料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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ムダンVSスカール

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 老婆の機工士、デカイが鉄傀儡を操って飛行させ、戦場についた頃には、既にサイクロップスが砦の壁を幾らか破壊して、絶命していた。

「おや、今年の戦は負け濃厚かね? となると樹族は結界を広げて、ゴブリン谷の連中が文句を言うだろうねぇ。・・・なんだい? あの変わった魔法傀儡は。レッサー・オーガにそっくりじゃないか」

 操縦席上部にあるアーム付きスコープを下ろして、デカイは魔傀儡をよく観察する。透視兼サーモグラフィモードで見ると核融合炉の心臓部分と、各関節部にいくらかの熱を帯びており、驚愕して奇声を上げ鳥肌を立てた。

「アイヤイヤ! ありゃ、魔法傀儡なんかじゃないよ! マナを一切使ってないからね! どうやってんだい?」

 何本か抜けた歯がある口を大きく開き、数秒間驚いて固まってから、視線をサイクロップスに向ける。

「こめかみに大矢が刺さってるって事は、味方にやられたね? どうせ、間抜けのオデがやらかしたんだろうさ」

 今しばらく戦場を俯瞰して見ていると、スカールがオデに大矢と大弓を投げつけて、即座に魔傀儡を挑発していた。

「無理するねぇ、スカールの坊やは。・・・いや、無理してないね、ありゃ。ギャーギャー喚きながら、回避に専念している。となると誰かが作戦を出した。アホの貴族様はそんな事しないから、ベンゾウの指示だね。あのガリ勉オーガに魔力があれば、チャールズの家庭教師をしてほしかったのに、残念だねぇ」

 ベンゾウの作戦は見事だった。魔傀儡がスカールに手間取っている間に、ぞろぞろと陰に潜んだ暗殺者たちが、サイクロップスの体を橋にして、砦に侵入していく。樹族国のスカウトやアーチャーが次々に、倒されていくのを見て、デカイは大きな目を細めて喜んだ。

「いいよ、いいよー」

「おい! ババァ!!」

 スカールが、ヒィヒィ言いながら、シズクの攻撃を避け、空に浮かぶ鉄傀儡に叫んだ。

「なんだい、スカールの坊や」

「そんなとこで、ぼーっと見てねぇで、俺を助けろ!!」

「男だろう? もう少し踏ん張りなよ。がーんばれ、がーんばれ」

 近距離でアイビームを放たれたにも関わらず、スカールは上体を反らして、それを避けた。デカイの応援以上の活躍を見せている。だが、そろそろ泣き言の一つも言いたくなってくる頃だった。

「シャーマンとドルイドがマナ切れだつって、帰っていったんだよ! だから、俺はこれ以上援護が受けられねぇ。、、もう体力の限界が近いんだ! 参戦してくれ!」

「我々闇側の信条を忘れたかい? 力こそ全て、だろう? 魔傀儡に負けたら、それまでの事さ、オーガちゃん」

「頼むよ、ババ・・・。いや、デカイさん! チャールズが赤ん坊の頃、あの汚ねぇドブ川に落ちた時、助けてやったのは一体誰だ?」

「あぁ、そういや、アンタだったねぇ。で?」

「で? じゃねぇよ! 借りを返せつってんだよ! このままだと、俺がどうなっても知らんぞーーーッ!」

「煩い子だねぇ。まぁスカール程の戦士をむざむざ死なすのは惜しい。サブの格闘家の力だけで、魔傀儡とやりあってんだからね。ちょいと待ちな!」

 デカイは口端から舌を出して、スコープを覗いたまま、シズクをロックオンし、レバーに付いた数あるボタンのうちの一つを押した。

 すると、シズクの周囲にフォースフィールドが発生し囲んでしまった。と同時に電磁パルスが襲う。

 シズクは無表情のまま、気味の悪い動きでガクガクと震えた後、地面に崩れ落ちた。

「ヒャッハー! 助かったぜ、ババァ!」

 助かった途端、ババァ呼びに戻ったスカールに苦笑し、デカイは他の戦士たちに警告する。

「聞きな! 雑魚ども! その魔傀儡に手出しするんじゃないよ。下手に触ると起き上がるかもしれないからねぇ!!」

 ビコノカミ・プロトタイプのどこに、拡声器が付いているのかわからないが、それを聞いたオークやゴブリンたちは、魔傀儡に群がるのを止めた。

 シズクが倒れた途端、砦の門が開き、傭兵ギルドの獣人たちが、一気に雪崩出ってきたので、グランデモニウム王国軍は、そちらに向かって応戦を開始する。

 今回は聞き分けの良かった無法者たちと、タイミング良く表れた獣人に、デカイは気を緩め、物欲しそうな顔で、シズクを見つめた。

「私もあれを持ち帰って、研究したいところだけどさ。電磁パルスのダメージから回復するのも時間の問題。触らぬ神に祟りなし、だわさ。さてと」

 太陽の光を反射させる青いアダマンタイトの装甲に、砦から一斉に魔法が飛んできた。

「頼りの傀儡を倒された仕返しかい? 馬鹿だねぇ。アタシのビコノカミちゃんに、魔法は効かないよ」

 尖塔のような肩が、体から離れ、ビットとなって、樹族の騎士やメイジたちにレーザーを放つ。だが、威力はそれほどでもなく、敵を射止めると思っていたレーザーは、火傷を負わせて一時的に戦闘不能にするだけだった。

 すぐに僧侶たちが回復してしまうが、火傷を回復させても、ケロイド状態までは治せない。

「なんだい、ビットのビームには拍子抜けだねぇ。まぁ、いいさ。樹族の奇麗な肌に一生残る火傷を負わせたのだからね」

 ゴブリンは総じて、樹族が憎い。それは遺伝子に組み込まれているレベルである。神話の時代に、ゴブリンたちは樹族に酷い目に遭わされているからだ。ハイヤット・ダイクタ・サカモト博士の目の届かないところでの、人体実験や差別などの記憶が、未だに刷り込まれているからだろう。

「一気に樹族の武将どもを叩きたいところだが、情けない事に我が軍は獣人どもに押され気味だぁね。暫くは獣人退治の仕事か」

 デカイは操縦かんを握りしめて、身体能力の高い獣人たちを次々とロックオンして、ビームガンを構えた。



「【閃光】!」

 カズンの放つ光魔法が、円卓のある野営地までやって来た暗殺者を陰から弾き出す。弾き出したとて、生まれながらの暗殺者である、バートラのゴブリンたちは強い。単体では左程でもないが、前後に挟まれた瞬間、それは即死を意味するのだ。それほどバックスタッブは脅威なのだ。なので、カズンは背後をスカンに任せている。

「陛下を守れ!」

 ムダンがそう叫ぶと、アルケディア王のいる天幕を武将たちが囲んで構えた。

「今年はどうなっているのですかねぇ。狂王が帝国の傭兵を借りるなんて。我々も、ブラッド卿から傭兵を借りるべきでしたねぇ」

 天幕を背にブライトリーフがのんびりと呟くのを聞いて、隣にいたワンドリッターは彼の無知さを鼻で笑う。

「ツィガル帝国と仲の悪い狂王の依頼であっても、バートラのゴブリンは、金さえ貰えれば、どんな汚れ仕事でもするが、辺境伯の傭兵はそうはいかん。常に自領土に発生する霧の魔物を最優先するからな。辺境伯が霧の魔物を抑えていないと、アルケディア城と城下町は既に廃墟と化しているだろう」

「はぁ」

 なんとも気のない返事が返ってきた。

 金以外に興味はないのか、と心の中でブライトリーフを罵り、ワンドリッターは無謀にも、前に出て奮闘するギャン・ムダンを見て、その脳筋ぶりに呆れる。

「我が家宝、魔法の鉄球を受けてみよ!」

 大胆なる鉄球だったか、そんな名前の鎖のついたトゲ鉄球を振り回すワンドリッターの周りで、迂闊に陰から飛び出たゴブリンが、肉塊と化す。

「ほう。もう一人、脳筋がいるな」

 黒騎士ワンドリッターは、顎の先で若い騎士を指したので、ブライトリーフがそちらを見る。

 背中に炎と壁の紋章のついた大盾を背負い、バックスタッブを無効化する騎士が、獣人傭兵の隙をついて侵入してきたオーガたちを、金棒で殴り倒していく、

 ワンドリッターは彼の名を、情報通(知っている情報に偏りはあるが)のブライトリーフに聞いてみた。

「あぁ、彼ですか。えぇ~っと。ナントカ・ウォールでしたかな? 名前は失念しました、失礼。最近、騎士の位を金で買った成金ですよ。紛い物」

 ブライトリーフもその紛い物であるが、ワンドリッターは敢えて、そのことについて言及はしなかった。彼は自覚しており、自虐的にそう言ったのだ。

「中々の美男子だな」

 その騎士は燃えるような赤い髪に赤い瞳。そして赤い鎧。

 物語の主人公のような整った顔に、樹族にしては珍しく背丈は高く、筋骨隆々の体を持つ彼は、全く息切れを起こしておらず、無尽蔵に動き回り、オーガやオークたちを一撃で倒していく。

「なんだ、あ奴は。体力が無限なのか?」

 ワンドリッターの問いに、ブライトリーフは周囲を警戒し、ワンドを構えながらも、のんびりと頭を掻いて記憶を探っている。

「あの金棒が魔法の武器なんですよ。確か永久機関とかいう名前でしたかな?」

「そんな武器もあるのか・・・。魔法の護符や指輪でも精々、スタミナを少し増やすだけだぞ。恐ろしい武器だな」

「いくら無限に動けると言っても、体の筋肉はそのうち悲鳴をあげますからねぇ。そろそろ・・・。ほら」

 突然、ウォールは地面に大の字で倒れた。彼の顔は苦痛で満ちている。それもそのはず。体中の筋肉が予想以上に悲鳴を上げていた。

「愚かなり。武功を焦り、後先考えずに動くからこうなるのだ、小僧。魔法の武器に頼り過ぎたな」

 ムダンは、若い騎士ウォールを見て、助けるべきか迷ったが、後悔しつつも見捨てる事にした。なぜなら、助ける余裕がなかったからだ。

 眼前にトゲ付き鉄球を見事に受け止めたオーガがいる。しかも、トゲの隙間を器用に狙って掴んでいる。

「ほう。やるな、貴様、名はなんという? ワシの真の名はギャン。ムダン領の領主であり、アルケディア王国、光の武将が一人」

「俺はただの戦士、スカールだ。さっきまで魔傀儡を相手にしてたからよ、ヘトヘトなんだわ。手加減してくれよな。おっさん。フッハッハ!!」

「敵陣のど真ん中で笑いよるのか。久々に気骨ある戦士が現れた。いいか! これはワシの獲物だ。誰も手を出すなよ!」

 この武将の集まる野営地に難なく現れたという事は、余程の実力者だろう。首にはこれまで殺してきた敵の頭蓋骨の首飾りを下げ、粗末な袖なしの皮鎧。獲物はというと、背中に大剣を一つ背負っているだけだ。

(大剣一つが頼りか。盾を持たないという事は、回避型の戦士と見た)

 黄色い髪のスカールから目が離せないムダンの視界の端で、動く人影が複数。

 そう、一斉にオーガやゴブリンが、ウォールに群がったのだ。若い騎士の死は確実だろう。

「むう」

 ギャンは、有能な騎士の無残な死に姿を予想して呻く。

 ところが―――。

 瀕死に見えるオーガやオーク、ゴブリンたちは彼を担ぐと、持ち場を一掃したカズンとスカンのいる場所へと運びだしたのだ。

「うん? どういうことだ?」

 ムダンはその異様な光景に、肩眉を上げて手を止める。何人かの敵を魔法で倒し、一時の間が開いた野営地で、樹族国近衛兵騎士団やブライトリーフも同様だ。

 頭の回転が速いワンドリッターだけは、この状況を理解していた。

「カズンの奴隷の仕業だな。ウォールの成金騎士に将来性を見出したという事か。八方美人のカズンめ。食えん奴だ。とはいえ、何か私と通ずるものがあるな」

 ムダン専用の天幕から、顔を覗かせ、心配そうに戦場を見守るレッサー・オーガを見て、ワンドリッターはニヤリと笑った。勿論、カズンにそんな意図はない。ウォールの活躍ぶりに武将だと勘違いしたモズクが、勝手に助けたのだ。

 そんなモズクにカズンは悪態をつく。無駄に悪目立ちをしてしまったからだ。

(チッ! 活躍したとはいえ、新米の騎士を助けたところで、何の得になるというのだ、モズクめ)

 敵を操るカズンを、スパイではないかと訝しむ者だらけの野営地で、彼は咄嗟に虚勢を張って、大仰なポーズで声を上げた。

「疑いに心揺れる騎士の皆様がた。どうぞ、お聞きください。我がカズン家の名誉に誓って! 私はスパイなどではありません。奴隷に、召喚士兼死霊術士がおるのです。このボロボロのオーガやゴブリンたちは、奴隷の術によって操られた死体なのでご安心を。さぁ、我が妻、シズク。未来の英雄殿に回復の祈りを」

 スカンがウォールを回復する間、味方の中には、ネクロマンサーを嫌悪する者、没落樹族が誓うを嘲笑う者、奮戦したウォールを助けたカズンを称賛する者と様々だった。

 その中で、ムダンとスカールの決闘は続く。

 視線を敵から離さず、助けられなかった騎士を助けたカズンをムダンは褒めた。

「流石は、ワシが見込んだ男、カズン・カズン! やりおるわい、ガッハッハ! 陛下の天幕の前でワンドを構えるだけの、どこぞの黒騎士とはえらい違いだ!」

 その安い挑発に、ワンドリッターは鼻を鳴らしただけだった。

「おいおい! 味方の皮肉を言っている暇があるのか? 闇墜ちのおっさんよぉ!」

 スカールはムダンの髪と髭が黒い事を揶揄したのだ。闇墜ちした樹族は、瞳が赤くなり、肌が浅黒くもなる。そして一番特徴的なのが、髪が黒くなる事だ。肌の色は時々変わらない者もいるが、黒髪と赤い瞳だけは確実なのだ。

 勿論、ギャン・ムダンは闇墜ちなどしていない。生まれながらの特徴であり、良く見ると黒髪は青みがかっている。

「子供の頃に、よくそうやってからかわれたものよ。で、どう仕掛けてくる?」

「こうすんだよ! 黒髭のおっさん! いくぜぇぇぇ!! うぉぉぉぉ!!」

 スカールが熱血野球漫画の投手のような動きで、片足を垂直に上げ、トゲ付き鉄球をムダンに投げ返す。

 筋力値18の強肩から投げられた魔法の武器―――、大胆なる鉄球は凄まじい勢いと速度で轟音を立て、ムダンの顔面へと向かった。
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