モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー

文字の大きさ
1 / 32

侯爵令嬢、記憶を思い出す

しおりを挟む

 現実の恋愛なんて上手くいったことがない。
 高校生時代の彼とは何だか合わなくて振られたし、大学の彼とは自然消滅。社会人1年目に付き合った上司の彼とは結婚を考えていたけれど2年目にして浮気をされた。

 恋愛に全く良い思い出はないけれど、少女漫画を読むことは小さい頃から大好きだった。
 どんなジャンルも読んでいたけれど、ただ一つ共通していたことは『当て馬キャラが好き』だということ。

 ヒロインと結ばれるキャラクターを1番に好きだったことはなく、いつだって2番手が大好きだった。

 ただ、そんな人は現実の世にはいないものだ。

 あぁ、願わくば、来世では出会わせて下さい。

 そんな願いを胸に抱きながら病院のベッドの上で「私」は息を引き取った。

 享年27歳でした。


 と、突然にこんな記憶を思い出した私はレアルチア・オールクラウド、7歳です。

 つまりこれは"前世の記憶"というもので、病気により27歳という若さで急死した「私」はレアルチアとして転生したということか。

 なるほど、なるほど……全然わからん!!!

 急なことに頭が大パニックを起こした私はバタンとその場で倒れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 倒れてから3日間、高熱にうなされた。
 やっと回復し冷静にこの状況を整理することが出来るのだ。

 事の発端は3日前に遡る。



 私、レアルチア・オールクラウドは侯爵家の次女として生まれ、現在7歳だ。
 5つ歳が上の双子の兄と姉がいて、構成としては3人兄妹の末っ子だ。

 その日はお母様と一緒に公爵家のお茶会に参加していた。同年代の子供たちも参加するとのことで、私も強制的に参加させられた。

 正直面倒で、あまり乗り気ではなかった。

「おかあさま、レアもうかえりたい。」

 そんなことを言って、お母様の服の裾をグイグイ引っ張っていた。その度に

「レア、あんまり引きこもってないでそろそろお友達を作らないと。」

 と言われ引きずられるように子供たちのところへ引き戻された。

 もうすぐ学校が始まったらお友達なんてすぐ出来るもん、と拗ねながら群れの端っこでぽつんと立つ。

「どうしたの、ぐあいわるいの?」

 私よりも少し背の小さい女の子が近寄ってきて、心配そうに顔を覗き込んだ。

「わるくない。」

 私は、帰りたくて仕方なかったので酷く冷たい口調で返答した。
 ちらりと少女の顔を見る。とても可愛らしくて天使のようだと思った。同時に何だか見たことあるような気がした。

「そっか、よかった! わたしはエリー、よろしくね!」

 エリーが手を出したので、私もおずおずと手を出すとギュッと握られる。

「レアです、よろしく。」

 エリーが嬉しそうにニコリと笑うので、つられて私も笑顔になっていた。

 エリーと話すうちに彼女が、有名な公爵家の1つであるノグワール公爵家の娘ーーエライザ・ノグワールだということがわかった。

 幼いながらに、公爵家の子と仲良くなったことに戸惑いを感じていた。

 話していると、何だか奥の方が騒がしくなる。

「ログレスさまとジゼルさまよ。」

 私がそちらをじっと見ているとエリーが教えてくれた。

 あまり外に出ない引きこもり体質なので、ログレスさまについては王太子であると分かるが、ジゼルさまが一体誰なのかわからない。

 正直エリーのこともわからなかったのだから、私は相当な世間知らずだったのだろう。
 これで何も知らず学校に通おうとしていた自分が怖い。

 こちらに群れが移動してくるので遂にその姿を視界に捕らえる。

「ひだりにいるのがログレス・ファン・アデレインさま。みぎがジゼル・ヴァレンティアさま。」

 エリーが親切にも名前を教えてくれた。
 その瞬間、私の中に記憶が流れ込んできた。

 人並みに勉学に励み、恋愛経験も積んで友人や家族にも恵まれ、大学を卒業し一般企業に就職した後に27歳という若さで病気を患い急逝してしまった「私」の記憶だ。

 ベッドの上で元気であった最期まで私は大好きな少女マンガを読んでいた。普通に病気は治るのだと信じて疑わなかったが、ある日突然に容態は悪化しそのまま還らぬ人となってしまった。

 なんてあっけない最期なのだろう。

 そして、その前世で聞いたことのある名前と名残のある姿が目の前にある。
 随分幼い姿だが、私には分かる。

 最期に概要だけ読んで、本編は大して読めず終わってしまった作品のヒーローと当て馬だ。

 王国の王太子であるログレス・ファン・アデレインと貴族令嬢ロアネ・エイミッシュの恋物語。

 そしてログレスと親友である公爵家のジゼル・ヴァレンティアはヒロインであるロアネを好きになってしまう当て馬である。

 何より驚くべきは、この可愛い天使のようなエライザ・ノグワールが悪役令嬢であること。

「何がどうなってるの……。」

 私は直立したまま後ろにバタンと倒れ、そして視界がブラックアウトした。



 そんなことがあり現在、私は回復して頭を整理しているわけだ。

 当然レアとしての意識が強く、前世の記憶があるだけだという感覚がある。前世の私とはまた別の人間だということはわかるし、家族構成に関しても今世の世界に関しても……例えば食文化や貴族としての生活に関しても違和感は覚えない。そして急激に価値観が庶民的になるわけでもなんでもない。

 ただ、取り戻す以前よりも完全に精神年齢は高くなっている。

 あぁ、それにしてもジゼルさま……。

「かっこよかったなぁ……。」

 いけない、声に出してしまった。

 私が概要を見て推していたキャラクターを、そして焦がれていた当て馬キャラを、遂に目の前で拝むことが出来たのだ。

 こんなに嬉しいことはあるだろうか、いやない!!!

 そしてここから私の野望は始まった。

「遂に当て馬キャラの恋が成就する時だわ!」

 前世では、何度もヒロインとの恋に破れた当て馬キャラたち。どう考えてもヒーローたちよりカッコよくて性格も良いのになぜか報われない彼たち。

 君たちの無念は必ず私が果たして見せるわ。

 架空のキャラクターたちへの謎の誓いを胸に、レアルチア・オールクラウド 7歳。ジゼルさまの恋を応援し成就させることをここに宣誓致します!!!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は断罪されない

竜鳴躍
恋愛
卒業パーティの日。 王太子マクシミリアン=フォン=レッドキングダムは、婚約者である公爵令嬢のミレニア=ブルー=メロディア公爵令嬢の前に立つ。 私は、ミレニア様とお友達の地味で平凡な伯爵令嬢。ミレニアさまが悪役令嬢ですって?ひどいわ、ミレニアさまはそんな方ではないのに!! だが彼は、悪役令嬢を断罪ーーーーーーーーーーしなかった。 おや?王太子と悪役令嬢の様子がおかしいようです。 2021.8.14 順位が上がってきて驚いでいます。うれしいです。ありがとうございます! →続編作りました。ミレニアと騎士団長の娘と王太子とマリーの息子のお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/114529751 →王太子とマリーの息子とミレニアと騎士団長の娘の話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/449536459

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト オレスト国の第一王女として生まれた。 王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国 政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。 見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。

【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇

夜桜 舞
恋愛
「私がどんなに頑張っても……やっぱり駄目だった」 その日、乙女ゲームの悪役令嬢、「レイナ・ファリアム」は絶望した。転生者である彼女は、前世の記憶を駆使して、なんとか自身の断罪を回避しようとしたが、全て無駄だった。しょせんは悪役令嬢。ゲームの絶対的勝者であるはずのヒロインに勝てるはずがない。自身が断罪する運命は変えられず、婚約者……いや、”元”婚約者である「デイファン・テリアム」に婚約破棄と国外追放を命じられる。みんな、誰一人としてレイナを庇ってはくれず、レイナに冷たい視線を向けていた。そして、国外追放のための馬車に乗り込むと、馬車の中に隠れていた何者かによって……レイナは殺害されてしまった。 「なぜ、レイナが……あの子は何も悪くないのに!!」 彼女の死に唯一嘆いたものは、家族以上にレイナを知る存在……レイナの親友であり、幼馴染でもある、侯爵令嬢、「ヴィル・テイラン」であった。ヴィルは親友のレイナにすら教えていなかったが、自身も前世の記憶を所持しており、自身がゲームのモブであるということも知っていた。 「これまでは物語のモブで、でしゃばるのはよくないと思い、見て見ぬふりをしていましたが……こればかりは見過ごせません!!」 そして、彼女は決意した。レイナの死は、見て見ぬふりをしてきた自身もにも非がある。だからこそ、彼女の代わりに、彼女への罪滅ぼしのために、彼女を虐げてきた者たちに復讐するのだ、と。これは、悪役令嬢の断罪から始まる、モブ令嬢の復讐劇である。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!

雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。 しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。 婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。 ーーーーーーーーー 2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました! なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!

婚約破棄令嬢、不敵に笑いながら敬愛する伯爵の元へ

あめり
恋愛
 侯爵令嬢のアイリーンは国外追放の罰を受けた。しかしそれは、周到な準備をしていた彼女の計画だった。乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった、早乙女 千里は自らの破滅を回避する為に、自分の育った親元を離れる必要があったのだ。 「よし、これで準備は万端ね。敬愛する伯爵様の元へ行きましょ」  彼女は隣国の慈悲深い伯爵、アルガスの元へと意気揚々と向かった。自らの幸せを手にする為に。

処理中です...