娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
101 / 266

95 罪な人

しおりを挟む
「ご令嬢。少しお話をしてもよろしいですか?」


 ノアに習った、貴族の作法で礼をする。
 少女は俺の仕草を見て、少し表情をやわらげた。


「あなたは、お忍びの貴族のご子息?」

「いいえ。高貴な方と接する機会を多く頂戴している、ただの一平民にございます」

「そう。それで、話って?」


 貴族でないとわかったものの、少女は蔑む様子はない。
 むしろまともに話を聞いてくれようとしている。
 意外と、話せばわかる相手なのかもしれない。


「シャルロッテお嬢様とは、以前ダルモーテ侯爵家のお屋敷でお会いになったのですか?」

「そうよ。1年ほど前かしら?シャルロッテ嬢はその日体調が悪いとかで、ご挨拶をしたらすぐに下がってしまいましたけど」

「そうだったのですか。我々は今、お忍びで城下町を散策しておられるお嬢様の護衛を任されているのです。何もやましいことはございませんので、ご安心ください」

「そうなの?雇い主は侯爵様?」

「いいえ。より高貴なお方とだけ」


 俺の言葉に、少女は首をかしげる。


「あら、シャルロッテ嬢は病弱で、屋敷の外にはほとんど出られないと聞いていたのだけれど……」

「そうなのですか?確かに少し弱っていらっしゃる部分もございますが、お嬢様に持病はございませんよ」

「……そう。けれどやはり、あなたたちを信用はできないわ。貴族の子女を狙う誘拐事件も耳にしますし。やましいことがないのであれば、詰所まで同行していただいてもいいかしら?」


 ……やっぱり。
 少女の言動に、俺はひとつの仮定を立てていた。
 それが少女との会話で、確信に変わる。


「ご令嬢は、お嬢様を心配してくださっていたのですね。ありがとうございます」


 そう言って微笑むと、少女の顔がかぁっと赤く染まった。
 口は悪いが、平民らしき男と親しげにしているシャルロッテを案じてくれていたらしい。

 ここで無理に別れては、少女はしばらくシャルロッテの安否に気を揉むことになるだろう。
 構いませんか、とロエナに問いかけると、ロエナもふっと笑って頷いた。


「それじゃあ、詰所まで同行しようか。シャル、散策の続きはそのあとでいいかな?」

「は、はい!」


 シャルロッテが頷き、俺たちは連れ立って詰所へと向かった。







 街の治安維持を担う兵士たちの詰所には、数人の兵士が待機していた。
 残りの兵士は、見回りに出ているという。

 兵士はロエナと護衛騎士の姿を見ると、驚いてすぐに背筋を伸ばした。
 護衛騎士はまだしも、ロエナの男装姿をすぐに見抜いたことは意外だった。


「いかがなされましたか!」


 緊張で声を少し上ずらせながら、兵士が訊ねる。
 護衛騎士が兵士に事情を説明しようとしたが、ロエナが制して部屋をひとつ貸してほしいと依頼した。
 兵士は理由も訊ねず、すぐに部屋へ案内してくれた。

 兵士たちの態度に、ロエナの身分が高いことに気づいたのだろう。
 少女は顔を真っ青にしながら、あとをついてきた。

 部屋に入ると、少女はすぐに頭を下げ、ロエナに非礼を詫びた。
 小刻みに身体を震わせている姿が、なんとも痛々しい。
 仲裁に入ろうと口を開いたとき、唐突にロエナが笑い出した。
 少女は真っ青な顔のまま、あっけにとられている。


「はははっ、すまない。君は意地悪な子なのかと思ったら、単に素直じゃないだけだったんだな」

「あ、あの……」

「私に対する非礼は問題ない。こんな紛らわしい格好しているこちらに非があるしな。ただし、シャルに対しての失言は取り消してもらおう。間抜けだの教養がないだのという言葉は、さすがに許容できない」

「……あ……シャルロッテ嬢、申し訳ありませんでした。言葉が過ぎましたわ」

「い、いえ……」


 ここでロエナに対してではなく、しっかりとシャルロッテに謝罪したのは好印象だろう。
 シャルロッテは恐縮しつつも、謝罪をすんなり受け入れた。
 ロエナも満足そうに二人を眺めている。


「今は詳しく言えないが、シャルはわけあって我が家で保護しているのだ」

「……わかりました。シャルロッテ嬢にお会いしたことは、ダルモーテ侯爵家の皆様はもちろん、ほかの方にも秘密にしておきますわ」

「ああ、助かる」


 ロエナがそう言って、少女の頭を優しくなでた。
 少女は頬を染めつつ、ロエナに見惚れている。
 無理もないだろう。
 眉目秀麗な青年が、自分に向かって微笑みかけているのだ。

 罪な人だな、と思いつつも、事態が丸く収まったことに俺は安堵した。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...