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4 お騒がせしてすみません
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「っ……」
「誰か、お嬢様がお目覚めになったわ!」
ベッドの傍らに控えていたメイドのマリーが、脂汗を流して呻くアリシアの肩を押さえる。
「頭が割れそうに痛いのっ」
「落ち着いてください、すぐに薬をお持ちします」
マリーの声を聞いて、公爵家の侍医とメイド長が駆け込んで来た。
侍医が小瓶に入った錠剤を出し、アリシアの手に乗せる。
「飲んでください。痛みはすぐに収まります」
頷いたアリシアはメイドのマリーに支えられてゆっくりと上体を起こし、水と薬を飲む。メイド長に水に浸したタオルで額の汗を頭を拭って貰うと、大分落ち着いた。
「頭を打ったのですから、急に起き上がってはいけません」
ほっと一息ついたところで、アリシアは侍医の言葉に首を傾げた。
「……私……何があったの?」
「城の広間で倒れられたのです。」
「お城? 今日は陛下に謁見する予定はなかったはずだけれど……」
「憶えていないのですか?」
「やだ、私ったら予定を見落としてたかしら? 謁見の時間は何時? 早く支度をしないと……どうしたの?」
アリシアの言葉を聞いていた三人の顔が、見る間に青ざめていく。
「お嬢様?」
「失礼を承知で伺います。ご自分のお名前は分かりますか?」
「ええ、アリシア・レンホルムでしょ、ジェラルド先生。それにメイド長のティア、側仕えのマリーも分かるわ。どうしてそんな事をお尋ねになるの?」
「ではその、城での出来事は……?」
「だから、今日は朝からずっと部屋から一歩も出ていないわよ」
侍医のジェラルドにそう返すと、彼は咳払いをしてから話し始める。
「落ち着いて聞いてください、アリシア様。貴女は記憶喪失になられたようです」
「え? でもみんなの名前は覚えてるわよ?」
「記憶喪失と言いましても、全てを忘れるわけではございません。人の脳は辛いことや悲しいことがあると、防衛本能としてそれらを忘れることができるのです。恐らくアリシア様は、広間で倒れた際に頭を打ったのがきっかけで忘れてしまったのです」
「……そう……なの?」
側仕えのマリーに視線を向けると、彼女が真顔で頷く。幼い頃からずっと側にいてくれたマリーが同意するのだから、本当なのだろう。
しかし広間で何があったのか、アリシアにはさっぱり思い出せない。
「倒れるほどの辛い事って、一体何だったの?」
けれど三人は顔を見合わせ、俯いてしまう。
(そんなに大変な事があったの?)
彼らを困らせるつもりはないけれど、聞かなければ何も始まらない。
どうやって聞き出そうかと思案していると、廊下から結構な音量の声が聞こえてくる。
「何! アリシアが生きていたのか?」
「どうするのよ! あなた!」
(ええ、生きてましたよ。何か不都合でも?)
廊下から聞こえてきた声に、思わず心の中で言い返す。
「いや、あれに死なれては困る……が、生きていても……」
「もう婚約の件は決まったのだから、文句は言わせないわ」
話しながら入ってきたのは、中年の男女だった。
雰囲気と身なりから察するに、それなりの地位にある夫婦だろう。
マリーに支えられながらも起きていたアリシアに気付いて、ぎょっとしたような表情を浮かべた。
「お騒がせしてすみません。この通り、生きてます」
嫌味たっぷりにそれだけ言うと、流石に彼らは会話を聞かれていたと気付いたのかばつが悪そうに視線を逸らす。
「その……アリシア……災難だったな」
「もう決まってしまった事なのよ。諦めてちょうだい」
「なんの事です?」
聞き返すと、中年の夫婦は怪訝そうにジェラルドを見た。
「これは、どういうことだ?」
「誰か、お嬢様がお目覚めになったわ!」
ベッドの傍らに控えていたメイドのマリーが、脂汗を流して呻くアリシアの肩を押さえる。
「頭が割れそうに痛いのっ」
「落ち着いてください、すぐに薬をお持ちします」
マリーの声を聞いて、公爵家の侍医とメイド長が駆け込んで来た。
侍医が小瓶に入った錠剤を出し、アリシアの手に乗せる。
「飲んでください。痛みはすぐに収まります」
頷いたアリシアはメイドのマリーに支えられてゆっくりと上体を起こし、水と薬を飲む。メイド長に水に浸したタオルで額の汗を頭を拭って貰うと、大分落ち着いた。
「頭を打ったのですから、急に起き上がってはいけません」
ほっと一息ついたところで、アリシアは侍医の言葉に首を傾げた。
「……私……何があったの?」
「城の広間で倒れられたのです。」
「お城? 今日は陛下に謁見する予定はなかったはずだけれど……」
「憶えていないのですか?」
「やだ、私ったら予定を見落としてたかしら? 謁見の時間は何時? 早く支度をしないと……どうしたの?」
アリシアの言葉を聞いていた三人の顔が、見る間に青ざめていく。
「お嬢様?」
「失礼を承知で伺います。ご自分のお名前は分かりますか?」
「ええ、アリシア・レンホルムでしょ、ジェラルド先生。それにメイド長のティア、側仕えのマリーも分かるわ。どうしてそんな事をお尋ねになるの?」
「ではその、城での出来事は……?」
「だから、今日は朝からずっと部屋から一歩も出ていないわよ」
侍医のジェラルドにそう返すと、彼は咳払いをしてから話し始める。
「落ち着いて聞いてください、アリシア様。貴女は記憶喪失になられたようです」
「え? でもみんなの名前は覚えてるわよ?」
「記憶喪失と言いましても、全てを忘れるわけではございません。人の脳は辛いことや悲しいことがあると、防衛本能としてそれらを忘れることができるのです。恐らくアリシア様は、広間で倒れた際に頭を打ったのがきっかけで忘れてしまったのです」
「……そう……なの?」
側仕えのマリーに視線を向けると、彼女が真顔で頷く。幼い頃からずっと側にいてくれたマリーが同意するのだから、本当なのだろう。
しかし広間で何があったのか、アリシアにはさっぱり思い出せない。
「倒れるほどの辛い事って、一体何だったの?」
けれど三人は顔を見合わせ、俯いてしまう。
(そんなに大変な事があったの?)
彼らを困らせるつもりはないけれど、聞かなければ何も始まらない。
どうやって聞き出そうかと思案していると、廊下から結構な音量の声が聞こえてくる。
「何! アリシアが生きていたのか?」
「どうするのよ! あなた!」
(ええ、生きてましたよ。何か不都合でも?)
廊下から聞こえてきた声に、思わず心の中で言い返す。
「いや、あれに死なれては困る……が、生きていても……」
「もう婚約の件は決まったのだから、文句は言わせないわ」
話しながら入ってきたのは、中年の男女だった。
雰囲気と身なりから察するに、それなりの地位にある夫婦だろう。
マリーに支えられながらも起きていたアリシアに気付いて、ぎょっとしたような表情を浮かべた。
「お騒がせしてすみません。この通り、生きてます」
嫌味たっぷりにそれだけ言うと、流石に彼らは会話を聞かれていたと気付いたのかばつが悪そうに視線を逸らす。
「その……アリシア……災難だったな」
「もう決まってしまった事なのよ。諦めてちょうだい」
「なんの事です?」
聞き返すと、中年の夫婦は怪訝そうにジェラルドを見た。
「これは、どういうことだ?」
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