【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち

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【オメガバース】α嫌いのΩとオメガ嫌いのαが番になった話

2話 それはいつもの日常だった【攻め視点】

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時は遡り一昨日のことだ


  ◇


『───次のニュースです。○○市でオメガの強姦事件が発生し、オメガ保護法違反と強制性交等罪の疑いで男を逮捕しました』

「あーまたオメガ事件っすか。これって結構罪重いんでしょ?」
「そうそう」
「私たちβ(ベータ)には関わり薄いから実感わかないけどねー」

昼下がり。社員食堂で各々で寛ぎ、テレビ報道を見ていた。

「オメガもアルファも人口一割いるかいないかでしょ?」
「そそ、しかも今は抑制剤も進歩して発情期(ヒート)するやつ激減したからなー、近くに居ても気づかないかも」
「薬ったって、薬剤耐性できてヒートしちゃうオメガもいるんだろ?しらんけど」
「しらんけどて。しらんのに力説されてもなー」
「つか源さん、アルファ家系っしょ。本人ベータだけど」

「ぶほっ」

同僚の話をぼんやり聞きながら、うどんを啜っていると突然話題を振られ軽く咽てしまった。
TVも設置されており、丁度昼のニュースが流れている。

「そうそう!顔良くて身長高いのに確かにアルファっぽい威厳ないもん!兄弟で一人だけベータとか受けるぅ」

「おまっ……ごほっ、あぶねぇ麺が詰まるとこだった」

「一家全員医者なのに一人だけ製薬会社勤務!」

「そういうどうでもいい細かい事よく覚えてんなお前」

「不思議な事もあるなあ」
「なんかたまにあるみたいだよ。突然変異?」
「せっかくの良い顔が泣いてるぞ源ぉ」

「うっせいやい」


そうこうしていると突然、TV画面からアラーム音が鳴りだし、速報テロップが表示される。それと同時に中継が切り替わり、ざわついた速報報道用のフロアが映し出されていた。


『───速報が入ってきました、与党の総裁選が終わったようです。よって、正式な承認を得ることで初のベータの内閣総理大臣の誕生が期待されます』

「わ、マジで決まったの?」
「なるっしょー不祥事なしで地道にやる事が求められる時代ったらベータしかないっしょ!」
「だよねーアルファは能力は高いかもしれないけど、上から目線キツいし、奔放すぎてトラブル多すぎだもん」
「平民扱いだった、おれらベータの時代キタじゃん!」
「やったじゃん源。ぼっちベータのアンタの時代じゃん」

「んな事言われても、やる事大して変わんねーじゃん。納期に追われる日々は」

「だねー」

だらだらと昼を満喫していると、奥からいつもの眉間に皺を寄せ、険しい顔をしたあいつが現れた。

「こらお前ら。そろそろ昼休憩終わるぞ」

「わ、上川さん!」
「すんません今日終わりそうにないっス!」

同僚の一人が仕事の進歩を来たのだろうと思い、聞かれる前に先に進歩を川上に伝えた。


「まだ何も聞いてないのに諦めるな……ほらクライアントの修正案。できたから工場に回してくれ」

「了解ッス」

「よぉ川上。ベータの成り上がり様は忙しそうだなあ」
「なんだ源。無駄口を叩いてるヒマがあったら手を動かしたらどうだ」
「もう動かしてるぜ、箸をな」
「………俺は例の新薬のまとめに入るから、今日の案件はお前たち任せたぞ」
「うわ無視。ツッコミくらい期待したのに」

「例の新薬って、オメガの抑制剤の件っすか?」

「ああ、中々開発が進まなかったが、やっと光が見えてきてな。もしかしたら治験まで持っていけるかもしれん」
「まじかよ。オメガの抑制剤は現状でも十分で新薬開発の投資なかなか受けにくくなってんのに。よくやるな」
「………人権を尊重する時代だからな。社会的な人手不足もある、これが実を結べば、薬剤耐性や依存性を低くした抑制剤でオメガにもっと自由な生活が約束できる」

「抑制剤、もうペンタイプも出てるんでしょ?気軽さと性能だともう十分だし、患者さんにとってはちょっとの依存性や耐性低下くらいじゃわかりにくいかも」
「あとは安全性とか、即効性とかっスかねー?」

「そうだな。即効性はプレゼンで特に大事だ。あとはできるだけ長く効くようにも開発を進めたいと思っている」
「ちっちっち、甘いな、上川」
「なんだ源」
「もうオメガの抑制剤の開発需要はピーク、あとは投資もどんどん下がっていくのに開発コストは高い。時代はアルファの抑制剤だ」
「………!」


「アルファの抑制剤ぃ!?」
「うわ、治験段階まで進んでもプライド高いアルファたちァ本人から猛批判受けて実現できてないやつ……」
「たしか源が長年開発してんだっけ?」

「そ、まあアルファの性格は家族だけに知ってるけど。時代は信用が大事になってきているからな。不祥事防止にアルファの発情期(ラット)を抑えられる薬は今後需要増えるさ」

「お、数見込めなくても単価上げていく感じっすか?」

「あたぼーよ。どうしても出は悪いだろうからな」

「でた!ぼっちベータの逆襲だ」

「うるせいやい」

「………」
「どうした上川?顔色悪いぞ」
「いや、なんでもない」
「いくらなんでも働きすぎなんじゃないか?いつ見ても仕事しっぱなしじゃねーか」
「………平気だ。やっと新薬ができるかもしれないって時に休んでいられん」
「そういう意味じゃ……」
「じゃあお前ら、頼んだぞ」

「はいっスー」

上川は踵を返すと忙しない早歩きで廊下の奥へと消えていった。

「……上川さんってマジ、ベータの叩き上げ感あるっスよね」
「ほんとほんと。他人にも厳しいけど自分にはもっと厳しい感じ」

「お前らもベータだろが」

「私たちは今のお仕事するだけで精一杯ですぅ~」
「あのストイックさはなかなか真似できないっスよねー」

「そーだな。……あの情熱加減は行き過ぎてるかもな」

その時は、川上の中の正義感が突き動かしているのだろうかと思う程度だった。


  ◇


───あの時に気付いていれば。そう思うのは後の祭りでしかなかった。
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