娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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特別編(6)伊月からの手紙

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「会長は知っていたのか?」


 眉間にしわを寄せ、大和が佐々木に問いかける。

 大和は、3年前に失踪した妻を探している男だ。
 由佳里は伊月から、そう聞いていた。
 異世界にいる妻の姿を夢で見るようになったことをきっかけに、被害者の会に入ったのだそうだ。


「そうですね、旅に出る前、瀬野さんから伺っていました。由佳里ちゃん以外にも、瀬野さんたちの助けで帰還できたと話している人も知っています」

「……じゃあ、なんでもっと早く言わなかった!」


 大和以外のメンバーも同じ気持ちだったのだろう。
 困惑と怒りが混じった目で、佐々木のことを睨んでいた。

 佐々木はそんなメンバーたちに、深々と頭を下げて謝罪する。


「今までお伝えせず、本当に申し訳ありませんでした。俺自身、到底信じられない状態で」

「……それで、ほかの帰還者っていうのは?」

「高校生の双子のきょうだいです。彼らの姉が、この被害者の会に所属していたそうです」

「……ん?」

「いや、そんな子いました?」

「記憶にないが……」


 佐々木の話に、みなが首を傾げる。
 由佳里が不思議に思って両親をみると、彼らも心当たりがないという。

 佐々木は「それが話せなかった理由です」と告げた。


「その双子の姉……舞ちゃんという子なんですが、少し前に俺に会いに来てくれました。でも俺は、彼女のことを知らなかった。声をかけられて、人違いじゃないかと返しました。すると彼女は、とても悲しそうな顔をして……」

「……本当に人違いだったということは?」

「俺もそう思いました。でも、そのあと勇司くんから俺が忘れているだけだって指摘されたんです」


 勇司は、異世界からの帰還者のひとりだ。

 病気の妹を救ってもらうことを対価に、彼は魔王の討伐に挑むことになった。
 3年かけて異世界で見事魔王を討伐した彼は、パーティーメンバーだった姫と愛し合う関係になった。
 しかし女神はそんな勇司をもとの世界に送り返し、代わりに彼の妹をさらっていったのだ。

 今の勇司は、異世界転移被害者の会のメンバーの一人として、妹の行方を追っているという。


「勇司は、その舞って子を覚えていたのか?」

「はい。理由はわかりませんが、彼も異世界からの帰還者だからかもしれません」

「……そうか」


 大和は少し考えたあと「悪かった」と呟いた。


「ついカッとなってしまったが、その状況なら俺も疑っていただろう。だが、これで2人目だというなら、信じてもいいかもしれないな」

「……ありがとうございます」


 佐々木が頭を下げると、大和はふっと笑った。
 口調は乱暴だが、気のいい男なのだ。

 ほかのメンバーも、大和に同調したのか落ち着いた様子だった。

 由佳里ははっとして、伊月から預かった手紙をショルダーバッグから取り出した。
 このショルダーバッグも、異世界転移したその日に身に着けていたものだ。
 神が服装を整えてくれたとき、なくさないようにと手紙をしまっておいたのだ。


「あの、これ伊月さんからです!一つは詩織さんのお母さんに渡してほしいそうです」


 由佳里は佐々木に、佐々木宛と伊月の義母宛の手紙を差し出した。
 そして両親にも、伊月から預かった手紙を一通渡す。

 佐々木と由佳里の両親は、それぞれ自分宛の手紙に目を通した。


「何が書いてあるんだ?」


 そわそわした様子で大和が訊ねる。
 手紙の文字を目で追いながら、佐々木は「現状報告のようです」と答えた。
 そして手早く手紙を読み終え、大和に差し出す。


「読んでもいいのか?」


 一応確認する大和に、佐々木は頷いた。


「読み終わったら、ほかの方にも回してください」

「……わかった。じゃあ、遠慮なく」


 大和が手紙を読み始めたのを確認してから、佐々木が川西夫妻に目を向けると、ちょうど手紙を読み終えたところのようだ。
 夫婦ともに、涙をぬぐっている。


「……何が書いてあったかお聞きしても?」


 佐々木が訊ねると、誠が答える。


「娘がどんなに異世界で頑張っていたか、書かれていました。自分は娘さんを尊敬すると、ぜひたくさん褒めてあげてほしいと」

「そうですか。瀬野さんらしい……」

「ありがたいことです……」


 佐々木は瀬野伊月という男には、数回しか会ったことはない。
 そんな短い時間でも、彼の誠実な人柄を知るには十分だった。


 彼の手紙には、これからまた新しい世界へ行くことになるだろうと書かれていた。

 彼が早く娘に会えることを願いつつも、佐々木はそれを恐れていた。
 娘に会えた伊月が、それ以降も異世界転移者を救う旅を続ける保証はない。
 それならば、ほかの転移者を救い出すまで、いっそ彼の娘の元にはいかないでほしい。
 そんなことさえ考えてしまう。


 我ながら性格が悪いな、と思いつつも、佐々木は弟のことを思い出していた。
 桜の花びらの渦から現れた手に引かれ、異世界へ連れ去られた弟のことを。


「……正直、半信半疑だけどよ。これからは瀬野さんから連絡が来たら、俺たちにも共有してくれるか?あと帰還者だっていう、双子にも会ってみたい」


 手紙を読み終えた大和が、佐々木に言った。
 佐々木は頷いて「もちろんです」と返す。


「双子の絵美ちゃんと翔くん、それに姉の舞ちゃんもすごくいい子たちでした。力になれることがあれば何でも言ってほしいと言ってくれているので、一度会合に招いてみましょう」

「ああ、よろしく頼む。……次は瀬野さん、誰のところに行くんだろうな」


 そう呟いた大和も、きっと佐々木と同じことを考えていたことだろう。
 自分の大切な人のもとであってほしい、と。
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