料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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病のそよ風

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 俺はウィングの不意打ちに驚きつつも、困惑していた。彼からの好意は知っている。でもサーカを裏切ることはできない。どう対処したらいいんだろうか? ただウィングを見つめてから、不意に視線を逸らした。

「他者からの愛情は、素直に受け止めるべきだ。困惑などしてはいけない」

 感性特化型の俺よりも、愛情を知らなさそうなヒジリがそれを言うのか。あんたは、取り合えず他人の好意を全部受け止めてるだけの、スケコマシみたいなもんだろうが。女を何人も囲いやがって! それともなにか? 愛を知ろうとする探求心がそうさせているのか?

「・・・・」

 う~ん。やはり気になって彼を見てしまう。ウィングは熱に浮かれたような顔をして、まだこちらを見つめていた。

「さっさとこの場から離れたらどうかね。もう用はないだろう」

 愛情の話はどうした?

 ナノマシンで、いまだ姿を形作ったままのヒジリが本当に退屈そうに、木の葉などを拾ってそう言った。ハァハァ言っていたウメボシは消えてしまっている。ボーイズラブが趣味の彼女は、それでも監視ナノマシンで俺たちを見て興奮している事だろう。

「そ、そうだな。村に行こうか」

 俺が歩き出すと、ウィングが手を繋いできた。

「すまないね、手を借りるよ。まだダメージが残っているもので」

 あの凌辱の前に戦闘でもしていたのだろうか? 表面的なダメージは無いので、恐らくはマナか体力を激しく消費したからだろう。手ぐらい貸してやるさ。命の恩人だしさ。

「どうかね? 後方からの追手の気配はあるか?」

 最近、五感―――、いや六感すら研ぎ澄まされてきた俺のセンサーに、そんな気配はなかった。

「いない。というか、監視ナノマシンで、その辺の警戒はできないのか?」

「君に吹き付けたナノマシンは、そんな便利なものではない。精々周囲三メートル程度の視界しかない安物だ。玩具と言ってもいいくらいに、な」

「なんだ。もっと凄いものかと思っていたのに」

「君如き料理人が、贅沢をいうな」

 どこか愛情のある言い方だったので、俺は何も言い返さなかった。もし俺が料理人ではなく、科学者だったらこうはいかなかっただろう。ヒジリは徹底的に、敵対視していたと思う。なにせ研究のライバルが増えるのだからな。というか、地球に送り返していたかと。

 さてさて、俺はキリマルほど用心深い性格をしていないから、念のため、もう一度、気配を探ってみた。

 気絶から回復したスカウトなどが、そろそろ後を追ってくるかと思ったが、そんな事はなく。

 俺たちは何事もなく無事、ウィングの住む村にたどり着いた。

 ウィングが真っ先に案内したのは、村の教会だった。彼の住居でもあるし当たり前か。

 大扉を開けるとそこには・・・。

「病人だらけじゃないか!」

 長椅子に横たわり、苦しそうに咳き込む老人や子供たち。神が教会を通して施す加護なのか、なんなのかは、わからないが、微弱な癒しの効果を感じた。ここの神はヒジリやハイヤット・ダイクタ・坂本博士って事になるけどな・・・。

「伝染性はないから安心して」

 ウィングは彼らを庇うようにそう言うが、どのみち、俺は病気にかからない。毒も無効。

「オビオの要望どおり、ついていきたいのは、やまやまなんだけど、僕はこの村を守る義務がある。先ほどのモティの件と、この祈りの効かない原因不明の病気のせいで、動くことはできないのさ」

 最初に出会った時の不誠実そうな印象とは裏腹に、彼は愛情深く、義理堅い。そもそも信じていたカクイ司祭の疑いを晴らす為に、真実を確かめに俺のもとにやって来たような奴だからな。出会った当初、俺の勘も鈍かったのだろう。いや、イケメンに対する嫉妬で目が曇っていたのかもしれない。

「それでさ、オビオ。君の上位鑑定の指輪で、彼らの病気の原因を調べて欲しいんだ。いいかな?」

「勿論、いいですとも」

 俺はゴルベーザのような返事をして、近くにいた少女に手をかざした。

 少女は俺の気配に気づいたのか、目を覚ます。

「バトルコック団の・・・。お兄ちゃん?」

 そう、夕方に魔法水晶で放送していたアニメ(最終回済み)の主人公が所属するパーティ名がバトルコック団。その主人公はコック帽を被った善なるオーガが、悪人と料理対決をし、いつも負けそうになるが、その後のバトルで強引に勝ちに持っていくという滅茶苦茶なアニメだ。最終回で、主人公は落下してくる隕石を受け止めて死亡している。その代わりに世界を救った。料理関係ねぇな。

「そうだよ、アニメじゃないほうのバトルコック団のリーダー、オビオ・ミチだ」

「知ってる? ゴホゴホ。あのアニメ、来年、ドラマになるんだよ。予告でお兄ちゃんが映ってた! 二代目バトルコック団リーダーとして」

 おい、知らんぞ、そんな話。っていうか、『よろしくネコキャット』というドラマでもそうなんだが、どうやって実際の出来事を、ドラマにしてんだ? しょっちゅう、盗賊ネコキャットを取り逃がした王国近衛兵独立部隊の隊長さん(シルビィ隊長)が、部下に対して「ばっかも~~~ん!」と怒鳴っている映像が流れているしな。(使いまわしだけど)

「病気なのに、あまり喋るとネコキャットのバッカモンおばさんに怒られるよ。じゃあ今から視るからね?」

 シルビィ隊長は巷の子供たちに、バッカモンおばさんと呼ばれている。どうでもいいが。

「うん」

 俺は指輪に意識を送り込む。

 この少女の病気の原因は何か。最近知ったのだが、知りたい情報を絞った方が、より詳細がわかるのだ。適当に調べると、その人物の生き様や、昨日の晩御飯など、どうでもいい情報も流れ込んでくるので面倒だ。

「えーっと、なになに。原因は化学物質のホスゲゲンだとっ?」

 そう言うと、即座にヒジリが反応した。

「ホスゲンと間違えていないかね?」

「いや、ホスゲゲンで合ってる(ホスゲンって、なんだ?)」

「ふむ、この星特有の化学物質か? ホスゲンと似たような症状ならば、大体、肺水腫に至り、呼吸困難になる。つまり陸で溺れるようなものだ」

 謎の声を聞いて不思議そうにする少女の横で、ウィングが頷いた。

「流石は聖下。死亡した二人も、死因を調べた結果、肺に水や血が溜まっておりました。治療法を教えてくれますと、村は助かりま。どうかご慈悲を、我が主様」

 とは言ってもなぁ。ヒジリさえ、知らない化学物質だ。

「科学者として、これほど興味をそそるものはないが、そちらには行く事はできない。丁度今、遮蔽の霞が降下中で、体調が優れんのだ。すまないな」

 どの道、転送失敗のリスクを恐れて来るつもりはないだろうさ。

「病人の唾液と尿を幾らか、使い魔などでヒジランドまで送ってくれると、ありがたいのだが」

 ほらな。

「わかりました。我が主様。すぐに送らせましょう。それで、治療法が解るのはいつごろでしょうか?」

「少なくとも、一週間か。確実な治療法を求めるなら」

 はぁ? この女の子はもって後三日だぞ!

「それでは、遅いですよ、聖下。三日以内でお願いします!」

「無茶を言うな、オビオ。未知の化学物質だぞ。そう簡単に解析結果が出せるものか」

 やはりヒジリは、自己の利益を優先する。人の死よりも、自分の出す成果が一番なのだ。恐らく、解析したデータを地球に送って、ボランティアポイントをがっつり稼ぐつもりだ。最速で解析する気なんてない。

「どこかに原因があるかもしれないな。病人に何か共通点はあるかね? 住んでいる場所とか」

 暫く腕を組んで考えていたウィングが、何かに気が付いた。

「あります! 病人は皆、川沿いに住居があります」

「その川の水を飲んだとか?」

 俺が質問するとウィングは首を横に振った。

「井戸が離れた場所にあって、皆そこで水を汲みます。僕はてっきり悪意ある錬金術師が、井戸に毒でも入れたのかと疑っていましたが」

「で、あれば、井戸の水を飲む村人全員に症状が出ていないとおかしい。特定の者にだけということは・・・。オビオ、悪いが川に沿って調べてみてくれないか? 何か原因が見つかるかもしれない。ホスゲンと似たような性質であれば、青草臭がするはずだ。或いは腐敗臭。とにかく、君の五感が頼りだ」

「了解。ウィングは、なるべく皆に癒しを頼む。もし敵襲がれば、教会の鐘を鳴らしてくれ。すぐに戻る」

「わかったよ」

 少し不安そうな顔をするウィングに申し訳ないと思いつつ、俺は教会から出て歩き出した。

「皆がいればなぁ。教会の防衛ができるのに」

「皆とは他のメンバーの事かね?」

「そうです。皆頼りになるんですよ。白獅子トウスさんなんかは、多分、英雄傭兵よりも強いですよ」

「ほう? ヘカティニスよりも? それは嘘だな。あれが持つ魔剣は強力だ。以前に戦った黒竜も、彼女に攻撃させまいと警戒していたほどだからな」

「彼女と武器が同じなら負けないさ」

 とはいえ、所有する武器も実力の内。現状、ヘカティニスの方が強いのは確かだ。

「そうかね。そういえば、ピーターはどうだ? 少しは成長したか?」

 ヒジランドでヘカティニスにずっと追いかけられていた彼は、隠遁術がかなり向上している。

「成長したも何も、彼は一番のアタッカーですよ。敵をバックスタブで一撃で葬り去ります。敵討伐数では、メンバー内で一番」

「ふむ。あの小狡くて、欲望に忠実な地走り族がそこまで・・・」

 まぁ、そうなんだけど、元々が低評価過ぎて可笑しい。

「サーカは・・・」

「彼女の話はいい。ウメボシのバリアを魔法で貫通した話を聞いた。まさか魔法の効かない我らの脅威になる存在が現れるとはな。無属性魔法も研究しなければなるまい」

 研究材料が多い事が嬉しいのか、ヒジリの声は弾んでいた。

「それにしても・・・」

 ここで、やや現人神の声が曇る。

「樹族国は力が集まりすぎているように感じるな。鉄傀儡部隊、カズン領の魔王、ブライトリーフ領に住む、塔の異世界人達も馬鹿にはならない。あれは魔法無効化の盾になる。ワンドリッターの黒騎士の実力も噂に聞くぞ。コーワゴールド家の超遠距離魔法もな。そして、なにより、君だ。オビオ。君は支援に特化している。料理で味方の力を何倍にもできるからな。戦場に出てこられると厄介だ」

 お、ヒジリは意外と情報通だな。魔王や塔の異世界人の事も知っている。まぁ毎日、城に商人が商談に来るから情報は勝手に集まるか。

「俺は戦争になんか参加しませんよ」

「国家間のやり取りに君の意思など関係ないのだよ。それに君はシルビィの部下だ。命令があれば、出撃しなくてはなるまい」

「とはいえ、一体どこと戦争するって言うんですか。ヒジランドとですか? だったら勝ち目なんてないですよ。カプリコンからのビーム一つで、大騒ぎになるでしょうよ」

「まぁ、そうだが、きな臭い情報ならいくらでもある。南の獣人国が国境に戦力を集めていると聞く。それに、例の件で現在樹族国とモティの関係は険悪だ。周辺の小国連合は、世界最古の国、樹族国に敬意を払っているから、問題はないとはいえ、何がどうなるかはわからんぞ」

「脅すなよ、ヒジリさん。・・・ん?」

「どうしたね? 臭いを感じたのかね?」

「いや、少し先の土手に、葦が刈られた場所があって。なんだか不自然なんだ」

「ほう。他に違和感は?」

「その真ん中に、ユリに似た植物が生えている」

 俺は匂いがしないかと確かめたが、何もしなかった。ユリならユリの香りがするはずだけど。

「怪しいな。調べたまえ」

 言われるまでもなく、俺はユリを触って調べる。

「わぁ! こ、これだ!」

 ホスゲゲン! この花が出す無臭の臭気が病気の原因だったんだ。

「なるほど、川風に乗って、ホスゲゲンをまき散らしていたという事か」

 原因が解って解決に一歩近づいたと安堵した瞬間―――、俺の両腕が斬られた。

「は?!」

 いてぇ! いや、それよりも、俺に気づかれずに近づいた者がいる事に驚愕した! 驚きと痛みで急激に心臓が高鳴る。

「誰だ!」

「頭を下げたまえ、オビオ」

 ヒジリの言う通り俺は、咄嗟に地面にしゃがんだ。

 振り返ろうとしていた俺の首を狙った剣の横薙ぎは空振りする。

(腕はどこだ?)

 斬られた腕を目だけで探した。指にはめた戦士の指輪がないと、俺はただの料理人だ。

 しかし、その腕は筋肉質のオーガに蹴り飛ばされて土手を転がり落ちていく。川に流されていなければいいが。

 くっそー! 相手は誰かと思えば・・・。

「ディハハハ! 俺様、参上!」

 しつこいなぁ、この野郎。

「どうやって、俺に近づいた!」

 東の大陸出身のオーガ、ゼッドは、こめかみ辺りを人差し指で叩いて、舌でコッコと音を鳴らす。

「神殿騎士達から、お前に関する情報を集めたんだよ。それで対策を練った。それと動作音をなくす魔法のブーツや、体臭を消す香水、姿を隠すマントをスカウトから借りてきたのよ。そうそう、お前は指輪がないと、ただの料理人になるらしいな。どんなに強くても、戦士じゃねぇんだ。だったらよぉ、お前なんか、ジャイアントトードにも負けるだろうさ。さぁて、さっきの礼をさせてもらおうじゃねぇか。あのパンチは効いたぜ! あぁ腹立つ。早速死ね! バトルコック団のオビオ!」

 両手の無い俺の脳天を狙って、双剣が振り下ろされた。

 正直に言うと、ピンチ以外の何物でもない・・・。
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