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勝負あり
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じりじりと音を立て、足跡が地面に円を描き、互いに攻撃のタイミングを計る。
一方は戦士職としての一流の技量を保持する侍、一方には装備や戦術に優位性を持つ暗殺者。
「このままでは、百日戦争だな。仕掛けるか?」
とはいえ、侍が搦め手を得意とする忍者に、馬鹿正直に真っすぐ挑むのは無謀である。が、警戒されて本来の力を発揮できないニャンゾウもまた、シバヤマに無策で挑めば同じ結果が待っている。
「むむー。隙がないでござる」
次の一手で決めると言ってみたものの、ニャンゾウに奥の手があるわけでもない。あるのは死の覚悟。
難しい任務の多い裏側に所属していた時から生き延びてきた忍者にとって、死の覚悟という発想はこれまでなかった。しかし、この侍を相手にして、その文字は嫌でも脳裏に浮かぶ。
(実力値は恐らく、シバヤマ殿の方が上でござろう)
戦いにおいて経験の差は大きい。それはピンチに陥った時に、特に発揮されるだろう。死線を掻い潜った数だけ、生き残る可能性が上がる。
先ほどの起爆札の爆発でシバヤマが一命をとりとめたのも、経験による判断によるもの。最小限のダメージで済むような回避行動を、一瞬でやってのけたのだ。
「さて、今しがた思いついた戦い方が、どこまで通じるでござろうか」
案外、即興で考えた策が通じるかもしれない、という希望が根拠なくニャンゾウの心の中で首をもたげる。下手な考え休むに似たりとはいうが、考えなければ死ぬ。
シバヤマも覚悟を決めたのか、一刀流から脇差と刀の二刀流に切り替えた。こうなった侍は強い。何せ必殺の攻撃が、五月雨のように繰り出されるからだ。
「忍法、多重影分身!」
ニャンゾウは自分の分身十体を、広範囲に散開させた。纏まっていれば、侍の範囲攻撃の餌食にされるようなものだからだ。
「おや? 見たところ、ニャンゾウ殿はシバヤマと、正面からやり合うつもりに見えるが。これは悪手ではないか?」
アキタが、僧侶に貰った干し肉を噛みながら、ニャンゾウのやり方を訝しむ。
「き、きっとダーリンの事! 何か策があるニャ! 愛の力を、シバヤマは思い知る事になるニャ!」
「愛の力・・・、か」
愛の力、とかいう胡散臭い言葉を聞いて、アキタは余計に疑う。相棒はぽっと出の冒険者ではない。生ぬるい西の大陸のダンジョンや遺跡等(遺跡守のいる場所は別として)と違い、混沌とした東の大陸のダンジョンは、最低でもヒジランドの絶望平野レベルである。
かの森には、強力なはぐれ魔法使いが潜み、上位アンデッドが蠢く危険地帯。時々、結界を破って森から出ようとする凶暴なアンデッドや悪魔を、現人神がわざわざ出向いて消滅させるような土地。
絶望平野と同レベルの中を、生きてきたシバヤマの実力値は十七。
これは正面突破を狙うニャンゾウには分が悪い数値でもある。ニャンゾウの実力値は十五。レベル差が開けば開くほど、下位の者はペナルティを受け、上位の者は恩恵を受けるのが、この星の理である。
「分身を十体も出せるのは、素晴らしい事だが。果たして・・・」
「アキタはうるさいニャ! 黙って戦いを見守るニャ!」
「すまん」
中肉中背の侍、シバヤマから早速、斬撃が二つ飛んだ。刀からと脇差から繰り出されるそれは、分身を二つ容易に消しさる。
「本体含め、残り九体!」
「なんの! 喰らえ、影縛り!」
分身の二体が、無限に投げつけられる手裏剣でシバヤマの影を狙う。
「無駄無駄無駄ァ!」
刀と脇差が全ての手裏剣を弾く。
無限に手裏剣が投げられるとはいえ、ニャンゾウのスタミナは無尽蔵ではない。一連の攻撃が終わると、シバヤマの飛ぶ斬撃が、二体の分身を消した。
「残り七体!」
「くっ! 本体と同じ回避率である分身を容易く消すとは。やるでござるな!」
ニャンゾウの分身が、太陽を背にしたシバヤマの影から現れ、クナイで首を狙うも、それより速く、刀の一撃のカウンターが入る。
そして、流れるような動きで脇差を地面の影に突き立てる。
「ぐぬぅ!」
影に潜んでいた分身が消えた。
「これで残り、五体! 貴殿に当たる確率はこれで五分の一。さぁ、どうする!」
「あの刀、まるで魔剣必中のような正確さでござる」
ニャンゾウは、トウスの魔剣を頭に思い浮かべ、そう呻く。
「侍の技量を舐めない方がよい」
シバヤマの攻撃の命中率は、自前である。
「端から舐めてなどいなかったでござるが。ここまで強いとは思わなかったでござる」
「侍だから強いのではない。シバヤマだから強いのだ」
アキタは腰のひょうたんから水を飲んで、そう呟いた。
高い能力値を有する忍者にも、引けを取らないシバヤマに、ニャットの血の気が引いていく。
「シ、シバヤマの能力値はどんな感じなのかニャ? アキタ」
「事細かに教えるつもりはないが、侍が必要とする能力値は最高だと言っていい」
「じゃあ、力、器用さ、素早さが十八もあるって事?!」
語尾にニャを付けるのを忘れるほど、ニャットは驚く。
「他の能力値もそれなりに高いぞ」
それなりにとは言うものの、十五くらいはあるのではないか。そう思ってしまうほど、シバヤマの動きには無駄がない。
「因みにシバヤマは、魔法も使えたりするのかニャ?」
「魔法は使えないな。前衛特化の侍だ」
それは救いだと思いたいが、シバヤマの鬼神のような攻撃ぶりに、安堵する事叶わず。ニャットは恋人を心配するようになってきた。
先程までの信じていた愛の力も、強大な敵の前では無力なのだろうかという疑念が渦巻き始める。
「ダーリン・・・」
ニャットは祈るように手を組んで、戦いを見守る。
「ハイヤーッ!」
気迫のこもった一撃のもと、今度は三体の影分身が、斬撃の前に消えた。
「残りは二体。纏めて倒す!」
シバヤマが脇差を鞘に納め、神速居合切りの構えを取る。何故なら、ニャンゾウが二体連なるように、縦のラインで攻撃を仕掛けてきたからだ。
「やられに行くようなものニャ!」
正直、ニャットはニャンゾウがヤケを起こして、無謀な策に出たと思った。
「セイッ!」
居合切りから斬撃が飛び、まずは一体目が消えた。シバヤマは素早く次の体勢に入る。
「これで最後なり!」
しかし、ニャンゾウが起爆札の付いた手裏剣を投げた。
「小賢しい!」
飛ぶ斬撃が手裏剣を切り、シバヤマとニャンゾウの間で爆発を起こす。
その爆炎の中から、ニャンゾウが現れたのを見て、シバヤマは迎え打つ事なく、自分の影を刀で刺した。
「ぎゃあああ!!」
まるで地獄の亡者の叫びのように、影の中から断末魔の叫び声がした。
「手応えあり!」
シバヤマが人を斬る感触に確信を持ってそう言うと、誰もが本体だと思っていたニャンゾウが消えた。
「残念だったな、ニャンゾウ殿。影分身が十体しかないと思い込ませる作戦、拙者には効かなかったようだ」
影からニャンゾウが浮き出て、脳天から勢いよく血を流す。
「さぁ、残るはニャット殿のみ」
「ニギャア! 許せない! ダーリンの仇は絶対に取るニャ!」
毛が逆立ち、怒り狂うニャットが跳躍して、シバヤマの前に出たその時―――。
背後からの手刀が、侍の首を刎ねる!
「なに?!」
シバヤマの首が転げ落ちるのを見たアキタは、驚いて思わず立ち上がった。次に動かした視線の先にはニャンゾウがいる。
「確かにシバヤマ殿は拙者を串刺しにしたでござる。しかし、我らをそんじょそこらの貧乏冒険者と一緒にしてもらっては困るでござるよ」
ニャンゾウの死体があった場所には、死を一回引き受ける身代わり人形が転がっていた。
「まさか、僧侶が生き返らせてくれるにも関わらず、高価な身代わり人形を使ったのか? それは依頼料から考えても、割に合わない選択だろう」
「既に高価なクナイを石にされているでござる。それに比べたら身代わり人形なんて安いもの」
「それでも・・・」
アキタはそれ以上、何かを言うのを止めた。
この二人は、相当財力のある冒険者なのだ。装備からして、希少なものを身に着けている。金よりもスルターンの依頼を受ける、という名声が欲しかったのだろう。
「いやはや、奇妙な冒険者に当たってしまったな。これは完敗と言わざるをえまい。僧侶殿! 早くシバヤマの首を元に戻してくれ!」
兎人の僧侶が、白いローブを揺らしながら急いでやって来て、シバヤマの頭を拾うと首の近くに置いた。そして祈りを開始する。
「ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ!」
基本的な蘇生の祈りで、シバヤマは復活した。
シバヤマは首の傷がまだ疼くのか、摩りながら半身を起こして辺りを見渡し、敗因を調べる。
「なるほど、身代わり人形であったか。装備や財力も実力のうち。心のどこかで、コストを度外視で攻撃してくるわけがないと信じて疑わなかったのが、負けにつながったのだな。冒険者の大半は大金を持つと、冒険しなくなるのに、そなたたちはそうではなかった」
「冒険が好きな物好きもいるニャ(本当は隊からの支給品だけど)」
「その向上心、天晴!」
シバヤマは拍手で、ニャンゾウたちを褒めた。
受付嬢が近づいてきて、ニャンゾウとニャットの手を掴むと、高らかに上げて宣言する。
「勝者はニャンゾウさんとニャットさんです! スルターンからの依頼を受ける権利は二人に決まりました!」
―――ワァァァ!!
いつの間にか裏庭に集まっていた冒険者たちが、興奮して声を上げた。
「やるな、ニャンゾウにニャット! こんな無謀で採算度外視の戦い方は初めて見たぜ!」
「クソ! 普通に戦ってたら、シバヤマが絶対勝ってただろ!」
「ちくしょー! シバヤマが勝つ方に、金貨一枚かけてたのによぉ!」
「儲けさせてくれてサンキューな、ニャンゾウとニャット! 暫くは飲んだくれ生活ができる!」
賭け事をしていたのだろう。殆どの者がシバヤマに賭けていたのか、ニャンゾウに賭けた者は大金を手にして大喜びだ。
「それでは、詳細を話しますので、客室までお越しください」
悲喜こもごもな冒険者の雑踏の中を、ニャンゾウとニャットは客室まで歩いて行った。
一方は戦士職としての一流の技量を保持する侍、一方には装備や戦術に優位性を持つ暗殺者。
「このままでは、百日戦争だな。仕掛けるか?」
とはいえ、侍が搦め手を得意とする忍者に、馬鹿正直に真っすぐ挑むのは無謀である。が、警戒されて本来の力を発揮できないニャンゾウもまた、シバヤマに無策で挑めば同じ結果が待っている。
「むむー。隙がないでござる」
次の一手で決めると言ってみたものの、ニャンゾウに奥の手があるわけでもない。あるのは死の覚悟。
難しい任務の多い裏側に所属していた時から生き延びてきた忍者にとって、死の覚悟という発想はこれまでなかった。しかし、この侍を相手にして、その文字は嫌でも脳裏に浮かぶ。
(実力値は恐らく、シバヤマ殿の方が上でござろう)
戦いにおいて経験の差は大きい。それはピンチに陥った時に、特に発揮されるだろう。死線を掻い潜った数だけ、生き残る可能性が上がる。
先ほどの起爆札の爆発でシバヤマが一命をとりとめたのも、経験による判断によるもの。最小限のダメージで済むような回避行動を、一瞬でやってのけたのだ。
「さて、今しがた思いついた戦い方が、どこまで通じるでござろうか」
案外、即興で考えた策が通じるかもしれない、という希望が根拠なくニャンゾウの心の中で首をもたげる。下手な考え休むに似たりとはいうが、考えなければ死ぬ。
シバヤマも覚悟を決めたのか、一刀流から脇差と刀の二刀流に切り替えた。こうなった侍は強い。何せ必殺の攻撃が、五月雨のように繰り出されるからだ。
「忍法、多重影分身!」
ニャンゾウは自分の分身十体を、広範囲に散開させた。纏まっていれば、侍の範囲攻撃の餌食にされるようなものだからだ。
「おや? 見たところ、ニャンゾウ殿はシバヤマと、正面からやり合うつもりに見えるが。これは悪手ではないか?」
アキタが、僧侶に貰った干し肉を噛みながら、ニャンゾウのやり方を訝しむ。
「き、きっとダーリンの事! 何か策があるニャ! 愛の力を、シバヤマは思い知る事になるニャ!」
「愛の力・・・、か」
愛の力、とかいう胡散臭い言葉を聞いて、アキタは余計に疑う。相棒はぽっと出の冒険者ではない。生ぬるい西の大陸のダンジョンや遺跡等(遺跡守のいる場所は別として)と違い、混沌とした東の大陸のダンジョンは、最低でもヒジランドの絶望平野レベルである。
かの森には、強力なはぐれ魔法使いが潜み、上位アンデッドが蠢く危険地帯。時々、結界を破って森から出ようとする凶暴なアンデッドや悪魔を、現人神がわざわざ出向いて消滅させるような土地。
絶望平野と同レベルの中を、生きてきたシバヤマの実力値は十七。
これは正面突破を狙うニャンゾウには分が悪い数値でもある。ニャンゾウの実力値は十五。レベル差が開けば開くほど、下位の者はペナルティを受け、上位の者は恩恵を受けるのが、この星の理である。
「分身を十体も出せるのは、素晴らしい事だが。果たして・・・」
「アキタはうるさいニャ! 黙って戦いを見守るニャ!」
「すまん」
中肉中背の侍、シバヤマから早速、斬撃が二つ飛んだ。刀からと脇差から繰り出されるそれは、分身を二つ容易に消しさる。
「本体含め、残り九体!」
「なんの! 喰らえ、影縛り!」
分身の二体が、無限に投げつけられる手裏剣でシバヤマの影を狙う。
「無駄無駄無駄ァ!」
刀と脇差が全ての手裏剣を弾く。
無限に手裏剣が投げられるとはいえ、ニャンゾウのスタミナは無尽蔵ではない。一連の攻撃が終わると、シバヤマの飛ぶ斬撃が、二体の分身を消した。
「残り七体!」
「くっ! 本体と同じ回避率である分身を容易く消すとは。やるでござるな!」
ニャンゾウの分身が、太陽を背にしたシバヤマの影から現れ、クナイで首を狙うも、それより速く、刀の一撃のカウンターが入る。
そして、流れるような動きで脇差を地面の影に突き立てる。
「ぐぬぅ!」
影に潜んでいた分身が消えた。
「これで残り、五体! 貴殿に当たる確率はこれで五分の一。さぁ、どうする!」
「あの刀、まるで魔剣必中のような正確さでござる」
ニャンゾウは、トウスの魔剣を頭に思い浮かべ、そう呻く。
「侍の技量を舐めない方がよい」
シバヤマの攻撃の命中率は、自前である。
「端から舐めてなどいなかったでござるが。ここまで強いとは思わなかったでござる」
「侍だから強いのではない。シバヤマだから強いのだ」
アキタは腰のひょうたんから水を飲んで、そう呟いた。
高い能力値を有する忍者にも、引けを取らないシバヤマに、ニャットの血の気が引いていく。
「シ、シバヤマの能力値はどんな感じなのかニャ? アキタ」
「事細かに教えるつもりはないが、侍が必要とする能力値は最高だと言っていい」
「じゃあ、力、器用さ、素早さが十八もあるって事?!」
語尾にニャを付けるのを忘れるほど、ニャットは驚く。
「他の能力値もそれなりに高いぞ」
それなりにとは言うものの、十五くらいはあるのではないか。そう思ってしまうほど、シバヤマの動きには無駄がない。
「因みにシバヤマは、魔法も使えたりするのかニャ?」
「魔法は使えないな。前衛特化の侍だ」
それは救いだと思いたいが、シバヤマの鬼神のような攻撃ぶりに、安堵する事叶わず。ニャットは恋人を心配するようになってきた。
先程までの信じていた愛の力も、強大な敵の前では無力なのだろうかという疑念が渦巻き始める。
「ダーリン・・・」
ニャットは祈るように手を組んで、戦いを見守る。
「ハイヤーッ!」
気迫のこもった一撃のもと、今度は三体の影分身が、斬撃の前に消えた。
「残りは二体。纏めて倒す!」
シバヤマが脇差を鞘に納め、神速居合切りの構えを取る。何故なら、ニャンゾウが二体連なるように、縦のラインで攻撃を仕掛けてきたからだ。
「やられに行くようなものニャ!」
正直、ニャットはニャンゾウがヤケを起こして、無謀な策に出たと思った。
「セイッ!」
居合切りから斬撃が飛び、まずは一体目が消えた。シバヤマは素早く次の体勢に入る。
「これで最後なり!」
しかし、ニャンゾウが起爆札の付いた手裏剣を投げた。
「小賢しい!」
飛ぶ斬撃が手裏剣を切り、シバヤマとニャンゾウの間で爆発を起こす。
その爆炎の中から、ニャンゾウが現れたのを見て、シバヤマは迎え打つ事なく、自分の影を刀で刺した。
「ぎゃあああ!!」
まるで地獄の亡者の叫びのように、影の中から断末魔の叫び声がした。
「手応えあり!」
シバヤマが人を斬る感触に確信を持ってそう言うと、誰もが本体だと思っていたニャンゾウが消えた。
「残念だったな、ニャンゾウ殿。影分身が十体しかないと思い込ませる作戦、拙者には効かなかったようだ」
影からニャンゾウが浮き出て、脳天から勢いよく血を流す。
「さぁ、残るはニャット殿のみ」
「ニギャア! 許せない! ダーリンの仇は絶対に取るニャ!」
毛が逆立ち、怒り狂うニャットが跳躍して、シバヤマの前に出たその時―――。
背後からの手刀が、侍の首を刎ねる!
「なに?!」
シバヤマの首が転げ落ちるのを見たアキタは、驚いて思わず立ち上がった。次に動かした視線の先にはニャンゾウがいる。
「確かにシバヤマ殿は拙者を串刺しにしたでござる。しかし、我らをそんじょそこらの貧乏冒険者と一緒にしてもらっては困るでござるよ」
ニャンゾウの死体があった場所には、死を一回引き受ける身代わり人形が転がっていた。
「まさか、僧侶が生き返らせてくれるにも関わらず、高価な身代わり人形を使ったのか? それは依頼料から考えても、割に合わない選択だろう」
「既に高価なクナイを石にされているでござる。それに比べたら身代わり人形なんて安いもの」
「それでも・・・」
アキタはそれ以上、何かを言うのを止めた。
この二人は、相当財力のある冒険者なのだ。装備からして、希少なものを身に着けている。金よりもスルターンの依頼を受ける、という名声が欲しかったのだろう。
「いやはや、奇妙な冒険者に当たってしまったな。これは完敗と言わざるをえまい。僧侶殿! 早くシバヤマの首を元に戻してくれ!」
兎人の僧侶が、白いローブを揺らしながら急いでやって来て、シバヤマの頭を拾うと首の近くに置いた。そして祈りを開始する。
「ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ!」
基本的な蘇生の祈りで、シバヤマは復活した。
シバヤマは首の傷がまだ疼くのか、摩りながら半身を起こして辺りを見渡し、敗因を調べる。
「なるほど、身代わり人形であったか。装備や財力も実力のうち。心のどこかで、コストを度外視で攻撃してくるわけがないと信じて疑わなかったのが、負けにつながったのだな。冒険者の大半は大金を持つと、冒険しなくなるのに、そなたたちはそうではなかった」
「冒険が好きな物好きもいるニャ(本当は隊からの支給品だけど)」
「その向上心、天晴!」
シバヤマは拍手で、ニャンゾウたちを褒めた。
受付嬢が近づいてきて、ニャンゾウとニャットの手を掴むと、高らかに上げて宣言する。
「勝者はニャンゾウさんとニャットさんです! スルターンからの依頼を受ける権利は二人に決まりました!」
―――ワァァァ!!
いつの間にか裏庭に集まっていた冒険者たちが、興奮して声を上げた。
「やるな、ニャンゾウにニャット! こんな無謀で採算度外視の戦い方は初めて見たぜ!」
「クソ! 普通に戦ってたら、シバヤマが絶対勝ってただろ!」
「ちくしょー! シバヤマが勝つ方に、金貨一枚かけてたのによぉ!」
「儲けさせてくれてサンキューな、ニャンゾウとニャット! 暫くは飲んだくれ生活ができる!」
賭け事をしていたのだろう。殆どの者がシバヤマに賭けていたのか、ニャンゾウに賭けた者は大金を手にして大喜びだ。
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