娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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25 薬草採取

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「これからどうするんだ?」


 俺が訊ねると、ノアが「依頼を受けようか。」と答えた。


「まだ日も高いし、この世界に慣れる練習がてら、薬草採取でもしてみたらどうかな?いきなり魔獣や魔物討伐は難しいだろうし。」

「と、討伐……。」

「いずれは必要になると思うけど、魔法や武器の扱いに慣れてからじゃないと心配でしょ?」


 いずれ魔物や魔獣を狩ることになるのか…。
 抵抗はあるが、娘の行方を追うために必要なことならば仕方がない。


「簡単そうなのは、この辺りかなー。受注してくるから、詩織ちゃんとここで待っててね。」


 掲示板から一枚の依頼書を手に取り、ノアは受付へ向かう。
 ノアを待っているあいだ、俺は改めて妻に抱かれているコトラを観察する。

 一見、どこにも変わったところはないように思う。
 しっぽの本数も、真っ黒な毛並みも以前と同じだ。
 あくびする口元から見える牙は、少し大きくなっているような気もするが、昔からあのくらいだったような気もする。

「ね、伊月くん。みてみて!」

「ん?」

「コトラの目、きれいになってる!」

 妻に言われてコトラの目をのぞき込むと、黒目の部分に、よく見なければ気づかない小さな星のような模様が入っていることに気が付いた。
 深緑色の鮮やかな星は、以前ノアにもらった翡翠のお守りに似ている。


「かわいいでしょ?」


 受付を終えて戻ってきたノアが言った。
 そして「じゃあ、さっそく行こう!」と俺と妻の背中を押した。







 やってきたのは、先程の森の入り口から少し入ったところだった。
 どうやらこの辺りに、お目当ての薬草の群生地があるらしい。


「採取するのは、レミカ草。君たちの世界のカモミールみたいなやつなんだけど、わかるかな?」

「……いや、花のことはあんまり…。」

「詩織、知ってるよ!真ん中が黄色で、花びらが白いやつでしょ?」

「詩織ちゃん、せいかーい!」

 妻が嬉しそうに笑う。
 俺は「白と黄色の花」を思い浮かべてみたが、ぼんやりとしたイメージしかわかなかった。


「伊月くん、大丈夫?」


 困った顔をして首を傾げていた俺を心配して、妻が訊ねる。
 大丈夫だよ、と返したものの、どうやって探せばいいのか見当もつかない。


「依頼書にスケッチが載っているから、それを参考にするといいよ。」

 ノアが差し出した依頼書を見る。
 かわいらしい小ぶりな花が複数ついている、これがカモミール……レミカ草か。
 たしか、入浴剤やお茶なんかで名前を見たことがある気がする。
 そのときパッケージに描かれていたのは、こんな花だったかもしれない。

 あたりを見渡しながら、近くを散策する。
 群生地ということは、近づけば目に入らないことはないだろうが…。
 ガサガサと茂みをかき分けていくと、視界の端に白い花びらが映った。


「あった!」


 俺が声をあげると、妻とノアもやってきて、俺の指さす方に視線を向ける。
 そこには、密集して咲くレミカ草があった。


「よくみつけたね。」

 ノアはそう言って褒めてくれたが、妻は「詩織が先に見つけたかったのに!」と拗ねてしまったようだ。
 口を尖らせて、不満をアピールしている。
 ごめんごめん、と頭をなでると、俺をちらっと見て「いいよ!」と笑った。


「薬草を採取するときはね、根っこを傷つけないように注意するんだよ。薬草は部位によって効能が異なることが多い。だから根っこが損傷していると買い取ってもらえないこともあるんだ。周囲の土を丁寧に掘って、土をはらうときも優しくね。」


 ノアの指示に従い、鞄の中に用意されていたスコップを使い、慎重にレミカ草を採取する。
 家庭菜園の経験もない俺にとって、植物にこうして触れるのは学生時代以来だ。

 妻は毎年ベランダでいろいろな植物や野菜を育てていたから、慣れているのだろう、サクサクと採取を進めていく。
 記憶はなくなっても、経験は確かに彼女の中に息づいている。


「よし、これで足りるか?」


 しばらくのあいだ格闘し、ようやく依頼された量を集めることに成功した。

「大丈夫だと思うよ。それじゃあ、集めたレミカ草が劣化しないよう、鞄の中に入れておこうか。」

「わかった。どうする?詩織が入れとくか?」

「うん!」

 妻がご機嫌でレミカ草を鞄に詰め終わると、ノアが「ここで少し、魔法の練習をしようか。」と提案する。
 いよいよか、と緊張する気持ちを隠しつつ「わかった。」と返事をした。
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