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35話。シャルロットが村娘エナと急速に仲良くなる
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女の人は心許ないが俺から離れてひとりで歩こうとする。
しかし、足取りはふらふらしていて、またすぐにも倒れてしまいそうだ。
俺が支えようとするが、さっと、シャルロットが遮る。
「娘さん。私につかまりなさい」
「す、すみません。……だ、駄目です。そのような綺麗なお召し物が汚れてしまいます」
「服は洗えばすむが、もし貴方が転んで怪我でもして可愛いらしい顔に傷が残れば大変だ。さあ、遠慮なく私につかまって」
シャルロットは爽やかに微笑んだ。
騎士団で後輩の女騎士が惚れてしまいそうな、たらしの顔だ。
「ああ……。ありがとうございます」
女の頬がうっすらと朱に染まった。
……いや、別にいいけど、その行為を受けるの、俺の役では?
最初さ、シャルロットが女の人を支えたのは、俺が触れることに対して嫉妬したのかなって思ったのさ。
可愛いところあるなーって。
でも、まさかと思うけど、シャルロットが女の人を触りたかったの?
「私の名はシャルロット。お嬢さんの名前は?」
「私はエナです」
「ふふっ。聖女同士だ。なんの遠慮も要らないね」
「ふふっ。そうですね」
年頃が近いこともあって、ふたりは打ち解けあったようだ。
エナ(聖女)は、アーサー(英雄)やシャルロット(聖女)ほど多くはないが、やはり歴史上の偉人にあやかった、ありがちな名前だ。
ちなみに俺の馬ロンディ、クルディ、メルディは月曜日、火曜日、水曜日だ。
サフィだけが、(多分)何にもあやかっていない。猫タイプの獣人特有の名前だろうか。
俺たちは、エナを彼女の家まで送り届ける。
「あはははっ。エナには太陽のような花が似合いそうだ」
「うふふふっ。シャルロットには月のような花が似合いそうね」
「あはははっ」
「うふふふっ」
ふたりが楽しそうにしている。
「サフィ。俺たちも他愛のない話で笑いあおうぜ」
「みゃ」
「サフィは、なにが好き?」
「みゃ~。ミャーシャー!」
「こいつぅ!」
俺はサフィの頭をわしゃわしゃと撫でてあげた。
すると、背後でメルディが「ぶひひひひっ!」と鳴いた。
そしてサフィが――。
「みゃひひひひっ!」
「あっ! こら! サフィ! 真似しちゃ駄目! メルディ、お前その笑い方なんなんだよ。一時的なものかと思ったけど、治らないな。まあ、可愛いからいいけど」
「ブヒブヒ」
「ひひーん!」
「ぶるるる!」
「ごめんごめん。ロンディとクルディも可愛いよ」
雑談しながらそうこうしているうちに大通りから小道に逸れて進み、さらに小道を進んだ所にエナの家はあった。
木組みに土を塗り固めた粗末な小屋で、木の板のはめこみ式の窓がある。玄関に開閉式の扉はなく(田舎の村であまり複雑な家は作れない)、風が強い日や雨が降るときや夜中など、必要時に応じて木の板を立てかける形式だ。
煙突がなく、土間の簡素な炉で飯の煮炊きをしているため、屋内全体はすす汚れており、ちょっと焦げ臭い。
家具らしき家具は何もない部屋の隅に彼女の父親らしき中年の男がいた。男はかんなのような道具で木を削る手を止めて顔を上げる。
「エナ。お帰り。……おや? お客さんか」
「お父さん。ただいま。さきほど知りあった旅の方よ」
「我が名はシャルロット。突然の来訪失礼する。そこでエナ殿と行き当たってな。何やら困った様子だったので、気になって話を聞こうと思い、伺った」
「おお。これはどうも。私はエナの父で、ジョンと申します」
ジョンも聖人が元ネタだから非常に多い。聖人と同じ名前にすると加護が得られると信じられている文化なので、そうなる。
「あ、ども、こんにちは。俺はアーサー」
「みゃ。サフィみゃ」
「ブヒブヒ!」
げえっ。馬が一頭、頭を下げて身を小さくして入ってきやがった。
賢い馬の中でも馬鹿がいるというか、空気が読めないというか、我が愛馬メルディよ、なぜお前まで入ってきた!
馬小屋と勘違いしたのか?!
押し返そうにも狭い部屋はもう、みっちりしつつある。
「さっそくだが、エナ。さっきは何があったんだ?」
えっ。始めるんだ。
しょうがない。俺はメルディの頭を撫でながら気配を消そう。
(無……)
(無ヒ無ヒ……!)
(……なにっ。こいつも無の使い手だと……! 馬は賢いというが、場の空気を読んで無になるとは……! いや、待て。空気が読めるなら家には入ってこないはず。こいつっ。いったい何を考えている……!)
(無ゃ~)
(サフィ! お前もか!)
俺、メルディ、サフィが無になっている間にも、シャルロットとエナの会話は進んでいる。
「我が家では昔から、古い農具や壊れたガラクタを直したり組み合わせたりして、農具を作っていました。父は目が弱いので、私が売りに行っていました。今まで先ほどの古物商に10ドメールで売っていたのですが……。店主が代替わりしてしまい、3ドメールしか払えないと言いだして」
「10ドメールの約束を3ドメールに? それはあまりにも横暴だな」
「新しい店主は鑑定スキルが使えるらしく、父の作った農具には3ドメールの価値しかないと……」
「むう。鑑定スキルか……」
あー。
困ったなあ。
シャルロットが言いよどんでいる。
鑑定スキルで、3ドメールの価値ってなったら、それは真実だしなあ。
小さい田舎までは同業者組合が進出していないかも知れないけど、ニュルンのような街では「同じ物は同じ値段で売る」と、組合で決められている。
もし、古物商の店主がニュルンのような都市で下積み修行をした経験があるなら、そのときの名残で都市と同じ値段で売り買いをしている可能性がある。
それに、3ドメールはちょっと安いが、田舎のおっさんが作った農具の価値としては妥当な気もするし……。
しかし、足取りはふらふらしていて、またすぐにも倒れてしまいそうだ。
俺が支えようとするが、さっと、シャルロットが遮る。
「娘さん。私につかまりなさい」
「す、すみません。……だ、駄目です。そのような綺麗なお召し物が汚れてしまいます」
「服は洗えばすむが、もし貴方が転んで怪我でもして可愛いらしい顔に傷が残れば大変だ。さあ、遠慮なく私につかまって」
シャルロットは爽やかに微笑んだ。
騎士団で後輩の女騎士が惚れてしまいそうな、たらしの顔だ。
「ああ……。ありがとうございます」
女の頬がうっすらと朱に染まった。
……いや、別にいいけど、その行為を受けるの、俺の役では?
最初さ、シャルロットが女の人を支えたのは、俺が触れることに対して嫉妬したのかなって思ったのさ。
可愛いところあるなーって。
でも、まさかと思うけど、シャルロットが女の人を触りたかったの?
「私の名はシャルロット。お嬢さんの名前は?」
「私はエナです」
「ふふっ。聖女同士だ。なんの遠慮も要らないね」
「ふふっ。そうですね」
年頃が近いこともあって、ふたりは打ち解けあったようだ。
エナ(聖女)は、アーサー(英雄)やシャルロット(聖女)ほど多くはないが、やはり歴史上の偉人にあやかった、ありがちな名前だ。
ちなみに俺の馬ロンディ、クルディ、メルディは月曜日、火曜日、水曜日だ。
サフィだけが、(多分)何にもあやかっていない。猫タイプの獣人特有の名前だろうか。
俺たちは、エナを彼女の家まで送り届ける。
「あはははっ。エナには太陽のような花が似合いそうだ」
「うふふふっ。シャルロットには月のような花が似合いそうね」
「あはははっ」
「うふふふっ」
ふたりが楽しそうにしている。
「サフィ。俺たちも他愛のない話で笑いあおうぜ」
「みゃ」
「サフィは、なにが好き?」
「みゃ~。ミャーシャー!」
「こいつぅ!」
俺はサフィの頭をわしゃわしゃと撫でてあげた。
すると、背後でメルディが「ぶひひひひっ!」と鳴いた。
そしてサフィが――。
「みゃひひひひっ!」
「あっ! こら! サフィ! 真似しちゃ駄目! メルディ、お前その笑い方なんなんだよ。一時的なものかと思ったけど、治らないな。まあ、可愛いからいいけど」
「ブヒブヒ」
「ひひーん!」
「ぶるるる!」
「ごめんごめん。ロンディとクルディも可愛いよ」
雑談しながらそうこうしているうちに大通りから小道に逸れて進み、さらに小道を進んだ所にエナの家はあった。
木組みに土を塗り固めた粗末な小屋で、木の板のはめこみ式の窓がある。玄関に開閉式の扉はなく(田舎の村であまり複雑な家は作れない)、風が強い日や雨が降るときや夜中など、必要時に応じて木の板を立てかける形式だ。
煙突がなく、土間の簡素な炉で飯の煮炊きをしているため、屋内全体はすす汚れており、ちょっと焦げ臭い。
家具らしき家具は何もない部屋の隅に彼女の父親らしき中年の男がいた。男はかんなのような道具で木を削る手を止めて顔を上げる。
「エナ。お帰り。……おや? お客さんか」
「お父さん。ただいま。さきほど知りあった旅の方よ」
「我が名はシャルロット。突然の来訪失礼する。そこでエナ殿と行き当たってな。何やら困った様子だったので、気になって話を聞こうと思い、伺った」
「おお。これはどうも。私はエナの父で、ジョンと申します」
ジョンも聖人が元ネタだから非常に多い。聖人と同じ名前にすると加護が得られると信じられている文化なので、そうなる。
「あ、ども、こんにちは。俺はアーサー」
「みゃ。サフィみゃ」
「ブヒブヒ!」
げえっ。馬が一頭、頭を下げて身を小さくして入ってきやがった。
賢い馬の中でも馬鹿がいるというか、空気が読めないというか、我が愛馬メルディよ、なぜお前まで入ってきた!
馬小屋と勘違いしたのか?!
押し返そうにも狭い部屋はもう、みっちりしつつある。
「さっそくだが、エナ。さっきは何があったんだ?」
えっ。始めるんだ。
しょうがない。俺はメルディの頭を撫でながら気配を消そう。
(無……)
(無ヒ無ヒ……!)
(……なにっ。こいつも無の使い手だと……! 馬は賢いというが、場の空気を読んで無になるとは……! いや、待て。空気が読めるなら家には入ってこないはず。こいつっ。いったい何を考えている……!)
(無ゃ~)
(サフィ! お前もか!)
俺、メルディ、サフィが無になっている間にも、シャルロットとエナの会話は進んでいる。
「我が家では昔から、古い農具や壊れたガラクタを直したり組み合わせたりして、農具を作っていました。父は目が弱いので、私が売りに行っていました。今まで先ほどの古物商に10ドメールで売っていたのですが……。店主が代替わりしてしまい、3ドメールしか払えないと言いだして」
「10ドメールの約束を3ドメールに? それはあまりにも横暴だな」
「新しい店主は鑑定スキルが使えるらしく、父の作った農具には3ドメールの価値しかないと……」
「むう。鑑定スキルか……」
あー。
困ったなあ。
シャルロットが言いよどんでいる。
鑑定スキルで、3ドメールの価値ってなったら、それは真実だしなあ。
小さい田舎までは同業者組合が進出していないかも知れないけど、ニュルンのような街では「同じ物は同じ値段で売る」と、組合で決められている。
もし、古物商の店主がニュルンのような都市で下積み修行をした経験があるなら、そのときの名残で都市と同じ値段で売り買いをしている可能性がある。
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