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拗ねるウィング
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時間は遡って、モティ転送前の俺。
東リンクスとモティの国境前で足止めをくっていた俺たちバトルコック団所有の魔法水晶に映ったのは、闇魔女のイグナちゃんだった。
「やった! ヒジリランドの魔法水晶に繋がった!」
キリマルの刀が擬人化した時の顔にそっくりな彼女は、不思議そうにこちらを見ている。
「どうしたの? ビチビチ」
ビチビチ・・・。久々に聞いたよ、その呼び名。
「ヒジリさん、いる?」
「隣にいるよ」
「かわってくれないかな?」
「わかった」
魔法水晶の前からイグナちゃんは消えた。去り際に、ワンピースから下着が見えたので、ピーターが「うほぉ!」と嬉しそうな声を上げたので、サーカに頭を叩かれていた。
・・・・。
ヒジリは何かをしているのか、中々水晶の前に現れない。なにしてんだ。こっちはずっと嫌な予感がして、鳥肌が立ちっぱなしだってのに。
「なにかね?」
飄々とした声が聞こえる。
ようやく現れたヒジリは、相変わらずハンサムで自信に満ちた顔をしていた。
「俺、神聖国モティに入れないんだ! 国境で止められてさ・・・」
何を言ってんだ、コイツはという感じで、ヒジリの右眉が上がる。
「それは当然の措置だとは思うがね。モティで騒ぎを起こしている過去が、君にはあるだろう」
あぁ、そうだった。それでも「モティに行かないと」って気分になるんだ。ウィングが必要なのは確かだが、それだけが理由じゃない。感性特化型である俺の勘が急かすんだよ、早くしないとウィングを失うと。
「カプリコンに命じて転送をしてくれないかな? モティにいるウィングを、カズン領まで連れていく必要があるんだ」
「ウィング・・・。あぁ、確か君のパーティメンバーか。どうしてモティにいると分かった?」
「魔法だよ、魔法! 【人探し】の魔法をサーカが使ったんだよ」
「だったら、転移魔法で飛べばいいだろう」
出来るならとっくにやってるわ、ロン毛ポニーテル!
「サーカは転移魔法を覚えたてで、かつモティに転移阻害結界が張られているんだよ。条件が悪すぎる」
焦る俺とは対照的に、ヒジリは右目だけを閉じて顎を摩っている。
「それを言うならば、モティは遮蔽フィールド下にある。樹族国やここのように、それが希薄な国ではない。転移失敗の可能性があるが? 更に一つ。行きはよいよい帰りは怖いで、一方通行になるぞ。帰りは自力でなんとかするのだな」
ヒジリの行動範囲が狭い理由がこれなんだよな。この星は彼が体に宿す高級なナノマシンを拒む。だが、俺の低性能ナノマシンは違う。遮蔽フィールドに引っかかるのは、力をブーストした時だけだ。
「それでいい! そっちの方が魔法より上手くいく可能性が高いよ! 早く転移してくれ!」
「何をそんなに急ぐのかね?」
理由を言えば、ヒジリは笑うだろう。でも言うさ。笑いたきゃ笑え。
「俺の勘が囁くんだよ。ウィングが危ないと」
「ほう?」
顎に手をやるヒジリは全く笑わなかった。それどころか、真剣な顔である。
「私の周りには、感性特化型の者がいなかったものでね。とはいえ、君の勘とやらを疑う気はさらさらない。きっと君の勘は正しいのだろう。行くがいい。しかし、代金は頂く」
代金だと? そうだった。この男は自分の利益を優先するんだった。
「何を払えばいい?」
「支払いは簡単だ。君の勘が正しいかどうかを確かめさせてもらう」
疑いはしないとヒジリは言った。ということは、俺を研究対象として見ているな。探求者の好奇に満ちた目で見られるのは、あまりいい気分じゃない。
「というと?」
「君に付いている監視ナノマシンのチャンネルを再開させてもらう」
え? ずっと監視してたんじゃないのか? 今まで律儀に見ないようにしていたのか。
あれか、楽しみは後にとっておくタイプだな?
「そんな事でいいなら。いくらでも見てくれ。だから、早く!」
「よし、君からの許可は得た。カプリコン、座標を確認次第、ウィング・ライトフットのもとへ彼を転送してくれ。因みに転送するのはオビオ一人だけでいい。転送事故があった場合、他のメンバーの責任は負いきれないからな」
お、俺一人だけ? まぁいいや。頻繁に現地人を転送すると、地球にいる惑星監視委員がうるさいんだろう、きっと。
「転送を急いでくれ、カプリコン!」
宇宙船カプリコンが転送準備をする時間すら、長く感じる。何度も「早く!」と心の中で喚くうちに、光の粒が体を包み込んだ。
モティに具現化して間髪入れずに、ウィングを助けに行った俺に纏わりつく監視ナノマシンから、現人神の声が聞こえてきた。
「転送直後に即動くのは愚か者のやる事だ、オビオ。しかも加速を使ったな?」
「そうだけど、それが何?」
そういえば、俺の体がずっと光りっぱなしだ。
「恐らくだが、君の体力が尽きるまで、そのままだ」
「えぇ!ってことは、遮蔽フィールドに引っかかるのかな?」
「かもしれん」
かもしれん、ってなんだよ。そこは科学者なんだから、なんか納得できる根拠を示してくれよ。
「とにかく! 俺はあいつを許せねぇ! 仲間を凌辱しようとしたんだからな!」
顔を押さえて、のたうち回るオーガを睨みつけて憤慨するも、ヒジリは頓珍漢な返事をした。
「私は驚いているよ。感性型の勘がここまで鋭いとはな。次、ヒジランドに来ることがあれば、是非調べさせてくれたまえ」
今、その話をする? 現人神様よぉ。
「話は後だ、ヒジリさん。野営地から神殿騎士がワラワラと出てきた」
樹族の中でも特に背の高い三十人ほどが、鎧の音を鳴らしながら接近してくる。その後ろに僧侶が十人。木の影ではスカウトが弓を構えているのも見える。
「ふむ。ここは引きたまえ。君は樹族国所属だ。そのまま戦闘をすれば国際問題になりかねん」
「引くってどこに! もうすでに囲まれてるよ! それに俺は、このまま逃げるわけにはいかねぇ!」
「地球人なのだから、無暗矢鱈と感情的になるな。・・・あぁ、そうか。君は感情制御チップが壊れていたのだったな」
「そういう事!」
「まぁ、いい。体力が尽きるまで、君のナノマシンのバグは治らないのだから、そこで暴れるのも有りかもしれん。よし! 今回は特別に尻拭いはしてやろう。存分にやりたまえ」
尻拭いって何をするつもりだ? まぁいいや。
「ありがてぇ!」
こちらで会話している間に体力の回復したオーガに、モティの僧侶が癒しの祈りを施す。顔の傷が癒えたオーガはゆっくりと立ち上がり、その顔で威嚇してきた。
「よくもやってくれたな、小僧」
元々低かったのか、俺のパンチでひしゃげたのかわからない鼻を擦って、オーガは近くにいた神殿騎士のハルバードを強引に掴んで奪う。
「お前らは手出しするなよ!」
そう言ったオーガに対し、神殿騎士の放った小さな呟きを、俺の耳が拾う。
「隊長の命令がない限り、手出しなどするものか。相手はバトルコック団のオビオ。竜殺しだぞ。あの戦いのとき、俺はその場にいたのだからな」
以前の戦いで、俺が無意識の間、自分の分身であるドラゴンの首をねじ切った事から、竜殺しと呼ばれているのだろう。
ウィングが胸を出したままの姿で、俺の袖を引っ張った。両手首が縛られており、胸が強調されてて目のやり場に困る。
「愛しきオビオ、助けに来てくれたのは嬉しいけど、一旦村まで下がろう。神殿騎士は君に怯えている。退路ぐらいは確保できると思うんだ」
「ダメだ! あのオーガが詫びを入れるまで許さねぇ! ウィングは【透明化】の魔法を使って逃げてくれ」
「でも・・・」
「今度は俺がお前を守る番だ。あの時、身代わりになってくれてありがとな、ウィング」
俺はウィングに軽くウィンクをして、手首に絡まる変な蛇を強引に引き離した。
すると監視ナノマシンから、呆れ声が聞こえてくる。
「格好をつけているところに悪いのだがね、オビオ。君が体力を使い果たしたら、一体誰が癒すのかね? 仲間の司祭がいてくれる事に越したことはない」
あ、そうだった。体力が無くなって動けなくなると危険か。
「さっきから聞こえる声は、一体誰のものだい?」
既に男に戻ったウィングは、巻き上がったローブを下ろして、不思議そうに辺りを見回している。
「ヒジリさ・・・。ヒジリ聖下の声だ。ウィングが崇める現人神の」
うっかりヒジリさんと言うところだった。公の場では聖下という敬称を付けたほうが無難だろうな。信者が難癖つけてくるかもしれないし。勿論、ウィングはそんな事でブチ切れたりはしないだろうが。
「やはり君は神の眷属だったのだね。神の声を纏っているなんて」
いや、そういうわけじゃないんだけど、今は説明がめんどくせぇ。
「いつまで、お喋りをしているつもりだ!」
オーガがハルバードで薙ぎ払ってきた。しかし、バグで超加速化した俺には、奴の攻撃が止まって見える。
ハルバードの柄を掴んで、そのまま握り折った。
「なんて馬鹿力だ!」
周りの神殿騎士が驚きで騒めく。
「俺は料理人だ。自分の料理で、バフを盛りまくれるんだわ。だから今は力が19くらいになっている! 並みのオーガじゃ、敵わないぞ」
カズン村で予め、デスクローのベーコンを食ってて良かった。
「力勝負だけが戦いじゃねぇ!」
得物を失ったオーガは、軽くバックステップで間合いを取る。勿論、俺がそれを見過ごすわけがない。追いかけようとしたその時―――。
「オビオ、気を付けて! ゼッドは一気に間合いを詰めるのが上手いんだ!」
ウィングの方を見てから視界を戻すと、重心を後ろにかけていたはずのオーガは、いつの間にか俺の目の前まで来ていた。
嘘だろ。俺の動体視力が、奴を捉えられないなんて! いや、よそ見をしていたし、視界の外から来られたら、動体視力もくそもないか。
「さっきのお返しだ!」
「うるせぇ! お返しのお返しだ!」
ごつい拳が俺の鼻先に当たった瞬間、顔を反らして渾身のカウンターを放つ! カウンターってのは、通常は三倍くらいの威力だ。しかし、ヒジリに教わったカウンターパンチはそれ以上の威力! 存分に味わえ!
「あぶねぇ!」
ゼッドという名のオーガも相当の手練れなのか、俺のパンチを刹那の間で躱そうと頭を動かした。
が、それが返ってゼッドに悪く働いた。俺のパンチが、オーガの顎を掠めたのだ。
「ゲスッ!」
脳震盪を起こし、奇妙な声を上げて、ゼッドは白目をむいて地面に沈む。自分が下種だから「ゲスッ!」って言ったのか? こいつからは、あまりいい匂いを感じない。ろくな人生を歩んできてはいないと、俺の鑑定の指輪が情報を与えてくれるんだ。
レイプ、強盗、殺人。全ての悪事を戦争の名のもとで行ってきたクズ。頭に響く、被害者の悲鳴や怨嗟の声でうっかり負の感情が爆発しそうになるが、なんとか抑えた。
それにしても、それらの悪事が全て合法だったのが驚きだな。属性はローフル・イービルか。法のもと、悪事を平然と行う、一番嫌いなタイプだ。その場の詭弁と要領の良さで、悪事を正当化してきたのだろうさ。
「謝罪の言葉を聞く前に、気絶しちまったな。もっとボコボコにするつもりだったのに」
神殿騎士の後ろで、僧侶が焦っているのが見える。なんでかは解っているぜ。祈りでは気絶を回復できない。錬金術師やドルイドが作る、気つけ薬じゃないと直ぐに起こすのは無理だな。
「まだ俺とやり合いたい奴はいるか?」
神殿騎士から覇気を感じねぇ。やる気はないようだ。でも騎士様ってのは、気分で任務を放棄できないもんだよな。隊長らしき男が、部下たちを鼓舞する。
「樹族国の者が神聖国モティで好き勝手やっているのだぞ! さぁ、お前ら! バトルコック団のリーダーを捕まえろ! 無理なら殺しても構わん!」
気の毒に思うよ、部下の神殿騎士さんたち。多分、この一個小隊は、十分後に土を舐める事になるだろうよ。
神殿騎士と僧侶とスカウトをボコボコにした後、ようやく俺の体から光が消えた。
疲れすぎて、しゃがんで亜空間ポケットから、スタミナを回復する乾燥デーツを取り出して齧っていたが、ウィングの祈りによる回復の方が早かった。遮蔽フィールドの害を被る前に、なんとか通常状態に戻れたのは幸いだ。
ゼッドはウィングによって魔法のアイテム(蛇?)で、手を縛られている。まだ気絶したままだ。
「少し会わない間に、随分と強くなったね」
嬉しそうな、それでいて寂しそうな顔でウィングは言った。多分、俺と彼とでは、倍ぐらいの実力差があると思う。
「ああ、聖下のもとで修業したからな。何度か聖下を殴ってやったぜ(そのたびに、どぎついカウンターパンチを貰ったけど)」
「ははっ! 不敬だよ、オビオ」
「いいんだよ、聖下はいくら殴っても平気な顔してたからな」
おっと、そうだった! 俺はウィングを連れ戻しに来たんだった。高位の司祭の力が必要なんだ。
「なぁ、ウィング。すぐにサーカの生まれ故郷に来てくれるか?」
一瞬ハッとした表情を見せ、彼の声がくぐもる。
「僕が必要なのかい? サーカの為に・・・」
不満げに目線を反らし、ウィングは拗ねたような顔をした。
東リンクスとモティの国境前で足止めをくっていた俺たちバトルコック団所有の魔法水晶に映ったのは、闇魔女のイグナちゃんだった。
「やった! ヒジリランドの魔法水晶に繋がった!」
キリマルの刀が擬人化した時の顔にそっくりな彼女は、不思議そうにこちらを見ている。
「どうしたの? ビチビチ」
ビチビチ・・・。久々に聞いたよ、その呼び名。
「ヒジリさん、いる?」
「隣にいるよ」
「かわってくれないかな?」
「わかった」
魔法水晶の前からイグナちゃんは消えた。去り際に、ワンピースから下着が見えたので、ピーターが「うほぉ!」と嬉しそうな声を上げたので、サーカに頭を叩かれていた。
・・・・。
ヒジリは何かをしているのか、中々水晶の前に現れない。なにしてんだ。こっちはずっと嫌な予感がして、鳥肌が立ちっぱなしだってのに。
「なにかね?」
飄々とした声が聞こえる。
ようやく現れたヒジリは、相変わらずハンサムで自信に満ちた顔をしていた。
「俺、神聖国モティに入れないんだ! 国境で止められてさ・・・」
何を言ってんだ、コイツはという感じで、ヒジリの右眉が上がる。
「それは当然の措置だとは思うがね。モティで騒ぎを起こしている過去が、君にはあるだろう」
あぁ、そうだった。それでも「モティに行かないと」って気分になるんだ。ウィングが必要なのは確かだが、それだけが理由じゃない。感性特化型である俺の勘が急かすんだよ、早くしないとウィングを失うと。
「カプリコンに命じて転送をしてくれないかな? モティにいるウィングを、カズン領まで連れていく必要があるんだ」
「ウィング・・・。あぁ、確か君のパーティメンバーか。どうしてモティにいると分かった?」
「魔法だよ、魔法! 【人探し】の魔法をサーカが使ったんだよ」
「だったら、転移魔法で飛べばいいだろう」
出来るならとっくにやってるわ、ロン毛ポニーテル!
「サーカは転移魔法を覚えたてで、かつモティに転移阻害結界が張られているんだよ。条件が悪すぎる」
焦る俺とは対照的に、ヒジリは右目だけを閉じて顎を摩っている。
「それを言うならば、モティは遮蔽フィールド下にある。樹族国やここのように、それが希薄な国ではない。転移失敗の可能性があるが? 更に一つ。行きはよいよい帰りは怖いで、一方通行になるぞ。帰りは自力でなんとかするのだな」
ヒジリの行動範囲が狭い理由がこれなんだよな。この星は彼が体に宿す高級なナノマシンを拒む。だが、俺の低性能ナノマシンは違う。遮蔽フィールドに引っかかるのは、力をブーストした時だけだ。
「それでいい! そっちの方が魔法より上手くいく可能性が高いよ! 早く転移してくれ!」
「何をそんなに急ぐのかね?」
理由を言えば、ヒジリは笑うだろう。でも言うさ。笑いたきゃ笑え。
「俺の勘が囁くんだよ。ウィングが危ないと」
「ほう?」
顎に手をやるヒジリは全く笑わなかった。それどころか、真剣な顔である。
「私の周りには、感性特化型の者がいなかったものでね。とはいえ、君の勘とやらを疑う気はさらさらない。きっと君の勘は正しいのだろう。行くがいい。しかし、代金は頂く」
代金だと? そうだった。この男は自分の利益を優先するんだった。
「何を払えばいい?」
「支払いは簡単だ。君の勘が正しいかどうかを確かめさせてもらう」
疑いはしないとヒジリは言った。ということは、俺を研究対象として見ているな。探求者の好奇に満ちた目で見られるのは、あまりいい気分じゃない。
「というと?」
「君に付いている監視ナノマシンのチャンネルを再開させてもらう」
え? ずっと監視してたんじゃないのか? 今まで律儀に見ないようにしていたのか。
あれか、楽しみは後にとっておくタイプだな?
「そんな事でいいなら。いくらでも見てくれ。だから、早く!」
「よし、君からの許可は得た。カプリコン、座標を確認次第、ウィング・ライトフットのもとへ彼を転送してくれ。因みに転送するのはオビオ一人だけでいい。転送事故があった場合、他のメンバーの責任は負いきれないからな」
お、俺一人だけ? まぁいいや。頻繁に現地人を転送すると、地球にいる惑星監視委員がうるさいんだろう、きっと。
「転送を急いでくれ、カプリコン!」
宇宙船カプリコンが転送準備をする時間すら、長く感じる。何度も「早く!」と心の中で喚くうちに、光の粒が体を包み込んだ。
モティに具現化して間髪入れずに、ウィングを助けに行った俺に纏わりつく監視ナノマシンから、現人神の声が聞こえてきた。
「転送直後に即動くのは愚か者のやる事だ、オビオ。しかも加速を使ったな?」
「そうだけど、それが何?」
そういえば、俺の体がずっと光りっぱなしだ。
「恐らくだが、君の体力が尽きるまで、そのままだ」
「えぇ!ってことは、遮蔽フィールドに引っかかるのかな?」
「かもしれん」
かもしれん、ってなんだよ。そこは科学者なんだから、なんか納得できる根拠を示してくれよ。
「とにかく! 俺はあいつを許せねぇ! 仲間を凌辱しようとしたんだからな!」
顔を押さえて、のたうち回るオーガを睨みつけて憤慨するも、ヒジリは頓珍漢な返事をした。
「私は驚いているよ。感性型の勘がここまで鋭いとはな。次、ヒジランドに来ることがあれば、是非調べさせてくれたまえ」
今、その話をする? 現人神様よぉ。
「話は後だ、ヒジリさん。野営地から神殿騎士がワラワラと出てきた」
樹族の中でも特に背の高い三十人ほどが、鎧の音を鳴らしながら接近してくる。その後ろに僧侶が十人。木の影ではスカウトが弓を構えているのも見える。
「ふむ。ここは引きたまえ。君は樹族国所属だ。そのまま戦闘をすれば国際問題になりかねん」
「引くってどこに! もうすでに囲まれてるよ! それに俺は、このまま逃げるわけにはいかねぇ!」
「地球人なのだから、無暗矢鱈と感情的になるな。・・・あぁ、そうか。君は感情制御チップが壊れていたのだったな」
「そういう事!」
「まぁ、いい。体力が尽きるまで、君のナノマシンのバグは治らないのだから、そこで暴れるのも有りかもしれん。よし! 今回は特別に尻拭いはしてやろう。存分にやりたまえ」
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「ありがてぇ!」
こちらで会話している間に体力の回復したオーガに、モティの僧侶が癒しの祈りを施す。顔の傷が癒えたオーガはゆっくりと立ち上がり、その顔で威嚇してきた。
「よくもやってくれたな、小僧」
元々低かったのか、俺のパンチでひしゃげたのかわからない鼻を擦って、オーガは近くにいた神殿騎士のハルバードを強引に掴んで奪う。
「お前らは手出しするなよ!」
そう言ったオーガに対し、神殿騎士の放った小さな呟きを、俺の耳が拾う。
「隊長の命令がない限り、手出しなどするものか。相手はバトルコック団のオビオ。竜殺しだぞ。あの戦いのとき、俺はその場にいたのだからな」
以前の戦いで、俺が無意識の間、自分の分身であるドラゴンの首をねじ切った事から、竜殺しと呼ばれているのだろう。
ウィングが胸を出したままの姿で、俺の袖を引っ張った。両手首が縛られており、胸が強調されてて目のやり場に困る。
「愛しきオビオ、助けに来てくれたのは嬉しいけど、一旦村まで下がろう。神殿騎士は君に怯えている。退路ぐらいは確保できると思うんだ」
「ダメだ! あのオーガが詫びを入れるまで許さねぇ! ウィングは【透明化】の魔法を使って逃げてくれ」
「でも・・・」
「今度は俺がお前を守る番だ。あの時、身代わりになってくれてありがとな、ウィング」
俺はウィングに軽くウィンクをして、手首に絡まる変な蛇を強引に引き離した。
すると監視ナノマシンから、呆れ声が聞こえてくる。
「格好をつけているところに悪いのだがね、オビオ。君が体力を使い果たしたら、一体誰が癒すのかね? 仲間の司祭がいてくれる事に越したことはない」
あ、そうだった。体力が無くなって動けなくなると危険か。
「さっきから聞こえる声は、一体誰のものだい?」
既に男に戻ったウィングは、巻き上がったローブを下ろして、不思議そうに辺りを見回している。
「ヒジリさ・・・。ヒジリ聖下の声だ。ウィングが崇める現人神の」
うっかりヒジリさんと言うところだった。公の場では聖下という敬称を付けたほうが無難だろうな。信者が難癖つけてくるかもしれないし。勿論、ウィングはそんな事でブチ切れたりはしないだろうが。
「やはり君は神の眷属だったのだね。神の声を纏っているなんて」
いや、そういうわけじゃないんだけど、今は説明がめんどくせぇ。
「いつまで、お喋りをしているつもりだ!」
オーガがハルバードで薙ぎ払ってきた。しかし、バグで超加速化した俺には、奴の攻撃が止まって見える。
ハルバードの柄を掴んで、そのまま握り折った。
「なんて馬鹿力だ!」
周りの神殿騎士が驚きで騒めく。
「俺は料理人だ。自分の料理で、バフを盛りまくれるんだわ。だから今は力が19くらいになっている! 並みのオーガじゃ、敵わないぞ」
カズン村で予め、デスクローのベーコンを食ってて良かった。
「力勝負だけが戦いじゃねぇ!」
得物を失ったオーガは、軽くバックステップで間合いを取る。勿論、俺がそれを見過ごすわけがない。追いかけようとしたその時―――。
「オビオ、気を付けて! ゼッドは一気に間合いを詰めるのが上手いんだ!」
ウィングの方を見てから視界を戻すと、重心を後ろにかけていたはずのオーガは、いつの間にか俺の目の前まで来ていた。
嘘だろ。俺の動体視力が、奴を捉えられないなんて! いや、よそ見をしていたし、視界の外から来られたら、動体視力もくそもないか。
「さっきのお返しだ!」
「うるせぇ! お返しのお返しだ!」
ごつい拳が俺の鼻先に当たった瞬間、顔を反らして渾身のカウンターを放つ! カウンターってのは、通常は三倍くらいの威力だ。しかし、ヒジリに教わったカウンターパンチはそれ以上の威力! 存分に味わえ!
「あぶねぇ!」
ゼッドという名のオーガも相当の手練れなのか、俺のパンチを刹那の間で躱そうと頭を動かした。
が、それが返ってゼッドに悪く働いた。俺のパンチが、オーガの顎を掠めたのだ。
「ゲスッ!」
脳震盪を起こし、奇妙な声を上げて、ゼッドは白目をむいて地面に沈む。自分が下種だから「ゲスッ!」って言ったのか? こいつからは、あまりいい匂いを感じない。ろくな人生を歩んできてはいないと、俺の鑑定の指輪が情報を与えてくれるんだ。
レイプ、強盗、殺人。全ての悪事を戦争の名のもとで行ってきたクズ。頭に響く、被害者の悲鳴や怨嗟の声でうっかり負の感情が爆発しそうになるが、なんとか抑えた。
それにしても、それらの悪事が全て合法だったのが驚きだな。属性はローフル・イービルか。法のもと、悪事を平然と行う、一番嫌いなタイプだ。その場の詭弁と要領の良さで、悪事を正当化してきたのだろうさ。
「謝罪の言葉を聞く前に、気絶しちまったな。もっとボコボコにするつもりだったのに」
神殿騎士の後ろで、僧侶が焦っているのが見える。なんでかは解っているぜ。祈りでは気絶を回復できない。錬金術師やドルイドが作る、気つけ薬じゃないと直ぐに起こすのは無理だな。
「まだ俺とやり合いたい奴はいるか?」
神殿騎士から覇気を感じねぇ。やる気はないようだ。でも騎士様ってのは、気分で任務を放棄できないもんだよな。隊長らしき男が、部下たちを鼓舞する。
「樹族国の者が神聖国モティで好き勝手やっているのだぞ! さぁ、お前ら! バトルコック団のリーダーを捕まえろ! 無理なら殺しても構わん!」
気の毒に思うよ、部下の神殿騎士さんたち。多分、この一個小隊は、十分後に土を舐める事になるだろうよ。
神殿騎士と僧侶とスカウトをボコボコにした後、ようやく俺の体から光が消えた。
疲れすぎて、しゃがんで亜空間ポケットから、スタミナを回復する乾燥デーツを取り出して齧っていたが、ウィングの祈りによる回復の方が早かった。遮蔽フィールドの害を被る前に、なんとか通常状態に戻れたのは幸いだ。
ゼッドはウィングによって魔法のアイテム(蛇?)で、手を縛られている。まだ気絶したままだ。
「少し会わない間に、随分と強くなったね」
嬉しそうな、それでいて寂しそうな顔でウィングは言った。多分、俺と彼とでは、倍ぐらいの実力差があると思う。
「ああ、聖下のもとで修業したからな。何度か聖下を殴ってやったぜ(そのたびに、どぎついカウンターパンチを貰ったけど)」
「ははっ! 不敬だよ、オビオ」
「いいんだよ、聖下はいくら殴っても平気な顔してたからな」
おっと、そうだった! 俺はウィングを連れ戻しに来たんだった。高位の司祭の力が必要なんだ。
「なぁ、ウィング。すぐにサーカの生まれ故郷に来てくれるか?」
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「僕が必要なのかい? サーカの為に・・・」
不満げに目線を反らし、ウィングは拗ねたような顔をした。
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生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
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