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31話。ひかえい! ひかえい! ひかえおろう!
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俺はふたりを抱えて、街道に戻る。
街道脇で、ふたりをシャルロットの前に転がす。
裸は可哀想だから女にステータスウインドウをかけてあげた。
ついでに、男の股間をシャルロットやサフィに見せないよう、ステータスウインドウモザイクをかける。
「ほら。正座して」
「う、うう……」
「あ、ああ……」
馬鹿ップルはうめくだけだ。
意外なことに、闘争心か反骨精神か自尊心か怒りか知らないけど、瞳はまだ力を宿している。
暴力には屈しない、キリッという感じだ。
「アーサー。やりすぎだ」
「いや、でも、お前に向けて剣と杖を抜いたんだから、こいつらは殺されてもしょうがないだろ?」
「お前は私をなんだと思っているんだ」
「シャルロット自身よりかは、シャルロットが一般人からどう思われる存在なのかを正しく知っていると思うぞ」
「私の名前と家前を知らなかったのに?」
「田舎者だからしょうがないだろ。だから、この馬鹿ップルがイキッたこともしょうがないし……。今後も同じことが繰り返されるよなあ。何も知らない田舎民の罪を重くするのは可哀想だし、今後のことも考えないと。うーん。偉い人の世直しの旅だよなあ。……よし。ひらめいた」
俺は手で招いてサフィをブランシュ・ネージュの右に立たせる。
「サフィ。こっち、こっち。ここに立ってて。何もしなくていいから」
「みゃ」
「できるなら、威圧感や迫力を出して、キリッとした表情をしていて暮れ」
「みゃ? 頑張るみゃ。キリッ!」
萌えッ!
て感じで可愛いなあ!
「シャルロットは動くなよ。できれば、その穏やかなスマイルを続行していてくれ。俺に任せろ」
「分かった」
男と女がゆっくりと体を起こす。意識はしっかりしているようだ。
俺は特に配慮して、男のちんこが露出しないようにする。
俺はブランシュ・ネージュの左に立ち、背筋を伸ばす。
すーっ。
息を大きく吸って……。
「ええいっ! ひかえいっ! ひかえおろう! この高貴なる美貌が目に入らぬか! こちらにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くも、現王弟の令嬢にして先の王国騎士団第一団長シャルロット・リュミエール様であらせられるぞ! 頭が高い! 頭が高ぁぁい!」
俺はうろ覚えだが、時代劇の決め台詞を高らかに叫んだ。
男女は一瞬、呆然とした表情でシャルロットを見上げてフリーズ。
すぐに口をパクパク動かす。
「リュ、リュミエール?! 二大大公家の?! おっ、おおっ、お許しを!」
「う、ううっ、嘘よ。こんな所に王族がいるはず、な、な、ないわ」
「頭が高い!」
ふたりは慌てて土下座をした。
「なあ、シャルロット。王家の紋章が入った道具ってないか? 王族しか所持することを許されないようなやつ」
「ん? 印章、旗、盾、ハンカチならあるぞ?」
「あー。風が吹いていても、距離があっても見せつけられるし、盾がいいかな。ちょっと貸して」
「ああ」
シャルロットが魔法の革袋からゴシック型の盾(※)を出してくれた。重ねあわせた木を金属で補強した物らしく、意外と軽い。せいぜい左上半身を覆う程度の大きさだし、おそらく、受け止める盾ではなく、受け流す盾なのだろう。
※:騎士の盾と言われて最初に想像するような形状。涙滴型をひっくり返したような形。全体的に曲線で造られている。
「おい、お前たち顔を上げていいぞ」
男女が恐る恐る顔を上げた。
俺は盾の絵が描いてある方をふたりに見せつける。
「この紋章が目に入らぬか!」
まばゆい銀色の盾に、王族の権威を強調する紫地が敷かれ、光放つ黄金の聖剣が中央上下を貫き、忠誠と正義を象徴するユニコーンが全面に描かれ、その動物は王冠とマントを装着し、周囲に星や月がちりばめられている。盾の縁には異世界語で『光導き、運命を照らす』という標語が刻まれている。
ガチもんの紋章だ。王権をこれでもかってくらい主張している。なんかもう、手先の器用なドワーフとかが造っている芸術品の領域だ。
受け流すための盾かと思ったけど、違うわ。これ、屋敷の壁に飾ったり、滞在先の宿とかテントの前とかに掲げて所在証明をするための盾だ。
俺は盾の裏側にステータスウインドウを出し、輝かせる。
「ひいいいっ! おっ、おおっ、王の聖獣! 至高と高貴の紫! ほ、ほほ、本物!」
「マーク?! 嘘よね、嘘よね?!」
男は深々と頭を下げ、泥に額をつっこんだ。
女はおろおろとうろたえた後、男と同じようにした。
「これにて一件落着!」
というわけで、十分反省しただろうし許すことにした。「もう馬を虐めるなよ」と注意して、終わりだ。
街道脇で、ふたりをシャルロットの前に転がす。
裸は可哀想だから女にステータスウインドウをかけてあげた。
ついでに、男の股間をシャルロットやサフィに見せないよう、ステータスウインドウモザイクをかける。
「ほら。正座して」
「う、うう……」
「あ、ああ……」
馬鹿ップルはうめくだけだ。
意外なことに、闘争心か反骨精神か自尊心か怒りか知らないけど、瞳はまだ力を宿している。
暴力には屈しない、キリッという感じだ。
「アーサー。やりすぎだ」
「いや、でも、お前に向けて剣と杖を抜いたんだから、こいつらは殺されてもしょうがないだろ?」
「お前は私をなんだと思っているんだ」
「シャルロット自身よりかは、シャルロットが一般人からどう思われる存在なのかを正しく知っていると思うぞ」
「私の名前と家前を知らなかったのに?」
「田舎者だからしょうがないだろ。だから、この馬鹿ップルがイキッたこともしょうがないし……。今後も同じことが繰り返されるよなあ。何も知らない田舎民の罪を重くするのは可哀想だし、今後のことも考えないと。うーん。偉い人の世直しの旅だよなあ。……よし。ひらめいた」
俺は手で招いてサフィをブランシュ・ネージュの右に立たせる。
「サフィ。こっち、こっち。ここに立ってて。何もしなくていいから」
「みゃ」
「できるなら、威圧感や迫力を出して、キリッとした表情をしていて暮れ」
「みゃ? 頑張るみゃ。キリッ!」
萌えッ!
て感じで可愛いなあ!
「シャルロットは動くなよ。できれば、その穏やかなスマイルを続行していてくれ。俺に任せろ」
「分かった」
男と女がゆっくりと体を起こす。意識はしっかりしているようだ。
俺は特に配慮して、男のちんこが露出しないようにする。
俺はブランシュ・ネージュの左に立ち、背筋を伸ばす。
すーっ。
息を大きく吸って……。
「ええいっ! ひかえいっ! ひかえおろう! この高貴なる美貌が目に入らぬか! こちらにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くも、現王弟の令嬢にして先の王国騎士団第一団長シャルロット・リュミエール様であらせられるぞ! 頭が高い! 頭が高ぁぁい!」
俺はうろ覚えだが、時代劇の決め台詞を高らかに叫んだ。
男女は一瞬、呆然とした表情でシャルロットを見上げてフリーズ。
すぐに口をパクパク動かす。
「リュ、リュミエール?! 二大大公家の?! おっ、おおっ、お許しを!」
「う、ううっ、嘘よ。こんな所に王族がいるはず、な、な、ないわ」
「頭が高い!」
ふたりは慌てて土下座をした。
「なあ、シャルロット。王家の紋章が入った道具ってないか? 王族しか所持することを許されないようなやつ」
「ん? 印章、旗、盾、ハンカチならあるぞ?」
「あー。風が吹いていても、距離があっても見せつけられるし、盾がいいかな。ちょっと貸して」
「ああ」
シャルロットが魔法の革袋からゴシック型の盾(※)を出してくれた。重ねあわせた木を金属で補強した物らしく、意外と軽い。せいぜい左上半身を覆う程度の大きさだし、おそらく、受け止める盾ではなく、受け流す盾なのだろう。
※:騎士の盾と言われて最初に想像するような形状。涙滴型をひっくり返したような形。全体的に曲線で造られている。
「おい、お前たち顔を上げていいぞ」
男女が恐る恐る顔を上げた。
俺は盾の絵が描いてある方をふたりに見せつける。
「この紋章が目に入らぬか!」
まばゆい銀色の盾に、王族の権威を強調する紫地が敷かれ、光放つ黄金の聖剣が中央上下を貫き、忠誠と正義を象徴するユニコーンが全面に描かれ、その動物は王冠とマントを装着し、周囲に星や月がちりばめられている。盾の縁には異世界語で『光導き、運命を照らす』という標語が刻まれている。
ガチもんの紋章だ。王権をこれでもかってくらい主張している。なんかもう、手先の器用なドワーフとかが造っている芸術品の領域だ。
受け流すための盾かと思ったけど、違うわ。これ、屋敷の壁に飾ったり、滞在先の宿とかテントの前とかに掲げて所在証明をするための盾だ。
俺は盾の裏側にステータスウインドウを出し、輝かせる。
「ひいいいっ! おっ、おおっ、王の聖獣! 至高と高貴の紫! ほ、ほほ、本物!」
「マーク?! 嘘よね、嘘よね?!」
男は深々と頭を下げ、泥に額をつっこんだ。
女はおろおろとうろたえた後、男と同じようにした。
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