料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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オーガの肉

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 一旦、意識の戻った俺だったが、また意識を失い、気が付けば教会のベッドでうずくまるように横になっていた。周りには誰もいない。切られた服もナノマシンが修復してくれていたのか、裸ではなかった。袖は修復できなかったのか、なんだかワイルドな恰好になっている。俺はよく裸になる運命にあるから、これでもマシなほうだ。

「確か、ゼッドに斬られて目の前が真っ暗になった後、目覚めたらトウスさんと、サーカが近くにいたのは記憶にある。皆はどこだ?」

 ふとサイドテーブルを見ると、戦士の指輪と鑑定の指輪、その他諸々の魔法の指輪が置いてある。

「回収してくれたんだ! でもあの危険な花の近くで探したってことは、皆も病気に!」

 俺は急いで飛び起き、指輪をはめる。ここにいないという事は、そういう事だ。部屋から出ると階段から駆け下りて、聖堂に行くと、相変わらず患者で溢れかえっており、その中に皆はいない。

 俺が病気を治してくれると固く信じている例の少女が、俺を見つけて咳をする。

「司祭様たちなら、地下の懲罰室にいるよ」

「ありがと!」

 礼を言いながらも、彼女の寿命が刻一刻と尽きようとしている事に、俺の胸は張り裂けそうになる。

 俺は少女の指さした先の地下への階段へ走った。走る途中にふと気が付く。ヒジリがいない。周囲を飛ぶ監視ナノマシンの気配もない。恐らく起動していないのだろう。

「どういうことだ?」

 まぁ目覚めにヒジリの幻なんか見たくはなかったから、丁度いいか。

 懲罰室の扉の前に来ると、激しい脅迫スキルの威圧を感じる。誰だ? ピーターが来たのか? いや、あいつの脅迫スキルはもっと粘っこさを感じる。しかし、この直情的な怒りは・・・。

 ガチャリと扉を開けると、トウスさんが身動きのできないゼッドの髪を掴んで、吠えていた。

「まだ何か隠してんなら承知しねぇぞ。俺ぁ、拷問ってのは好きじゃねぇ。そんな事するより、価値がねぇと判断したら、即お前を殺す方が気が楽だ」

 トウスさんも、獣人国の内紛で拷問を受けたのかもしれない。だからその辛さを知っているのだろう。

「もうねぇよ。傭兵の持つ情報なんて大した事ねぇ。雇い主だった事もあるお前だって知っているだろ。獣人国の族長の息子さんよぉ」

 なるほど、情報収集してたのか。それにしても、トウスさんの威圧感は尋常じゃねぇ。それだけ、相手が精神力の強いオーガだって事なんだろうよ。

「オビオ、もう体は大丈夫なのかい?」

 ウィングが真っ先にやって来て、俺の手を両手で包み込むようにして持ち、心配そうな顔で見上げてきた。その向こうで、腕を組んだサーカはじっとゼッドの表情の変化を窺っている。嘘をついていないか、どうかを看破しようとしているのだろう。

「心配してくれてありがとう、ウィング」

 トウスさんが、まだゼッドを睨んでいる間にサーカがやってきた。

「あいつは傭兵の割に、中々の情報を持っていたぞ。例の毒花は、絶望平野にある腐敗の森のリッチから、モティが買ったそうだ。誰が買ったかまではわからん」

 人であることを捨てた魔術師から、聖職者が毒花を買うなんて皮肉だねぇ。それにしても、情報収集力に優れているオーガだな。こいつ人間じゃなかろうな? オーガにしては頭が良すぎる。ヒジランドの守備を担当する砦の傭兵ギルドの参謀、ベンキさん並みだ。

「絶望平野っていったら、聖下の領土だろ。何やってんだ、あの現人神は」

「うむ。ゆえに責任を感じると言って、聖下は花をヒジランドに転送してしまった」

「はぁ?! なんだって? あんだけ俺たちの転送を渋っていたのに、研究対象は簡単に取り寄せるんだな」

 そういう男だというのは理解しているが、全くもって腹立たしい。が、ウィングがヒジリを弁護しようと会話に入ってきた。

「聖下曰く、霞が上昇して転送がしやすくなったとか言っていたよ。意味はよく分からないけどね」

 だから指輪を回収できたのか。まぁ結果オーライか。

「はぁ・・・。リッチ特性の危険な花か。カクイ司祭の件で、面子を潰されたモティは、こんな小さな領土ですら、全力で潰す気でいるみたいだな。そもそも、樹族は面子を気にし過ぎるんだよ」

 おっと、余計な事言っちゃったか。サーカとウィングの顔が若干曇った。

「まぁ、否定はせんが、面子を特に気にするのは、主に貴族や法王関係者だと言っておく。普通の聖職者は献身的で奥ゆかしい者ばかりだ」

 一応サーカは貴族ではあるのに、以前に俺を守ってくれたウィングに恩義を感じているのか、彼を庇った。

「ディハハハ! おはよう! 気分はどうだい? オビオ! 俺に脳天唐竹割りを食らって生き返った化け物さんよぉ」

「彼は神の眷属なんだ。どんな奇跡が起きても当然だろう? それに彼は戦士の指輪を付けていなかった。付けていたなら、君はまた一撃でノックダウンしていただろうさ」

 細い目を鋭くして、ウィングがワンドをゼッドの顎に当てた。ワンドで、しかもその至近距離で【竜巻】の魔法を使ったら、いくら生命力の高いオーガでも即死だろうな、普段使っているエペ兼ワンドは、効果範囲が広がる代わりに魔法の威力が若干下がるらしいし。

 しかし、ウィングの脅しにも、一向に怯えないゼッドの豪胆さには参る。

「だが、俺は勝った! あのS級冒険者のオビオにな! S級っていやぁ、国家規模の争いにも上位の立場で雇ってもらえる。いい勲章になったぜ! ところで、司祭様よぉ。早く腕を治してくれよ。俺はそれを期待して、情報を渡したんだ」

「そんな約束をした覚えはないし、言っただろう? 悪いカルマが溜まった君は、神の加護を期待しても無理だ」

 ゼッドは恨めしそうに、近くにの床に無造作に置いてある青白く太い腕を見つめていた。腕まで回収して、そこに置いてあるのは、見せしめの意味があると思う。

 時には傭兵、時には雇われ騎士、自分の立場を利用して悪事を正当化して生きてきたこの男に、多分神の加護は無いだろう。オーガ神への信仰心が低いのも、鑑定の時に確認済み。

 俺はゼッドの腕を拾ってみた。何かしょうもない事を言ったら、これで頭を叩いてやろうかと思ってね。

「ん?」

 腕を拾った途端、食材としての情報が流れ込んでくる。

「嘘だろ? まさか・・・」

 そういや、こいつ能力者だった。絶対に病気にならないという―――、正確には体を正常な状態に保つ能力だ。

 俺は急いで、地下の階段を駆け上がる。不思議に思ったサーカとウィングが黙ってついてきた。

「どうした? オビオ! 俺は見張りを続ける。なんか思いついたのなら、後で教えてくれ」

 反響するトウスさんの声を無視して、駆け上がる。返事をする時間も惜しい。

「助かるかもしれない・・・」

 誰にも聞こえない小さな声で、俺は呟いた。それは確信がないからだ。

 でも少しでも可能性があるなら・・・。あの少女の命も、おじいちゃんの命も、その他大勢の命を救いたい。

 聖堂を一気に駆け抜け、外に出ると俺は亜空間ポケットから、テーブルと調理器具、調味料を出した。そして硬そうなオーガの腕の肉を、金剛切りで薄くそぎ落としていく。

 その様子を見たサーカとウィングは、怪訝な表情で顔を見合わせる。

「まさかと思うが、それを患者に食わせるのか? オーガの肉なんて誰も食わないぞ」

 サーカがそう言うも、俺は意地でも食わせる気だ。

「くそ、硬い肉だな」

 なるべく薄く切ったのに・・・。焼肉にするのが一番手っ取り早いと思ったのに。これじゃ靴のゴム底食わせるようなもんだ。

「うぉぉぉぉ!!」

 俺は必死になって、肉たたきで叩きまくる。患者の回復する姿を思い浮かべつつ、人数分ある肉を、残像が見える程叩いて叩いて叩きまくった。気が付くと肉は倍ぐらいの大きさになっており、なんだか見た目が煎餅のようだ。

「よし!」

 柔らかくなったぞ! そうだ! 匂いを嗅ぐのを忘れていた。どんなに美味しい肉でも、臭けりゃ台無しだ。幸い無臭。でも焼くと臭くなる肉もあるからまだ油断はできない。

 塩、胡椒で味付けした肉を、網の上に置いて、炭火でシンプルに焼いてみる。良い匂いが漂ってきた。香りは豚肉に近い。

 ウィングは肉の焼ける匂いに嫌悪を感じながら、何かに気が付いたようだ。

「なるほど! それが特効薬になるわけだ! ゼッドは病気にならない能力者だから!」

「鑑定指輪から流れてきた情報ではね。でもやってみるまでわからないだろ? だから食べてもらうのさ」

 俺は焼けた肉の端を齧って、毒味をする。味は脂肪分のない豚って感じだ。毒成分はない。

「急げ! 台車はどこだ! この焼肉の乗った皿を乗せる台車は、どこかにないのか?!」

 俺は必死になって探すが、サーカが方眉を上げて「はぁ?」といった顔をする。

「なんで台車が必要なんだ? そこまで台車にこだわる意味がわからんが。手で持っていけばいいだろう」

「バッキャロー! 都合のいい展開の時は、台車で運ぶと相場が決まっているだろ! おまえら、彼岸島読んでねぇのか! 松本先生に謝れ!」

「悪いが、愛しきオビオ。僕もサーカに同感だよ。意味がよくわからない。きっと幸せの野の書物なのだろうけども」

 し、しまった。嬉しさと効果があるのかどうかの不安が、綯交ぜになって混乱してしまった!

「ご、ごめん。とにかく、聖堂に行ってくるわ」

 俺はアツアツの焼肉数枚を皿に乗せて、聖堂まで走る。無駄に加速を使って、あの少女のもとへ。
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