をカズン様のお母様が、承諾してくれるのかどうか・・・。おっと! 失礼。シニシ様は正気じゃないのでした」
「あのどんぐり坊やめ!」
おしゃべりのピーターが、近くをうろついてたら怒ってやろうかと思い、周りを見渡したがいなかった。今頃は、宿屋のベッドの上だろう。この村にギャンブル場はないからな。
ん? キョロキョロしていると大通りの終わりに、ちょっとした湿地を見つけた。泥地の上に木の板で道を作っているが、腐りかけで、あの上を歩くのは心許ない感じだった。
そこにハブラシガマホを採取している幼い兄弟がいた。泥の付いた手で長い耳を触ったのか、泥が付着している。
不安定な板の上で、一本ずつチマチマと採っているのを見ているともどかしい。
「わぁ!」
弟が足を滑らせて、泥にはまり動けなくなっていた。
「あ! 大変だ! ・・・って、なぁ! なんで誰も助けようとしないんだ? 子供が困ってるぞ?」
村の大人は誰もが兄弟に無関心だった。スルーして自分の目的地へと向かっている。
弟を引っ張り上げようとする兄も、泥に足を突っ込んでしまい、兄弟して身動きがとれなくなった。
「オビオ様? なぜ助けようと思うのですか? 彼らは没落した元貴族の子ですよ? 助けたところで何の見返りもないのです」
ナニーは当然のように言う。
「かぁ~。何でそんなに薄情なのかな? 樹族国は優しい人がいる地域と、そうでない地域の差が激しいな」
俺はぶつくさ言いながら、子供に近づいて二人を泥から持ち上げて救出する。
「うわぁ! オーガだ!」
「オッス! オラ、オビオ! よろしくな!」
すかさず孫悟○の真似をしながら、自己紹介する。
「え! あのバトルコック団の?!」
「そうだ。このハブラシガマホが欲しいのか?」
兄弟を街道に下ろすと、俺は無造作にガマホを毟り取って、兄弟に渡す。
「わぁ! こんなに沢山! 二十本もある! ありがとう!」
――――ぐぅ~!
弟の腹が鳴る。
「兄上、僕お腹すいた。ハブラシガマホを売って、パンを買おうよ」
「駄目だよ、稼いだお金は、母上の薬代だって決めているだろ!」
な、なにぃ?! 腹が減っただとぉ!! そいつは見過ごせねぇ!
「あ、お腹のすいた者あらば~! 腹ぁ満たしてやるのが、俺様の役目~!」
魔法水晶にて放映されるアニメ、『たたかえ! バトルコック団』の主人公の真似をする。なにせ、アニメのバトルコック団のほうが元祖だからな。俺らはたまたまそれに出てくるキャラクターに似てるから、そう呼ばれるようになった。結果、バトルコック団を名乗っている。
「オビオ様は偽善者、っと」
あぁ? なんだこら、ナニー・シットン! なにメモしてんだぁ?
「俺が偽善者だぁ?!」
腹が立って、口がへの字になる。如何にも怒っているぞというポーズをとる俺だが、ナニーは容赦ない。
「この兄弟にお金でも恵んでやるとでも言うのですか? でもお金が尽きたらまた空腹になりますよ? オビオ様は自己満足で、自尊心を満たそうとしているのですね? え?」
なんだ、こいつ。急に辛辣になったぞ。ジャーナリストっぽい事を言う。おいこら! ニヤニヤすなッ! さっきまでのリスペクトはどこにいったー、ナニー・シットン! ったく、可愛くない地走り族はピーターと、こいつくらいなもんだ。
でもそこまで言うのなら・・・。
「この子らが、施しに頼らなくてもいい、手に入れやすい食材を見つけてやらぁっ! 偽善者って言った事をきっと後悔させてやる!」
「へぇ~。こんな辺境の村に、そんな都合の良いものがありますかねぇ?」
「何かしらあんだろ。あ、そうだ! ブライトリーフ領が砂糖の名産地になったろ? あれも俺のアイデアだ!」
「知ってますよ? でも、あそこには砂糖の材料が山ほどあったからであって、この村にはな~んにも、ありませ~ん」
チィ! 「ありませ~ん」のところで、顎をしゃくらせやがった! こいつ、絶対、俺のこと馬鹿にしてる!
俺は必死になって周りに食材はないかを探った。薬草や、腹の足しにならない野草は結構あるけど・・・。ん?
「ありゃ、なんだ?」
浅い沼地の中に鉄球があちこちに落ちている。いや、鉄球ほど綺麗な球形じゃねぇ。少し歪だ。
「あぁ、あれはカボチャですよ? 一応高級食材と言っておきますか」
そこまで言って、ナニーはまたニヤニヤしだした。こいつ! なんだかわからねぇがっ! ・・・俺をっ! 試してやがるな?
「カボチャなら、食材になるじゃんか!」
俺はホクホク顔で鉄球、もとい、緑のカボチャを手に取り、鑑定する。
「何々? 鉄球カボチャ? 名前もそのまんまやないかい!」
「ムダン侯爵の持つ魔法の鉄球、『大胆なる鉄球』の材料もこれですよ?」
「え? まじ? 確か敵を追尾する鉄球だよな。すげぇ・・・。ん? って事は、皮が凄く硬いって事か? ナニー」
「そういう事です。下処理に手間がかかるから、高級食材なんです。だから貴族しか食べません。でもこの領地の貴族も今や、サーカ様と気の触れた母親のみ」
「手間がかかるだけあって、糖度14もある。その代わり硬度も10・・・。鉄の硬度じゃねぇっ! 取り敢えず、切ってみるか」
俺は亜空間ポケットから、キリマルに貰った聖魔シリーズ第一号を取り出した。
そして脇差しの刃をカボチャに当てると――――、簡単に割れる。
「ええっ!? 流石は怪力の種族!」
「いや、この脇差しが凄いんだわ。金剛切りつって、ダイアモンドでも切れる」
「そんな凄い武器、どこで手にれたんですか?」
「教えないよ。ナニーは意地悪だからな」
「そんな~」
硬い皮の下はオレンジ色した普通のカボチャだ。ただ、水気が多く甘いのでスープに良いかもしれない。
半分に切ったカボチャから種を取り除き、そのまま焚き火の上に置いて、待つこと十数分。皮が鍋代わりになって、カボチャは見事にパンプキンスープになっていた。
「予想通り! スープに最適だった。これに少々の塩を入れてと」
俺は兄弟に、スプーンを渡して、食べるよう促した。
「これ、まだ貴族だった頃に飲んだことある!」
目をキラキラさせるお兄ちゃんがそう言って、半円形のカボチャからスープをすくって飲む。
「美味しい! 凄く甘くて美味しいよ! オビオさん! 以前に飲んだ時の物より、濃厚で美味しい!」
「僕も飲む!」
弟もスプーンで何度もすくって飲み始めた。
「うわぁ、甘い! けど、塩気が旨味を引き立てていて、前菜にもってこいだね。飲むと余計にお腹が減るよ!」
「じゃあ、パンをあげるよ」
俺はブールを取り出して、兄弟に渡す。
「いいの?」
「イーノ・アッバーブ」
「?」
「なんでもない。お食べ」
二人はパンを千切って、スープに浸して食べた。
「美味しい!!」
パンプキンスープはブールと共に、あっという間になくなった。余程お腹が空いていたんだな。
あぁ、人が腹を満たし、満足した顔をしているのを見ると、何でこんなに幸せな気分になるのだろうか。
「で?」
地面に胡座をかいて、俺が幸せの余韻に浸っていると、ナニー・シットンが顔を近づけてきた。
「この鉄球カボチャを常食できるようにするには、どうするのです?」
あっ!
「その貴重な魔法の刀を、この兄弟に譲るのですか?」
そうだ!。俺は最低限、兄弟が飢えなくて済む方法を考えようとしていたのだった。
「それでしたら、飢えなくて済みますね。慈悲深きオビオ様が、元貴族の兄弟に魔法の刀を譲れば、一生飢える事はないでしょうから。なんなら、その刀を売ったお金で、貴族に返り咲く事ができましょう」
ぐぬぬぬ! 金剛切りは譲れない! レア中のレア武器だからな。
「お前、本当に嫌な奴だな! 地走り族の嫌な部分をかき集めたような性格しているよ」
「で、どうするのです?」
俺が腕を組んで考えていると、屋敷が見える村の門から、おかっぱの髪を弾ませながらムクが走ってくる。
「オビオお兄ちゃん~!」
「どうした、ムク」
「サーカお姉ちゃんが呼んでるよ~! 屋敷まで来てくれだって! 夕食の準備が出来たって!」
まじ? 夕飯に招いてくれるってか。てっきり俺らは宿屋で待機かと思ってたのに。
「もうそんな時間か。本来なら俺が屋敷まで行って料理するべきだったけど、意外と時間を食ったなぁ」
お腹の膨れた兄弟は、俺にお礼を言って去ろうとしたので、呼び止める。
「ほら、パンを持っていきな。病気のお母さんには、この白パンのサンドイッチを食べさせるといい」
亜空間ポケットからブールとサンドイッチが入ったバスケットを持たせて帰らした。
「これは宿題ですねぇ」
相変わらずナニー・シットンはニヤニヤしている。
「はぁ、嫌な吟遊詩人に目をつけられたもんだ。わかったよ! 明日までにきっとあの兄弟を飢えから救ってみせるからな! 覚えてろよ! それから今日はもうついてくるなよ!」
「解ってますよ、私はカズン家に招待されていませんからね」
あー! 腹立つ! これも有名税ってやつか? 嫌な税金だな! なんだかピーターの方が幾分か可愛く思える。
俺は作動しなくなった感情抑制チップに、脳内で恨み言を呟いて、ムクを抱きかかえると、サーカのいる屋敷に足を向けた。
そして扉を開けて外に出て、亜空間ポケットにトイレをしまうと、仲間を探す。
が、既にパーティメンバーはどこかに消えていた。多分村の中を散歩しているか、宿屋に向かったんだろう。
「じゃあ、俺も散歩するか」
俺はカズン村にある唯一の大通りを歩く。
「どういう理屈で竜から、元の姿に戻ったのですか?」
ナニー・シットンという変わった名前の吟遊詩人は、まだ俺についてくる。
なぜ俺なのかというと、他のメンバーは、こういう類の者のあしらい方を知っているからだ。脅すなり、適当な事を言うなり、金を渡して追い払ったり等、相手にしないのが普通だそうだ。
詩人の付き纏いはS級ランク冒険者になった途端、増えるそうなのだが、俺は暇があると宿屋に籠もって料理を作っていたので知らなかった。
「なぜかって? デトックスってやつかなぁ? えーと、科学者じゃないから、詳しくは言えないけど、俺は排便を月に一回するだけで良いんだよ。その際に体に不都合な毒を完全に排出するからじゃないかな? 竜の体は負担が大きいしね。ナノマシン――――、体に飼っている虫は、竜の体を危険だと判断したんだろうさ」
竜の体のままだと、間違いなく星の霞に悩まされる事になるだろう。最悪死ぬかもしれない。
「科学者? 科学者ってなんですか? 新しい職業ですか? あ、まさか! 神の国の職業?!」
「まぁ、機工士とか錬金術師に近いかな? わかんねぇ」
適当に答えながら、屋台を見回ったが、これといって目新しい物はなかった。
「そういえばサーカ・カズン様は? 屋敷にお帰りで?」
「そうだと思うよ? この地に思い入れはないとは言っていたけど、母親の顔ぐらいは見に行くだろうさ。なんでそんな事を訊くんだ?」
「だって、サーカ様はオビオ様の恋人でしょう?」
は? 何でそんなプライベートな事知ってんだよ。
「誰に聞いた?」
「ピーター様です。それはそうと、恋人同士なら、いつも一緒にいるものでしょう? あぁ! そうだ! これを聞いておかないと! オーガとの結婚をカズン様のお母様が、承諾してくれるのかどうか・・・。おっと! 失礼。シニシ様は正気じゃないのでした」
「あのどんぐり坊やめ!」
おしゃべりのピーターが、近くをうろついてたら怒ってやろうかと思い、周りを見渡したがいなかった。今頃は、宿屋のベッドの上だろう。この村にギャンブル場はないからな。
ん? キョロキョロしていると大通りの終わりに、ちょっとした湿地を見つけた。泥地の上に木の板で道を作っているが、腐りかけで、あの上を歩くのは心許ない感じだった。
そこにハブラシガマホを採取している幼い兄弟がいた。泥の付いた手で長い耳を触ったのか、泥が付着している。
不安定な板の上で、一本ずつチマチマと採っているのを見ているともどかしい。
「わぁ!」
弟が足を滑らせて、泥にはまり動けなくなっていた。
「あ! 大変だ! ・・・って、なぁ! なんで誰も助けようとしないんだ? 子供が困ってるぞ?」
村の大人は誰もが兄弟に無関心だった。スルーして自分の目的地へと向かっている。
弟を引っ張り上げようとする兄も、泥に足を突っ込んでしまい、兄弟して身動きがとれなくなった。
「オビオ様? なぜ助けようと思うのですか? 彼らは没落した元貴族の子ですよ? 助けたところで何の見返りもないのです」
ナニーは当然のように言う。
「かぁ~。何でそんなに薄情なのかな? 樹族国は優しい人がいる地域と、そうでない地域の差が激しいな」
俺はぶつくさ言いながら、子供に近づいて二人を泥から持ち上げて救出する。
「うわぁ! オーガだ!」
「オッス! オラ、オビオ! よろしくな!」
すかさず孫悟○の真似をしながら、自己紹介する。
「え! あのバトルコック団の?!」
「そうだ。このハブラシガマホが欲しいのか?」
兄弟を街道に下ろすと、俺は無造作にガマホを毟り取って、兄弟に渡す。
「わぁ! こんなに沢山! 二十本もある! ありがとう!」
――――ぐぅ~!
弟の腹が鳴る。
「兄上、僕お腹すいた。ハブラシガマホを売って、パンを買おうよ」
「駄目だよ、稼いだお金は、母上の薬代だって決めているだろ!」
な、なにぃ?! 腹が減っただとぉ!! そいつは見過ごせねぇ!
「あ、お腹のすいた者あらば~! 腹ぁ満たしてやるのが、俺様の役目~!」
魔法水晶にて放映されるアニメ、『たたかえ! バトルコック団』の主人公の真似をする。なにせ、アニメのバトルコック団のほうが元祖だからな。俺らはたまたまそれに出てくるキャラクターに似てるから、そう呼ばれるようになった。結果、バトルコック団を名乗っている。
「オビオ様は偽善者、っと」
あぁ? なんだこら、ナニー・シットン! なにメモしてんだぁ?
「俺が偽善者だぁ?!」
腹が立って、口がへの字になる。如何にも怒っているぞというポーズをとる俺だが、ナニーは容赦ない。
「この兄弟にお金でも恵んでやるとでも言うのですか? でもお金が尽きたらまた空腹になりますよ? オビオ様は自己満足で、自尊心を満たそうとしているのですね? え?」
なんだ、こいつ。急に辛辣になったぞ。ジャーナリストっぽい事を言う。おいこら! ニヤニヤすなッ! さっきまでのリスペクトはどこにいったー、ナニー・シットン! ったく、可愛くない地走り族はピーターと、こいつくらいなもんだ。
でもそこまで言うのなら・・・。
「この子らが、施しに頼らなくてもいい、手に入れやすい食材を見つけてやらぁっ! 偽善者って言った事をきっと後悔させてやる!」
「へぇ~。こんな辺境の村に、そんな都合の良いものがありますかねぇ?」
「何かしらあんだろ。あ、そうだ! ブライトリーフ領が砂糖の名産地になったろ? あれも俺のアイデアだ!」
「知ってますよ? でも、あそこには砂糖の材料が山ほどあったからであって、この村にはな~んにも、ありませ~ん」
チィ! 「ありませ~ん」のところで、顎をしゃくらせやがった! こいつ、絶対、俺のこと馬鹿にしてる!
俺は必死になって周りに食材はないかを探った。薬草や、腹の足しにならない野草は結構あるけど・・・。ん?
「ありゃ、なんだ?」
浅い沼地の中に鉄球があちこちに落ちている。いや、鉄球ほど綺麗な球形じゃねぇ。少し歪だ。
「あぁ、あれはカボチャですよ? 一応高級食材と言っておきますか」
そこまで言って、ナニーはまたニヤニヤしだした。こいつ! なんだかわからねぇがっ! ・・・俺をっ! 試してやがるな?
「カボチャなら、食材になるじゃんか!」
俺はホクホク顔で鉄球、もとい、緑のカボチャを手に取り、鑑定する。
「何々? 鉄球カボチャ? 名前もそのまんまやないかい!」
「ムダン侯爵の持つ魔法の鉄球、『大胆なる鉄球』の材料もこれですよ?」
「え? まじ? 確か敵を追尾する鉄球だよな。すげぇ・・・。ん? って事は、皮が凄く硬いって事か? ナニー」
「そういう事です。下処理に手間がかかるから、高級食材なんです。だから貴族しか食べません。でもこの領地の貴族も今や、サーカ様と気の触れた母親のみ」
「手間がかかるだけあって、糖度14もある。その代わり硬度も10・・・。鉄の硬度じゃねぇっ! 取り敢えず、切ってみるか」
俺は亜空間ポケットから、キリマルに貰った聖魔シリーズ第一号を取り出した。
そして脇差しの刃をカボチャに当てると――――、簡単に割れる。
「ええっ!? 流石は怪力の種族!」
「いや、この脇差しが凄いんだわ。金剛切りつって、ダイアモンドでも切れる」
「そんな凄い武器、どこで手にれたんですか?」
「教えないよ。ナニーは意地悪だからな」
「そんな~」
硬い皮の下はオレンジ色した普通のカボチャだ。ただ、水気が多く甘いのでスープに良いかもしれない。
半分に切ったカボチャから種を取り除き、そのまま焚き火の上に置いて、待つこと十数分。皮が鍋代わりになって、カボチャは見事にパンプキンスープになっていた。
「予想通り! スープに最適だった。これに少々の塩を入れてと」
俺は兄弟に、スプーンを渡して、食べるよう促した。
「これ、まだ貴族だった頃に飲んだことある!」
目をキラキラさせるお兄ちゃんがそう言って、半円形のカボチャからスープをすくって飲む。
「美味しい! 凄く甘くて美味しいよ! オビオさん! 以前に飲んだ時の物より、濃厚で美味しい!」
「僕も飲む!」
弟もスプーンで何度もすくって飲み始めた。
「うわぁ、甘い! けど、塩気が旨味を引き立てていて、前菜にもってこいだね。飲むと余計にお腹が減るよ!」
「じゃあ、パンをあげるよ」
俺はブールを取り出して、兄弟に渡す。
「いいの?」
「イーノ・アッバーブ」
「?」
「なんでもない。お食べ」
二人はパンを千切って、スープに浸して食べた。
「美味しい!!」
パンプキンスープはブールと共に、あっという間になくなった。余程お腹が空いていたんだな。
あぁ、人が腹を満たし、満足した顔をしているのを見ると、何でこんなに幸せな気分になるのだろうか。
「で?」
地面に胡座をかいて、俺が幸せの余韻に浸っていると、ナニー・シットンが顔を近づけてきた。
「この鉄球カボチャを常食できるようにするには、どうするのです?」
あっ!
「その貴重な魔法の刀を、この兄弟に譲るのですか?」
そうだ!。俺は最低限、兄弟が飢えなくて済む方法を考えようとしていたのだった。
「それでしたら、飢えなくて済みますね。慈悲深きオビオ様が、元貴族の兄弟に魔法の刀を譲れば、一生飢える事はないでしょうから。なんなら、その刀を売ったお金で、貴族に返り咲く事ができましょう」
ぐぬぬぬ! 金剛切りは譲れない! レア中のレア武器だからな。
「お前、本当に嫌な奴だな! 地走り族の嫌な部分をかき集めたような性格しているよ」
「で、どうするのです?」
俺が腕を組んで考えていると、屋敷が見える村の門から、おかっぱの髪を弾ませながらムクが走ってくる。
「オビオお兄ちゃん~!」
「どうした、ムク」
「サーカお姉ちゃんが呼んでるよ~! 屋敷まで来てくれだって! 夕食の準備が出来たって!」
まじ? 夕飯に招いてくれるってか。てっきり俺らは宿屋で待機かと思ってたのに。
「もうそんな時間か。本来なら俺が屋敷まで行って料理するべきだったけど、意外と時間を食ったなぁ」
お腹の膨れた兄弟は、俺にお礼を言って去ろうとしたので、呼び止める。
「ほら、パンを持っていきな。病気のお母さんには、この白パンのサンドイッチを食べさせるといい」
亜空間ポケットからブールとサンドイッチが入ったバスケットを持たせて帰らした。
「これは宿題ですねぇ」
相変わらずナニー・シットンはニヤニヤしている。
「はぁ、嫌な吟遊詩人に目をつけられたもんだ。わかったよ! 明日までにきっとあの兄弟を飢えから救ってみせるからな! 覚えてろよ! それから今日はもうついてくるなよ!」
「解ってますよ、私はカズン家に招待されていませんからね」
あー! 腹立つ! これも有名税ってやつか? 嫌な税金だな! なんだかピーターの方が幾分か可愛く思える。
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