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【オメガバース】α嫌いのΩとオメガ嫌いのαが番になった話
8話 共犯になるということ
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「………マジでここ?」
「ああ、ちゃんとした病院だ」
「ふつー……の個人クリニック……」
源はクリニックの看板に気付く。そこには"かわかみ内科クリニック"と明記されていた。
「………親戚か」
「ああ、叔父にあたる」
「けど普通の内科だろ?大丈夫なのか?」
「………オレは"ベータ"だから問題ないだろ?」
川上のその言葉に源は目を見開く。コトの意味を察した源は、病院に入り受付を済ます川上に黙って付き添った。
「………随分と危ない橋渡ってたんだな、お前」
「お陰様で。努力さえすれば普通の生活を送れていたよ」
「川上ー川上想夜さまー」
予約をしていた為、外待合室の椅子に座って間もなく中待合室へと呼ばれた。
診察室へと入ると、初老の男性医師が待っていた。上川の担当医は看護師に他の仕事を頼み、その場は三人だけになった。恐らく川上への配慮の為の人払いだろう。
「さて、隣の子が………想夜くんの?」
「そう、いけすかないアルファ」
「紹介ひどっ」
川上の紹介ぶりに源は思わずツッコミを入れてしまう。その様子に川上はくすくすと口元を抑えている。ふざけるくらいは信用してくれるようになったのだろうかと源は感じ、やれやれと苦笑を零す。
お互いの紹介を済まし、コトの経緯を簡潔に告げると、担当医は眉を顰めて口を開き始めた。
「───そうか。出した抑制剤は全てダメになってしまったか。あれが出せる中で一番強いものではあったのだが」
「………ごめん、叔父さん。効きが悪い時に薬を勝手に増やしていたせいもあるかもしれない」
「過ぎた事だ。気にしなくていい。………薬というのはいつかはこうなるものだ」
「………俺、いても大丈夫か?聞かれたくない話とかあるんじゃ──」
川上の状況が想像以上に深刻で、オメガにとって場合によって天敵ともいえるアルファの自分が聞いても大丈夫な話かどうかが気になり、退室すべきかどうかを二人に伺う。
「………いや。口裏を合わせてもらう為にもできるだけ聞いておいてほしい」
「そう、だな。番だし──……、まさかオメガ申請せずガチでベータ偽ってたとはな」
「………オメガ登録を済ませてしまうと、どうあっても公にバレる。努力で補えるなら、できるだけ普通に扱ってもらいたかったんだ」
「そこはアルファとオメガの違いか」
「源は正式に登録を?」
「ああ。元からアルファだからな。会社へも提出してある。それでもフツーに対応されて、ベータだって自称してても何か言われた事は無い。適当に処理して見落としたか、ただの落ちこぼれアルファだと思ったか。だな」
「………」
「想夜くんが変異したのは14歳くらいの時だったかな。妙な体調不良が続いて、検査したら……陽性だったよ」
「検査は院内で?」
「その通り。そのまま届け出を出さずに治療を続けていた。───オメガはどうしても人目を悪い意味で引いてしまうからね。想夜くんは元々努力家で優秀な子だった。普通に生活できるなら、そっちの方がいいと思ってね」
「………オメガ登録をしていれば、もっと治療の幅や補助は出るとは思うが」
「そうだね。あくまでこちらは内科医に過ぎないから処方箋に限界はあった。幸い───源クンが番になってくれたお陰で首の皮一枚つながったわけだけど」
「おじさんはオメガの研究を重ねてくれて、そこら辺の医者よりは詳しい。だから今まで……努力は必要だったが、本当に普通に生活していられたんだ」
「ふふ、想夜くんのお陰でね。だから想夜くん以外にもオメガ患者を受け持っている」
「それで───川上は今度どう治療していくべきなんだ?」
「そうだね。一応念には念を入れて、今日できる検査は一通りしてピルも処方しておこうか。あとは定期的に検査していこう」
「わかりました。お願いします、おじさん」
「うん、任せておきなさい。では源クンは先に外待合室で待ってくれるかな」
「了解です」
「じゃあまた後で」
「おう」
◆
「どうだった?」
診察が終わり待合室に戻ってきた川上を源は迎える。
「ん……所見としては異常なし。というか、すぐにわかるものでもないみたいだ。あとは定期検査」
「だな。じゃ、帰るか」
「ああ」
会計が終わり病院を出た二人は電車に揺られながら帰路につく。
「気分、平気か?昨日は割とすぐフラついてたが」
「ん、大丈夫だ。完全ではないが肩を貸してもらうまでもないな」
「じゃ、明日はどうする?様子見するか?」
「明日は出る。流石に仕事が溜まりすぎていても困るしな」
「あいつらもな~しっかり仕事やってくれててればいいんだが」
同僚たちの事を冗談交じりに茶化す。
「大丈夫だろう。あいつらだってなんだかんだ長いんだし」
それよりも上川は自身が担当し、やっと商品化一歩手前まで来ている例のオメガ新薬について心配しているようだった。源は「そうだといいな~」と言いつつも、同僚たちの仕事ぶりへの不安が拭えないのだった。
「ああ、ちゃんとした病院だ」
「ふつー……の個人クリニック……」
源はクリニックの看板に気付く。そこには"かわかみ内科クリニック"と明記されていた。
「………親戚か」
「ああ、叔父にあたる」
「けど普通の内科だろ?大丈夫なのか?」
「………オレは"ベータ"だから問題ないだろ?」
川上のその言葉に源は目を見開く。コトの意味を察した源は、病院に入り受付を済ます川上に黙って付き添った。
「………随分と危ない橋渡ってたんだな、お前」
「お陰様で。努力さえすれば普通の生活を送れていたよ」
「川上ー川上想夜さまー」
予約をしていた為、外待合室の椅子に座って間もなく中待合室へと呼ばれた。
診察室へと入ると、初老の男性医師が待っていた。上川の担当医は看護師に他の仕事を頼み、その場は三人だけになった。恐らく川上への配慮の為の人払いだろう。
「さて、隣の子が………想夜くんの?」
「そう、いけすかないアルファ」
「紹介ひどっ」
川上の紹介ぶりに源は思わずツッコミを入れてしまう。その様子に川上はくすくすと口元を抑えている。ふざけるくらいは信用してくれるようになったのだろうかと源は感じ、やれやれと苦笑を零す。
お互いの紹介を済まし、コトの経緯を簡潔に告げると、担当医は眉を顰めて口を開き始めた。
「───そうか。出した抑制剤は全てダメになってしまったか。あれが出せる中で一番強いものではあったのだが」
「………ごめん、叔父さん。効きが悪い時に薬を勝手に増やしていたせいもあるかもしれない」
「過ぎた事だ。気にしなくていい。………薬というのはいつかはこうなるものだ」
「………俺、いても大丈夫か?聞かれたくない話とかあるんじゃ──」
川上の状況が想像以上に深刻で、オメガにとって場合によって天敵ともいえるアルファの自分が聞いても大丈夫な話かどうかが気になり、退室すべきかどうかを二人に伺う。
「………いや。口裏を合わせてもらう為にもできるだけ聞いておいてほしい」
「そう、だな。番だし──……、まさかオメガ申請せずガチでベータ偽ってたとはな」
「………オメガ登録を済ませてしまうと、どうあっても公にバレる。努力で補えるなら、できるだけ普通に扱ってもらいたかったんだ」
「そこはアルファとオメガの違いか」
「源は正式に登録を?」
「ああ。元からアルファだからな。会社へも提出してある。それでもフツーに対応されて、ベータだって自称してても何か言われた事は無い。適当に処理して見落としたか、ただの落ちこぼれアルファだと思ったか。だな」
「………」
「想夜くんが変異したのは14歳くらいの時だったかな。妙な体調不良が続いて、検査したら……陽性だったよ」
「検査は院内で?」
「その通り。そのまま届け出を出さずに治療を続けていた。───オメガはどうしても人目を悪い意味で引いてしまうからね。想夜くんは元々努力家で優秀な子だった。普通に生活できるなら、そっちの方がいいと思ってね」
「………オメガ登録をしていれば、もっと治療の幅や補助は出るとは思うが」
「そうだね。あくまでこちらは内科医に過ぎないから処方箋に限界はあった。幸い───源クンが番になってくれたお陰で首の皮一枚つながったわけだけど」
「おじさんはオメガの研究を重ねてくれて、そこら辺の医者よりは詳しい。だから今まで……努力は必要だったが、本当に普通に生活していられたんだ」
「ふふ、想夜くんのお陰でね。だから想夜くん以外にもオメガ患者を受け持っている」
「それで───川上は今度どう治療していくべきなんだ?」
「そうだね。一応念には念を入れて、今日できる検査は一通りしてピルも処方しておこうか。あとは定期的に検査していこう」
「わかりました。お願いします、おじさん」
「うん、任せておきなさい。では源クンは先に外待合室で待ってくれるかな」
「了解です」
「じゃあまた後で」
「おう」
◆
「どうだった?」
診察が終わり待合室に戻ってきた川上を源は迎える。
「ん……所見としては異常なし。というか、すぐにわかるものでもないみたいだ。あとは定期検査」
「だな。じゃ、帰るか」
「ああ」
会計が終わり病院を出た二人は電車に揺られながら帰路につく。
「気分、平気か?昨日は割とすぐフラついてたが」
「ん、大丈夫だ。完全ではないが肩を貸してもらうまでもないな」
「じゃ、明日はどうする?様子見するか?」
「明日は出る。流石に仕事が溜まりすぎていても困るしな」
「あいつらもな~しっかり仕事やってくれててればいいんだが」
同僚たちの事を冗談交じりに茶化す。
「大丈夫だろう。あいつらだってなんだかんだ長いんだし」
それよりも上川は自身が担当し、やっと商品化一歩手前まで来ている例のオメガ新薬について心配しているようだった。源は「そうだといいな~」と言いつつも、同僚たちの仕事ぶりへの不安が拭えないのだった。
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