娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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114 少年たち

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 扉を抜けた先は、森の中だった。
 あたりを見渡すが、一面草木に囲まれている。


「きれいなとこだね!」


 目をキラキラと輝かせて、妻が言った。
 確かに、木漏れ日が降り注ぐ森の中は自然美しさであふれている。
 近くに小川が流れているのだろうか?
 涼しげな水の音と葉っぱのざわめく音が心地いい。


「いい森でしょ?」


 ノアの言葉に、俺は頷いて肯定を返した。


「この森は特別な場所でね、精霊や聖獣が古くから住まう場所なんだ。森に害をなすものは、森の奥に入れないよう精霊による結界が施されている」

「そんなところに、勝手に入ってよかったのか?」

「排除しようとしないということは、受け入れられているということだよ。大丈夫、君たちはいい子だから」


 いい年をしたおじさんとして「いい子」とひとくくりにされるのは気恥ずかしいが、悪い気はしない。
 照れ隠しに、頬を軽く掻いた。


「斎藤さんと蓮くんもこの森に?」

「そう。彼らが逃げ切れた一番の要因は、この森かもしれないね。ロナリア帝国、オートラック王国がそれぞれ兵を向かわせたこともあったけど、森の入り口付近で迷ってしまって、奥には入れなかったそうだよ」

「なるほど」


 目的地はすでに分かっているのだろう。
 ノアはスタスタと歩き始め、俺たちはそのあとをついていった。

 それからしばらくしたころ、ふいに視線を向けられていることに気づいた。
 あたりに視線を巡らせると、遠くの茂みがわずかに動いた。
 あの中に、何者かが潜んでいるようだ。

 妻を背にかばい、警戒態勢をとる。

 しかしノアは気にする様子もなく、そのまま歩みを続ける。
 驚いて呼び止めると、ノアはいたずらっぽい笑みを浮かべ「大丈夫」と呟いた。
 そして大声で叫ぶ。


「こんにちはー!」


 ノアの反応に驚いたのか、茂みが大きく揺れ、黒い頭と茶色の頭が並んでちらりと覗く。
 そして恐る恐る顔を出した彼らを見て、俺も微笑んだ。

 緊張した面持ちで弓矢を握り締めている黒髪の少年は、おそらく佐々木蓮。
 異世界転移被害者の会の会長を務める佐々木の弟だろう。
 遠めからでもはっきりとわかるほど、整った顔立ちがよく似ている。

 隣にいる茶髪の少年は、輝く金色の瞳をしている。
 おそらく蓮とともに逃げたという異世界人だろう。


「お、お前たち、何者だ!」

「こっちにきたら、こ、攻撃するぞ!」


 精一杯脅しているつもりらしいが、まったく慣れていない様子が初々しく、全然怖くない。
 なんだか親目線で温かい気持ちになってしまった。


「おい!なに笑ってんだ!」

「そうだそうだ!俺たち、これでも強いんだぞ!」


 そう強がっている様は、もはや小型犬にしか見えない。
 にやけないように耐えていたつもりだったが、どうやら表情にでていたらしい。


「ごめんごめん!」


 俺は大きな声で言った。
 そして両手をあげて見せる。


「佐々木蓮くん!俺は君と同じ、日本人だよ!お兄さんの佐々木新(ささきあらた)さんから、君のことは聞いている。危害を加えることは絶対にしないと約束するから、そっちに行ってもいいかな?」


 俺の言葉に、蓮は手に持っていた弓矢を落として、ぽかんと口を開けていた。
 蓮の隣の少年は「おい、どうすんだよ!」と慌てて蓮に問いかけているが、聞こえていないらしい。

 少年が蓮の肩をゆすると、蓮ははっとして、戸惑ったような顔を浮かべつつ叫んだ。


「ちょ、ちょっとそこで待ってろ!聞いてくるから!それまで絶対こっちに来るなよ!」


 そうして踵を返して、森の奥に消えていった。
 聞いてくる、というのはおそらく斎藤に助言を求めに行ったということだろう。
 取り残された少年は、混乱した様子で、蓮の消えた方向と俺たちを交互に見ている。
 そしてぼそりと「俺だけ置いていくなよ……」と吐き捨てた。
 今にも泣きだしそうな顔をしている少年に対して、俺はなんだか申し訳ないようないたたまれないような気分になった。
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