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異世界転移したら即魔王に手籠めにされた話
5話「勇者登場!」非R18
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「魔王様、お覚悟を」
「ぐぬぬ………!」
まるで切迫した場面のようだが
ただの出発ゴネである。
この魔王、日に日に朝ゴネをこじらかしている。
「フィアンセ殿」
ゴネていたら急に少年の方へ振り向いてきた。
「な、なに?」
「我ね。これから頑張ってくるから」
「うん」
「………」
「?」
じっと少年を見つめて黙りこんでいる魔王の目は切実だ。
「ここ……」
魔王が自分の頬をツンツンし始める。
その切なさそうな表情と指している場所から、やっと魔王が何を言いたいのか察した少年が赤くなる。少年はきょどきょどしてしまうが魔王は待機し側近たちも空気を読んでいる為、差し迫った少年は意を決し、魔王の頬にちゅ、と本当に一瞬だけ唇を触れさせた。
「我いってきます!!!!」
先ほどまでゴネてゴネまくっていた魔王がブンブンと最後の最後まで少年に手を振りながら意気揚々と公務に出発した。
魔王の要求を叶えるのも恥ずかしかったが、魔王のテンションが高すぎるのも見ていて恥ずかしい。
「フィアンセ様。お手を煩わせてばかりで度々申し訳ございません」
「あ、いえ……」
そもそも出会って即犯すという事をしでかしてきた魔王である。
もうこれくらいは気にする気にもならないというのが本音になる。
(それにしても……俺がキスしたらあんな風に嬉しそうにするんだ)
そういえば頬に一瞬とはいえこちらからキスをしたのは初めてだったかもしれない、と今さらながら尚こと気恥ずかしくなる少年だった。
*********
「フィアンセ様、今日はお庭をご案内させて頂きます」
魔王城の使用人が雅やかに案内してくれる。魔王もいないし、部屋にいるだけでは暇を持て余してしまう。魔王がいてもする事といえば、一応雑談もしなくはないが基本あんな事やそんな事しかしてこないので、こういう気晴らしは大事だ。
「ここって凄く綺麗ですよね。よく手入れされてますね」
「ありがとうございます。魔王様の御心次第で季節ごとに景色が変わるよう設計されています」
「すごいですね……。あっ花畑がある!可愛いなぁ」
色とりどりの花々が咲き誇っている庭園に目を奪われる。
ふわりと花の香りが漂うのも心地いい。魔王城の庭がこんなに素敵だとは知らなかったなと思う少年。魔王城の庭師は一流らしく、四季折々に美しい花を咲かせている。花を見ているだけで和んでしまう。
使用人の男性が手慣れた様子でハーブティーを用意してくれた。それを口に含む。
魔王が居ないと、やはりどこか物足りない。
早く帰ってこないかなと思ってしまうあたり、すっかり魔王に毒されている。
ハーブティーを淹れてくれた使用人に一礼して席にを離れ、気を取り直して庭の木々が茂っている方に足を伸ばす。
木漏れ日を浴びるととても癒される気がした。
「ん?」
何か視線を感じると思ったら鳥がいた。それも普通の動物ではない、魔力を持った魔獣だ。少年が近寄ると警戒したのかすぐに飛んで逃げてしまう。
ここでいう人間界なら、少年の現世にいたような動物もいるようだが、ここは魔界。住んでいるのは魔人、魔獣が多い。
鳥の姿が見えなくなった後も暫く森を散策していたのだが、少し疲れたので木陰で休むことにした。
小鳥のさえずり、気持ちのいい木漏れ日、そよ風。
この世界にきてまだ一週間ほどしか経っていないが、既に遠い昔のようだ。目を閉じて魔王との思い出に浸る。
あの人との出会い方も本当にひどかったよな、と苦笑してしまう。まさかあんな強姦紛いに抱かれるなんて。
酷い扱いだったはずなのに、どうしてか嫌いになれない。その後の待遇が良すぎるのもあるだろうが、なんだか憎めない人柄だなと少年は思う。魔王の事を考えると、胸のあたりが温かく感じるようになった。
魔王が出発する前に言っていた台詞を思い出す。魔王があれだけ嬉しそうに笑うのを初めて見た。いつもは余裕たっぷりで、たまには意地悪したりもするが基本的には優しい魔王。
最初こそ扱いは酷いものだったが、それからの来賓扱いはまさに贅をつくしてくれいてる。
ふと、このままでいいのだろうかと、過る。幸せといえばそうだが、こんな毎日で本当に良いのだろうか。
少年は異世界転移した時を思い出す。服以外の持ち物は無かった。
転移する直前はというと、確かな記憶がない。ぼんやりしている。
たしか通学する為に駅のホームにいて……それから───。
ガサッ
物思いにふけっていると、上から物音が聞こえ、それと同時に鳥たちが攻撃的な声で騒ぎだす。
「いたたたた、ごめんてごめ……わーっ!」
自分ではない男性の声が上からし、少年はもたれ掛かっていた木の上に視線を向けたやいなや、人が降ってきた。
ガサガサと木の枝や木の葉にひっかかりながらドスンと少年の傍に落ちた。
「も~……昼寝をしてただけなのに……容赦ないな鳥たちは………あれ?」
驚きの余り声が出ずにいると、その降ってきた男性は、見るからに
「人間!君、人間じゃないか!」
と、少年は言おうとしていた事を先に言われた。
この世界──というもの魔王城だけしか散策していないが。ここに住んでいる住人は殆どモンスターの造形をしていた。魔王は一番人間に近いがツノが生えているし、肌の色が紫がかっている。瞳もギラギラしていて少なくとも自分が見てきた人間の造形とは違うものが多い。
しかしその場に現れた青年は明らかに人間だった。サラサラと輝く金髪の髪、端正な顔と白い肌、吸い込まれるような碧眼。その姿はまるでおとぎ話に出てくる王子様のようで、浮世離れしているという意味で人間離れしているかもしれないが、それでも人間の造形をした人間だった。
「うーん、道に迷ってね。それで休憩してたんだ。どうやら巣の近くにいたみたいでね。そしたら親鳥に襲われてちゃってね、木から落ちたら君がいたってわけ!」
まだ突然の事で気持ちが落ち着かず、言葉が上手く出てこなかった少年の傍で、その青年はぺらぺらと口が良く回った。
「たしかにここは広いけど……魔王城の敷地内によく入ってこれたね」
魔王城の仕組みや警備はわからないが、何ごともキッチリしている魔王が、動植物はまだしも人間などの勝手な出入りも許しているとは考えにくかった。
「そう?よく迷子になるし、ここに来るまで何もなかったよ?」
「よく迷子になるって……大丈夫なの?」
「へーきへーき。大体誰かが助けてくれるから!」
随分楽観的な人だなと思いながら、そこら辺も魔王の世界統一平和のお陰なのだろうかと想像する。
「君こそ珍しいね。魔王城には大体魔人か魔獣しかいないのに、お客さんかい?」
「え、あ、あ、うん!そんなとこ!」
まさか魔王に強引にフィアンセにされただなんてとても言えない。しかも初対面の人に。魔王が帰ってきたら言ってやろうかなと一瞬思ったが、また何か言われそうなので止めておこう。
これ以上詮索されたくない少年はできるだけ話題をそらそうとする。
「それより、お兄さんはどこかの国の王子様なの?なんだか雰囲気がそれっぽいよね」
「ん~~~王子ではないんだけど、でも生活に不自由はないよ」
「貴族?」
「貴族でもないかな~~~でも皆良くしてくれるよ」
「お金持ちなの?」
「ないよ」
「ないの!?」
「宵越しの銭は持たない主義でね」
「それはちょっと……」
「いや、ホントだよ。今はお金無いけど、いつもみんなが色々くれるし。食べ物とか服とか武器防具もくれるし、そこらへんで拾える」
「拾っていいの!?」
この人は一体どういう生活をしてきたのか。少し心配になってくる。
この世界には通貨が無いということだろうか。魔王が平和にしすぎて、こちらの常識では測れない平和が実現しているのだろうかと少年は頭がぐるぐるしてくる。
そうしてると青年がクスクス笑いだす。
「君って面白いね。僕にそこまでツッコミできる人なかなかいないよ?」
「え……そ、そうなのかな」
褒められていると喜んでいいのか、バカにされていると流すべきなのか少年は悩む。
「うん。大体の人はそこまで僕に興味ないから」
「え」
「君はなんだか、普通の人とは違う気がするな」
少年があれ?と思う頃には青年の端正な顔がもう目の前に影を落としていた
「まてまてまてまてまてーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!」
聞きなれた声の大絶叫と共に突如現れた魔王は、少年を抱き寄せて青年から離し、距離を取って臨戦態勢の構えをとる。
「何をしてるんだ貴様ーーー!!我のフィアンセ殿にちょっかいを出すとは、許さぬぞ……勇者!!!!」
「ゆ、勇者あ!?」
勇者という言葉に少年は驚きを隠せない。なんでも100年に一度現れ、魔王を倒す絶対存在──それが勇者なのだと聞いた。
しかしその勇者は今の魔王が統治して以降、一度も現れずにいたはずだ。
「………魔王、やけに早かったね。気配は消していたんだけどなあ」
先ほどまでの陽気な青年から打って変わり、青年──勇者は冷酷な瞳で魔王を見つめている。
魔王はそんな冷たい瞳にもひるまず、毅然とした態度で勇者と対峙した。
「ふん、この結界の魔王城にどうやって入ったか知らぬが、魔王たる我が易々と侵入を許すと思ったか。フィアンセ殿に張っておいた魔法障壁に異常を検知したのでな。急いで来てみれば……1000年も現れなかった癖に今になって何の用だ、勇者!」
「あ、あんた俺にそんなの勝手に着けてたの!?」
「だってフィアンセ殿に何あったらどうするの!って今それどころじゃないから後でね!」
「ふふふ……普通の客人じゃないと思ったらそういう事だったんだ。仕事一筋のお堅い魔王が、ね」
勇者が口を開いて改めて警戒態勢をとる魔王。少年を抱きしめている腕に力が入り、緊張感が伝わる。
「フィアンセくん」
「?」
「今日のところはこれで失礼するよ。また、ね」
少年に向かって勇者はウィンクをしてチュ、と投げキッスを送り、素早くその場からいなくなった。
それから城に戻るやいなや、今日は少年を構う暇すら惜しんで魔王は勇者対策と警備強化を打ち出しに乗り出したのだった。
「ぐぬぬ………!」
まるで切迫した場面のようだが
ただの出発ゴネである。
この魔王、日に日に朝ゴネをこじらかしている。
「フィアンセ殿」
ゴネていたら急に少年の方へ振り向いてきた。
「な、なに?」
「我ね。これから頑張ってくるから」
「うん」
「………」
「?」
じっと少年を見つめて黙りこんでいる魔王の目は切実だ。
「ここ……」
魔王が自分の頬をツンツンし始める。
その切なさそうな表情と指している場所から、やっと魔王が何を言いたいのか察した少年が赤くなる。少年はきょどきょどしてしまうが魔王は待機し側近たちも空気を読んでいる為、差し迫った少年は意を決し、魔王の頬にちゅ、と本当に一瞬だけ唇を触れさせた。
「我いってきます!!!!」
先ほどまでゴネてゴネまくっていた魔王がブンブンと最後の最後まで少年に手を振りながら意気揚々と公務に出発した。
魔王の要求を叶えるのも恥ずかしかったが、魔王のテンションが高すぎるのも見ていて恥ずかしい。
「フィアンセ様。お手を煩わせてばかりで度々申し訳ございません」
「あ、いえ……」
そもそも出会って即犯すという事をしでかしてきた魔王である。
もうこれくらいは気にする気にもならないというのが本音になる。
(それにしても……俺がキスしたらあんな風に嬉しそうにするんだ)
そういえば頬に一瞬とはいえこちらからキスをしたのは初めてだったかもしれない、と今さらながら尚こと気恥ずかしくなる少年だった。
*********
「フィアンセ様、今日はお庭をご案内させて頂きます」
魔王城の使用人が雅やかに案内してくれる。魔王もいないし、部屋にいるだけでは暇を持て余してしまう。魔王がいてもする事といえば、一応雑談もしなくはないが基本あんな事やそんな事しかしてこないので、こういう気晴らしは大事だ。
「ここって凄く綺麗ですよね。よく手入れされてますね」
「ありがとうございます。魔王様の御心次第で季節ごとに景色が変わるよう設計されています」
「すごいですね……。あっ花畑がある!可愛いなぁ」
色とりどりの花々が咲き誇っている庭園に目を奪われる。
ふわりと花の香りが漂うのも心地いい。魔王城の庭がこんなに素敵だとは知らなかったなと思う少年。魔王城の庭師は一流らしく、四季折々に美しい花を咲かせている。花を見ているだけで和んでしまう。
使用人の男性が手慣れた様子でハーブティーを用意してくれた。それを口に含む。
魔王が居ないと、やはりどこか物足りない。
早く帰ってこないかなと思ってしまうあたり、すっかり魔王に毒されている。
ハーブティーを淹れてくれた使用人に一礼して席にを離れ、気を取り直して庭の木々が茂っている方に足を伸ばす。
木漏れ日を浴びるととても癒される気がした。
「ん?」
何か視線を感じると思ったら鳥がいた。それも普通の動物ではない、魔力を持った魔獣だ。少年が近寄ると警戒したのかすぐに飛んで逃げてしまう。
ここでいう人間界なら、少年の現世にいたような動物もいるようだが、ここは魔界。住んでいるのは魔人、魔獣が多い。
鳥の姿が見えなくなった後も暫く森を散策していたのだが、少し疲れたので木陰で休むことにした。
小鳥のさえずり、気持ちのいい木漏れ日、そよ風。
この世界にきてまだ一週間ほどしか経っていないが、既に遠い昔のようだ。目を閉じて魔王との思い出に浸る。
あの人との出会い方も本当にひどかったよな、と苦笑してしまう。まさかあんな強姦紛いに抱かれるなんて。
酷い扱いだったはずなのに、どうしてか嫌いになれない。その後の待遇が良すぎるのもあるだろうが、なんだか憎めない人柄だなと少年は思う。魔王の事を考えると、胸のあたりが温かく感じるようになった。
魔王が出発する前に言っていた台詞を思い出す。魔王があれだけ嬉しそうに笑うのを初めて見た。いつもは余裕たっぷりで、たまには意地悪したりもするが基本的には優しい魔王。
最初こそ扱いは酷いものだったが、それからの来賓扱いはまさに贅をつくしてくれいてる。
ふと、このままでいいのだろうかと、過る。幸せといえばそうだが、こんな毎日で本当に良いのだろうか。
少年は異世界転移した時を思い出す。服以外の持ち物は無かった。
転移する直前はというと、確かな記憶がない。ぼんやりしている。
たしか通学する為に駅のホームにいて……それから───。
ガサッ
物思いにふけっていると、上から物音が聞こえ、それと同時に鳥たちが攻撃的な声で騒ぎだす。
「いたたたた、ごめんてごめ……わーっ!」
自分ではない男性の声が上からし、少年はもたれ掛かっていた木の上に視線を向けたやいなや、人が降ってきた。
ガサガサと木の枝や木の葉にひっかかりながらドスンと少年の傍に落ちた。
「も~……昼寝をしてただけなのに……容赦ないな鳥たちは………あれ?」
驚きの余り声が出ずにいると、その降ってきた男性は、見るからに
「人間!君、人間じゃないか!」
と、少年は言おうとしていた事を先に言われた。
この世界──というもの魔王城だけしか散策していないが。ここに住んでいる住人は殆どモンスターの造形をしていた。魔王は一番人間に近いがツノが生えているし、肌の色が紫がかっている。瞳もギラギラしていて少なくとも自分が見てきた人間の造形とは違うものが多い。
しかしその場に現れた青年は明らかに人間だった。サラサラと輝く金髪の髪、端正な顔と白い肌、吸い込まれるような碧眼。その姿はまるでおとぎ話に出てくる王子様のようで、浮世離れしているという意味で人間離れしているかもしれないが、それでも人間の造形をした人間だった。
「うーん、道に迷ってね。それで休憩してたんだ。どうやら巣の近くにいたみたいでね。そしたら親鳥に襲われてちゃってね、木から落ちたら君がいたってわけ!」
まだ突然の事で気持ちが落ち着かず、言葉が上手く出てこなかった少年の傍で、その青年はぺらぺらと口が良く回った。
「たしかにここは広いけど……魔王城の敷地内によく入ってこれたね」
魔王城の仕組みや警備はわからないが、何ごともキッチリしている魔王が、動植物はまだしも人間などの勝手な出入りも許しているとは考えにくかった。
「そう?よく迷子になるし、ここに来るまで何もなかったよ?」
「よく迷子になるって……大丈夫なの?」
「へーきへーき。大体誰かが助けてくれるから!」
随分楽観的な人だなと思いながら、そこら辺も魔王の世界統一平和のお陰なのだろうかと想像する。
「君こそ珍しいね。魔王城には大体魔人か魔獣しかいないのに、お客さんかい?」
「え、あ、あ、うん!そんなとこ!」
まさか魔王に強引にフィアンセにされただなんてとても言えない。しかも初対面の人に。魔王が帰ってきたら言ってやろうかなと一瞬思ったが、また何か言われそうなので止めておこう。
これ以上詮索されたくない少年はできるだけ話題をそらそうとする。
「それより、お兄さんはどこかの国の王子様なの?なんだか雰囲気がそれっぽいよね」
「ん~~~王子ではないんだけど、でも生活に不自由はないよ」
「貴族?」
「貴族でもないかな~~~でも皆良くしてくれるよ」
「お金持ちなの?」
「ないよ」
「ないの!?」
「宵越しの銭は持たない主義でね」
「それはちょっと……」
「いや、ホントだよ。今はお金無いけど、いつもみんなが色々くれるし。食べ物とか服とか武器防具もくれるし、そこらへんで拾える」
「拾っていいの!?」
この人は一体どういう生活をしてきたのか。少し心配になってくる。
この世界には通貨が無いということだろうか。魔王が平和にしすぎて、こちらの常識では測れない平和が実現しているのだろうかと少年は頭がぐるぐるしてくる。
そうしてると青年がクスクス笑いだす。
「君って面白いね。僕にそこまでツッコミできる人なかなかいないよ?」
「え……そ、そうなのかな」
褒められていると喜んでいいのか、バカにされていると流すべきなのか少年は悩む。
「うん。大体の人はそこまで僕に興味ないから」
「え」
「君はなんだか、普通の人とは違う気がするな」
少年があれ?と思う頃には青年の端正な顔がもう目の前に影を落としていた
「まてまてまてまてまてーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!」
聞きなれた声の大絶叫と共に突如現れた魔王は、少年を抱き寄せて青年から離し、距離を取って臨戦態勢の構えをとる。
「何をしてるんだ貴様ーーー!!我のフィアンセ殿にちょっかいを出すとは、許さぬぞ……勇者!!!!」
「ゆ、勇者あ!?」
勇者という言葉に少年は驚きを隠せない。なんでも100年に一度現れ、魔王を倒す絶対存在──それが勇者なのだと聞いた。
しかしその勇者は今の魔王が統治して以降、一度も現れずにいたはずだ。
「………魔王、やけに早かったね。気配は消していたんだけどなあ」
先ほどまでの陽気な青年から打って変わり、青年──勇者は冷酷な瞳で魔王を見つめている。
魔王はそんな冷たい瞳にもひるまず、毅然とした態度で勇者と対峙した。
「ふん、この結界の魔王城にどうやって入ったか知らぬが、魔王たる我が易々と侵入を許すと思ったか。フィアンセ殿に張っておいた魔法障壁に異常を検知したのでな。急いで来てみれば……1000年も現れなかった癖に今になって何の用だ、勇者!」
「あ、あんた俺にそんなの勝手に着けてたの!?」
「だってフィアンセ殿に何あったらどうするの!って今それどころじゃないから後でね!」
「ふふふ……普通の客人じゃないと思ったらそういう事だったんだ。仕事一筋のお堅い魔王が、ね」
勇者が口を開いて改めて警戒態勢をとる魔王。少年を抱きしめている腕に力が入り、緊張感が伝わる。
「フィアンセくん」
「?」
「今日のところはこれで失礼するよ。また、ね」
少年に向かって勇者はウィンクをしてチュ、と投げキッスを送り、素早くその場からいなくなった。
それから城に戻るやいなや、今日は少年を構う暇すら惜しんで魔王は勇者対策と警備強化を打ち出しに乗り出したのだった。
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