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侯爵令嬢、過去を振り返る
しおりを挟む夜会が終わり、次の日になっても私は夜会での出来事を思い出していた。
ヒロインとヒーローの運命的な出会い。
倒れてしまったヒロインを颯爽と助けるヒーロー、そして2人は惹かれあい結ばれる!
あぁ、そんな物語の第一歩の光景を見れるなんて!
と考えたところで、ハッとする。
いけない! 私の役目は常に幸せになれない当て馬の幸せを作り上げることよ!
百面相する彼女を心配そうに侍従たちが見ていることなどレアは露知らず、そんな思考回路を一日中繰り広げていた。
そんな彼女とジゼル、ひいてはログレスとの出会いは彼女とエライザが学校に入学する直前のノグワール家であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前世の記憶を思い出し、お茶会で倒れてから数日後、ノグワール家から……というよりもエリーからうちに遊びに来ないかというお誘いがあった。
勿論、断る理由もなく私はそれを承諾した。
私1人で行くわけには行かないので、お母様ーービエンナ・オールクラウドが同行することになった。
お母様は、ノグワール公爵夫人と幾度か話したことはあるが、お家にお茶会以外で伺うのは初めてだということだった。
緊張しているかと思ったが案外そうではなく、これを機に公爵家と深い繋がりが出来ると良いなぁ~くらいにのほほんとしていた。
「まぁ~! レアちゃん、天使のように可愛いわねぇ。」
公爵家へのお呼ばれということでそれなりに着飾ったためか、お母様がいつも以上に私を甘やかしてくる。
そんな絶世の可愛さでもないのだからやめてくれ、これから本物の天使の横に立たなければならないのだから。
「お母様、残念ながらレアはただの人です。」
前世の記憶を思い出してから、以前より言葉遣いや話し方が子どもらしくなくなった。
自我としてはレアルチアのままだが、なんせ知識などは前世の私に引っ張られる。
「何言ってるの、レアはオールクラウド家の天使よ~。」
ちなみに、私の兄と姉は妖精ちゃんなのだと常々言っている。妖精のように可愛いけど、変わりものという意味も含まれているのだろうな。
そんな兄と姉の話はまた後日。
私と母は馬車に揺られ、ノグワール家に向かった。ついた屋敷は私の家より3倍はあった気がする。
うちも侯爵家だから結構大きいと思うんだけどなぁ、公爵家ってすごい。
玄関まで通されると、エリーとノグワール公爵夫人が待っていた。
「ようこそ、レア!」
「良くいらっしゃいました、オールクラウド侯爵夫人にレアルチアさん。」
エリーがこちらにニコニコと笑いながら近づいてくる。ノグワール公爵夫人は妖艶な笑みを浮かべながら私たちを歓迎してくれた。
ノグワール公爵夫人に対する私からの印象は、顔がキツいので冷たく怖いものだった。
「こちらこそお招き頂きとても嬉しいですわ~、以前お茶会の時にうちの持っていった菓子を随分美味しそうに食べていらっしゃったでしょう? また持ってきましたのでぜひお召し上がり下さい。」
お母様は、ほんわかとした空気を纏って手土産をノグワール公爵夫人に渡した。
ノグワール公爵夫人を怖いと思う夫人たちが多い中、こんなにも普通に接してくることに彼女は少し戸惑いを感じながらも「ありがとうございます」と菓子を受け取った。
たぶん、察するにノグワール公爵夫人はあまり感情を表に出さないのだろう。
しかし、うちのお母様はそういった感情を読み解くことが得意である。
だから、お母様が何かしでかすのでないかという不安は少しも無かった。
「ぐあいはだいじょうぶなの?」
「うん、もう元気いっぱいだよ!」
エリーが心配そうに問いかけてくるので、私はニコリと笑みを浮かべ答えた。
そうすると、エリーは安心したように息をついてから私の手を握り引っ張る。
「わたしのおへやは、にかいなんだよ!」
彼女の部屋に案内してくれるらしい。
大広間の階段を駆け上がり向かうが、道中「廊下は走ってはなりません!」とエリーに叱咤出来る女性……乳母か何かだろうか? 声をかけられたため、走ることをやめ歩いた。
子どもの頃から、物語中のヒロインをいじめる悪役のような性格を当初は想像していたため、幼少期がこんなにもお転婆であることに驚きが隠せない。
一つの扉の前で立ち止まる。
どうやらここがエリーの部屋らしい。
どんな部屋かと楽しみに思いながら、ガチャリと開けて入る。
「えっ?」
私は驚きのあまり口が開いたままになってしまう。
扉を開けた先に、人がいたのだ。
「ともだちができたっていったの。そしたら、ふたりもぜひあいたいって。」
その2人とは、ログレス・ファン・アデレインとジゼル・ヴァレンティアであった。
エリーは、私と自身の友人2人を引き合わせられたことにとても嬉しそうだった。
「初めまして、俺はログレス・ファン・アデレイン。この国の王太子であるが、今は公の場ではない。エライザから友人だと聞いている、ぜひログレスと呼んでくれ。」
彼は堅物で、常に冷静な人物だとキャラクター紹介で読んだことがある。それは現実でもそうらしく、あまり表情を崩さずに自己紹介をしていた。
「初めまして、僕はジゼル・ヴァレンティア。公爵家の長男で、ログレスとエライザとは友人だ。僕のことも気軽にジゼルと呼んでくれて構わないよ。よろしくね!」
対称に、こちらは笑みを浮かべており、爽やかで好印象を抱く。
「初めまして、私はレアルチア・オールクラウドと申します。以前のお茶会でエリーとは親しくさせて頂きました。どうぞ、レアと呼んでください。」
私がそう挨拶をし頭を下げると、ログレス様とジゼル様はこくんと頷いた。
ただ、エリーだけが少し驚いた表情をしていた。
「レアってそんなにおしゃべりできたの?」
たしかに、お茶会から間も空いていないのに、この歳にしてはあまりにも完璧に挨拶が出来すぎていたかもしれない。
年相応を意識しなければ、反省。
「お母様に教えてもらったの。」
私がそう答えると、エリーはそうなのかと素直に納得していた。
それにしても、こんなに早く彼らと対面するとは思わなかったし、あの憧れの人たちを間近で見ることが出来るなんて、これって本当は夢なのかしら??
死後、都合の良い夢を見ているだけ?
いや、それならそれでこの際良い。
レアルチアの人生にバンザイ!!!
「そうだわ、レアのおかあさまがもってきたおかしをすこしわけてもらいましょ! みんなでたべたらもっとおいしいにちがいないわ!」
まだ7歳のためエリーは幼い話し方で、それが可愛いと思ってしまう。
エリーは1つの提案をして、全く私たちの意見を聞くことなく部屋を出て行った。
公爵家ならば、侍従を呼んでしまえば良いのに、と前世の庶民感覚など抜けてしまっていた私は思った。
「ねぇ、急にエライザに近づこうだなんて、一体どんな魂胆?」
急にジゼル様が腕を組んで怪訝そうな顔で私に聞く。エリーが居なくなってから突然に態度が変わった。
「親にでも近づくよう言われたか、それとも表面上仲良くしてエライザの威光を借りようとしたのか。」
ログレス様も私に敵意を剥き出しにしている。
この状況に、私は混乱しつつ少なくとも良い状況では無いなと確信を持っていた。
「あの、私は単純にエリーとお話しするのが楽しくて……最初はエリーがノグワール家だということも分かりませんでした。元々引きこもりがちでお茶会にも参加していなかったので、友達も少なくて……。」
と、そんなことを話したところで苦し紛れの言い訳程度にしか捉えられないのだろう。
ただ、私だってせっかく出来た友達を黙って逃すわけにはいかない。
「ジゼル、嘘を言っているようには思えないぞ。」
ログレス様はすぐに敵意を鎮め、私の言うことを信じてくれる素振りを見せた。
大方、ログレス様はエリーの作った友人という時点である程度信用しているのかもしれない。
それに、この歳で殿下相手に嘘を吐く者はそう居ないであろう。
「いいや、僕は認めないぞ! ログレス、君は将来この国を担うんだぞ? 余りにも軽々しく信用しすぎだ!」
ジゼル様は私に相変わらず敵意を向けたまま、ログレス様さえも叱咤する。
ログレス様はジゼル様に叱られて少ししょんぼりしていた。しかし、ジゼル様の言うことも一理ある。王が誰も彼も信用していたらすぐにこの国は傾き乗っ取られてしまうだろう。
「別に俺は軽々しく信用しているわけでは……。」
ログレス様は軽々しく私を信用したわけではなく、エリーのことを心底信用しているのだろう。
だから、彼女が信じる私のことを彼も信じているのだ。
こんな小さい頃からお互い信じ合えているのなら、ヒロインじゃなくてエリーで良いんじゃないの? と正直思ってしまった。
「おまたせ、おかしもらってきたよ!」
エリーがお菓子を持って登場したところで私たちの口論は終了して、楽しいお茶会が始まった。
その最中も私は、ログレス様は置いておいてどのようにジゼル様から信用を得るべきだろうか、と考えていた。
彼の信用を得ないことには、私の野望は叶えられない。
そんなことを考えていると、何かを察したのかジゼル様から鋭い視線を貰ってしまった。
これはそんなに簡単なことではないな、と直感で悟った私だった。
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